荒川 (関東)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
荒川 | |
---|---|
東京湾に注ぐ荒川 |
|
水系 | 一級水系 荒川 |
種別 | 一級河川 |
延長 | 173 km |
水源の標高 | 2,475 m |
平均流量 | 30 m³/s (寄居観測所 2002年) |
流域面積 | 2,940 km² |
水源 | 甲武信ヶ岳 |
河口(合流先) | 東京湾 |
流域 | 埼玉県、東京都 |
荒川(あらかわ)は、埼玉県および東京都を流れる一級河川。一級水系である荒川水系の本流である。法河川延長173km、流域面積2,940km²。川幅(両岸の堤防間の距離)は御成橋付近で2,537mになり、日本最大である。
目次 |
[編集] 地理
埼玉県、山梨県、長野県の三県が境を接する甲武信ヶ岳(こぶしがたけ、奥秩父)に源を発し、秩父山地の水を集めながら秩父盆地まで東に流れる。秩父盆地から長瀞渓谷まで北に、その後東に流れて大里郡寄居町で関東平野に出る。熊谷市で南南東に向きを変え、川越市で入間川を併せる。戸田市近辺で再び東流、埼玉・東京の都県境を流れ、北区の新岩淵水門で隅田川を分ける。その後再び南流し、江東区と江戸川区で東京湾に注ぐ。
[編集] 源流の定義
この川の源流は、2つの説がある。一つは、秩父湖の少し上流の滝川と入川の合流地点。地形図や地図を見た場合、これより上流に「荒川」の文字はない。もう一つは、上記の様に甲武信ヶ岳の埼玉県側の山腹、標高1,990mの所にある「真の沢」が源流という説である。なお、荒川源流の石碑は入川がそれぞれの沢に分かれる地点にある。
[編集] 一級河川としての荒川
起点は入沢と赤沢の合流点で、ここに「一級河川荒川起点の碑」がある。一方、終点は中川との合流点で、ここに「河口から0km」の案内板がある。この入沢と赤沢の合流点から中川との合流点までの法河川延長173kmが、一級河川としての荒川である。
[編集] 開発史
荒川は、江戸時代初期以前は現在の元荒川の川筋を通っていた。つまり関東平野に出たのち東へ下り、武蔵国・下総国境付近(今の越谷市・吉川市周辺)で南流していた利根川と合流、そこから合流と分流を繰り返しながら江戸湾(現在の東京湾)に注ぐ川だった。「荒」という名の通りの暴れ川でしばしば川筋を変え、下流域の開発も遅れていた。本流が今の綾瀬川を流れていた時代もあるが、戦国時代に水路が掘られて東の星川に繋がれ、綾瀬川と分流した。
1629年(寛永6年)に関東郡代の伊奈忠治らが現在の熊谷市久下で河道を締切り、和田吉野川の河道に付け替えて入間川筋に落ちるようになった。元の河道は、熊谷市で荒川から離れて吉川市で中川と合流する元荒川となっている。同時期の工事で利根川は東に瀬替え(利根川東遷事業)して渡良瀬川、鬼怒川に合流するようになった。付け替え後の荒川(元の入間川)は、下流で現在の隅田川の河道を通っていた。この部分は流速が遅く、台風で大雨が降るとしばしば溢れて江戸の下町を水浸しにした。明治時代の調べでは、大雨の際、熊谷市と川口市で最高水位に達する時刻の差が48~60時間あった[1]。洪水が人や家を押し流すことはないが、浸水による家屋と農作物の被害は深刻であった。
1910年(明治43年)から20年をかけて現在の北区から東に荒川放水路を掘って中川の河道に繋げる大工事を行い、こちらを荒川本流とした。さらに荒川が流れ込んできて旧来の河道(旧中川)が断ち切られた中川の水を荒川から逃がすため、その東に新中川が掘られて旧江戸川(元の利根川本流)に繋げられた。さらにその東へ江戸川放水路がつくられて江戸川の本流が旧江戸川から分離され、東京都東部の大河川は現在見られる流路となった。
戦後、1947年(昭和22年)のカスリーン台風により荒川流域は大きな被害を受け、建設省(現国土交通省関東地方整備局)はダムによる洪水調節を図り、二瀬ダムが本川に建設された。1964年(昭和39年)には東京都が記録的な渇水に見舞われ(東京砂漠)、利根川より緊急的に導水を図り対処した。その後1965年(昭和40年)に秋ヶ瀬取水堰を建設、更に荒川水系が「水資源開発促進法」の指定河川となり水資源開発公団(現・独立行政法人水資源機構)が総合的な水資源開発を行った。この頃隅田川の水質汚濁が深刻化、メタンガスの沸き出る河川となり早慶レガッタまでもが中止となった。これらを解決すべく1968年(昭和43年)から利根大堰による導水で上水道供給と水質改善を図った。また上流部に滝沢ダム・浦山ダム・有間ダム・合角ダムを建設し洪水調節や上水道を確保し、笹目橋上流に荒川調整池を建設して緊急時の洪水調節を行った。
1990年代以降は公共事業再評価の議論がなされ、都幾川に建設予定だった大野ダムの建設が1995年(平成7年)に中止となり、大洞ダム再開発事業も代替案と比較検討して事業を継続するかどうか検討されている。
[編集] 河川施設
上流部には秩父湖(二瀬ダム)などの人造湖が多くあり、首都圏の水がめの一端を担っている。また、利根川水系のダム湖で蓄えられた水は行田市の利根大堰から武蔵水路を経て荒川に落ち、荒川水系の水も加えてさいたま市の秋ヶ瀬取水堰で取水され、朝霞水路を通って水資源機構利根導水総合管理所秋ヶ瀬管理所の沈砂池及び接合井を経て東京都水道局の朝霞浄水場と三園浄水場に導水される。埼玉県だけでなく、東京都でも広い範囲で水道水の水源となっている。
[編集] 治水利水施設
[編集] 水力発電施設
- 玉淀ダム
[編集] 水運
河口からの船舶は、秋ヶ瀬取水堰下流にある秋ヶ瀬橋までの約34kmを遡上できる。河口から約32km遡った幸魂大橋上流側右岸、埼玉県和光市新倉には桟橋があり、東京湾の製油所から小型のタンカーが運航されている。桟橋で下ろされた石油類は、パイプラインによって埼玉県朝霞市のジャパンエナジー朝霞油槽所まで運ばれている。日本では少なくなった海岸と内陸県を結ぶ水運である。
かつて幸魂大橋下流側右岸にあったエクソンモービル北東京油槽所の桟橋は、同油槽所が廃止されたため、2007年3月までに撤去された。
[編集] 支流
- 入川
- 滝川
- 大洞川
- 中津川
- 大血川
- 谷津川
- 安谷川
- 浦山川
- 横瀬川
- 赤平川
- 日野沢川
- 三沢川
- 天沼川
- 新吉野川
- 吉野川
- 和田吉野川
- 武蔵水路
- 足立北部排水路
- 市野川
- 江川
- 上尾中堀川
- 入間川
- 滝沼川 - 準用河川。
- びん沼川
- 鴨川
- 朝霞水路
- 笹目川
- 菖蒲川
- 隅田川(荒川から分流。もとは荒川)
- 新河岸川(隅田川に合流している)
- 芝川
- 中川 (関東)
[編集] 橋梁
上流側より主要なものを示す。
- 白川橋
- 平和橋
- 荒川橋
- 日野鷲橋
- 中ノ橋
- 久那橋
- 柳大橋
- 巴川橋
- 佐久良橋
- 秩父公園橋(秩父ハープ橋)
- 秩父橋
- 和銅大橋
- 皆野橋
- 栗谷瀬橋
- 親鼻橋
- 秩父鉄道秩父本線
- 金石水管橋
- 高砂橋
- 白鳥橋
- 寄居橋
- 末野大橋(皆野寄居有料道路)
- JR八高線
- 正喜橋
- 東武東上線
- 玉淀大橋
- 花園大橋(花園橋)
- 関越自動車道
- 荒川第二水管橋
- 植松橋
- 押切橋
- 熊谷大橋(熊谷橋)
- 荒川大橋(国道407号)
- 久下橋
- 大芦橋
- 荒川水管橋
- 糠田橋
- 滝馬室橋
- 御成橋(埼玉県道27号東松山鴻巣線)
- 原馬室橋
- 高尾橋
- 荒井橋(埼玉県道33号東松山桶川線)
- 太郎右衛門橋(埼玉県道12号川越栗橋線)
- 樋詰橋
- 西野橋
- 開平橋(埼玉県道51号川越上尾線)
- JR川越線
- 上江橋(国道16号)
- 治水橋(埼玉県道56号さいたまふじみ野所沢線)
- 羽根倉橋(国道463号 - 浦和所沢バイパス)
- 秋ヶ瀬橋(埼玉県道・東京都道40号さいたま東村山線)
- JR武蔵野線
- 幸魂大橋(国道298号 - 東京外郭環状道路)
- 笹目橋(国道17号新大宮バイパス)
- 戸田橋(国道17号 - 中山道)
- 東北新幹線・埼京線荒川橋梁
- JR東北本線(宇都宮線・高崎線・京浜東北線)
- 新荒川大橋(国道122号 - 日光御成街道)
- 鹿浜橋(東京都道318号環状七号線 - 環七通り)
- 五色桜大橋(首都高速道路中央環状線)
- 江北橋(東京都道307号王子金町江戸川線)
- 扇大橋(東京都道58号台東鳩ヶ谷線 - 尾久橋通り)
- 西新井橋(東京都道461号吾妻橋伊興町線 - 尾竹橋通り)
- 千住新橋(国道4号 - 日光街道)
- 東京地下鉄千代田線
- JR常磐線
- つくばエクスプレス線
- 東武伊勢崎線
- 京成本線
- 堀切橋(東京都道314号言問大谷田線)
- 新荒川橋(首都高速道路6号向島線)
- 四ツ木橋(国道6号 - 水戸街道)
- 新四ツ木橋(国道6号バイパス)
- 京成押上線
- 木根川橋(東京都道449号新荒川堤防線)
- 平井大橋(東京都道315号御徒町小岩線 - 蔵前橋通り)
- JR総武本線
- 小松川大橋、新小松川大橋(京葉道路 - 国道14号)
- 荒川大橋(首都高速道路7号小松川線)
- 船堀橋(東京都道50号東京市川線 - 新大橋通り)
- 都営地下鉄新宿線
- 葛西橋(東京都道10号東京浦安線 - 葛西橋通り)
- 東京地下鉄東西線
- 清砂大橋(都市計画幹線街路第16号線 - 永代通り)
- 荒川河口橋(国道357号 - 東京湾岸道路)
- JR京葉線
埼玉県 | (上流)神岡橋 - 登竜橋 - 大血川橋 - 万年橋 - 白川橋(埼玉県道210号) - 平和橋 - 荒川橋(国道140号(彩甲斐街道) - 日野鷲橋(埼玉県道72号) - 中ノ橋 - 久那橋 - 柳大橋 - 巴川橋(埼玉県道209号) - 櫻橋 - 佐久良橋 - 秩父公園橋(秩父ハープ橋)(埼玉県道208号) - 秩父橋(国道299号) - 和銅大橋 - 皆野橋(埼玉県道43号) - 栗谷瀬橋(埼玉県道37号) - 親鼻橋(国道140号) - 秩父鉄道秩父本線 - 金石水管橋 - 高砂橋(埼玉県道287号) - 白鳥橋(埼玉県道201号) - 寄居橋(埼玉県道82号) - 末野大橋(国道140号・皆野寄居バイパス(皆野寄居有料道路)) - 折原橋(埼玉県道349号) - JR八高線 - 正喜橋(埼玉県道30号) - 東武東上本線 - 玉淀大橋(国道254号) - 花園大橋(埼玉県道296号) - 関越自動車道 - 荒川第二水管橋 - 重忠橋 - 植松橋(埼玉県道69号) - 押切橋(埼玉県道47号) - 熊谷大橋(埼玉県道385号) - 荒川大橋(国道407号) - 久下橋(埼玉県道257号) - 大芦橋(埼玉県道66号) - 荒川水管橋 - 糠田橋(埼玉県道76号) - 滝馬室橋(滝馬室冠水橋) - 御成橋(埼玉県道27号) - 原馬室橋(原馬宮冠水橋) - 高尾橋 - 荒井橋(埼玉県道33号) - 太郎右衛門橋(埼玉県道12号) - 樋詰橋 - 西野橋 - 開平橋(埼玉県道51号) - JR川越線 - 上江橋(国道16号) - 治水橋(埼玉県道56号) - 羽根倉橋(国道463号) - 秋ヶ瀬橋(埼玉・東京都道40号) - JR武蔵野線 - 幸魂大橋(国道298号(東京外環自動車道)) - 笹目橋(国道17号(新大宮バイパス)) - 戸田橋(国道17号(中山道)) - 東北新幹線・JR埼京線 - 東北本線(宇都宮線・高崎線・京浜東北線) - 新荒川大橋(国道122号) - 鹿浜橋(東京都道318号(環七通り))- 五色桜大橋(首都高速道路中央環状線) - 江北橋(東京都道307号) - 扇大橋(東京都道58号(日暮里・舎人ライナー)) - 西新井橋(東京都道461号) - 千住新橋(国道4号(日光街道)) - 東京地下鉄千代田線 - JR常磐線 - つくばエクスプレス線 - 東武伊勢崎線 - 京成本線 - 堀切橋(東京都道314号) - 新荒川橋(首都高速道路6号向島線) - 四ツ木橋(国道6号(水戸街道)) - 新四ツ木橋 - 京成押上線 - 木根川橋(東京都道449号) - 平井大橋(東京都道315号) - JR総武本線 - 小松川大橋(国道14号(京葉道路)) - 新小松川大橋(国道14号(京葉道路)) - 荒川大橋(首都高速道路7号小松川線) - 船堀橋(東京都道50号) - 都営新宿線 - 葛西橋(東京都道10号) - 東京地下鉄東西線 - 清砂大橋(千葉・東京都道10号) - 荒川河口橋(国道357号湾岸線) - 首都高速道路湾岸線荒川湾岸橋 - JR京葉線 -(河口) |
---|
[編集] 流域の観光地
- 長瀞渓谷(景勝地、埼玉県秩父郡長瀞町)
- 奥秩父山塊(秩父多摩甲斐国立公園、埼玉県秩父市、秩父郡小鹿野町)
- 埼玉県道155号さいたま武蔵丘陵森林公園自転車道線(荒川サイクリングロード)
- 埼玉県立川の博物館(埼玉県大里郡寄居町大字小園) - 河川をテーマにした博物館。荒川を主にとりあげている。
- ホンダエアポート(埼玉県比企郡川島町、桶川市)
- 彩湖自然学習センター(埼玉県戸田市)
- 荒川知水資料館(東京都北区志茂) - 隅田川との分岐点にある国土交通省荒川下流河川事務所に隣接。
[編集] 荒川写真集
羽田空港の奥(北)に中央防波堤外側埋立地と荒川河口を望む(定期航空機より) |
[編集] 関連項目
- 荒川市民マラソン - 河川敷道路で毎年3月に開催され、板橋区スポーツレクリエーションスタンドから江戸川区の荒川大橋まで往復するコースとなっている。制限時間が7時間と長いため、多くの市民ランナーが出場する。
- ポトマック川 - アメリカ合衆国のワシントンD.C.を流れる河川。荒川と姉妹川 (sister river) の関係にある。
- 荒川 (羽越) - 山形県および新潟県を流れる同名の河川。一級水系の本流としては唯一名称が重複する。
- 荒川 - その他の荒川。
- 3年B組金八先生 - 主人公たちが荒川の河川敷を歩くシーンが必ず流れる。
[編集] 脚注
- ^ 河野天瑞「荒川鉄橋建築工事報告 第一」、『工学雑誌』48巻。