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ホーカー・シドレー ハリアー - Wikipedia

ホーカー・シドレー ハリアー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ホーカー・シドレー ハリアー

イギリス空軍のGR.3

イギリス空軍のGR.3

ホーカー・シドレー ハリアー (Hawker Siddeley Harrier) は、イギリスホーカー・シドレー社が開発した世界初の実用垂直離着陸機(V/STOL機)。原型機の初飛行は1960年1970年代の時点で初期型のハリアーは性能の限界に達していたが、アメリカマクドネル・ダグラス社は、より洗練したハリアー IIを開発した。

ハリアーの名は小型猛禽類であるチュウヒのこと。前身である実験機、ケストレルの名前は同じく小型猛禽であるチョウゲンボウのことである。

目次

[編集] 歴史

[編集] 実験機の開発

第二次世界大戦後、各国は高性能のジェット機に加え、垂直離着陸機(以下、VTOL機)の開発にも着手した。VTOL機はエンジンに垂直離着陸のための機構が必要なため重量が増し、どうしても通常の戦闘機に比べ性能が劣ってしまう。しかし垂直に離陸できるということは、仮に敵に滑走路を破壊されても運用ができるため、前線での使用が可能である等の利点も多いと考えられた。

1940年代から1950年代前半にかけては、機体を真上に向かせて離着陸を行うテイル・シッター方式のVTOL機開発が試みられたが、それらは実用化されなかった。そのため、1950年代後半から機体は水平のままで離着陸する方式の開発が活発となった。ヨーロッパ各国での開発が特に進んでおり、西ドイツのEWR VJ-101C, VFW VAK-191Bやフランスのミラージュ III-V、イギリスのP.1127、旧ソ連のYak-36等が開発されていたが、P.1127とYak-36だけが通常の航空機と同様にエンジンを配置して、離着陸時のみノズル(排気の吹き出し口)を動かして推力を真下方向に変更する方式で、他の機体は離着陸時のみ下に向けて推力を出すリフトエンジンを別途搭載する方式であった。なお、バランス制御の問題からYak-36が開発中止になった後、後継機Yak-38以後旧ソ連もリフトエンジン方式に転換したため、推力方向変換エンジン単独によるVTOL機はハリアーシリーズのみとなっている。

リフトエンジンを使用する方式は、実質的にはエンジンを2つ積むことになり重量が増えることから、水平飛行中には無駄な重量物(デッドウェイト)にしかならず実用性が低く、それらの機種は最終的に実用化されなかった。それに対しP.1127は、画期的な推力偏向式のジェットエンジンであるペガサスエンジンによってこうした問題を起こすことなく、リフトエンジン式に比べて実用性が高いと評価されたのである。P.1127は、1960年10月に初のホバリング飛行が行われ、1961年3月に水平飛行、同年9月には転換飛行に成功した。

[編集] P.1154の開発中止とケストレルの実用機化

1962年4月に、NATOは垂直離着陸戦闘攻撃機の選定を行った。これにフランスのミラージュ III-VとともにP.1127の発展型P.1154も選定された。P.1154は、P.1127のエンジンにアフターバーナー的なシステムを加えた超音速機となる予定のものであった。

しかし、イギリス空軍海軍の機体に対する要求の違いと、労働党政権による大幅な軍事費削減により、P.1154は1965年2月に開発中止となった。このような混乱の中でも、少しづつ開発は進められており、1964年3月にホーカー・シドレー社がP.1127を改良して実験機ケストレルを初飛行させた。

その後、1965年のP.1154開発中止に伴い、イギリス空軍向けの機体として、ケストレルを実験機ではなく、実用機として開発することになった。

1964年にイギリス、西ドイツ、アメリカで構成された三ヶ国共同評価飛行隊による具体的な運用までも含めた機体の試験が行われていたことも、ケストレルの開発を助けていた。最終的にイギリス空軍は、ケストレルの実用型で対地攻撃機を示すGRの型名を付けたハリアー GR.1の発注を行い、GR.1は1966年8月に初飛行を行った。このGR.1は1968年7月から部隊配備が開始された。しかし、複座型のT.2の初飛行は1969年4月であり、部隊配備は1970年7月であった。そのため、ハリアーが配備された第一飛行隊は、ヘリコプターで訓練を行い、作戦能力を1970年1月までに獲得した。

[編集] シーハリアーの開発

1969年頃より、イギリス海軍では軽空母での使用を考えV/STOL艦載機の研究を開始した。ジェット戦闘機が次第に大型化し、重量が増大して行くにつれ、空母もそれにあわせる必要に迫られていたが、V/STOL艦載機であれば通常の艦載機に比べ設備を簡略化できるだけでなく、空母を大型化しなくてもスペースを有効利用できるとの立場からである。

詳細はシーハリアー (航空機)を参照

[編集] 特徴

航空機の離着陸方法も参照

P. 1127試験機
P. 1127試験機

ハリアーはエンジンノズルを4つ装備し、そのエンジンノズルの向きを0度(後方)~98.5度(真下よりやや前)まで変えることによって VTOL を可能とした。エンジンノズルはわずかに前方まで向くため低速ながらバックすることもできる。また、ホバリングや極低速時などではラダー、エルロン等の通常の姿勢制御機構が働かなくなるためエンジンからバイパスしたエア噴出口を翼端などの機体各所に配置している。搭載するエンジンは1基のターボファンエンジンであるが、通常のそれとは異なりターボファンとターボジェット部は互いに逆回転している。これはエンジン回転から生じるジャイロ効果を相殺減少し、VTOL時やホバリング時の姿勢安定を高めるためである。ターボファンから圧縮空気が前方ノズルへ、ターボジェットから排気ガスが後方ノズルへ噴出される。

従って、その操縦方法は他の固定翼とは全く異なり、操縦訓練において訓練生は回転翼機の操縦方法を並行して学習しなければならない。手動で姿勢制御するため常にボタン30個を操作しなければならない。こうした操縦の複雑さのため、1971年から45人が操縦ミスで死亡しているが、これは戦闘での死亡者より多い。

ハリアーはエンジン冷却水(脱イオン水)を搭載している。これは、高出力時、具体的には垂直離着陸時にエンジンがオーバーヒートするのを防ぐ役割があるのだが、冷却水容器の容量は、最大でも約90秒分の噴射量に相当する量をまかなう程度しかない。こうした制約のため、ホバリングによる空中停止は不可能ではないものの、約60秒程度に制限されている(それ以上はオーバーヒートによる損傷の危険がある)。もちろん、こうした冷却水の搭載も限られた搭載容量を割かなければならず、実際の運用では90秒相当分が積まれることはまずない。 ただし、この時間制限は非常にシビアな使用環境(極端な高温多湿など)を想定したものであり、現実的な環境ではもう少し使用時間は延び、実際、エアショーなどでは5分程度のホバリングが演技されている。

VTOL機は理論上は滑走路を必要としないが、ハリアーは実運用上、着陸のみ垂直で行い、離陸は通常の固定翼機と同じく滑走して行う。これは、垂直での離陸はエンジンの推力のみで上昇するため非常に燃料効率が悪い、離陸時は燃料や武装の重量も加わる為に推力が不足する、徐々に推力を絞る着陸と違い離陸時は地上から推力を上げるために周囲へ危険を及ぼす、それによる機体の不安定化などがあるためである。とはいえ、結果としてSTOVL(Short Take Off and Vertical Landing 短距離離陸・垂直着陸)による運用は、離陸重量の制約を、垂直離陸に比べ大きく緩和することに役立っていることから、充分に正当化されうるものであるといえよう。なお、垂直に噴射した圧縮空気と排気ガスを地面に反射させて翼にあてるため、多少推力より機体重量が重くなっても一応は垂直離陸ができる(ハリアーII+のみ)。なお、ハリアーはV/STOLはできるが、CTOL(通常離着陸)は降着装置や車輪ブレーキがSTOL用に設計された物なので適していない。

VTOL機としての特性上、垂直離着陸によって、しばしば最前線の不整地からでも運用可能であるかのように喧伝されることがあるが、これはやや誤解を招くものと言わざるを得ない。上記のような問題点もさりながら、実際に不整地で高圧かつ高速のジェット排気を地面に吹き付ければ、土砂や粉塵を大量に巻き上げ、周囲に危害を及ぼすだけでなく、機体や(ゴミを吸い込むことによる)エンジンの損傷などが生じてしまう。これらの問題を解決して、実際に最前線での垂直離着陸による運用を図ろうとするのであれば、相当の負担にならざるを得ない。そのような前線の簡易飛行場の整備に用いられる簡易パネル敷設式の滑走路では、ハリアーのエンジンの排気熱に耐え切れずに損傷する場合があるだけでなく、ジェット排気の漏出封止が充分に図れないため、土砂や粉塵だけでなくパネル自体を巻き上げてしまうなどの問題が確認されている。実際に、高度30ft以下でのホバリング中、舗装をしていない部分から舗装部分に移動した時、重さ11tの舗装マットを4ft持ち上げたという記録が、AV-8Bのフライトマニュアルに記載されている。

[編集] 実戦

発艦するシーハリアー FRS.1
発艦するシーハリアー FRS.1

ハリアーは現用の垂直離着陸航空機としては唯一、実戦に参加している。フォークランド紛争がそれで、操縦や航法上のミスに由来する喪失はあるものの、アルゼンチン軍との空対空戦闘における被撃墜数は0である。撃墜数24機。

当事者双方が大きな制約のもとに戦ったため、この戦績をどう評価するかはやや難しい問題である。イギリス軍は、虎の子の空母の喪失を恐れる一方で有力な早期警戒の手段をもたなかったため、空母を後方に下げ、もともと燃料消費のはげしいハリアーに長時間の滞空哨戒をさせなければならなかった。そのため、ハリアーが実際に空戦に臨む際には燃料の残量に大きな制約を抱えざるを得なかった。アルゼンチン軍も、アルゼンチン本土から長距離を飛来しなければならなかったため、やはり滞空時間に制約を抱え、また亜音速機でしかないハリアーをひどくあなどるという油断も無いわけではなかった。

イギリス海軍が導入したばかりだった新型のAIM-9L サイドワインダー(航空機の正面からでも攻撃できる)の性能によるものとする評価もあるが、機体の能力とパイロットの技量もまた正当にこの勝利に寄与した、とするのがまず妥当な評価だと考えてよいだろう。

空戦時にエンジンノズルの向きを変えるヴィッフィング(VIFFINGと呼ばれる)で、通常の戦闘機ではあり得ない機動が可能であり、攻撃回避に大きなアドバンテージになると言われていた。一方でこのような強引な機動は機体やパイロットに無理な負荷をかける、速度が急激に低下することになり後の戦闘で著しく不利になる、などのデメリットもあり一時的な効果しかなかったとも言われている。フォークランド紛争以前、訓練の時点でデメリットの大きさが知られていたこと、空中戦でハリアー/シーハリアーが追われる立場に立たなかったこと、地対空ミサイルの回避には適切でないことなどから、紛争に於いてこの機動は行われなかったと言われる。(これについてはSu-27にも記述があるので参照されたい)

[編集] バリエーション

空母艦載機の主力であったシーハリアー FA.2
空母艦載機の主力であったシーハリアー FA.2
複座練習機型のTAV-8A ハリアー
複座練習機型のTAV-8A ハリアー
スペイン海軍のAV-8S マタドール
スペイン海軍のAV-8S マタドール
  • ハリアー GR.1:初期生産型。1966年初飛行。
  • ハリアー GR.1A:エンジンをペガサス Mk. 102にアップグレード。GR.1から改修された機体と新たに生産された機体を含めて、計58機がイギリス空軍に配備された。
  • ハリアー T.2:イギリス空軍向けの複座練習機型。
  • ハリアー T.2A:GR.1Aと同様にエンジンのアップグレードを行った複座練習機。
  • ハリアー GR.3:センサー機器の改善とペガサス Mk. 103へのアップグレードが行われた。GR.1と共に第1世代に分類される。フォークランド戦争に参加したモデル。
  • ハリアー T.4
  • シーハリアー FRS.1:1978年に初飛行し、同年配備された。
  • シーハリアー FA.2:ブルー・ビクセンの名称をもつ最先端ドップラー・レーダーとAIM-120 AMRAAMの搭載などFRS.1から大きく改善されたモデル。1993年から配備が始まったが、2006年に退役した。
  • ハリアー T.8:FA.2の複座練習機型で、レーダーは搭載していない。
  • AV-8A ハリアー:アメリカ海兵隊向けにGR.1を改良。AIM-9 サイドワインダー2発と30mm ADEN砲ポッド2基を装備し、ペガサス Mk. 103を搭載した。113機が生産された。
  • TAV-8A ハリアー:アメリカ海兵隊向け複座練習機型。
  • AV-8C ハリアー:ハリアー IIが完成するまで繋ぎのため、AV-8Aをアップグレードさせたモデル。
  • AV-8S マタドール:AV-8Aのスペイン海軍向け。
  • TAV-8S マタドール:スペイン海軍向け複座練習機型。

この他、インド海軍がFRS.1相当の機体(FRS.51)を運用している。

[編集] GR.1 要目

情報源を探しています。 以下のスペックに関する文献などの情報源を探しています。ご存じの方はご提示ください。

諸元

  • 乗員: 1名
  • 全長: 13.90 m (45 ft 7 in)
  • 全高: 3.45 m (11 ft 4 in)
  • 翼幅: 7.70 m (25 ft 3 in)
  • 翼面積: 18.5 m2 (199.1 ft2
  • 空虚重量: 5,530 kg (12,190 lb)
  • 運用時重量: 7,830 kg (17,260 lb)
  • 最大離陸重量: 11,500 kg (25,350 lb)
  • 動力: ロールス・ロイスペガサス 10 推力偏向ターボファン・エンジン

性能

  • 最大速度: 1,185 km/h (735 mph)
  • 航続距離: 2580 km
  • 実用上昇限度: 15,000 m (49,200 ft)
  • 推力重量比: 1.10

武装

お知らせ。 使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

[編集] 登場する作品

詳細はハリアーに関連する作品の一覧を参照

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • A・プライス/J・エセル共著、江畑 謙介訳 『空戦フォークランド : ハリアー英国を救う』 1984年 原書房 ISBN 4562014628
  • 文林堂編集部編 『ハリアー/シーハリアー』(世界の傑作機111) 2005年 文林堂 ISBN 4893191276

[編集] 外部リンク

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