垂直離着陸機
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垂直離着陸機(VTOL機、Vertical TakeOff and Landing、ブイトールき、ヴィトールき)はヘリコプターのように垂直に離着陸できる飛行機である。回転翼機であるヘリコプターは慣用的に垂直離着陸機(VTOL機)には含めない。
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[編集] 特徴と分類
ヘリコプターは離着陸場所をあまり選ばないが、回転翼端の速度に起因する速度の上限が370km/h前後に存在する。固定翼機は高速ではあっても適切な滑走路が必要である。充分な滑走路が無い場所への高速飛行という要求を満たすために、固定翼機の高速性とヘリコプターの場所を選ばない離着陸性を兼ね備えた、垂直離着陸機(VTOL機)が開発された。
垂直離着陸機(VTOL機)の離陸時には、通常の固定翼機の特徴である主翼によって生み出される揚力に頼ることなく、強力に下方へ空気を押し出す力の反作用で浮力を得ているために、ヘリコプター同様の相応に強力な動力が必要である。ヘリコプターと異なるのは、離陸後に水平飛行する時には、主翼によって生み出される揚力を利用することで、余力が生じた動力を前進力へと振り向けられるためや、回転翼端の速度に起因する速度の上限という制約が無いために、ヘリコプターよりも高速度が得られる点である。
垂直離着陸機(VTOL機)に類似するものとして、STOVL機(Short take-off and Vertical Landing aircraft、短距離離陸垂直着陸機)が存在する。これは離陸時に短距離を滑走し、着陸時に垂直着陸するものである。しかしながら、垂直離着陸機(VTOL機)であっても滑走による揚力を得て離陸した方が搭載重量が稼げて燃料消費も有利であるため、可能な限り離陸時には滑走を行なうのが普通である。よって垂直離着陸機(VTOL機)を名乗りながらも実際には短距離離陸垂直着陸機(STOVL機)として運用されている例が多く、垂直離着陸機(VTOL機)とは別個の機体として短距離離陸垂直着陸機(STOVL機)が存在する訳ではない。ただし稀に短距離離陸垂直着陸機(STOVL機)としての使用が不可能な垂直離着陸機(VTOL機)も存在する。
プロペラまたはローターの角度を飛行中に変えられるようになっているものを特にティルトローターと言い、ティルトローターを備えた航空機をティルトローター機と呼ぶ。
[編集] 長所と短所
[編集] 長所
- 他の固定翼機と違って滑走路を必要としないため、狭い場所にも離着陸できる
- ヘリコプターと比べて高速度飛行が可能
- ヘリコプターと比べて航続距離が長い
[編集] 短所
- 積載能力や航続距離については、同等の固定翼機に劣る。
- ヘリコプターに比べ構造的に複雑になる。
[編集] 具体例
実用されているものでは、軍用の戦闘機ハリアーと発展型のハリアー IIや艦上攻撃機Yak-38がある。 ハリアーはこの部類に入るが、通常垂直離陸で運用されることはなく、STOVLとして運用される。完全なVTOL機は旧ソ連のYak-38である。
[編集] 歴史
1928年にはニコラ・テスラがフリーバー(Flivver)と言う名前の空中輸送装置の特許を得たが、それが垂直離着陸の最初期に当たる。なお、これは現代のティルトローターに近いものであった。第2次世界大戦後期、連合軍からの爆撃に常にさらされることになったドイツは、滑走路なしで運用できる迎撃機の開発を急いだ。ドイツの各航空機企業はハインケル ヴェスペやハインケル ラーハ、フォッケウルフ トリープフリューゲルなどを提案したが、いずれも実用化されずに終戦を迎えている。
これら航空機は、いずれも「機体を立てて」の垂直離着陸方式を取っており、戦後に連合国も、近いシステムでの実用化を目指し、アメリカはXFY・XFV-1を製作し、フランスはC450コレオプテールを開発した。しかしXFY以外は垂直離着陸に成功せず、XFVは一応は飛行にも成功したものの、性能と実用性に問題があり(超音速戦闘機の時代において、未だ亜音速未満であった)実用化には至っていない。これら、機体を立てて垂直離着陸を実現しようという方式は、テイル・シッター方式とよばれる。一番の問題とされたのは垂直着陸時にパイロットが地面を見る事ができないため、垂直着陸が非常に困難な事であり、この方式での垂直離着陸機の実用化は無理であるという結論に至った。
1953年、イギリスのロールス・ロイスは、トラスト・メジャリング・リグ(en)とよばれる物を開発した。これは「空飛ぶベッドの骨組み(flying bedstead)」とよばれたこの代物は、まさにベッドの骨組みのような風貌であり、外見的にも航空機とは言いがたい代物であったが、これに使用されたエンジンの思想は、ショート SC.1(en)に使われたエンジンに引き継がれている。さらにこのシステムは、画期的な推力偏向式のジェットエンジンであるロールス・ロイス ペガサス・エンジンの開発へつながった。
イギリスはこのペガサスエンジンを装備するホーカー P.1127の開発を進め、1960年にはホバリング飛行に成功している。さらにその発展型であるホーカー・シドレー P.1154を計画したが、これは計画倒れに終わった。しかし、ホーカー P.1127の開発は続けられ、改良型であるケストレル、そして、それの実用型であり、世界初の実用垂直離着陸機であるハリアーを生み出した。
そのほかの国では、アメリカのNASAは1977年にXV-15(en)というティルトローター機を開発した。ニコラ・テスラのフリーバーから始まり、1950年台にはXV-3やXV-15といった実験機で実験が続いていたこの方式は、JVX計画により本格的な実現に向けた開発が始まった。これには以前から同システムの実験機を開発していたベルなどが開発に携わっている(V-22の原型ともいえるX-22もベルが製作)。この計画はV-22として結実し、同機体は現在配備が進められている。また民間機としては、この方式のノウハウを多く保有するベルがBA609を開発、初飛行に成功している。アメリカではほかに、シコルスキーがS-72という機体を開発している。Xウイングともよばれるこの機体はヘリコプターと固定翼機のあいのこといった機体であり、ヘリコプターとほぼ同様の形で垂直離着陸を行った。また、ボーイングが開発したX-50もこれに近い形を取った航空機であるが、カナード・ローター/ウィング(CRW) という形式を取っている。
1960年代には、フランスがミラージュIIIを基にして、ミラージュIII バルザックVという機体を開発した。この機体は音速飛行が可能であり、水平飛行でマッハ1.3という速度を出すことができた。同機体は1966年3月に垂直離陸から水平飛行への移行に成功したが、あくまで試験機であり、実用化はされていない。 同じ頃、アメリカではXC-142という機体も開発されているが、試作された5機は全て事故を起こしている。 1号機はテイルローター関係の事故で3人死亡などである。 この機体の事故は致命的な欠陥ではなく充分に改良が可能だった。だが、ベトナム戦争が緊迫していたために、実用化には至らなかった。
60年代から70年代初頭にかけて、ドイツはF-104を基にして、実験機であるVJ 101を開発し、X-1、X-2という2機の試作機が作られた。この機体は音速飛行が可能であったが、コスト高と政治的な都合から実用化されなかった。ドイツは同時期にVAK 191B(en)軽戦闘機、Do 31輸送機といった、VTOL機を開発しているが、いずれも生産には至ってはいない。
東側では、ソ連がYak-38を実戦配備した。これは実験機であるYak-36を実用化したものであり、ソ連のキエフ級航空巡洋艦などの艦載機として設計生産された。この機体は、ハリアーのような推力を偏向しての垂直上昇ではなく、別にリフトエンジンを2基装備していたほか、STOVL機能を有していないという珍しい機体でもある。この方式は水平飛行時にはデットウェイトを生み出すという欠点があり、またVTOL性能自体が安定性が悪く、生産された200機中20機以上がVTOL時の事故で失われたとされる。また、ソ連は後継としてYak-141を開発したが、ソ連崩壊によって予算がなくなったこと、試作機が事故で喪失したことなどを理由として生産されずに終わり、今後も生産される見込みは薄い。ただし、この機体に使用された方向可変ノズルの技術は、アメリカに売却されてF-35の開発に使用されている。
個人向けのVTOL機としては、モーラーがスカイカー(en)というものを開発している。skycar(空飛ぶ車)は現状浮かぶことはできているが、水平飛行への移行試験が完了していない上、有人での飛行も行っていない。ほかには、地球外での使用を想定したものの中にはもVTOL機が存在する。LLRV(Lunar Landing Research Vehicle)というものも存在し、滑走路や平面が存在しない地形での、VTOLによる運用を想定している。
[編集] 試験飛行中の機体
- BA609(ベル・ヘリコプター社)民間用。胴体を富士重工が制作。
- V-22(ベル・ヘリコプター社、ボーイング社共同開発)軍用(ティルトローター)。
- F-35戦闘機(B型)(ロッキード・マーティン社)軍用