DAT
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DAT(ディー・エー・ティー、ダット、Digital Audio Tape)とは、音声をリニアまたは非リニアPCM方式でデジタル化して磁気テープに記録する規格、またそのテープをいう。
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[編集] DAT(デジタル音声テープ)
DATは元来、デジタル音声テープ (digital audio tape) を指す一般名詞であり、コンパクトカセットなどのAAT (analog audio tape)、オーディオCDなどのDAD (digital audio disc)、DVカセットなどのDVT (digital video tape) などに対比される用語だった。現在では、デジタル音声テープの規格の1つを指すことが普通である。なお、英語などでは、一般名詞は小文字始まり、規格は大文字始まりと区別することもある。
一般向けに商品化された、デジタル音声テープには、以下のようなものがある。
- 1987年: DAT規格
- 1992年: デジタルマイクロカセット (NT)
- 1992年: デジタルコンパクトカセット (DCC)
プロユースのものは、マルチトラックレコーダー#デジタルMTR(テープ)参照。また、PCMプロセッサや、8ミリビデオのマルチトラックPCMモードも、デジタル音声テープと考えることができる。
以下では、規格としてのDAT規格について述べる。
[編集] 規格
DATには以下のモードが存在する。一般的な機器は、2つの標準モード、LPモード(オプション2)、ワイドトラックに対応している。ただし、ワイドトラックは再生専用規格で、この規格のソフトは発売されていない。ワイドトラックモードに使用予定のテープの磁性材料はバリウムフェライトを使用したテープになる予定であった。ミュージックテープの製造は熱感転写を前提に設計を考えていた。ほぼ設計が終了していたが、のちに述べる著作権問題で頓挫してしまった。
モード | 標本化周波数 | 符号化 | チャネル数 | C-120での録音時間 |
---|---|---|---|---|
標準 (SP) | 48 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 120 min |
標準 | 44.1 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 120 min |
オプション1 | 32 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 120 min |
オプション2 (LP) | 32 kHz | 12 bit ノンリニア | 2 ch | 240 min |
オプション3 | 32 kHz | 12 bit ノンリニア | 4 ch | 120 min |
ワイドトラック | 44.1 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 120 min |
WIDE / HS (パイオニア製の一部機種のみ) | 96 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 60 min |
加えて、パイオニアの一部機種(民生用に限定すればD-07、D-07A、D-05、D-06、D-C88、D-HS5の計6機種)は独自モードとしてサンプリング周波数96kHzによるハイサンプリング記録および再生を扱う事が可能な(ただしD-07のみ本体にWIDEと表記。同社のD-05以降の96kHzハイサンプリング対応機種は本体にHSと表記)モード を備える。これは民生用の録音規格としては現在も最高水準である。しかし再生専用ではDVD-Audio、SACDの音質には及ばない。一般にはあまり普及しなかったが、高音質を求める業務用、プロ用として利用されている。
VHSなどと同様の回転式ヘッド(ヘリカルスキャンヘッド)を用い、高密度な記録を可能としている。メディアは縦54 mm×横73 mm×厚さ10.5 mmのカセットが用いられる。また、テープは3.8 mm幅で46分、54分、60分、74分、90分、120分、180分の長さのものがラインナップされている。
[編集] 歴史
各社が相次いで開発した、磁気テープにデジタル音声を記録する規格を統一するため、1983年にDAT懇談会が設けられ、1985年に回転式ヘッドを用いるR-DAT(Rotaty Head DAT、回転ヘッド方式DAT)と固定式ヘッドを用いるS-DAT(Stationary Head DAT、固定ヘッド方式DAT)という2種類の規格が策定された。S-DATは、メカニズムは簡便ではあったが、高密度記録に対応した固定式記録ヘッドの開発が困難であったこと、R-DATの回転式ヘッドにはVTRでの実績があったこともあり、前者のR-DATが「DAT」として商品化されることになった。なお、のちのDCC(デジタル・コンパクトカセット)は方式としてはS-DATにほぼ似通っているが、このときのS-DAT規格と直接のつながりはない。
サンプリング周波数は当初より48kHz、44.1kHz、32kHzに対応する予定だったが、44.1kHzはCDと同じであり、CDの完全同一の複製が可能とあって日本レコード協会などの猛反発に遭って紆余曲折の末、1987年に発売にこぎつけた民生用の製品は苦肉の策として44.1KHzのデジタル入力録音が出来ない仕様となった。しかしこれが足かせとなって普及しなかったため、1990年にはSCMS(シリアルコピーマネジメントシステム)を搭載し、CDからの直接デジタル録音が可能になった機種が登場した。なお、業務用機にはそれらの機能制限がなかったために、音楽録音スタジオなどでは爆発的に普及した。また、持ち運びが出来るバッテリー駆動の製品を使って野外での生録音を楽しむマニアも少なくなかった。
後期には高音質化の技術が幾つか導入された。16ビット録音でありながら20ビットや24ビット相当の解像度を実現するSBM(スーパー・ビット・マッピング)機能がSONY製DATに導入される[1]一方で、パイオニアはサンプリング周波数を高くとる手段で高音質化を目指し、テープ速度と動作クロックを倍速[2]にして88.2~96kHz録音を民生機器で実現した[3]。
パイオニアはさらにAIRSと銘打った録音システムを送り出す。DATデッキD-9601[4]とデジタルプロセッサーのSP-AR1を組み合わせ、96kHzサンプリングに加え24ビットまでワードレングスを伸ばしたもので、DVD時代では珍しく無くなった96kHz/24ビットフォーマットに対応していた。さらにD-9601はダウンコンバーターを内蔵し、96kHzから44.1kHzへダウンサンプリングした信号を同社のCDレコーダーRPD-500に接続し、アナログを介さずに音楽CDを作る事も出来た。 このAIRSは業務用で一般に普及しなかった。
その他TASCAMもDATテープを倍速で駆動し24ビット録音に対応した業務用デッキDA-45HRを2000年に発売した。
コンピュータ用データストレージ規格のDDSは、DATをベースに開発されている。
[編集] 終焉
1992年に登場したミニディスク(MD)が価格面や使い勝手などの面から民生用オーディオ機器の主流となってDATのシェアは縮小の一途を辿り[5]、さらに1990年代末期に入るとMDの圧縮コーデック「ATRAC」のデータ圧縮時のアルゴリズムの大幅な見直しによる高音質化[6]や民生用CDレコーダーの普及[7]、そして21世紀に入ってからは高圧縮のデジタルメディアである「MP3」、「WMA」、「AAC」などに代表される携帯型のデジタルオーディオプレーヤーの着実な普及などにより、DATの売り上げはさらに減少した[要出典]。この現状からか、2005年12月初旬にソニーのDATウォークマンTCD-D100の生産終了と共に日本向け民生用製品からは姿を消す事になった。業務用向け製品は引き続き少量ながら生産が続いている[8]。
[編集] 脚注
- ^ 民生用は1993年にそのSBM対応第1号機「DTC-2000ES」を投入した。
- ^ 標準モードに対して。ちなみにDATのテープ速度を倍速で走らせる発想はコンピューター用DDSドライブからヒントを得たといわれている。
- ^ 民生用は1992年11月に96kHzハイサンプリング対応第1号機「D-07」を投入。ただし前述のとおり収録時間は半分になるというリスクを持つのが難点。
- ^ ベースモデルは前述のD-07/07A。
- ^ といってもDCC(デジタル・コンパクトカセット)ほどではない。
- ^ 一例としてソニーのATRAC TYPE-RおよびATRAC TYPE-S、ケンウッドの24bit対応D.R.I.V.E、パイオニアのARTIST(当初はASRACという名称だったが、名称がソニーのATRACと混同されやすいため、数ヵ月後にARTISTという名称に改名されたという逸話がある)などがこれにあたる。
- ^ その後MDは上位規格として2004年にサンプリング周波数44.1kHzのリニアPCMによる記録および再生をサポートした「Hi-MD AUDIO」が実用化された。
- ^ しかし業務用の分野では既にDAWによるHDDレコーディングシステムに順次置き換えられている。また屋外使用も可能なポータブルかつ非圧縮に対応したレコーダーもSDやCFといったフラッシュメモリを使用した機種が多数発売されており、一部機種では96kHz録音も可能でハードディスク内蔵機種では192kHzやDSD録音も可能になっている。USB接続でパソコンによる編集・保存にも対応している。
[編集] 関連項目
- デジタル・データ・ストレージ(DDS): DAT技術を利用した大容量デジタルデータ補助記憶装置
- 音響機器
- 私的録音録画補償金制度