0マン
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『0マン』(ゼロマン)は、1959年から1960年にかけて雑誌「週刊少年サンデー」に連載された手塚治虫のSF漫画作品。「週刊少年サンデー」では創刊号から連載された『スリル博士』に続く手塚作品であった。
「0マン」と呼ばれる超人類と人類との抗争を軸とした大河ドラマを展開する作品である。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
目次 |
[編集] あらすじ
日本も参加した近未来の戦争のさなか、インドの奥地で一人の日本兵がシッポの生えた赤ん坊を拾って連れ帰る。リッキーと名付けられた赤ん坊は日本で人間の男の子として育てられ、小学生になっていた。
その頃、科学者の田手上(たてがみ)博士は、「雪男探検隊」を率いてヒマラヤから「0マン」という生物を2体、日本に連れ帰る。リッキーは偶然のことからこの2人と出会い、それが自分の実の両親であることと、自分が0マンであることを知る。
リッキーは両親とヒマラヤの地下にある0マン国へと向かう。だが父とははぐれ、母は無断出国を理由に罪人とされる。0マン国が大僧官という独裁者に支配される国であることを知ったリッキーは母親とともに脱出し、再び日本に戻る。
0マンは秘かに日本で人類攻略の手を進めていた。田手上博士に人間の味方となることを約束したリッキーは0マンの箱根の基地を破壊、その対応に0マン側は電子冷凍機という装置を使用した。だがこれが暴走して、日本は寒冷化する。
電子冷凍機を水爆で破壊する作戦も失敗に終わり、寒冷化は全世界へ広がる。田手上博士はリッキーの父の援助を得て地球脱出用のロケットを作り、人類の他の惑星への移住を計画する。一方、地球に残って0マンとの対決を選んだグループがおり、リッキーも加わっていた。彼らは大僧官の娘・リーズを人質に取り、交渉に持ち込むことに成功するが、決裂。このときリッキーは深い傷を負い、0マン側に捕らえられて地下牢に収容されてしまう。だが、地下牢にいた反体制運動家のモルモに手当を受け、彼に協力することになった。
その頃、電子冷凍機の活動が低下し、全世界で大規模な雪解けが起こった。雪解け水は地下の0マン国にも流れ込み洪水が発生、その混乱の中で反体制派が蜂起して革命が起きる。大僧官はリーズとともに辛うじて脱出した。一方、金星に向かった田手上博士らはそこで0マンの先祖のような生物が大量に生息していることを発見する。彼らは金星への居住をあきらめて引き返し、雪解けの起きた地球へと戻った。
0マンの新政府は金星から戻った人間と友好関係を結ぶこととなり、リッキー一家も許されて市民権が与えられた。だが、大僧官は一部の人間と結び、新政府や他の人間と対立する。電子冷凍機を処分するための装置・ブッコ・ワース光線が大僧官側の手に落ち、リッキーたちは窮地に追い込まれる。果たして人類と0マンの運命は?
[編集] 登場人物
0マンの登場人物は、目の瞳が独特の描き方をされている(黒丸に斜めに線の入った形)。これによって人間と区別を図ったと考えられる。
- リッキー
- 本作の主人公。人間としての名前は力也(りきや)。赤い野球帽タイプの帽子を被り、半ズボン姿。同年代の0マンの中でも運動能力に優れている。話の途中で事故に遭遇してシッポを切断し、以後は作り物のシッポ(義尾?)をつけるようになる。
- リッキーの父親
- 0マン国では兵器開発などに従事する科学者だった。ヒマラヤで一度は生死不明となるが生き延びる。地球脱出ロケットの製作に協力した。
- リッキーの母親
- リッキーの父親とともに田手上博士に捕らえられる。その後、0マン・人間双方より過酷な扱いを受け、水爆使用の時には「人間の恨みの中で生きるより」とリッキーとともに爆発での死を選ぼうとした。ピットやガリ公の母親代わりにもなる。
- 田手上(たてがみ)博士
- 生物学者。名前の通りライオンのたてがみのような顔の輪郭に眼鏡をかけている。「雪男探検隊」でリッキーの両親を捕獲する。首相とは同窓生。NHKが特別放送を許すほどの信頼と影響力がある。
- 力(ちから)
- 元日本兵。リッキーの育ての親。帰国してからは建設作業員となっていた。リッキーのシッポを切除する手術の費用を工面するため、田手上博士の研究所から0マンを強奪する計画に参加するが…。
- ドンペイ
- 小学校でのリッキーの親友。リッキーのシッポの秘密を知っていた。途中出番がなくなるが、終盤に意外な活躍を見せる。
- アセチレン・ランプ
- 「おんぼろタイムス」の新聞記者。0マンの存在を知り、リッキーを捕らえようとするが失敗。その後、0マンのロケットの設計図を入手。アメリカに渡って、寒冷化により無人化した街から財物を略取して成り上がるが、ロケットを完成できないままに凍死。
- 甘井と桃山
- 「おんぼろタイムス」でのランプの同僚記者。リッキーたちの味方となって行動する。お人好しで楽天的だが、0マンとの和平交渉の時にはそれを0マン側に利用されたことも。
- エンマ大王
- 人間としての名前はクノッペン・ハウト。生物学者で、田手上とも旧知の関係。ヒマラヤで0マン国へ連れて行かれ、以後0マンの手先として活動する。電子冷凍機により凍死。
- ピット・ハウト
- エンマ大王の息子。父が0マンに殺されたと信じたことから、リッキーに報復を試みる。しかし逆にやり返され、さらに父の真相を知ったことでリッキーと親交を結んだ。
- サタン
- エンマ大王の手下。実はロボットである。
- 大僧官
- 0マン国の支配者で独裁者。はげ上がった頭とあごひげが特徴。長い服の中に入れているシッポは、地位の割には貧相である。人類を嫌悪し、0マンが取って代わることを考えている。娘のリーズを溺愛している。
- リーズ
- 大僧官の一人娘。大僧官の配慮で、0マンの子どもが収容される「子どもの街」ではなく大僧官のもとで暮らしている。人類を嫌う父親には批判的で、意志の強い性格。
- ガリ公
- 0マンの少年。リッキーとの喧嘩に負け、それ以後は親友となる。
- 飛車角副官
- 自衛隊の士官。0マンに対して憎悪を抱き、リッキーやその母親に厳しい仕打ちをする。その後、電子冷凍機の操作方法を知るためリッキーとともに0マン国に潜入。だが志は果たせずに殺される。
- ローヤル博士
- アメリカの科学者。一時はランプに拉致され、ロケットの開発をさせられていた。その後は地球に残って0マンと戦う道を選ぶ。
- クレージー・キャッツ将軍
- 0マンに対する人類側の攻撃司令官。好戦的な性格で、0マンとの和解を最後まで拒否し、悲惨な最期を遂げる。
- モルモ
- 0マンの反体制活動家。逮捕され、地下牢に閉じこめられていた。収容されたリッキーに手当てを施す。革命後は大統領に就任。
- ポリン
- 0マンの反体制活動家。革命後は新政府の一員となる。
- カクテルの鉄
- 力の元戦友。田手上博士の研究所への0マン強奪計画を力に持ちかけた。その後、ロケットで宇宙から日本に戻った際に電子冷凍機を発見し、世界征服の野望を抱く。大僧官とも手を結ぶが、チャコール・グレイと対立し、手下に殺害される。
- チャコール・グレイ
- 0マン国を追われた大僧官を救出した人間。大僧官と結ぶことで世界を手中にすることを画策、カクテルの鉄とも一度は手を結んだが、対立。大僧官の入れ知恵で鉄を殺害。だが、その後精神に異常を来す。名前は当時流行した色柄から。
[編集] 0マンについて
0マンは金星に住んでいたリスに似た生物が進化したもので、その昔探検隊として地球に来訪し、金星での戦争のために残留した中の一つがいから数を増やした。大僧官は人間を嫌っているが、実は多くの人間の習俗が0マンの社会には取り入れられている。衣服もその一つである。かつては全身を覆う黒いマント状の衣服が着用されていた。これは高級官僚の制服に残っている。 0マンには、
- 簡単な予知ができる
- 他の言語をすぐに解読できる
- ウソをつくことができない
といった能力があることが作中で紹介されている(ただし、必ずしもこの設定が守られていない描写も見受けられる)。
0マン国では一定の年齢に達した子どもは親から離されて「子どもの街」で育てられる。その際に能力測定が行われ、それに見合った進路の教育が施される。
年に1度、カーニバルにも似た「ムームーの日」という祭りがあり、市民が着ぐるみ等の衣装で動物に仮装し、「動物たちが仲良くしていこう」と願うと同時に、祖先の「リス神」を祀る行事が行われる。これにより、祖先崇拝の風習が0マンにもあることが分かる。
[編集] メカニック
多くの高度なメカニックを保有している。
- 原子分解銃
- 光線銃の一種。光線が当たった対象を原子レベルにまで分解してしまう。
- 人造細胞による替え玉製造器
- 生物の型を取りそこに人造細胞を流し込むことで、そっくりの替え玉を作る装置。大量のクローンを製造可能である。
- 電子冷凍機
- 地球レベルで気候を寒冷化できる装置。
- 人間自殺機
- 人間の脳波に働く光線を発し、自殺をし向ける兵器。0マンには効かない。
- ブッコ・ワース光線
- 光線を照射された対象物を異次元に送り込んでしまう。全世界に照準を合わせることが可能。
また、リッキーが自作した武器もある。
- ヤモリ
- 槍と銛を組み合わせた武器。槍の先端部分のやじりが飛び出して長く伸びる機能を持つ。またこのやじりは電気を通したり磁石などに変わる機能も持つ。リッキーが常に携帯している武器。
[編集] 評価など
『来るべき世界』に類似したテーマやプロットを扱いながら独自の設定を盛り込み、手塚にとっては週刊少年誌での初のヒット作と呼べる作品になった。手塚は、連載中に刊行された集英社版の単行本第2巻のあとがきで「今では、0マンはわたしの作品の中でもジャングル大帝と並べたいほどの大きな物語になり、わたしも自信をもって書き続けています」と記しており、熱意を持って取り組んでいたことがうかがえる。
ただし、当時の読者(主に小学生であった)には内容的にやや敷居が高かったという指摘(呉智英[1])もある。手塚もそれを意識していたのか、ヒマラヤの原住民のあるセリフを逆に読むと「科学漫画は難しくて読みにくい」となるお遊びを入れている。
「雪男(イエティ)」は、本作の連載開始の少し前に日本から専門の調査団が派遣されるなど、マスコミにおいて話題になっていたものであった(イエティの項を参照)。
[編集] 初出
「週刊少年サンデー」1959年9月13日号~1960年12月11日号連載
[編集] 単行本
- 『0マン』(集英社) 全7巻
- 手塚治虫漫画選集『0マン』(鈴木出版)全8巻
- 別冊少年ブック『0マン』(集英社)全2巻
- コンパクトコミックス『0マン』(集英社)全4巻
- サンコミックス『0マン』(朝日ソノラマ)全4巻
- 手塚治虫漫画全集『0マン』(講談社)全4巻
- 中公漫画叢書『0マン』(中央公論社)全3巻
- 小学館叢書『0マン』(小学館)全2巻
- 小学館文庫『0マン』(小学館)全2巻
- 秋田文庫『0マン』(秋田書店)全2巻
[編集] アニメ化構想(実現せず)
虫プロダクションによる「虫プロランド」構想(詳細は『新宝島 (テレビアニメ)』を参照)の一環として1963年頃アニメ化が企画された。しかし、この構想は1964年4月には取りやめになってしまう。
1968年になって改めて虫プロでアニメ化が企画され、4分のパイロットフィルムが制作された。北野英明や村野守美が作画を担当したが、キャラクターデザインは原作から大きく離れたものになってしまった(手塚によると「星飛雄馬のようなリッキー」とのこと)[1]。しかし、売り込みには結びつかず、やがて日本興業銀行が「リッキー」という金融債商品を出したことなども一因となって制作は実現しなかった。
1999年に河出書房新社から刊行された『手塚治虫絵コンテ大全2 W3』にパイロットフィルムの絵コンテが収録されている。
一方、これとは別に、原作に近いデザインで制作されたイメージボードの存在が確認されている[2]。「虫プロランド」構想時のものとも考えられるが、制作時期等は未詳である。
さらに、虫プロダクションがテレビアニメを開始するにあたり、『鉄腕アトム』の他に本作が候補となっていたという証言[2]も存在する。
[編集] 注釈
- ^ 「朝日ジャーナル」1989年4月20日臨時増刊号「手塚治虫の世界」50~51ページ
- ^ 「中日新聞」2006年3月2日 連載企画「アニメ大国の肖像」における須藤将三(元虫プロ営業部次長)のコメント