龍時
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龍時(りゅうじ)は、野沢尚の小説。文春文庫(文藝春秋)より発行。「日本初の本格サッカー小説」と銘打たれ、多くのサッカー選手からも評価されている。 3巻まで発行されたが、作者の急逝により未完の作品となる。
コミック版がWORLD SOCCER KINGにて連載中。作画は戸田邦和。単行本が集英社のジャンプコミックスデラックスより発行。現在、4巻まで発行。
目次 |
[編集] あらすじ
全国的に無名だったサッカー少年の志野リュウジ。中学時代の活躍でU-16の代表候補に選ばれたことが縁で、U-17スペイン代表との対戦のために日本選抜の一員に選ばれる。そこで世界を目の当たりにしたリュウジは、その試合を見ていたリーガ・エスパニョーラのアトランティコFCの会長に評価され、その下部組織のシティオ・アトランティコへの誘いを受けて単身スペインへ旅立つ。
[編集] 登場人物
[編集] 志野家と周囲の人々
- 志野 リュウジ(しの りゅうじ)
- 本編の主人公。埼玉県草加市出身。1985年8月25日生まれで、奇しくも釜本邦茂の引退した日の一年後にあたる。幼い頃から父親のサッカーの手解きを受け、小学校の3年からクラブに入り、越境して強豪の中学に入学。全国大会出場を果たして県内ベスト3の名門私立高校に特待生として進学する。中学時代に選出されたU-16の代表合宿ではその才能を示すも落選したが、U-17スペイン代表との試合のために日本選抜の一員として出場する。その試合を観戦したアトランティコFCの会長の誘いで、下部組織のシティオへ入団する。当初はチームメイトたちとの孤立や勝てない試合が続いて苛立ちを覚えていたが、アルカラ戦を機会にチームの歯車がかみ合い始め、リーグの優勝に貢献。トップチームの練習に参加したことがきっかけでアトランティコBに加わり、急遽人員が必要となったトップチームへの昇格を賭けた紅白戦での活躍により、トップへ昇格。最終節のFCバルセロナ戦での活躍が認められ、翌シーズンはレアル・ベティスへレンタル移籍。その後、完全移籍となる。その活躍から、アテネオリンピックの日本代表に選出される。
- ドリブルで敵陣を切り裂き、接近戦の中でラストパスを送るのが得意。司令塔で、得意ポジションはトップ下だが、代表やシティオでは右サイドでの出場が多い。
- 名付け親の父の意図で、リュウジと言う名前には「龍」の意味が込められている。シティオ入団当初はスペイン語で発音しにくい名前から「チノ(中国人)」と呼ばれて馬鹿にされていた。アルカラ戦以降もよく呼ばれているが、チームメイトのそれは決して侮蔑的ではなく親しみの意味が込められている。
- 時任 礼作(ときとう れいさく)
- リュウジの実父で、フリーライター。リュウジが幼い時からサッカーの魅力を伝え、リュウジのトレーニングに付き合った。女性を連れ込んだことで、リュウジが中学生の時に妻と離婚。その後、リュウジにプレゼントした携帯電話に、メールで「謎の言葉」を送っていた。
- 志野 喜子(しの よしこ)
- リュウジの母。和風スナック「よしこ」の店主で、夫との離婚後は女手一つで子供二人を育てる。夫のこともあって、リュウジがサッカーをすることに不満を持ち、リュウジのスペイン行きに当初は猛反対したが、実際は素直になれないだけであって、ミサキの説得もあって受け入れる。リュウジの活躍を誰よりも喜んでいる。
- 志野 ミサキ(しの みさき)
- リュウジの妹。リュウジのスペイン行きに反対する母を説得して、リュウジを旅立たせる。作中で中学受験を控えていたが、無事に合格する。
- アリシア
- ペペの孫娘で、リュウジの下宿先の「ペペ・デ・ボンボ」の看板娘。気は強いが面倒見がよく、異国での生活に慣れないリュウジを何かと世話していた。父親を交通事故で亡くし、母親はアリシアを捨てて別の男と家庭を築いている。2002 FIFAワールドカップでは特別海外特派員としてスペイン代表に帯同。日本上陸やリュウジの実家を訪ねる目的で日本語も勉強していたが、代表が決勝進出できなかったために日本行きは叶わなかった。その後、大会の取材で知り合ったマウリシオと結婚する。
- ペペ
- 「ペペ・デ・ボンボ」の店主で、アリシアの父方の祖父。アトランティコFCの熱心なサポーターで、店の2階を寮にして異国から来たリュウジたちシティオの選手を下宿させている。
[編集] オリンピック日本代表
- 梶 祐一郎(かじ ゆういちろう)
- U-17日本選抜及びオリンピック日本代表のMFで、司令塔。静岡出身で、中学時代に全国制覇を果たし、ユース代表でもエースとして君臨している。長くて速いスルーパスが持ち味で、監督の評価も高い。合宿を通じ、同じポジションを争うリュウジに対してライバル心を持っている。高校卒業後は横浜F・マリノスに入団し、一年目から主力となる。
- 神保(じんぼ)
- U-16日本代表及びU-17日本選抜の監督。
[編集] オリンピックスペイン代表
- ヴィクトル・ロペス
- バレンシアCFに所属するMFで、同世代トップクラスの司令塔。フィジカルやテクニックは群を抜き、対戦した日本選抜を震撼させた。10代にして早くもトップチームでプレイし、代表にも選出された逸材である。
[編集] アトランティコFC
アトランティコFCはリーガ・エスパニョーラに所属する架空のサッカークラブ。マドリッド郊外のアランフェスがホームタウン。一部に昇格したトップチームを頂点に、その下にサテライトのアトランティコB、そしてその下にはフベニールと呼ばれるユースの、ラーヨ・アトランティコとシティオ・アトランティコの2チームが置かれている。リュウジは外国人枠の問題からシティオへ入団する。
- エミリオ・デ・オルドニュエス
- シティオの左サイドMF。料理人の父の仕事の都合で一時期日本で暮らしていたことがあり、日本語が話せるためにリュウジの通訳を買って出る。リュウジがチームと孤立していた時も両者間をどうにか取り持とうとした。リーグでの活躍でアトランティコBに合流。怪我を負って仕事ができなくなった父のためにトップチームへの昇格を目論んでいたが、紅白戦で対戦したリュウジのスライディングが元で全治3ケ月の重傷を負ってしまった。後に地域リーグのチームに移籍する。
- アントニオ・マルティーネス
- シティオのMF(トップ下)。かつてはマドリッドのグランビア通りで日本人を相手に路上強盗をしていた問題児で、狡猾な性格。ゴールへの意識が高すぎる傾向があるがテクニックは確かで、リュウジとのプレイがかみ合ってからはパッサーとしての片鱗を見せる。リーグでの活躍でアトランティコBに合流。トップ昇格を賭けた紅白戦で、エミリオを怪我させてしまったことでプレイに精彩を欠いてしまったリュウジにわざと挑発した態度をとって、リュウジの闘志に火をつけさせた。
- ビゼンテ
- シティオのFWで、巨漢のポストプレイヤー。観戦に来る母親から、ミスをするたびに怒鳴られていることからリュウジにマザコン扱いされている。リーグ終了後、上のカテゴリーに当たるディビジョン・デ・オノールの地元チームへ移籍する。
- ハビエル
- シティオの右サイドバック。17歳にして2児の父親で、3人目も生まれることになり、稼ぐためにプロになることを目論んでいる。リーグ終了後、上のカテゴリーに当たるディビジョン・デ・オノールの地元チームへ移籍する。
- セサル
- シティオの左サイドバックで、ブラジルのスラム出身。ロベルト・カルロス張りの太股を持つ。サッカーで稼いだ金で故郷に豪邸を建てるのが夢。リーグ終了後、外国人枠の問題から地区リーグのチームへ移籍する。
- ベルナール
- シティオのGKで、ギニア出身。イングランドやポルトガルを経てスペインにやって来た。故郷に7人の兄弟がいるが、内紛により末の弟を失ってしまった。リーグ終了後、外国人枠の問題から地区リーグのチームへ移籍する。
- パチ
- シティオのセンターバックで、スペインのバスク出身。地元の爆弾テロに巻き込まれ、右手を失っている。コミック版では日本のアニメマニアの一面を持つ。リーグ終了後、故郷のアスレティック・ビルバオの下部組織に移籍する。
- マルコ・アクーニャ
- シティオのFWで、アンダルシア地方出身。ヒターノと呼ばれる少数民族の血を持つ。踊るような身のこなしでスペースに侵入するのが持ち味。転機となったアルカラ戦では2点を決めている。姉がフラメンコのダンサーをしている。リーグ終了後、故郷のセビージャFCの下部組織に移籍する。
- フェルナンド・ビダール
- シティオのボランチ。バルセロナ出身で、大学教師の父親の転勤でマドリッドに引っ越してきた。物静かな風貌だが、的確なカバーリングで相手のボールを奪うのが得意。リーグ終了後、故郷バルセロナのチームのテストを受けることになった。
- ミッチェル・イグレシアス
- シティオのセンターバックで、母親がフランス人のハーフ。自身に血が半分流れていながら、何かとスペイン人に対して皮肉を放つ人種差別主義者。リーグ終了後、上のカテゴリーに当たるディビジョン・デ・オノールの地元チームへ移籍する。
- ルイス・フェレール
- シティオの監督。髭面にサングラスがトレードマーク。攻撃を重視するタイプで、守備を疎かにしたり具体的な戦略を立てられないことから選手たちにその手腕を疑問視されている。リーグ終了後、条件の良いチームへ移った。
- マノロ
- シティオのフィジカルコーチ兼道具係。日本での短期指導経験があり、フェレールより選手たち個人の能力を把握していることから、選手たちの良き相談相手になっている。リーグ終了後、次期監督が来るまでの間のチームを暫定的に指導している。
- ロイ・スチュアード
- アトランティコBの監督で、イギリス出身。長くスペイン2部のチームを渡り歩いている。降格が決まったチームからトップチームに上げる選手を発掘するために、チーム内に競争原理を持ち込んだ。
- カルロス・アルバレス
- アトランティコのトップチームの監督。守備意識が強く、結果を残せても攻撃的な姿勢を求める上層部やサポーターから非難されている。当初はトップチームに昇格したリュウジを見ようとしなかったが、最終節にてリュウジを途中出場させて、FCバルセロナと引き分けに持ち込んだ。
[編集] その他
- 八木沢 千穂(やぎさわ ちほ)
- リュウジの元恋人。互いに想い合っていたが、リュウジがサッカー選手として生きる決意を受け、別れることになった。
- 宮城(みやぎ)
- リュウジの中学時代のコーチで、リュウジの中学卒業後に部の監督に昇格。リュウジのスペイン留学に不安視するも、リュウジの決意を知って送り出す。
- 高畑(たかはた)
- とあるJリーグクラブのユースのコーチで、宮城の大学時代の同級生。リュウジのプレイを見て、U-16代表候補に推薦する。リュウジのスペイン留学では両者の橋渡し役になる。
- ディエゴ・ペドロサ
- サッカーの代理人で、ヨーロッパ中の若手の有望選手を多く抱えている。トップチームに昇格したリュウジの代理人となる。現役時代は快速FWで、スチュアードのいたチームと対戦したことがある。リュウジにスペイン人帰化を勧め、そのことでリュウジを悩ませることになる。