魔術
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魔術(まじゅつ)とは、
- 本来そこに存在しない"もの"(あるいは"こと")を自らの意思で生み出すための術である。この項においては、主にこの意味について詳述する。
- 1から長じて、ケルト神話などの神話や、ファンタジーなどの物語で描写される不思議な術、技。(参照:魔法)
- 呪術、妖術、邪術、託宣、奇跡、仙術などの総称。
- 奇術、手品のこと。(本項「奇術と魔術」の節も参照)
日本に魔術という概念が入ってきたのは明治の頃、英:magic、仏:magique、独:magisch、伊:magicoなどの訳として入ってきた。英語のマジックは奇術の意味も持つ。
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[編集] 概論
魔術はかつて、白魔術と黒魔術という二つに大分類された。いつからか民間で用いられるようになったこの分類は便宜的なものであり、統一見解とはいえない。
一方、魔術に似た概念として文化人類学などで呪術が定義されている。この呪術は未開文化の調査より見出され、定義された概念である。こうした未開文化由来の背景を持つゆえに、呪術は魔術よりも広範で原始的であると共に、洗練されておらず、いわば土着的なイメージを伴う。そこで、文化圏を問わない魔術的だと思われる内容は「呪術的」と荒くひとくくりにされることが一般的である。というのも、呪術は改定の余地を残しつつも学問的に定義されているが、魔術はほとんど注目されず、触れられず、また定義されていない。加えて、魔術の実践者と自称する人々がごく個人的な考えで、他の事例・用法との詳細な比較検討及び摺り合わせがない実践上の定義を行っているので、互いに整合しない内容が乱立している。学問的立場の欠如と、一般用法の混乱という二つの要因により、魔術を語るときにその意味を確定できるような信頼できる情報源はない。この複雑な状況を睥睨できる目端の効く人々は、魔術という語を説明できないために自ら用いることを避ける。誰かが断定的に魔術を述べるとき、多くの場合は誤解に基づいた不完全な理解が行われている。
日本では古くから神道と共に陰陽という概念が取り入れられ、風水や祈祷によって現状の改変を計るという(広義としての)魔術自体は存在しており、祈祷師や霊媒師などを生業とする専門家も存在するが、実際に「魔術」という語が使用される場合は、特に西洋の古典魔術や儀式魔術などを指すことが一般的であり、風水などを指して呼称することは稀である。
アカデミックな場面で魔術らしきものを扱う場合は、既存の定義からの曲解や誤解を避けるため、より把握しやすい「信仰」、「神秘」、「慣習」などといった魔術以外の概念と絡めるほか、既に誰かが使用した内容に準拠している。その他に、不思議な技術、未知の現象、非日常的な内容が魔術として扱われる場合があるものの、それらは明確に「魔術」として分類されている訳ではなく、多くの場合が「喩え」としてのそれである。
尚、どんなに例が多くとも、現状としては統一見解としての魔術の語義すらも明言できないことに留意する必要がある。
[編集] 歴史
魔術の歴史は、人類の歴史が始まるとほぼ同時に始まっている。原始時代、シャーマンと呼ばれる者たちが、占術や呪術を用いて、人々の悩みを解決していた。この呪術が魔術の起源であるといえる。
西洋魔術は中東、メディナを起源とするとされるが、歴史的にはもっと遡ることができる。古代になると、魔術は体系を持つようになる。古代ギリシアや古代エジプトの神殿巫女たちは、気象や薬草など様々な知識を体系的に学んだとされる。ローマ時代に、キリスト教は国教となりアニミズム的な考えなどを邪教として、排除する方向に進んだ。神殿巫女たちは戦乱に巻き込まれたり、奴隷として売られたりした。また、中世になると魔女狩りが盛んとなり、村の薬草知識のある者、古い神を祀っている者、占いをする者などが次々に捕らえられ、魔女裁判にかけられ火刑にされた。
もともと古代より存在した魔術は、メディチ家が活躍していたルネサンス期の欧州に流入した時、当時のキリスト教会を揺さぶることとなった。そして、キリスト教会から「異教徒の教え」として異端視され「魔術」というレッテルを貼られ、地下水のごとく潜伏することになってしまった。
[編集] 近代西洋儀式魔術
詳細は近代西洋儀式魔術を参照
現代の魔術(奇術と本来の魔術を区別するためアレイスター・クロウリーが復活させた古英語綴りMagickを用いる。)は19世紀の黄金の夜明け団に復興としてはじまった近代西洋儀式魔術である。それによれば魔術とは、本来そこに存在しない"もの"(あるいは"状態")を自らの意思で生み出すための術(すべ)である。その世界に固有の基本法則を、自らの意思で書き換え、具現化させるものと考えられてきたといえる。人間の無意識領域は言語によって到達することができない。そのため、魔術ではこの領域に到達するために多くの象徴体系が用いられる。本来そこに存在しないはずの力を用いるという点では、超能力と近いところもあるが、この象徴概念のあるなしで明白に区別される。魔術的体系として研究されたもののうち、解明され実現がかなったものは科学の一部となり、ゲオルク・カントールの集合論やジークムント・フロイトの精神分析学にも多大な影響を与えた。
系統について少し専門的な区別すると、黄金の夜明け団が解散後の団体でのカバラ系儀式魔術、混沌魔術(カオス)、テレマ、ウィッカ、魔女術、性魔術などと分類される。なお魔女術との違いは魔術は自らの体を守りながら術を駆使するが、魔女は自らの体に神などの力を導きいれ術とする点が異なる。またブードゥー教などの密儀宗教と結び付けての研究・実践なども行われている。具体的な修行法には、逆向き瞑想、四拍呼吸、アストラル投射などがある。どの修行法にも視覚化(ビジュアライゼーション)の能力が基本として要求される。
[編集] 奇術と魔術
魔術は不思議なものとして認知されている。奇術を行う際には、行われるものがタネも仕掛けもある奇術であるというよりも、不思議な魔術であると喧伝された。大仰な身振りと魔術という触れ込みで奇跡めいた見世物を披露されることが多くなり、世間で奇術が「魔術」と呼ばれることが定着した。
近代になり、一般的にオカルティックな奇跡の技という魔術の意味が縁遠くなったことも、魔術と奇術の混同の一因と見られる。奇術師が魔法使いと呼ばれるよりも、魔術師と呼ばれることが多いのはこのためである。
[編集] 関連項目
[編集] 類義語など
[編集] 秘密結社
[編集] 人名
[編集] その他
[編集] 魔術についての書籍
日本においても近代魔術に関する書籍が発行されている。特に国書刊行会からは近代魔術に関する関連書籍が出版されている。
- 黄金の夜明け魔法体系 全6巻
- 現代魔術体系 全7巻
- 世界魔法大全 全5巻
- グリモワールも参照。
[編集] 参考文献
- エリファス・レヴィ『高等魔術の教理と祭儀 祭儀篇』 ISBN 440903023X
- エリファス・レヴィ『高等魔術の教理と祭儀 教理篇』 ISBN 4409030221
- エリファス・レヴィ『魔術の歴史 - 附・その方法と儀式と秘奥の明快にして簡潔な説明』人文書院 ISBN 4409030493
- H.P.ブラヴァツキー 『シークレット・ドクトリン』 竜王文庫 ISBN 4897413176
- H.P.ブラヴァツキー 『沈黙の声』 竜王文庫 ISBN 4897410010
- ハワード・マーフェット 『H・P・ブラヴァツキー夫人―近代オカルティズムの母』 田中恵美子訳 ISBN 4897413087
- H.P.ブラヴァツキー 『実践的オカルティズム』 竜王文庫 ISBN 4897413192
- 郷尚文『覚醒の舞踏―グルジェフ・ムーヴメンツ 創造と進化の図絵』市民出版社