高エネルギー物理学
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高エネルギー物理学は、加速器で作られる高エネルギーを持った基本粒子の衝突反応を詳しく調べ、究極の物質構造や基本的相互作用の解明、時空の構造等を研究する研究分野である。 また、素粒子物理学と原子核物理学の分野をまとめて言い表したり、実験もしくは理論科学として、素粒子物理学と原子核物理学が不可分なときにも使われる。
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[編集] 主な研究機関・施設
アメリカ合衆国では、スタンフォード直線加速器研究センターや国立フェルミ研究所、ブルックヘブン国立研究所などで、素粒子研究の黄金時代を築いた。 しかし、その後に計画されたSSC計画が予算を大規模に超過して中止に追い込まれた。現在は、欧州原子核研究機構や高エネルギー加速器研究機構の研究に参加を行うことと同時に、将来の国際リニアコライダー計画への参加も表明。
欧州原子核研究機構では、2008年から始まるLHC加速器を用いた7テラ電子ボルトの陽子・陽子衝突実験により、素粒子の標準模型に必要なヒッグス粒子が発見されることが期待されている。更に、その先にある大統一理論候補の検証への最初のステップが開かれる予定である。
日本では、高エネルギー加速器研究機構における世界最高強度の電子・陽電子衝突装置KEKBを使ったベル実験、つくば市から飛騨市へニュートリノを飛ばしてニュートリノ振動を検証するK2K実験など、世界的に注目される最先端の研究を実施。現在は、SPring-8やJ-PARC、RIビームファクトリーなどによって、加速器科学の応用研究まで視野に入れた取り組みにも注目が集まっている。
将来的には、アジア・欧州・アメリカまで含んだ国際リニアコライダーと呼ばれる、電子・陽電子をテラ電子ボルトレベルのエネルギーまで加速し衝突させる大型加速器の建設が検討されている。 標準模型を超える素粒子物理学の記述に方向性を与える実験には必要不可欠の加速器であるが、全ての建設費用が2007年現在の概算で一兆円程度と非常に規模が大きく、建設が実現するとしても世界で唯一の施設になると予想されている。
[編集] 歴史
「高エネルギー」の定義にはいくつかあるが、一般的に高エネルギー物理学では通常の生活では考えられもしないような物理現象をその対象としてきた。
原子核物理学は、化学から始まった。ピエール・キュリー、マリー・キュリーよる、ポロニウムの発見やラジウムの発見。そして、それらの原子が発する放射線の研究から、高エネルギー物理学への道が開かれた。つまり、この項の定義である「高エネルギー物理学」とは、可視光線以上の周波数を持つ(もしくは、短い波長を持つ)放射線の研究から始まったものと定義できる。その後、様々な実験装置の開発によって、紫外線からエックス線、ガンマー線が発見され、それらが原子及び原子核内の物理反応に由来することが判明した。
素粒子物理学は、古代ギリシアの自然哲学者デモクリトスの原子仮説から始まった。様々な試行錯誤の末、物質が原子から成り立っていることが分かったのは、イギリスのドルトンらの業績による。
20世紀に入り、加速器、霧箱、写真乾板など実験観測装置の進歩によって、それらが宇宙から来るものも分かり、それが全ての物質の根源であるというところまで来た。さらに、研究が進み、原子自身も電子、陽子、中性子からなることが実験的に証明された。更に、陽子や中性子を結びつけるものとして、中間子が発見され、物質の根源を探す研究者達の探求の試みはにわかに活気づいた。宇宙由来の放射線の研究や加速器が次々に建設され、対称性を持つ粒子や今の宇宙には存在しない粒子が見つかることになり、これらを分類することによって、素粒子物理学の第一期が訪れた。この時期に活躍したのが、日本人では仁科芳雄、湯川秀樹、朝永振一郎、内山龍雄、南部陽一郎らである。
第二期は、素粒子物理学の分類から始まり、その素粒子群が増えてきたことによって、これらの粒子にも根源となる粒子があるはずという仮説から、マレー・ゲルマンらによるクォーク仮説が提唱された。なお、同様の仮説は、名古屋大学の故坂田昌一によって提唱されているが、言語の壁等もあり、世界的に広まらなかった。しかし、実験分野では世界的に大型の加速器が建設され、日本でも大型の実験施設であるトリスタン計画がスタートし、遅ればせながら実験分野での貢献が始まった。第一期と第二期をつなぐ時代に活躍したのが、日本人では小柴昌俊、林忠四郎、坂田昌一、戸田盛和らである。特に、小柴昌俊門下生は、高エネルギー物理学実験分野で活躍しており、戸塚洋二が現役である。また、理論物理学分野では、小林誠、益川敏英らがあげられる。この門下生が、現在高エネルギー加速器研究機構の主力メンバーである。
[編集] 現在
宇宙由来の宇宙線の研究を始めとして、LEP実験やLHC実験などで、アインシュタインが夢見た統一理論へ向けて研究が続いている。高エネルギー物理学実験は、確かに巨額の費用が必要であり、中々実現までいかないものもあることは確かである。しかしながら、標準理論を超えて、大統一理論、そして超統一理論の探求は、宇宙誕生の謎を解明することによって、命の尊さや人類の誕生以来の疑問である、「我々はどこからきて」の答えを導きだすことを目的としている。
[編集] 外部リンク
- 欧州原子核研究機構 (CERN)
- 高エネルギー加速器研究機構
- 国際リニアコライダー
- 国際リニアコライダー (日本版)
- 高エネルギー物理学・大学紹介 - 高エネルギー物理学の研究を行っている大学一覧