写真乾板
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写真乾板(しゃしんかんぱん、photographic plate)とは写真術で最も初期に用いられた感光材料の一種で、光に感光する銀塩の乳剤をガラス板に塗布したものである。日本語では単に乾板と呼ばれる場合も多い。このような形の写真乳剤は、より便利に扱うことができて破損しにくい写真フィルムの登場によって、20世紀初めには市場からほぼ姿を消した。しかし天文学などの専門的な分野では1990年代まで写真乾板が用いられていた。写真乾板の量子効率は約2%である。
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[編集] 解説
ガラス乾板は非常に安定していて、特に広角撮影のための大判でも曲がったり歪んだりすることがないため、研究用品質での撮影ではフィルムに比べて圧倒的に優れていた。1950年代の最初のパロマー天文台スカイサーベイ (POSS) やこれに続く1990年代の POSS-II サーベイ、南天を撮影した UK シュミットサーベイなど、多くの有名な天文サーベイの画像は写真乾板を用いて撮影された。ハーバード大学やゾンネベルク天文台など、多くの天文台では主として変光星の歴史的研究のために大規模な写真乾板のアーカイブを保持している。
[編集] 科学での利用
写真乾板の利用は1980年代初めから顕著に減少し、電荷結合素子 (CCD) に取って代わられている。CCD カメラはガラス乾板に比べて、量子効率が高い、光に対する応答の線形性が良い、撮影や画像処理が容易であるといったいくつかの利点を持っている。しかし CCD は現在存在する最大のフォーマット(8192 x 8192 ピクセルなど)でも多くの写真乾板の解像度に劣っている。このため、現在天文学で使われているサーベイ観測用カメラでは CCD チップを並べた大規模なアレイを使用せざるを得ない。また、デジタルデータや(FITS などの)データ形式の「寿命」についても不確定な点があるため、写真乾板の必要性も全くなくなったわけではない。
[編集] 天文学
昔の肉眼観測による方法に代わって、多くの太陽系天体が写真乾板を用いて発見された。写真乾板を用いた小惑星の発見はマックス・ウォルフによる1891年の (323) ブルーチアの発見から始まった。写真乾板を用いた衛星の発見は1898年のフェーベが最初である。冥王星は写真乾板をブリンクコンパレータで調べることによって発見された。また冥王星の衛星カロンは写真乾板に写った冥王星の像の膨らみを注意深く調べることで見つかった。
[編集] 物理学
写真乾板は初期の高エネルギー物理学の分野でも重要な道具だった。写真乾板は放射線による電離作用によって黒く感光するからである。例として、1910年代にビクター・フランツ・ヘスは積み重ねた写真乾板の上に残った飛跡から宇宙線を発見した。彼はこの観察を行なうために写真乾板を高山に持って行ったり、気球を使ってより高い大気中に乾板を置いた。
[編集] 医学画像
ある種の写真乾板が電離放射線(通常はX線)に感度があるという性質は医学画像や材料科学の分野でも有用である。しかし現在ではその多くは再利用可能でコンピュータで読み取ることができるイメージプレートや別のX線検出装置に置き換わっている。
[編集] 参考文献
- Peter Kroll, Constanze La Dous, Hans-Jurgen Brauer: "Treasure Hunting in Astronomical Plate Archives." (Proceedings of the international Workshop held at Sonneberg Observatory, March 4 to 6, 1999.) Verlag Herri Deutsch, Frankfurt am Main (1999), ISBN 3-8171-1599-7