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国際リニアコライダー - Wikipedia

国際リニアコライダー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

国際リニアコライダー(こくさいリニアコライダー;International Linear Collider 略称ILC)とは、超高エネルギーの電子・陽電子の衝突実験をおこなうため、現在、国際協力によって設計開発が推進されている将来加速器計画。日本では、1990年代はじめより、高エネルギー加速器研究機構を中心として、初期に"Japan Linear Collider"と呼ばれ、アジア各国物理学者の参加を得て"Global Linear Collider"へと名称変更され開発が進められてきた構想があった。同時期より、ヨーロッパ (DESY, CERN)、北米 (SLAC) でも類似の計画が構想され、開発に従事する研究者間で、隔年の研究ワークショップが開催されてきた。国際リニアコライダーは、2004年8月に" 国際技術勧告委員会(International Technology Recommendation Panel (ITRP))" が加速器の基本技術を一本化する勧告を行ったのを受け、これらの構想が世界で一つの計画、"International Linear Collider" (ILC) に統合されたものである。

目次

[編集] 概論

電子-陽電子衝突型の加速器で、最高のビームエネルギーを記録したのは2000年までCERNで稼働したLEP-IIであり、最大のルミノシティ値を持つのは、今も高エネルギー加速器研究機構で運転中のKEKBである。CERNでは、LEP実験が終了し、LHC実験(陽子-陽子衝突型)へと移行を開始し、2007年現在、最終準備が進められている。

陽子-陽子もしくは陽子-反陽子衝突型の実験(ハドロン型とも呼ばれる)では、陽子、反陽子など複合粒子であるハドロン内部にあるクォーク同士の反応が複数並行して起こるなかで、多数の終状態粒子が発生する。そのため、どの終状態粒子がどのようなエネルギーのどのクォーク反応に由来したかの不確定性が常に伴い、データの選別と統計的分析に大きな労力と解析計算を必要とする。

一方、電子-陽電子の衝突実験(レプトン型とも呼ばれる)では、始状態での電子と陽電子のエネルギーがいったんひとつのフォトン(光子)に全部集約され、終状態粒子はすべてそこから生成される。したがって、バックグラウンド事象の排除が容易で、データ解析が比較的簡便、という利点がある。そのため、TeVクラスのレプトン衝突型実験を行おうという計画が、各地の物理学研究者の間での共通の夢であり目標でもあった。

「加速器基本技術の一本化」とは、常伝導型の加速空洞と超伝導型の加速空洞との開発研究の比較の結果、超伝導型の加速空洞の方が、全体システムとしてより高いエネルギー効率でビーム加速できること、空洞内で発生するウェーク場が比較的弱いためビーム品質を保ったまま大電流のビーム加速を行ううえで有利であること、空洞の「Q値」が高い(空洞内に高周波電力の共鳴状態をいったん発生したあとの減衰スピードがゆっくりである)ため、比較的低いピーク電力の高周波源で運転が足り、電力パルス長は増やす必要があるもののピーク電力を増やすよりは楽、などの点で評価され、決定されるに至ったものである。

[編集] 現在

線形加速器の基幹技術を超伝導高周波空洞に拠ることを決めた2004年の研究者間国際合意を踏まえ、2005年に加速器設計のための国際協力チーム (GDE) が立ち上げられた。GDEは、ICFA (International Committee for Future Collider - 世界各地の主要加速器研究所所長と研究代表者で構成される) の下部組織の一として位置づけられており、その統括責任者は ICFA のもとの国際リニアコライダー執行推進委員会 (International Linear Collider Steering Committee) に任命されている。GDEの中枢メンバー名簿に載っているのは約60名であるが、世界の100以上の研究所と大学から数百名の加速器専門家、技術者、高エネルギー物理学研究者が参加し、国際リニアコライダー(ILC)の設計と技術開発の作業を行っている(ILCでの実験について準備検討を行っている実験物理学者を加えるならば、関連研究者総数は一千名を大きく越える -- おそらく二千人弱 -- と推計される)。

GDEによる、国際リニアコライダーの現在の設計構想を下模式図に示す(縦横ほかの実際の寸法比は異なる)。第一期計画完成時に国際リニアコライダー加速器施設の主体をなすのは、相対するそれぞれ11.3kmの直線状の二本の主線形加速器(Main Linacs)である。これに延長約4.5kmの最終収束部(Beam Delivery Systems)、同じく約2.6kmのビームバンチ圧縮部(Bunch Compressors)、ビームエミッタンス減衰リング(Damping Rings)などを加えて、加速器施設で必要な立地は総延長約31kmの細長いものである。主線形加速器をはじめとする大部分の設備は地下施設に納められるが、中央の実験設備に対応する箇所を含め、約2.5kmの間隔で地上地下をつなぐ連絡路が設けられ、対応する地上部分に機材搬入口および各種の所要建屋が設けられる。加速器施設の中央部分にはビーム衝突点(Beam Collision Point)がもうけられ、二つの実験装置(Detectors)を交互にビーム衝突点に据え付けて実験を行う。

主線形加速器には平均31.5MV/mの加速勾配で稼働する超伝導空洞(一個の長さ約1m)が総数約16,000台据え付けられる。付帯設備として、L-バンド1.3GHzのマイクロ波源、空洞を絶対温度2Kまで冷却するための冷凍施設、各種電源、制御機器が必要となる。最高ビームエネルギーはそれぞれの主線形加速器から250GeV。これらからのビームが正面衝突するので、ビーム衝突時の重心系エネルギーは最大値500GeVに到達し、前出CERNのLEP-II加速器で実現された重心系エネルギーの2倍を優に超えるものとなる。加速器施設全体の所要電力は約240MWに上ると見積もられる。

このような設計構想に沿い、GDEでは2005-2006年のあいだ加速器設計の現況とりまとめと建設コストの一次評価をおこない、これをICFAに報告した。報告書ドラフトと骨子とりまとめは、ICFAおよびILCSCの討議と承認を経て、2007年2月の北京でのICFAの会議のさいに、一般に公表された。それによると、ILC加速器建設にさいして必要な経費は、 "ILC value unit" と呼ぶ仮想価値単位にして、トンネルほか立地整備関連に 18億ILC-VU、加速器機材関係で 49億ILC-VU、と評価されている。また、建設工程に携わる所要マンパワーは2,200万人-時間と積算評価された。なお、通貨に換算すると、1 ILC-VU は 2007年はじめ時点の1 US$、0.83 Euro、117円に相当するが、上記評価ではインフレ、税金、間接経費ほかが算入されていない。また、人件費の算出習慣も各国で異なっている。これらのことを考慮した、各国の会計規則に従った見積もりへの換算は、別途行う必要がある。さらに、最終設計に至る間の開発予算、建設後のシステム立ち上げ試験経費、運転経費、また、物理実験用の測定器のための建設費用は別枠となる。

[編集] 今後

領域ごと主要研究機関の、GDE関連活動への取り組みは以下のようである:

  • 日本:高エネルギー加速器研究機構(通称:KEK)を中心として、加速器本体の開発研究が行われている。また、各地の大学で測定器の開発が進められている。
  • アジア/太平洋諸国:各国の研究者が本国研究施設において、また、KEK、CERN、フェルミ国立加速器研究センターなど、各国の事情や研究機関毎によって協定を締結した加速器科学研究センターを訪問して開発研究に従事している(KEKへ訪問しているのは、タイ、インドネシア、韓国、中国、インド、スリランカ、ベトナム等、合計24カ国より・・CERNメンバー国及び北米も含む)。
  • ヨーロッパ:CERNを初め、DESYおよび各地の大学で、測定器や加速器本体の開発研究が進められている。
  • 北米:フェルミ国立加速器研究センターをはじめ、スタンフォード線形加速器研究センター (SLAC) 、トマス・ジェファーソン研究所(Jefferson Lab)、コーネル大学等で開発研究が進められている。

同時に、GDEとは不即付離の関係のもと、全世界規模の物理学者が参加する大型実験のため、物理研究上の各種シミュレーションと測定器開発が行われている。さらに、アジア、ヨーロッパ、北米の各領域でそれぞれの産官学連携のフォーラムを初めとしたミーティングが行われ、活発な意見交換が進められている。

GDEは今後、世界各国の研究機関の間の共同技術開発の計画執行についても一定の舵取りを行っていく方向である。ただし、GDE自体に固有の大規模予算が政府間合意のもと拠出されているわけではなく、現在ほぼすべての開発予算は、各国ごと、個別研究機関の固有の「もちだし」に依存している。GDEは、これら個別機関の予算執行を管理し、監督官庁にたいして報告責任を負う立場には置かれていない。また、非公式協議の場はもたれているものの、国際リニアコライダーの建設が政府間国際協定のもとにすでに保障決定済み、ということでもない。これらの意味で、国際リニアコライダーは、「今後の展開をにらみつつ、当面の設計開発を、現時点の各国の研究枠組みの中の可能な範囲で推進する」という過渡的な状況にある、とするべきであろう。

[編集] 将来

関係研究者間の過去の目標では、2007年に始まるCERNのLHC実験と同時期に、重心系エネルギーで250GeV~500GeVの衝突実験を行うことが期待されたが、現在では2010年代半ばまでの計画正式スタートが議論されている。

計画の正式実現のためには、なんらかの国際協議を経て、建設決定、最終候補地の選定、担当建設部署と予算拠出にかんする政府間合意が取り交わされる必要がある。それに基づき、加速器本体の設置形態を確定し、トンネルの掘削、加速器本体の製造、加速器付帯施設の建設、実験装置の製造、加速器付帯施設への実験装置の設置等が行われることになる。

上記にあるように、2007年2月に建設費用の一次評価が公開されたいま、計画推進の科学者の立場からは、近々に政府間の国際協議に向けた動きが新たな段階に入ることが望ましい、と考える者は少なくない。しかしながら、その具体については当然、関係国それぞれにおける周辺科学技術分野と産業界の了解、行政府とくに財政当局、および関連する地方公共団体の理解、そして最終的には立法府の判断に大きく左右される。前述のハドロン加速器とレプトン型加速器の相補性議論にかかわらず、計画と予算の巨大さを考慮して、2007年終わりに運転立ち上げが予定されているLHCからの実験の帰趨をまず見るべき、との意見も存在する。

ともあれ、国際リニアコライダー建設への進展のためには、一カ国あるいは一領域が先行して一元的に予算上、運営上の責任を負うのではなく、成り立ちからして国際的に開かれた("Global"な)計画発展の形態が取られるべき、というのが、関係する科学者のほぼ総意と言って良い。具体的にはたとえば、ALMA計画で経由したものと類似の段階を踏む可能性が研究者間では議論されている。すなわち、第三者評価が行われ、同時に専門委員会(予算、科学技術諮問委員会、技術開発委員会)が公式の組織として承認され、二次計画へとステップアップした後に政府間合意へと繋がっていく、といったようなものである。また、ITER計画も計画発展の形態を考えるうえでのひな形の一つと目される。ただし、政治決定(まだおこなわれていない)に先だって関連研究者レベルの議論が長く行われている点、現在までのところ、さまざまの国際共同研究をおこなってきた各研究所が開発の主体である点、したがって産業界による工業規模のエンジニアリングはまだその端緒についたところと言うべきなどの点で、国際リニアコライダーはITER計画とはやや趣を異にする。

これら諸課題についての関係国からの監督官庁による接触と意見交換は、OECD Global Science Forum の高エネルギー物理学の将来にかんする Consultative Group を皮切りに2003年ころから始まり、Funding Agencies for Large Colliders と呼ばれる会合において現在も進行中である。しかし、科学技術予算事情の幅広い長期展望を踏まえたうえの国際リニアコライダーにかんする政策は、各国ともそれぞれの行政府立法府を通して確立しているわけではなく、正式な国際協議の場の発足は今後の課題である。

[編集] 関連研究所

以上は国際リニアコライダーに関連して、各領域の中枢研究所として研究活動の取りまとめを行っている代表的な機関である。これに加えて、各国の多数の大学附属の研究所や研究室にて実験や設計が進められている。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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