軍産複合体
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軍産複合体(ぐんさんふくごうたい、Military-industrial complex)は、軍需産業を中心とした私企業と軍隊(及び国防総省の様な軍官僚)と政府が形成する政治的・経済的・軍事的な勢力の連合体を呼ぶ概念である。
この概念は特に米国に言及する際に用いられ、1961年1月、アイゼンハワー大統領が退任演説において、軍産複合体の存在を指摘し、それが国家・社会に過剰な影響力を行使する可能性、議会・政府の政治的・経済的・軍事的な決定に影響を与える可能性を告発したことにより、一般的に認識されるようになった。米国での軍産複合体は、軍需産業と軍(国防総省)と政府(議会、行政)が形成する政治的・経済的・軍事的な連合体である。ライト・ミルズは『パワー・エリート』で軍・経済・政治的秩序における高級集団出身の者が如何に民主的支配における真の支配者であるかを描いた。
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[編集] 概念の起源
軍産複合体という概念を最初に公式に用いたのは1914年8月5日のイギリスのチャールズ・トレヴェルヤンらにより結成された民主的統制連合だった。彼らの平和主義の4つのマニュフェストの第4項に「国家の軍隊は共同による合意により制限され、また軍備企業の国営化と兵器貿易の管理によって軍産複合体の圧力は調整されるべきである」[1]とした。
アイゼンハワーの退任演説は1961年1月17日に行われ、演説の最終から2番目の草案では、アイゼンハワーは最初に「軍産議会複合体」という概念を用いて、アメリカ合衆国議会が軍事産業の普及に演ずる重要な役割を示した。しかし、アイゼンハワーは議会という語を連邦政府の立法府のメンバーを宥めるために打消した、と言われている。この概念の実際の作者は、アイゼンハワーの演説作家のラルフ・ウィリアムズとマルコム・ムースだった[2]。
ベトナム戦争時代の活動家セイモア・メルマンはこの概念に度々言及した。1990年代にジェームズ・カースは「1980年代中頃までに、この概念は一般の議論の対象になった...冷戦の間の武器入手に関する軍産複合体の影響に対する議論の力がどうであれ、彼らは現在の時代にはそれほど関連しない。」と主張した。
現在では軍と産業に加え大学などの研究機関が加わり、軍産学複合体と呼ぶように変化してきている。 このような背景には軍から大学の研究費が出されるようになり、研究資金の出資元として軍隊が大きな割合を占めるようになってきているためである。
[編集] 歴史
技術はつねに戦争の一部であった。新石器時代の道具は有史以前の武器となり、青銅器時代、鉄器時代には武器の手工業生産のために複雑な産業が生まれた。これらの産業は平和時の生産のためにも用いられたが、19世紀、20世紀には戦争だけを目的とした工業的な下部組織を必要とするほど軍事兵器が十分に複雑になった。火器、大砲、蒸気船、飛行機、核兵器などは中世の剣とは著しく異なり、これらの新兵器には数年がかりの特別な労働が求められる。巨大な兵器は作成以前の計画・設計にも時間がかかり、平和時にも構築しておかなければならない。この軍事活動に向けた産業の繋がりは、軍と産業の「協力」を生み出した。
歴史家のウィリアム・ハーディー・マクニールによれば近代における第二次の軍産複合体が1880年代および1890年代にイギリスとフランスで形成された。2つの勢力における海軍軍拡競争がそれぞれの軍産複合体を形成しそれが両国間の緊張に繋った。ジョン・アーバスノット・フィッシャーの様な将校は早期の装備の技術的な更新に影響を与えた。同様の軍産複合体はドイツ、日本、米国でもすぐに形成された。
この頃の軍産複合体における代表的人物はアルフレート・クルップ、サミュエル・コルト、ウィリアム・ジョージ・アームストロング、ジョゼフ・ウィットワースなどである。
この概念は世界でも遥かに大きな軍事産業を持つ米国に関して言及されることが多くなった。米国経済の軍事費及び軍事産業への依存度を推定することは難しい。それは明らかに莫大であり、彼らの地区に影響を及ぼす防衛費の削減に議員は激しく抵抗する。ワシントン州ではある経済学者は2002年に西部ワシントンで直接、間接に防御産業を除いた軍事施設単独で166,000人の仕事或は約15%の労働人口が依存していると見積もった。ワシントン州で2001会計年度で防衛予算から総額約70億6000万ドルの給与、年金、調達費が支払われた。この額はワシントン州が全米で7位である。全体として米国の防衛研究費は、GDPの1.2%に上る。
軍産複合体に対する政治的な支持を維持することは、政治的エリートにとっては試練となった。1977年にはベトナム戦争とウォーターゲート事件の後でジミー・カーター大統領は歴史家のマイケル・シェリーが呼ぶところの「アメリカの軍国主義化された過去を壊す決意」[3]を持って職に臨んだが、いわゆる「レーガン革命」は軍産複合体の優位性を建て直した。ジョージ・メイソン大学のヒュー・ヘクロが呼ぶところの「防衛官僚により聖別されたアメリカの展望」でロナルド・レーガンは、1980年代から共和党の合い言葉になり民主党の大半も同様だったやり方で、国家と国家の安全の状態をプロテスタントの契約神学の覆いの下に隠した。
[編集] 脚註
- ^ DeGroot, Gerard J. Blighty: British Society in the Era of the Great War, 144, London & New York: Longman, 1996, ISBN 0-582-06138-5
- ^ Griffin, Charles "New Light on Eisenhower's Farewell Address," in Presidential Studies Quarterly 22 (Summer 1992): 469-479
- ^ In the Shadow of War: The United States since the 1930s, New Haven & London: Yale University Press, 1995, p.342
[編集] 関連項目
- 軍事ケインズ主義
- 軍民転換
- 国家総力戦
- 財閥
- 武器商人
- 鉄のトライアングル
- 軍事 - 軍隊 - 軍事力 - 軍縮 - 兵器 - 武器輸出三原則
- 産業 - 産業連関表 - 第二次産業 - 多国籍企業
- 1990年以後の企業の買収・合併の実績 - 各種の産業の性質・影響力・経営状況
- アメリカ合衆国の政治 - アメリカ合衆国の経済 - アメリカ合衆国の歴史
- アメリカ軍 - アメリカの徴兵制の歴史
- アメリカの戦争と外交政策 - アメリカの軍需経済と軍事政策 - アメリカの経済と経済政策
[編集] 参考文献
- 防衛大学校・防衛学研究会『軍事学入門』かや書房
- 松井茂『世界軍事学講座』新潮社
- アーサー・シュレジンガー『アメリカ大統領の戦争』岩波書店。
- ウィリアム・ハートゥング『ブッシュの戦争株式会社』阪急コミュニケーションズ。
- デイナ・プリースト『終わりなきアメリカ帝国の戦争-戦争と平和を操る米軍の世界戦略』アスペクト。
- ジョージ・フリードマン『新・世界戦争論-アメリカは、なぜ戦うのか』日本経済新聞社。
- ダグラス・ラミス『なぜアメリカはこんなに戦争をするのか』晶文社。
- ジョエル・アンドレアス『戦争中毒アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由』合同出版。
- 高木徹『ドキュメント戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』講談社
- P・W・シンガー『戦争請負会社』NHK出版
- 菅原出『外注される戦争』草思社
- 広瀬隆『アメリカの経済支配者たち』集英社。
- 広瀬隆『アメリカの巨大軍需産業』集英社。
- 広瀬隆『世界石油戦争-燃えあがる歴史のパイプライン』NHK出版。
- 広瀬隆『世界金融戦争-謀略うずまくウォール街』NHK出版。
- 広瀬隆『一本の鎖-地球の運命を握る者たち』ダイヤモンド社。
- 道下徳成、長尾雄一郎、石津朋之、加藤朗『現代戦略論 戦争は政治の手段か』勁草書房
- 加藤朗『戦争 その展開と抑制』勁草書房
- 加藤朗『テロ 現代暴力論』中央公論新社
- 石津朋之『戦争の本質と軍事力の諸相』彩流社
- ディフェンスリサーチセンター『軍事データで読む日本と世界の安全保障』草思社
- ゴードン・クレイグ、アレキサンダー・ジョージ『軍事力と現代外交 歴史と理論で学ぶ平和の条件』有斐閣
- 佐瀬昌盛『集団的自衛権 論争のために』PHP研究所
- 森本敏『安全保障論 21世紀世界の危機管理』PHP研究所
- 納家政嗣『国際紛争と予防外交』有斐閣
- 森本敏、横田洋三『予防外交』国際書院
- ヨハン・ガルトゥング『ガルトゥング平和学入門』法律文化社
- ヨハン・ガルトゥング『平和を創る発想術 紛争から和解へ』岩波書店
- ジェイムズ・ダニガン、ウィリアム・マーテル『戦争回避のテクノロジー』河北書房新社
- 猪口邦子『戦争と平和』東京大学出版会
- 山田満『平和構築とは何か 紛争地域の再生のために』平凡社