精油
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精油(せいゆ、英語:essential oil, エッセンシャル・オイル)は、植物に含まれ、揮発性の芳香物質を含む有機化合物である。「オイル/油」という字が付くが、油脂とは全く別の物質からできている。可溶化リポイドで、水に溶けにくく、アルコール・油脂などに溶ける性質(親油性・脂溶性)を持つ。現在、約250~300種類の精油が存在する。
「精油」は100%天然物質であり、人工的に合成した物質を一切含まず、アルコール希釈などをしていない完全成分のものだけを指す。アロマオイルやポプリオイルなどと混同されることもままあるが、混ぜ物を含むそれらとは全く別物である。
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[編集] 植物における精油とその働き
一般に精油は植物の特殊な分泌腺で合成され、その近くの油胞に蓄えられている。精油は植物にとって様々な有用な作用を及ぼす。精油の香りの誘因効果により鳥や昆虫をに授粉や種子の運搬を託す。また精油の苦みなどの忌避効果によって害虫やカビ(真菌)などの有害な菌から植物を守ることもある。他の植物の発芽や成長を抑える働きのある精油もある。また精油が汗のように蒸散することにより太陽熱からその植物を守ることもある。
[編集] 細菌やウイルス、虫などに対する作用
- 殺菌作用:バクテリアなどの菌を殺す作用
- 抗菌作用:細菌の増殖を抑える作用
- 抗真菌作用:真菌(カビ)の増殖を抑える作用
- 抗ウイルス作用:ウイルスの増殖を抑える作用
- 殺虫・虫除け作用:虫を殺したり、除けたりする作用
[編集] 成分
植物に含まれる揮発性の有機化合物を精油(エッセンシャル・オイル、essential oil)という。一般的な植物油脂は不揮発性でグリセリンの脂肪酸エステルを主成分としているのに対し、精油はテルペンや芳香族化合物など(アルコール・アルデヒド・ケトン、エステル、フェノール、炭化水素)を主成分としている。低沸点の香気成分を豊富に含むことが多い。人体にとっては植物ホルモンを含む強い生理活性作用物質である。
[編集] 用途
特有の芳香を持つものが多く香料として使用される。また、香料としての働きも含めアロマテラピーにも使用される。精油の人体に及ぼす影響・効果・作用・毒性・利用法についてはアロマテラピーの項目を参照のこと。
[編集] 種類
次の四つの種類がある。
[編集] 精油を採る植物
精油を採る植物は多岐にわたる。オレンジのように花、葉、果実から異なる精油が得られるような植物もある。以下に主な採油植物とその部位を示す。
- 花・蕾: バラ、ジャスミン、オレンジ(ネロリ)、カモミール、イランイラン
- 葉: オレンジ(ペチグレン)、ゼラニウム(ニオイテンジクアオイ)、ユーカリ、ティートリー
- 果皮: オレンジ、レモン、ライム、ベルガモットなどの柑橘類
- 果実・種子: コショウなど多くのスパイス類、バニラ
- 樹木・樹皮: ビャクダン(白檀、サンダルウッド)、マツ、ヒノキ、シナモン
- 樹脂: フランキンセンス(乳香、オリバナム)、ミルラ(没薬(もつやく))
- 根・根茎: ベチバー、アヤメ(イリス)
- 全草:ラベンダー、バジル、ローズマリー、ミントなどハーブ全般
[編集] 精油を採る方法
- 水蒸気蒸留法(水蒸気で蒸して芳香成分を得る)
- 広範な沸点分布を持つ精油成分を一度に留出させるには、水蒸気蒸留が適している。原理については水蒸気蒸留を参照。狭義の精油としては水蒸気蒸留で得られたもののみを指す。100℃以上の熱がかかるので、熱による変質が起こる精油の採油方法としては適切でない。
- 油脂吸着法(油脂に芳香成分を吸わせる)
- 脱臭した動物油脂などに植物を添加して精油を吸着させたのち、エタノールで精油のみを油脂から抽出する古典的な方法。古代エジプトの時代から行われていた熱を加える温浸法(マセラシオン)と、ルネサンス期に開発された室温で行う冷浸法(アンフルラージュ)がある。精油を吸着した油脂はポマードといい、そこからエタノールで抽出された精油はエキストラクト(エキス)、さらにそこからエタノールを蒸発させて除去したものはアブソリュート(Abs.)と呼ばれる。冷浸法では熱による変質の無い非常に高品質な精油が得られるが、時間と手間が掛かりすぎるため現在では行われていない。
- 冷浸法(アンフルラージュ)
- ジャスミンやバラなど、主に花から精油を抽出する場合に使われる方法。動物性脂肪や植物油を塗ったトレーに花びらを並べて載せ、花びらに含まれる精油をトレーのオイルに吸収させる。その後、トレーに塗った動物性脂肪・植物油から精油を分離し純化させる。
- 溶剤抽出法(芳香成分を直接溶かしだして得る)
- 吸着法にとって代わった方法で、植物を有機溶媒(石油エーテル、ヘキサン、ベンゼンなど)や超臨界流体で抽出してワックスを取り出した後、抽出溶媒をエチルアルコールに溶かしそれを蒸発させて溶媒を除去する方法。有機溶剤に溶けだしたものから得られるワックスはコンクリートと呼ばれる。芳香成分はこのコンクリートに含まれている。食品用途のものはオレオレジン、化粧品用途のものはレジノイドと呼ばれる。コンクリートからエチルアルコールによりで香気成分を抽出すると除くことができる。この方法で取り出した精油は吸着法同様アブソリュート(Abs.)と呼ばれる。バニラなどでは単にエタノールで抽出してそのままエタノールを除去しないものもあり、これはティンクチャー(チンキ)と呼ばれる。吸着法と抽出法で得られる(狭義の)エキストラクト、アブソリュート、コンクリート、オレオレジン、レジノイド、ティンクチャーは(広義の)エキストラクト(エキス)と総称される。
- 水蒸気蒸留法のような熱の影響を受けないため、ローズやジャスミンなどの微妙な花の香りを得るには良い方法であるが、溶剤が少し残る場合もあり、「アブソリュート(Abs.)」を「精油」を区別する考え方もある。
- 圧搾法(圧搾して芳香成分を搾り取る)
- 柑橘類は果皮の表面にある油胞に精油を含有しているので、果皮に圧力を加えて油胞を潰すことで精油を得ることができる。果皮を絞るスクイーズ法と果皮をおろしがねのようなもので擦るエキュエル法がある。現在では機械化がなされており、果汁と一緒に絞る方法もある。L-リモネンなどのテルペン類は熱による香調の劣化が激しいので、圧力をかけるときに発生するわずかな熱から香気成分を守るために、その際に冷却しながら圧搾処理することがある。冷却圧搾で得られた精油は特にコールド・プレスと呼ばれる。
- 熱による変質を受けにくいので自然のままの香気を保てる一方、他の精油製造法に比べて不純物が混ざる可能性が高く、精油の品質の劣化が早いことが欠点である。
[編集] 賞香期限
製品化された精油は、開封後約1年が目安となるものが多い。柑橘系(ベルガモット・レモンなど)は約半年とされる。香木系(サンダルウッドやパチュリーなど)のように歳を経るごとに質が良くなるものもある。しかし、期限内であっても濁ってきたり香りが変わってきたりしたら使用しないほうがよい。
[編集] 主な精油
五十音順順 (※項目末尾のカッコ内は 科/抽出部位/その精油の一般的な抽出方法)
- アニスシード(セリ科/種子/水蒸気蒸留法)
- アンジェリカルート(セリ科/根/水蒸気蒸留法)
- イニュラ(キク科/全草/水蒸気蒸留法)
- イモーテル(キク科/花/水蒸気蒸留法)
- イランイラン(バンレイシ科/花/水蒸気蒸留法)
- イリス(オリス)(アヤメ科/根/水蒸気蒸留法)
- エレミ(カンラン科/樹脂/水蒸気蒸留法)
- オールスパイス(フトモモ科/葉/水蒸気蒸留法)
- オリバナム(乳香)(カンラン科/樹脂/水蒸気蒸留法)
- カボス(ミカン科/果皮/圧搾法)※変質しやすいために開封後の保存は要冷蔵である。
- カモミール(ジャーマン・カモミール)(キク科/花/水蒸気蒸留法)
- カモミール(ローマン・カモミール)(Roman chamomile)(キク科/花/水蒸気蒸留法)
- カユプテ(フトモモ科/葉・枝/水蒸気蒸留法)
- カルダモン(ショウガ科/種子/水蒸気蒸留法)
- カルバナム(キク科/樹脂/水蒸気蒸留法)
- キャロットシード(セリ科/種子/水蒸気蒸留法)
- キンモクセイ(モクセイ科/花/溶剤抽出法[ヘキサン])
- クミン(セリ科/種子/水蒸気蒸留法)
- クラリセージ(clary sage)(シソ科/全草/水蒸気蒸留法)
- グレープフルーツ(ミカン科/果皮/圧搾法)
- クローブ(フトモモ科/つぼみ/水蒸気蒸留法)
- クロモジ(クスノキ科/葉・枝/水蒸気蒸留法)
- 月桃(ショウガ科/葉/水蒸気蒸留法)
- コパイパ(マメ科/樹脂/水蒸気蒸留法)
- コリアンダー(セリ科/種子/水蒸気蒸留法)
- サイプレス(イトスギ:糸杉)(ヒノキ科/葉・枝/水蒸気蒸留法)
- サンダルウッド(ビャクダン:白檀)(ビャクダン科/木部/水蒸気蒸留法)
- シストローズ(ハンニチバナ科/葉・枝/水蒸気蒸留法)
- 紫蘇(シソ科/葉/水蒸気蒸留法)
- シダーウッド(マツ科/木部/水蒸気蒸留法)
- シトロネラ(イネ科/全草/水蒸気蒸留法)
- シナモンリーフ(クスノキ科/葉/水蒸気蒸留法)
- ジャスミン(モクセイ科/花/溶剤抽出法[ヘキサン]または[アルコール])
- ジュニパーベリー(ヒノキ科/果実/水蒸気蒸留法)
- ジンジャー(ショウガ科/根/水蒸気蒸留法)
- ビター・オレンジ(ミカン科/果皮/圧搾法)
- スイート・オレンジ(ミカン科/果皮/圧搾法)
- 杉(スギ科/葉または木部/水蒸気蒸留法)
- スターアニス(八角)(モクレン科/果実/水蒸気蒸留法)
- スペアミント(シソ科/全草/水蒸気蒸留法)
- セージ(シソ科/全草/水蒸気蒸留法)
- ゼラニウム(ニオイテンジクアオイ)(フウロウソウ科/全草/水蒸気蒸留法)
- セロリシード(セリ科/種子/水蒸気蒸留法)
- セントジョーンズワート(オトギリソウ科/花/水蒸気蒸留法)
- タイム(シソ科/全草/水蒸気蒸留法)
- タジェット(キク科/花/水蒸気蒸留法)
- タラゴン(キク科/全草/水蒸気蒸留法)
- タンジェリン(ミカン科/果皮/圧搾法)
- チュペローズ(リュウゼツラン科/花/溶剤抽出法[アルコール])
- ティートリー(フトモモ科/葉/水蒸気蒸留法)
- ディルシード(セリ科/種子/水蒸気蒸留法)
- ナツメグ(ニクヅク科/実/水蒸気蒸留法)
- ナルデ(スパイクナード)(オミナエシ科/根/水蒸気蒸留法)
- ネロリ(neroli)(ミカン科/サワーオレンジの花/水蒸気蒸留法)
- バイオレット・リーフ(スミレ科/葉/溶剤抽出法[アルコール])
- パイン(マツ科/球果/水蒸気蒸留法)
- バジル(シソ科/葉・花/水蒸気蒸留法)
- パチュリー(patchouli)(シソ科/葉/水蒸気蒸留法)
- 薄荷(ハッカ)(シソ科/全草/水蒸気蒸留法)
- バニラ(ラン科/鞘/溶剤抽出法[アルコール])
- パルマローザ(イネ科/葉/水蒸気蒸留法)
- バレリアン(オミナエシ科/根/水蒸気蒸留法)
- ヒソップ(シソ科/全草/水蒸気蒸留法)
- ヒノキ(ヒノキ科/木部/水蒸気蒸留法)
- ヒバ(ヒノキ科/木部/水蒸気蒸留法)
- フェンネル(セリ科/種子/水蒸気蒸留法)
- プチグレイン(ミカン科/ビターオレンジの葉・枝/水蒸気蒸留法)
- ブラックペパー(コショウ科/果実/水蒸気蒸留法)
- フランジュパニ(プルメリア)(キョウチクトウ科/花/溶剤抽出法[アルコール])
- フランキンセンス(フランクインセンス、乳香)(カンラン科/樹脂/水蒸気蒸留法)
- ブルーサイプレス(ヒノキ科/木部/水蒸気蒸留法)※精油としては珍しい青色をした見た目にも美しい精油
- ベイ(クスノキ科/葉/水蒸気蒸留法)
- ベチバー (vetiver)(イネ科/根/水蒸気蒸留法)
- ペパーミント(シソ科/全草/水蒸気蒸留法)
- ベルガモット(ミカン科/果皮/圧搾法)
- ベンゾイン(安息香)(エゴノキ科/樹脂/溶剤抽出法[アルコール])
- マートル(フトモモ科/葉/水蒸気蒸留法)
- マジョラム(シソ科/全草/水蒸気蒸留法)
- マヌカ(フトモモ科/葉/水蒸気蒸留法)
- マンダリン(ミカン科/果皮/圧搾法)
- ミモザ(マメ科/花/溶剤抽出法[アルコール])
- ミルラ(没薬)(カンラン科/樹脂/水蒸気蒸留法)
- メリッサ(シソ科/花・葉/水蒸気蒸留法)
- モミ(マツ科/葉・枝/水蒸気蒸留法)
- ブルーヤロウ(キク科/花/水蒸気蒸留法)
- 柚子(ミカン科/果皮/水蒸気蒸留法または圧搾法)※水蒸気蒸留法の方が一般的に柔らかく優しい香りと感じられる。変質しやすいため開封後の保存は要冷蔵である。
- ユーカリ(フトモモ科/葉・枝/水蒸気蒸留法)
- ライム(ミカン科/果皮/圧搾法)
- ラバンディン(シソ科/花・葉/水蒸気蒸留法)
- ラベンサラ(クスノキ科/葉/水蒸気蒸留法)
- ラベンダー(シソ科/花・葉/水蒸気蒸留法)
- リツエアクベバ(クスノキ科/果実/水蒸気蒸留法)
- リンデン(セイヨウボダイジュ)(シナノキ科//)
- レモン(ミカン科/果皮/圧搾法)
- レモングラス(イネ科/全草/水蒸気蒸留法)
- レモンバーベナ(クマツヅラ科/葉/水蒸気蒸留法)
- レモンバーム(メリッサ)(シソ科/葉/水蒸気蒸留法)
- レモンマートル(フトモモ科/葉・枝/水蒸気蒸留法)
- アルバローズ(バラ科/白バラの花/水蒸気蒸留法)
- ダマスクローズ(ローズオットー)(バラ科/花/水蒸気蒸留法)
- ローズウッド(Aniba rosaeodora)(クスノキ科/木部/水蒸気蒸留法)
- ローズマリー(シソ科/花・葉/水蒸気蒸留法)
- ロータス(蓮)(スイレン科/花/溶剤抽出法[アルコール])
- ロベージ(セリ科/根/水蒸気蒸留法)
[編集] 精油についてのトラブル時の処置
- 原液が肌についてしまった時
- すぐに石鹸でよく洗う。異常の出た場合はただちに医師に相談する。その際、その精油を持参すること。
- 誤って原液を飲んでしまった場合
- 口の中にオイルが残っている場合は大量の水で口をすすぐ。飲み込んでしまった場合には絶対に吐かせず、直ちに医師に相談する。その際、その精油を持参すること。精油を吐かせることは、一度やけどを負った食道に再度やけどを起こさせることにつながる恐れが高いため、吐かせることは禁物である。
- 目に入った場合
- 大量のきれいな水で目を洗い、すぐに医師に相談する。その際、その精油を持参すること。絶対に目をこすらない。
- 引火した時
- 精油は植物油と同様に、高温の状態で火を近づけると引火する場合がある。万一火がついた場合は水をかけず、消化器または毛布等で空気を遮断して消化する。初期消火が無理と判断されたら、迅速に消防署に連絡する。
- 使用中、何らかの異常を感じた場合
- 直ちに使用を中止し、医師に相談する。
[編集] 参考文献
- 『お部屋でできるアロマテラピー40』 吉田隆子著 同文書院
- 『アロマテラビーハンドブック』 香りの総合学院GRASSE監修 池田書店
- 『アロマテラビー検定テキスト 2005年5月改訂版 1』 社団法人 日本アロマ環境協会 ISBN 4-931533-04-3
- 『生活の木・エッセンシャルオイルリスト』パンフレット 株式会社生活の木