消印
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消印(けしいん、英: cancellation )とは、郵便切手やはがき、印紙・証紙などが使用済(=料金支払済)であることを示し、無効化して再使用できないようにするために捺印される印(スタンプ)である。郵便切手・はがきに押されるもののことを指す場合が多く、本項で詳述する。また、そのような目的のため、切手・印紙等に押印・署名する行為を指す。
課税文書に収入印紙を貼付してから文書と印紙にまたがって押印(割印)または署名するという行為(印紙税法上は「印紙を消す」という)もまた消印である。
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[編集] 概要
郵便切手・はがきに押される消印は、切手・ステーショナリーを無効化するとともに、郵便物の引き受け日、時間帯、引き受け支店(郵便局)を示す役割を兼ねており、通常「けしいん」と呼ばれているが正式には証示印と称する。消印は、手によって消印される手押印と機械によってなされる機械印に大別される。 なお、初期の機械印は人力を利用していたものもある。
[編集] 抹消部と証示部
上記のように、消印は料額印面の無効化と郵便物の引き受け状況の証示の2つの役割を持っている。
日本で使用されている手押印は、比較的早い時期から抹消と証示を1つの消印で行なっていたが、諸外国ではそれぞれ別々の消印を利用していた事例が多い。世界最初の切手ペニー・ブラックが発行された際も、切手に押す消印にはマルタ十字(正確には異なる)をあしらった、一切データを含まないものが用いられたのに対し、日付や局名を示す消印は別個に押印された。機械印の場合は、初期の機械印では貼り付けられた切手の検知技術が未発達であったことから、抹消部(多くの場合、縦または横方向の波線)と証示部の二箇所で構成されており、これは現在まで続いている。
[編集] 日本で現在使用されている主な消印
[編集] 普通日付印
郵便物の取扱いにあたって日常的に使われる消印で、郵便物には料金別納などを除いて必ず押印される。普通日付印は国内郵便用のものと外国郵便用のものがある。はがきや封書で一般的に多く用いられる機械印には、国内・国際両方に対応可能なように、日本語表記と欧文表記を併記した印(和欧文機械印)が用いられる。ただし和欧文機械印を導入している局は決して多くなく、多くの集配局は和文機械印を使用している。また和欧文機械印と和文機械印とを併用している局もある。なお両方導入している局でも、基本的には和欧文機械印のみで、年賀郵便引受期間中の年賀郵便に限り和文機械印を使用する局も数多い。
[編集] 国内郵便用
和文印(櫛形印、丸型印)、大型郵便物で用いられるローラー印、自動押印機で用いられる機械印などがある。
[編集] 丸型和文印
すべての支店(郵便局)に配備されている一般的な消印である。1989年以降、櫛形印に代わり配備が始まった和文表記の消印である。 名称通り表記は和文によりなされており、国内宛郵便物の引き受け等に使用される。 主に局内での郵便物押印作業に使用する槌型、窓口で使用する棒型がある。槌型は現在でも金属印が主流であるが、棒型は金属印からインク浸透式印(俗に言うシヤチハタ)へ移行している。インク浸透式印は簡易局を除く半数以上の郵便局に配備されている。無集配局の場合、インク浸透式印導入後に金属印の使用を取りやめてしまうことが多い。
内容としては
が記載される。
支店名(郵便局名)は基本的にはフルネームで表記されるが、旧特定局や簡易局で人口5万人以上の都市名・都道府県名がついていない局や、普通局で同一名称の支店や局がある場合は、頭に都道府県名が表記される。
[編集] 和文ローラー印
すべての支店(郵便局)に配備されている。 定形外や小包、農産物種苗など、厚みがあったり押印の際に中身を破損する恐れがあり、通常の丸型和文印では押印できない郵便物や、一度に大量の切手を抹消する場合に用いられる。
内容としては
- 支店名(郵便局名)
- 日付(上に元号、下に日付)
が記載される。
和文丸型印同様、基本的にはフルネームで表記されるが、地域によっては旧特定局や簡易局で人口5万人以下の都市名・都道府県名がついていない局や、普通局で同一名称の普通局がある場合は、頭に都道府県名が表記されることがある。
一部局では浸透式が導入されたが、未だに広がりを見せず従来のローラー印が配備され続けている。
[編集] 機械印
機械印とは、自動押印機に用いられている郵便の消印のことで、基本的には切手を抹消する波形部分と、郵便局の名前、取り扱い年月日を表示する円形の日付部分から構成されている。
- 和文機械印
国内郵便専用の機械印で、金属製である。 内容としては
が記載される。
郵便局名は基本的にはフルネームで表記されるが、特定局や簡易局で人口5万人以上の都市名・都道府県名がついていない局や、普通局で同一名称の普通局がある場合は、頭に都道府県名が表記される。
- 和欧文機械印
外国郵便物の増加に伴い、国内外国両郵便物の処理を目的に導入された。局名は和文とローマ字両方で表記されている。 ただし、実際の運用を見てみると、外国郵便に用いられた例は相対的に少ない。 内容としては
が記載される。
郵便局名は基本的にはフルネームで表記されるが、特定局や簡易局で人口5万人以上の都市名・都道府県名がついていない局や、普通局で同一名称の普通局がある場合は、頭に都道府県名が表記される。
中央郵便局の場合は「CHUO」の表記が省略される。また、通関局(国際郵便物の通関業務を行なう局)及び局名に都道府県名がない場合は「HOKKAIDO」などのように局名の下に都道府県名が記載される。また無集配局の場合は地域番号(郵便番号の上3桁または5桁)が郵便局名の下に表記される。
- 新型機械印
2007年1月より、東京中央・日本橋・銀座・渋谷の4つの郵便局で、インクジェット式の機械印の使用が始まった。
表記内容は和欧文機械印のそれと同じだが、証示部に枠が一切なく抹消部の波線が短い点や、表記形式など従来の機械印とは全く異なる点が特筆される。但し、従来の消印とも同時使用されるため必ず新型機械印で押されるとも限らない。また、窓口で新型機械印で押すようにと依頼しても断られる。
[編集] 外国郵便用
欧文印、大型郵便物で用いられるローラー印がある。 自動押印機で用いられる欧文機械印もかつて存在したが、現在では廃止された。
[編集] 丸型欧文印
ほぼすべての郵便局(国際郵便を取り扱わない簡易郵便局を除く)に配備されている。集配局には必ず配備される。 名称通り表記は欧文によりなされており、国際郵便物の引き受け等に使用される。 和文印同様に浸透式を導入している局もあるがごく少数で、今もなお黒活が多く使われている。
内容としては
- 郵便局名(ローマ字表記)
- 日付YY.MM.DD(日付・月・西暦の下2桁の順)
- 時間帯(0-8、8-12、12-18、18-24)
が記載される。
通関局(国際郵便物の通関業務を行なう局)及び局名に都道府県名がない場合は「HOKKAIDO」などのように局名の下に都道府県名が記載される。また無集配局の場合は地域番号(郵便番号の上3桁または5桁)が郵便局名の下に表記される。 郵便局分室の場合は、地域によって上に本局名、その下に分室名が表示される場合とその逆(分室名が上)の場合があり統一されていない。
[編集] 欧文ローラー印
欧文丸型印と比べると配備している局は少なく、集配局でも配備していない局が多くある。
内容としては
- 郵便局名
- 日付YY.MM.DD(日付・月・西暦の下2桁の順)
が記載される。
欧文丸型印同様、中央郵便局の場合は「CHUO」の表記が省略される。地域によっては局名の前に地域番号(郵便番号の上3桁または5桁)が表記される地域や局名の後に府県名が表記される地域があり、統一されていない。
[編集] 特別日付印
特別日付印は記念印とも呼ばれ、特印、小型印、風景印、初日印の4種類がある。差出人が希望したときに限って押される。
[編集] 年賀印
年賀郵便物取り扱い期間中に差し出された私製の年賀郵便物のみに押される消印である(官製年賀葉書は消印押印を省略する印刷がなされているため、差出人が特に指定しない限り押印されない)。
使用される消印は局によって異なり、金属製和文印・インク浸透式和文印・和文機械印(書状押印機)のいずれかが使用される。郵便局によっては機械印と手押印の両方を使用する。 なお、1936年から1940年までと、1950年から1956年までは、和文印・機械印共に絵入りの年賀印が使用されていた。ちなみにこれは「年賀」の表記を欠いている。 2000年にミレニアム記念として和欧文機械印が使用されたほか、2001年には21世紀記念として図入りの機械年賀印が都道府県ごとの題材を定め使用された。
基本的に内容は通常の消印と同じであるが、日付が「xx.1.1」(xxは元号)、時間帯の欄が「年賀」になっていることが異なる。
- 窓口での記念押印は、事前に処理するという性格上年賀取扱期間中が原則となっているが、郵頼の場合は1月1日以降に返信されることが多い。
[編集] 選挙印
公職選挙法の規定にしたがって候補者が選挙運動のために差し出す選挙葉書に押印する消印のこと。内容は通常の消印と同じであるが、表示される年月日は、選挙の公示日または告示日を示しており、選挙期間中は同じ日付のまま使用される点と、時間帯の欄が「選挙」になっていることが異なる。
[編集] その他
そのほか、料金別納郵便の料金支払いのために提出された切手類を消印する波消(なみけし)-当初はただの波線だけだったが、局名や年月日が加えられ、1980年代後半にはは機械波消が導入された-がある。 また、機械印の押印ミスなどにより切手に消印がかかっていない場合などに押印される、日付の入っていないスタンプ抹消印-消印もれ消印という俗称がある(郵便局名と「消印」の文字が記される)や、配達員が所持しているボールペンでの抹消(〒を○で囲む)をもって消印とする場合がある。
[編集] 民営化後の取り扱い
民営化後は、郵便事業会社が郵便ポストから郵便物を収集するため、取り扱い支店の消印が押される。また郵便局会社窓口に持っていった場合は、年の下にアンダーラインが引かれた消印が押される。
民営化に伴う変更の一例
- 神戸中央郵便局(公社時代)→神戸支店(民営化後)
(「神戸中央」の消印ではなく「神戸」になっている)
- 東京中央郵便局(公社時代)→丸の内支店(民営化後)
(「東京中央」の消印ではなく「丸の内」になっている)
なお、集配センター(旧集配特定郵便局のほとんどと小規模な集配普通郵便局の一部)の区域内で収集された郵便物は、ほぼ全て受け持ち支店へ配送されるため、消印は一部の例外を除き支店のものが押印される。
茨城県南部の例
- 江戸崎、阿波、伊奈、谷和原、田伏、出島の各局(公社時代)→土浦支店(民営化後)
(全て「土浦」の消印になる)
北海道の例
- 苫小牧支店日高集配センター →郵便番号07,08,09あてのもののみ「北海道・日高」の消印を押印したうえで富良野支店経由で旭川東支店へ。それ以外あてのものは消印をせずに苫小牧支店へ。
和歌山県北部の例
[編集] 「消印有効」
各種懸賞やイベントなどの観覧券申し込みなどに郵便で応募する場合、締め切りの区切りとして「○月○日の消印有効」というものがある。この場合、消印有効以前の日付の消印が郵便に押してあれば応募を受け付けてもらうことができる。ポストに投函すると翌日の日付になりそうな時間帯でも、郵便局の窓口で“当日引受済”の消印を頼めば押してもらえる。ただし、無集配局の窓口では消印は押してもらえないことがあるので、集配局のゆうゆう窓口(時間外窓口)に行くほうが確実である。
一方、消印日付ではなくて、書簡の到着日を締め切りの区切りとする場合は「○月○日必着」と表現される。この場合は消印は考慮されない。
上記の通り、消印はその日に郵便を引き受けたことを記すため、公的機関へ送る際や、願書、裁判書状、法律行為などの証拠となりうる。このため、消印の日付を偽ることは「改竄(かいざん)」にあたり、郵便法違反となる。また、日付を偽ったまま郵便を送った場合は刑法の「公文書偽造」となる。
[編集] 印紙の消印
課税文書に貼付した収入印紙を剥がして再利用する脱税行為を防止するため、法令で収入印紙を消す方法が規定されている。
- 印紙税法第8条(印紙による納付等)
- 2 課税文書の作成者は、前項の規定により当該課税文書に印紙をはり付ける場合には、政令で定めるところにより、当該課税文書と印紙の彩紋とにかけ、判明に印紙を消さなければならない。
- 印紙税法施行令第5条(印紙を消す方法)
- 課税文書の作成者は、法第八条第二項の規定により印紙を消す場合には、自己又はその代理人(法人の代表者を含む。)、使用人その他の従業者の印章又は署名で消さなければならない。
なお、収入印紙以外にも登記印紙、特許印紙など各種の印紙が存在するが、これらの貼付により料金の納付を行う各種の申請様式においては「印紙は消印しないこと」と記載されていることがある。これは申請書を受理した官公庁などにおいて、担当官吏が印紙による料金の納付の事実を確認してから職務で消印するためである。様式に「印紙は消印しないこと」の記載がある場合には、申請者において消印してはならない。