浮舟 (源氏物語)
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浮舟(うきふね)は、
- 『源氏物語』五十四帖の巻名の一つ。第51帖。第三部の一部「宇治十帖」の第7帖にあたる。巻名は、薫の庇護を受けていた女が匂宮に連れ出されて宇治川対岸の隠れ家へ向かう途中に詠んだ和歌「橘の小島の色はかはらじをこのうき舟ぞゆくへ知られぬ」(橘の茂る小島の色のようにあなたの心は変わらないかも知れないけれど、水に浮く小舟のような私の身は不安定でどこへ漂ってゆくかも知れません)に因む。
- 『源氏物語』に登場する架空の人物。第三部「宇治十帖」の中心人物の一人で、その呼称は巻名の由来ともなった上記の和歌による。詳細は下記。
帖 | 名 | 帖 | 名 |
---|---|---|---|
1 | きりつほ | 28 | のわき |
2 | ははきき | 29 | みゆき |
3 | うつせみ | 30 | ふちはかま |
4 | ゆふかほ | 31 | まきはしら |
5 | わかむらさき | 32 | うめかえ |
6 | すゑつむはな | 33 | ふちのうらは |
7 | もみちのか | 34 | わかな(上下) |
8 | はなのえん | 35 | かしはき |
9 | あふひ | 36 | よこふえ |
10 | さかき | 37 | すすむし |
11 | はなちるさと | 38 | ゆふきり |
12 | すま | 39 | みのり |
13 | あかし | 40 | まほろし |
14 | みをつくし | 41 | くもかくれ |
15 | よもきふ | 42 | にほふみや |
16 | せきや | 43 | こうはい |
17 | ゑあはせ | 44 | たけかは |
18 | まつかせ | 45 | はしひめ |
19 | うすくも | 46 | しひかもと |
20 | あさかほ | 47 | あけまき |
21 | をとめ | 48 | さわらひ |
22 | たまかつら | 49 | やとりき |
23 | はつね | 50 | あすまや |
24 | こてふ | 51 | うきふね |
25 | ほたる | 52 | かけろふ |
26 | とこなつ | 53 | てならひ |
27 | かかりひ | 54 | ゆめのうきはし |
目次 |
[編集] 帖のあらすじ
薫27歳の春の話。
薫は浮舟を宇治の山荘に放置したまま、訪れるのも間遠であった。一方、匂宮は二条院で見かけた女のことが忘れられない。正月、中の君のもとに届いた文を見て女の居所を知った匂宮は、薫の邸の事情に通じている家臣に探らせ、女が薫の囲い人として宇治に住んでいることを知る。匂宮はある夜、ひそかに宇治を訪れ、薫を装って寝所に忍び入り、浮舟と強引に契りを結んでしまう。人違いに気づくも時すでに遅く、浮舟は重大な過失におののくが、心は次第に情熱的な匂宮に惹かれていくのだった。
二月、ようやく宇治を訪れた薫は、浮舟の思い悩むさまを女として成長したものと誤解して喜び、京へ迎える約束をする。宮中の詩宴の夜、浮舟を思って古歌を口ずさむ薫の様子に焦りを覚えた匂宮は、雪を冒して再び宇治に赴き、浮舟を宇治川対岸の隠れ家へ連れ出し、そこで二日間を過ごした。
薫は浮舟を京に迎える準備を進めていた。匂宮はその前に浮舟を引き取ろうと言う。何も知らずに上京の準備を手伝う母中将の君に苦悩を打ち明けることもできず、浮舟は宇治川の流れを耳にしながら物思う。ある日、宇治で薫と匂宮両者の使者が鉢合わせしたことからこの秘密は薫に知られ、宇治の邸は薫によって警戒体制が敷かれる。
薫に恨みの歌を送られ、匂宮との板ばさみになって進退窮まった浮舟はついに死を決意をする。死を間近に、薫や匂宮、母や中の君を恋しく思いながら、浮舟は匂宮と母にのみ最後の文を書きしたためた。
[編集] 人物としての浮舟
光源氏の弟である宇治の八の宮と当時彼に仕えていた女房・中将の君(八の宮の北の方の姪)との間に生まれた娘であり、光源氏の姪にあたる。八の宮は認知していないが、宇治の三姉妹の三女にあたる。宇治の大君、中の君の異母妹。「宇治十帖」後半の「宿木」から「夢浮橋」の6帖にかけて登場。本文中では「姫」、「娘」、「女」などとさまざまな呼ばれ方をされており、一定した呼び方はない。「浮舟」という呼称は彼女が詠んだ和歌に因むもので、古注釈などで初めて現れる名前である。『源氏物語古系図』『無名草子』『河海抄』などでは「手習の君(てならいのきみ)」とも注釈されており、「東屋の君(あずまやのきみ)」と呼ばれていることもある。
母中将の君の再婚に従い、東国へ下り、受領階級の常陸介の継娘として育つ。常陸介からは疎んじられるが、中将の君からは数多い子の中でもとりわけ可愛がられ、上流教育を受けかいがいしく育てられる。20歳を過ぎたころ、少しでも良縁をと選んだ中流貴族の左近少将に裏切られ、家に身の置き場のなくなった浮舟は、今は匂宮の北の方となった異母姉の中の君に預けられる。しかし浮舟に亡き大君の面影を見る薫と、興味本位で近づいた匂宮の対極的な二人の貴人に愛され、板ばさみに苦しむ。追い詰められた浮舟は自ら死を決意したが、果たせず、山で行き倒れている所を横川の僧都に救われる。その後、出家。薫に消息を捉まれ自らの元に戻るよう勧められるが、拒み続けた。
浮舟に話しかける時、薫も匂宮も引歌をしない(伊東祐子「源氏物語の引歌の種々相」(『源氏物語の探求 第十二輯』風間書房 1987))が、これは受領の子で東育ちの浮舟が二人から宮廷的な教養と趣味を身につけていない田舎者として見下され軽んじられていたことの傍証である。(ただし浮舟自身が詠んだ和歌は多い)
亡き姉大君の身代わりの「人形(ひとがた)」にしばしば例えられ、性格的にもイメージとしても「流される」女性。自殺の決意を彼女の自我の芽生えと評価する向きもあるが、しかしいざ自殺の実行の段階に至ると、どうしても思い切る事が出来ず、「鬼が私を喰い殺してくれれば」と嘆き悲しんでいた。そこに現れた若く美しい男の幻に惑わされ、暗い山道を彷徨い歩き、記憶を失う事となる。浮舟はこの幻を「匂宮」と勘違いしたが、実際は後に横川の僧都に祓われる法師の悪霊であった(『手習』)。
因みに「あさきゆめみし」ではこの幻は光源氏の霊として描かれており、後には身の処遇に迷う浮舟に仏門の道を指し示す導き手としても登場している。
[編集] 浮舟を扱った作品
- 能
- 「浮舟」(四番目物、執心女物)
- テレビドラマ
- 映画
- 楽曲