有機化学
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有機化学(ゆうきかがく、organic chemistry)は、有機化合物すなわち炭素化合物の合成、性質についての研究を目的とする化学の分野である。伝統的には二酸化炭素や一酸化炭素、炭酸などは有機化合物に含めない。大体は C−C 結合か C−H 結合を持たなければ有機物ではないとされている。
構造有機化学、反応有機化学(有機反応論)、合成有機化学、生物有機化学などの分野がある。
100を超える元素の中で炭素の化合物だけが特に取り上げられる理由は、炭素が無限の多様性をもつ物質を作る材料になりうるからである。実際、現在知られている化合物のうち、炭素以外の元素のみからなるものは、炭素を含むものにはるかに及ばない。また生体を構成するタンパク質や核酸、糖、脂質といった化合物もすべて炭素化合物である。これは、炭素が −C−C−, −C−O−, −C−N− といった連鎖を任意の数だけ繰り返して共有結合できる唯一の元素だからである。ケイ素はいくぶん似た性質を持つが、炭素に比べると Si−Si 結合の安定度が低いために炭素ほどの多様性をもたない。
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[編集] 歴史
有機化学が誕生する以前から人類は様々な有機物を利用していた。食べ物については言うに及ばず、麝香や樟脳等の香料、石鹸やアルコール等がその好例である。石鹸は油脂を植物灰中の金属塩と反応させて作られていた。
従って有機化学の始まりを定義するのは異論のあるところである。初期の有機化学は有機物が持つ性質を分析することであったと考えられる。何故ならば有機物は人間には合成することができず、生命の神秘的な力によって生まれると考えられていたからである(生気論)。二酸化炭素などは炭や木を燃やせば作ることができるため、生命力に依らない無機物であるとされた。つまるところ、人によって作ることができず、生物によってのみ作ることができる物質が有機物であると考えられていたのである。
生気論は1828年にフリードリヒ・ヴェーラーによって打ち破られた。彼はシアン酸アンモニウムの加熱によって有機物たる尿素が得られることを示したのである。これ以降も様々な有機物が合成されるに至り生気論は崩壊した。これによって有機物の定義は冒頭にある通りになった。
その後、様々な有機化合物の性質が調べられ数々の反応が発見された。その中で特筆すべきものとして芳香族化合物の発見があげられる。最初に見つかった芳香族化合物はベンゼンである。ベンゼンの構造はフリードリヒ・ケクレによって示された(注:「ケクレがベンゼンの構造を示した」というエピソードについては異論も唱えられている。本件の詳細はケクレの項目を参照のこと。)(ベンゼンの構造として別にプリズマンやデュワーベンゼンが提唱されたが結局却下された)が、二重結合を有する物質の割に反応性が低いことや、置換誘導体の種類が少ないなど奇妙な性質を持っていることが分かった。この奇妙な性質の原因が解明されるのは量子力学が導入されてからである。
さらに時代が下って1934年、ウォーレス・カロザースによって最初の合成高分子たるナイロンが作り出された。やがて有機化学の発展と共にゴムや接着剤、樹脂などが合成されるようになり、靴下から宇宙船まで様々な分野に応用されている。
また、有機化学は生物を構成する物質を扱う学問であり、生化学とごく密接に関連している。生化学における反応の理解や、生体物質の解析などに一役買っているのである。
現在では、有機化学は生化学や高分子化学の基礎として位置づけられている。
[編集] 実験操作
有機化学の実験操作は現在までにかなり洗練され、ほぼ確立されたものとなっているので、まずそれらをしっかりと身につけることが重要である。 ただし、各手順は研究者によって微妙に異なることもあり、そこから流派(出身研究室)が推測されたりする。
[編集] 炭素骨格と官能基
有機化学で化合物の合成方法を考える場合、炭素骨格の構築と官能基の変換に大別することが多い。
一般の有機化合物は、鎖式炭化水素(アルカン、アルケン、アルキン)あるいは環式有機化合物(シクロアルカン、芳香族炭化水素、複素環式化合物など)を骨格とし、そこに官能基(水酸基、カルボキシル基など)が結合した構造を持っている。
官能基を変換することは比較的容易である。例えば、アルコールは適当な酸化剤を用いることによって、アルデヒドあるいはカルボン酸に変換でき、カルボン酸からさらにアミドやエステルへと変換することが可能である(官能基については基に詳しい説明がある)。
一方、炭素骨格を構築することはなかなか難しい。古くからアルドール反応やグリニャール反応が用いられてきたが、期待する炭素骨格を効率よく合成することは困難であった。しかし、近年では鈴木カップリングやメタセシス反応など、効率の良い反応が開発され、タキソールやシガトキシンのような複雑で巨大な分子も全合成することが可能となっている。
[編集] 関連項目
- 全般
- IUPAC命名法 - 酸と塩基 - 酸化と還元 - 加水分解 - 立体化学(化学構造、投影式、光学異性体、不斉炭素原子、絶対配置、立体配置)
- 有機化合物
- 炭化水素(アルカン、アルケン)- 不飽和炭化水素 - 芳香族炭化水素 - 複素環式化合物
- 置換基 - ハロゲン化アルキル - カルボン酸(酸アミド、酸ハライド、酸無水物)
- 生体物質
- 核酸塩基 - ヌクレオシド - ヌクレオチド - 核酸
- アミノ酸 - ポリペプチド - タンパク質
- 糖 - 単糖 - 二糖 - 多糖(デンプン、セルロース) - 糖鎖
- 脂質 - 炭水化物
- 化学工業
- 石油 - 高分子(生体高分子、ゴム、樹脂、合成繊維) - 無機化学 - 油脂
- その他
- 生物学と有機化学の年表