方程式
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数学において方程式(ほうていしき、equation)とは、未知の数として x などの文字を含む等式のことである。
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[編集] 初等的説明
等式に未知数が含まれるとき、方程式の概念が現れる。方程式において未知数として与えられた x などの文字は“様々に値を変える数である”と見なされて変数と呼ばれる。あるいは“特定の値を持つわけではない”という意味で不定元などともいう。変数である文字には、変域と呼ばれるある特定の範囲で値の代入(だいにゅう、substitution; 置換)を考えることができる。各変数に代入されるべきものは、数値・関数・式など様々であり、それぞれの変数がどのような変域を持ち、どのような値をとりうるかは文脈に依存している。方程式は変数に値の代入が行われて初めて、それが等式として成立するか否かの評価が行われる。そして、与えられた方程式を「等式として正しく満たす」変数の値(変数に代入された値)を方程式の解と呼び、方程式の解を全て求めることを方程式を解くという。
一般には一つの方程式に変数が一つであるとは限らない。同じ文字は同時に同じ値をとるという約束の下で変数が複数存在する方程式を多元方程式あるいは多変数方程式 (multiple variable equation) などという。あるいはさらに、方程式として与えられる等式が一本である必要はない。方程式が一本ではなく複数あるとき、やはり同じ文字は同時に同じ値をとるという前提が成り立つならば、方程式は系をなす や連立する などといい、その複数本の方程式を一括りにして方程式系(ほうていしきけい、system of equations)もしくは連立方程式(れんりつほうていしき、simultaneous equation)などと呼ぶ。
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「多変数の方程式や連立方程式を解く」という場合、それが「与えられた方程式系を、命題として同値性を保ちながら、より本数の少なく、より単純な形の方程式系に帰着させる」という意味である場合が往々にしてある。実際にはこれは、既に与えた「方程式を解く」という言葉の「複数個ある変数の全てについて、方程式を満足する値を決定する」という意味と矛盾してはいない。なぜならば、この場合は方程式が無数の解を持ち、それら解の間に一定の関係が存在して、その関係がその単純な方程式系として記述されているものと考えられるからである。このことは、いくつかの変数については任意の値をとりうる定数(任意定数)を代入するものと考えれば、無数の解があると考える代わりに、いくつかの任意定数を含む "値" が解であったとも理解される。あるいは、任意定数が代入されうると考える代わりに変数を変数のまま扱うならば、多変数の方程式系は変数の間に成り立つ関係を記述する陰函数を定めるものと認識される。
[編集] 分類
与えられた等式がどのようなものであるかということによって、方程式に特定の名前がついていることも多い。たとえば、(多項式)= 0 の形に表すことができる方程式を代数方程式という。代数方程式はさらに、一次方程式、二次方程式といったように、多項式の次数 n により n 次方程式に分類される。なお、高次方程式というと、日本の中等数学では三次以上、一般には主に五次以上の代数方程式全般を指す。四次以下の代数方程式は代数的に解ける。一般に代数的に解けない代数方程式が存在するか、それがどの程度存在するかという研究はガロア理論として結実したといえるが、これは同時に群の概念の導入など、19世紀の代数学の発展の大きな原動力の一つとなった。
数の等式ではなく関数の等式で与えられる方程式を関数方程式とよぶ。特に関数とその導関数に対して関係式を与えることで得られる微分方程式は、物理学の研究から興味深い実例を与えられ、逆にその研究成果が物理学に寄与するなど、物理学との関連が深い。一方純粋数学的には層の理論などと結びついて興味深い結果を得ている。微分方程式はさらに常微分方程式と偏微分方程式にわけられる。離散系を扱う際には、微分でなく差分を扱うほうがしばしば有用であり、差分方程式が取り扱われる。微分方程式と差分方程式ではたくさんの類似概念や類似手法が並行して通用するため、同じ事象の連続的な側面と離散的な側面とを表していると考えることもできる。
また、方程式の形のみならず「重ね合わせの原理が働く」か否かという、解の状態についての分類が考えられる。解の重ね合わせが考えられる方程式を線型方程式、そうでないものを非線形方程式と呼ぶ。解の重ね合わせはベクトル空間の概念と結びつき、線型性という観点から線型代数学の恩恵を受けることになる。とくに微分方程式を代数的に取り扱うという立場においては線型微分方程式は最も基本的な対象となる。
[編集] 関数方程式の解の種類
微分方程式や差分方程式の解は、一般解と特異解とに分類されることがある。
[編集] 一般解
微分方程式や差分方程式の解の多くは、積分定数などの任意定数や、任意関数を含む形で記述されることが多い。 例えば、n 階の常微分方程式であれば n 個の積分定数を持つ。このように、任意定数や、任意関数を含む形で書かれる解の事を 一般解という。 一般解に含まれる任意定数や、任意関数に特定の値や関数を与えることによって得られる解、即ち、一般解に含まれる個々の解のことを特殊解或いは特解という。また、一般解が任意定数を係数とする関数の線型結合で表される場合、この既知の関数の組を基本解系と呼び、その要素を基本解という。(基本解系を単に基本解と呼ぶこともある。)
- 基本解に関しては線型微分方程式も参照。
[編集] 特異解
一般解はその名前から「方程式の解の全てを表現したもの。」と誤解されることが多いが、一般解だけでは表現できない解が存在することがある。 この一般解で表されない解を特異解という。
有名な例としては、クレローの微分方程式
は、一般解
- y=Cx − C2
の他に特異解
を持つ。
[編集] 一般の方程式
文字 x を含む論理式 P(x) に対し、x に値の代入を行ったとき P(x) が命題になるならば、論理式 P(x) は変項 x に関する命題関数であるという。
命題関数 P(x) が等式で与えられているとき、その命題関数 P(x) のことを方程式と呼び、変項 x を変数、P(x) が真となる代入 x を方程式の解と呼ぶ。
注意点として、P(x) が x を変項とする命題関数であるといっても、論理式 P(x) が必ずしも実際に文字 x を含む必要は無い。たとえば
- 「x に関する方程式 1 = 0」
などと言ったとき、等式 1 = 0 にはまったく x は現れていないが、これが変数 x に関する命題であると宣言することによって、これは変数 x に関する方程式と見なされると考えることが可能である。そのように見なせば、等式 1 = 0 は解を持たない方程式になる。このような注意は一見して無為なものであるかのように受け取られるかもしれないが、既知の任意定数として 文字を含むような等式で定義される x を変数とする方程式の“集まり”のなかで、“退化”しているものが含まれるときには、その注意の意味するところがあらわになる。
たとえば既知の任意定数(あるいはパラメータ) a, b, c を含み x を変数とする方程式(の族)
- ax2 + bx + c = 0
を解くこと、あるいはこの方程式の解の個数の判別を行うことを想定してみると、これは a ≠ 0 のときは二次方程式、a = 0 かつ b ≠ 0 のときは一次方程式として、それぞれよく知られた仕方で解かれる。一方で、a = b = 0 のとき、つまり等式 c = 0 は x の方程式なのだろうかということが問題となりうる。この場合においては、対処の仕方は少なくとも二つ存在する。それは、
- a = b = 0 のときは c = 0 となり、x は式に現れないから、これは x に関する方程式ではないとする。
- x の方程式 c = 0 という言明には、変数 x のとりうる値を制限あるいは規定する条件式であることの表明として意味があるから、これは方程式であるとする。
の二通りである。前者は x を変数とする方程式 ax2 + bx + c = 0 という言明において、暗黙に a ≠ 0 または b ≠ 0 が仮定される、あるいは方程式という言明があることによって、それが a ≠ 0 または b ≠ 0 を包含しているとする立場に立っているのである。これに対して後者は、c = 0 は x に無関係に常に真であるかあるいは常に偽であるから、x は任意の値で解となるか、あるいは解を持たないかのいずれかであって、何も問題を生じてはいないとする立場にたっているわけである。いずれの立場も論理的には何の矛盾も含んでいないから、いずれの立場にたって論じているのかを明確にする限り、正当な議論が形成される。
[編集] 転用表現
方程式は数式を利用して問いを解くという観点から、諸問題を解決するときに最も適切な方法という様に転用して使われることもある。恋愛の方程式、勝利の方程式などの言葉がスポーツ新聞や読み物に分類されるような書籍、インターネット上の一般サイトなど、それほど形式張らない場ではしばしば見うけられる。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ どの変域上での恒等式かということは意識しておくべきだが、初等的な議論では暗黙に「実数全体で定義された式」の話を指していることも多く、変域が意識に上らないかもしれない。一応、ここでは実数全体を変域とすると断っておくが、もちろん、この式自体は実数変数に限らず可換環などが変域であるなら(分配法則をつかえるので)恒等式である。