放置自転車
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放置自転車(ほうちじてんしゃ)とは、駐輪場など許可された以外の場所に駐輪された自転車(違法駐輪)のこと又は、不法投棄や盗難車の乗り捨てによって所有者による管理が行われておらず、占有離脱の状態になっている自転車のことを指す。同じ言葉で表されることが一般的になっているが、2つの意味合いはかなり異なる。
自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律(昭和55年11月25日法律第87号)(以下「自転車法」)第5条第6項では「自転車等駐車場以外の場所に置かれている自転車等であって、当該自転車等の利用者が当該自転車等を離れて直ちに移動することができない状態にあるもの」(条文中「自転車等」とは自転車又は原動機付自転車を指す(同法第2条第2号))を放置自転車等と定義している。
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[編集] 問題点
放置自転車の問題は、特に駅前の繁華街で顕著である。これは、駅まで自転車でやってきた鉄道の利用者が、混雑していたり有料であったりする駐輪場を忌避して道路上や駅前広場など駐輪が認められていない場所に駐輪するケースが多いためであると考えられる。これに加えて、駅周辺にある店舗や施設の利用者の自転車が拍車をかけている場合もある。内閣府が取りまとめている放置自転車の調査では、駅から一定の距離に放置されている自転車の台数等についてを調べている。多くの場合、駅周辺は自転車のみならず歩行者や車両など他の交通も集中する地帯であるため、放置自転車が他の交通の妨げになっていることがある。
歩道や狭い道路でも二重・三重に無造作に放置するため、歩行者や車椅子・杖等を使用している身体障害者、車両など他の交通に障害を与えるケースもある。特に、緊急自動車の通行が妨げられ、市街地における救命救急・消防活動など人命に関わる事態への対応に支障となる場合があり、社会問題となっている。また盗難自転車の乗り捨て、再盗難、いたずらによる破壊など、モラルの低下、また市街地の景観の悪化にもつながる。
[編集] 放置される理由
- 正当な所有者が正しく駐輪しない場合。
- 駅周辺には駐輪場などが整備されていることが多いが、駐輪場が遠い場合や混んでいる場合、また有料の駐輪場があっても使用料の支払いを惜しんで放置する傾向が見られる。
- 自らの所有物ではあるが、自分の管理下でない場所に常時置いたままにしている場合。
- 盗難自転車が乗り捨てられる場合。
- 走行中に自走不能なまでに破損した場合。
- 走行中に重度のホイールの変形やタイヤのバースト、フレームの折れにより自走(自転車を降りて押して転がすこと)ができなくなった自転車なども放置されることがある。家や修理屋、一時的に車体を置いておける場所が近くにない場所で放置される。自走不能なため移動させることもできず、急いでいるときなどはその場に放置して公共交通に乗り換えてしまう。そしてそのまま新しい自転車を購入しそのまま放置されてしまうケースである。
[編集] 放置自転車に関する違法行為
- 使用しなくなった自転車を放置した場合には、不法投棄(廃棄物処理法違反)として処罰される。条例を制定している市町村の放置禁止区域に放置した場合は、撤去される。
- 使用者が自ら、指定された日時にごみ回収場に出したり粗大ゴミとして処理を依頼したりした場合、行政側は所有権放棄とみなして処分するが、ごみに出された自転車を他人が拾って乗り回すことには法律的な問題が生じる可能性がある。警察官による職務質問・所有者照会などの際、防犯登録の抹消がされていない限り、元の使用者に所有権があると推定されるからである。事実関係が確認され、所有権の放棄が明らかになれば窃盗の疑いは晴れるが、なお遺失物等横領罪の疑いで引続き取調べを受ける可能性がある。また、近年ではごみ回収場に出された物は元の所有者から自治体に占有が移転したとみなされたり、その様に条例等で規定している場合があり(再利用可能な「ごみ」を自治体において回収・再利用するために、悪質な業者による「横取り」を防ぐための規定)、廃棄物関連の条例違反に問われる可能性もある。
- 放置自転車を収得して乗り回していた場合には窃盗罪もしくは遺失物等横領罪(刑法第254条)の現行犯となる。どちらの罪が適用されるかは、収得時の自転車の状態などによる。老朽化するなどし所有権が放棄されていることが明白な場合や、元の所有者が被害届(盗難届)を出していないなどの場合、実務上、遺失物等横領として処理されるケースが多い。職務質問で自転車の所有者と使用者が一致しなかった場合やその自転車について被害届が出されていた場合、窃盗の容疑で取り調べを受ける場合がある。所有者の分からない自転車を拾得した時は、遺失物法の規定により、元の所有者に返還するか警察署長に届け出なければならない。
- 道路交通法第44条・第45条に規定する駐停車禁止・駐車禁止の場所に自転車を放置した場合は違法駐車にあたるが、それを元に取り締まりが行われることは少ない。そのため、独自の条例を制定する自治体も増えている(神奈川県藤沢市など)。
- 他人の私有地に自転車を放置することは、財産権の侵害にあたり、その自転車は土地所有者から処分される可能性がある。ただし、処分にあたっては所有者への周知などが必要とされる。
[編集] 地方自治体の取組
地方自治体(市町村)のうち、特に鉄道駅を有し駅前等での放置自転車問題が深刻なところを中心として、自転車法に基づき放置自転車防止のための条例を設け、放置禁止区域の制定・放置自転車の撤去・保管・返還・処分に関する手続きを定めるとともに、自治体・鉄道事業者・自転車等の大量の駐車需要を生じさせる施設(大規模店舗・官公署等)・自転車利用者などに対して各々放置自転車発生の防止義務を課する規定を設けている場合がある。
自治体によって条例の中身は異なるが、「放置禁止区域内の公共の場所に自転車等が放置され、他の手段によっては良好な生活環境を確保することができない」場合は市町村長において自転車を撤去することができる規定を設けている場合が多い。
引き取りに来た所有者に手数料を求めるケースもあるが、多くは回収に要する費用の方が高く、引き取りに来ない自転車の廃車処理も含めて自治体の財政的な負担となっているケースも見られる。
[編集] 豊島区の取組
2003年12月に東京都豊島区が定めた放置自転車等対策推進税は、自転車の使用者に対する条例ではなく、放置自転車問題の責任は鉄道事業者にもあるとして目的税として課税する内容の条例となった。2006年度から施行される見込みだったが、鉄道事業者などから駐輪場用地の提供を受けて、この税自体を廃止する方向で検討することになった。
[編集] 商店街との連携による解決活動
放置自転車は商店街の場合、客との兼ね合いで強く注意できないケースが多いが、福岡県の天神地区では駐輪場に止めることで割引クーポンが発行される制度を導入し、放置自転車を減らすことに成功している。
[編集] 放置自転車の行方・放置自転車への対処
- 地域の自転車販売店などの協力を得て、補修後に自治体のバザーやイベントの際に売り払われるケースもある。また、大量にストックを抱える自治体には、業者に競売するケースも見られる。競売で落札された自転車の多くは国外へ輸出される。
- 新潟市では、回収された放置自転車を、シルバー人材センターが整備し、市民のNPOが運営するレンタサイクルに提供している。
- 自転車は規格化された部品の組み合わせで出来ており、人力のみで組立、修理が可能である。また開発途上国では、コストのかからない交通手段として重宝される。それゆえ自治体が回収した放置自転車をボランティアの手によって整備し、援助物資として贈る活動も存在している。受け取った国では、住民等に有償・無償で頒布するほか、自転車修理の技術者育成のための教材としても使用している。