天国への階段 (楽曲)
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「天国への階段」 | ||
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レッド・ツェッペリン の 楽曲 | ||
収録アルバム レッド・ツェッペリン IV | ||
リリース | 1971年11月8日 | |
録音 | 1971年 アイランド・スタジオ |
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ジャンル | ロック | |
時間 | 8分00秒 | |
レーベル | アトランティック | |
作曲者 | ジミー・ペイジ ロバート・プラント |
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プロデューサー | ジミー・ペイジ | |
レッド・ツェッペリン IV 収録順 | ||
限りなき戦い (3) |
"「天国への階段」" | ミスティ・マウンテン・ホップ (5) |
「天国への階段」(てんごくへのかいだん・Stairway to Heaven)はイギリスのロックグループ、レッド・ツェッペリンの代表曲。ジミー・ペイジとロバート・プラントとによって作詞作曲された。1971年に発表され、以後ロック史上に残る名曲の一つとして広く愛聴されている。レコードでの演奏時間は約8分。
目次 |
[編集] 来歴
ペイジは早くも1970年中に、「静かに始まって徐々に盛り上がってゆく長い曲」という言葉でこの曲の構想を明らかにしている。一部の推定では、同年春、ペイジとプラントとがウェールズのコテジ、ブロン・イ・アーに滞在中にこの曲のアイデアを得たとしている。具体的な作曲作業は1971年初め、彼らが4枚目のアルバム作成のために合宿した、ハンプシャーの古邸宅ヘッドリィ・グランジで進められた。ペイジが提示したコード進行をもとにジョン・ポール・ジョーンズとともにベーシック・トラックを作成。リハーサル中にプラントは次々と歌詞を書き上げた。ヘッドリィ・グランジで録音された数次にわたるリハーサルの音源が存在し、海賊版として流通している。
[編集] レコーディング
最終的なレコーディングはロンドンのアイランド・スタジオで、アンディ・ジョーンズによって行なわれた。
レコーディング・エンジニアのリチャード・ディグビー・スミスの証言[1]によると、発表されたのはテイク2である。テイク1収録後、ペイジだけが満足せずに録り直しを提案し、ジョン・ボーナムはムッとした表情を浮べながらもスタジオに入り直した。テイク2をプレイバックした後、ボーナムはペイジと抱き合い「お前が正しかった」と言ったという。
[編集] 構成
「天国への階段」はイ短調、4/4拍子、三部構成の曲である。第一部はアコースティック・ギターのアルペジオとリコーダーとで演奏される静かなパート。12小節からなる序奏の後、ヴォーカルが4小節の小楽節からなる美しいメロディーを四度繰り返し歌う。第二部ではリコーダーが退いてエレクトリック12弦ギターとエレクトリック・ピアノが加わり、コードおよびアルペジオを利用したリフを奏でる。この間、ヴォーカルは第一部と同じメロディを四度繰り返し歌う。第二部の後半からはエレクトリック・ベースとドラムスとが加わり、ヴォーカル・メロディーも新しいものとなるが、ギターとピアノとは前半と同じリフを繰り返し演奏する。かくて次第に音量を増した曲は、いったん全休止した後、クライマックスの第三部に入る。第三部はそれまでの牧歌風の雰囲気から一変して激しいハードロック風の演奏となり、12弦ギターによるファンファーレ風の序奏に導かれてペイジが美しいギター・ソロを演奏し、続いてプラントが高音のシャウトを聴かせる。最後の4小節に至って曲は急激に速度を緩めるとともに沈静化し、プラントの独唱で静かに結ばれる。
曲全体のおおまかな印象は「延々と続く繰り返し」であり、単一の要素を繰り返しながら次第に楽器数が増えてクライマックスに至る構成は、ラヴェルの「ボレロ」がそうであるように、広い意味での変奏曲に似た構成だと考えることができよう。ただ、仔細に見るならば、
- 第一部と第二部とでは伴奏のパターンが異なる。しかしヴォーカルのメロディーが同一なので連続的に聞える。
- 第二部の前半と後半とではヴォーカルのメロディーが全く異なる。しかしギターとピアノとによる伴奏のパターンが同一なので連続的に聞える。
- 第三部はそれ以前の部分とは全く曲想が異なる。しかし第一部で提示された「Am/G | Fmaj7」または「C/G | Fmaj7」という2小節単位のコード・パターンが繰り返し用いられているため連続的に聞える。
というふうに、漫然と繰り返しているのではなく、曲の進行とともに新しい要素を導入しつつ一貫性を保つための工夫が為されていることが知れる。
また曲全体が、進行とともに徐々にディナミークが増してクライマックスに至るように構想されており、聴覚上の印象として緊迫感を醸成している。
さらに最後に速度を緩める直前まで、曲全体が大きなアッチェレランドで演奏されている(冒頭部では♩=72程度の速度であったものが、終結間際には♩=120近くにまで達している)。ペイジの証言によれば、これは自然にそうなったのではなく、曲の緊張感を高めるために意識的に行なったことであるという。
以上を要するに、単純な繰り返しによって作られているようでありながら、細やかな配慮を加えることによって「繰り返しのたびに緊張感が高まってゆき、やがて雄大なクライマックスに至る」といった見事な効果を生んだものと評することができよう。
[編集] 歌詞
プラントはヘッドリィ・グランジの暖炉の前で歌詞を書いたと伝えられる[1]。
この歌詞は34行から成り、大部分が4行で1連を成している。ところどころで脚韻を踏む。冒頭部に「輝くものは全て黄金だと信じる淑女 (lady)が天国への階段を買おうとしている」と歌われており、一応この淑女が全編を通じての主役であるかと思われるが、ほぼ1連ごとに歌詞の内容・視点が変り、全編を通じて一貫した内容があるかどうかの判断は難しい。全くのナンセンス詩と考えることも可能である。
仮に一貫した内容があるものとして解釈するなら、冒頭部に登場する淑女が、最終連で「万物が黄金に変る」ことを人々に示す。また中盤で「調べ (tune)」という単語が現れ、最終連で「懸命に耳を傾けるならあの調べはついに我々を訪れる」と歌われる。以上の点からして「調べ」=「音楽」こそが万物を黄金に変える力を持つのだ、と歌っているものかと思われる。この他、レッド・ツェッペリンの結成過程を象徴的に歌っているのだという解釈や、ベトナム戦争を象徴的に歌っているのだという解釈もある。
なお「『天国への階段』を逆回転で聴くと悪魔崇拝を勧めるメッセージが聞える」という風説が存在するが、レッド・ツェッペリンのメンバーは一様にこの風説に対して強い嫌悪感を表明している。ちなみにアトランティック・レコードは、この風説に関してそっけなく「当社が所有するレコードプレーヤーのターンテーブルは一方向にしか回転しない」とコメントしている。
[編集] 来源
冒頭のアルペジオは、アメリカのロック・グループ、Spiritが1968年に発表したインスト曲「Taurus」との類似を指摘されている。
また、歌詞は当時プラントが読んでいたLewis Spenceの『Magic Arts in Celtic Britain』から影響を受けており、この本から借りた語句が散見する。
[編集] レコード
「天国への階段」は1971年11月、レッド・ツェッペリンの4枚目のアルバム(無題。以下便宜的に「レッド・ツェッペリン IV」と表記する)のA面4曲目(現在のCD版ではtrack-4)に収録されて発表された。まもなくこの曲はアメリカのFMラジオ局で最も頻繁にリクエストされる曲となり、アトランティック・レコードはこの曲をシングルとして発売するよう強い圧力をかけたが、ツェッペリン側は頑として応じなかった。『レッド・ツェッペリン IV』は1990年末までに総計1000万枚の売り上げを達成する大ロングセラーとなったが、このアルバムの売り上げに「天国への階段」が大きく寄与していることは疑いない。
なお演奏時間はLPレコード時代には7分59秒と表記されていたが、CD化されてからは「8分00秒」「8分02秒」等の表記が見られるようになり、一定していない。
[編集] ステージ・パフォーマンス
ステージでの演奏は『レッド・ツェッペリン IV』の発売より早く、1971年3月5日、ベルファストのアルスター・ホールで初演(後にペイジは「あまりみんな(観客)はピンとこなかったみたい」と苦笑気味に回想している)。以降、レッド・ツェッペリンの全公演で演奏された。同年の初来日公演でもレコード発売に先んじて披露されている。1975年以降の公演ではコンサートの結びの曲として演奏された。またレッド・ツェッペリン解散後も、1985年のライヴエイド、1988年のアトランティック・レコード40周年記念コンサート、2007年のロンドンはO2アリーナでのギグなど、一時的な再結成が行なわれた際に演奏されている。
ステージ演奏に当って、ペイジは有名なダブルネック・ギター(特注のギブソン・EDS-1275)を使用した。またジョーンズは初期にはハモンドオルガン、1972年後半からはメロトロン、1979年以降はヤマハ・GX-1でリコーダーのパートを演奏した。
なおレッド・ツェッペリンにあっては「ライブでの演奏はスタジオ・バージョンの再現ではない」ことが信条となっており、この曲も例外ではなく、公演年代ごとに少しづつ演奏が変化している。また、プラントが曲の各処で即興の歌詞を挿入するのも通例となっており、特に中間部の「森に笑い声がこだまする」という趣旨の歌詞の後、「みんなは笑い声を覚えているかい?(Does anybody remember laughter?)」と観客に問いかけるものが有名である(映画「レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ」等で確認できる)。
[編集] 影響と評価
「天国への階段」はレッド・ツェッペリンの最も有名な曲であり、(レッド・ツェッペリン自体そうであったように)ロックファン・ハードロックファンにとって賛否両論の曲である。「ロック史上最高のアンセム」と賛美される一方、「恐ろしく冗長で退屈な曲」と酷評される。ただ、この曲により彼らがその音楽的独自性を確立したことは事実であり、デビュー以来「古いブルースの改悪でリスナーを欺くでっち上げバンド」と彼らを酷評してきた批評家たちも、この曲を聴いては口を閉さざるを得なかった。ジョーンズは皮肉っぽく「『レッド・ツェッペリン IV』発売以後は誰も僕らをブラック・サバスとは比較しなくなったよ」と述べている。それまでレッド・ツェッペリンに貼られていた「ヘヴィ・メタル・バンド」というレッテルを振り捨てるのに、この曲はこの上ない働きをしたといえる。
冒頭部のギターによるアルペジオは情感豊かで、かつ技術的にさほど高度ではなく初心者でも比較的簡単に習得できるため、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のリフと並んで誰もがコピーするほど有名になった。楽器店でギターの試し弾きをする際に頻繁に用いられるため、店員がすっかり食傷し、店によっては「天国への階段禁止」の掲示を出している(映画「ウェインズ・ワールドWayne's World」には、これを利用したギャグ・シーンがある)。
ロック界以外の音楽業界からも評価が高く、クラシック界の巨匠・ヘルベルト・フォン・カラヤンは「私がオーケストラで演奏するとしてもこれ以上のアレンジを必要としない名曲」(要旨)と絶賛している。
プラントはこの曲の名声が自分の将来までをも拘束することを恐れているらしく、この曲に関して質問されても「あれは成り行きで出来た曲だ」「歌詞に深い意味なんかありはしない」等々そっけない答えしかしない。他方ペイジは「『天国への階段』はバンドのエッセンスを結晶させたものだ」と発言しており[1]、ソロ活動中もしばしばインストロメンタル・アレンジでこの曲を披露している。二人の作曲者の、両極端な態度は、しかしどちらもこの曲の声価を裏書きするものだといえよう。
[編集] 参考文献
- 『レッド・ツェッペリン全曲解説』デイヴ・ルイス著 福田美環子訳 シンコー・ミュージック刊
- 『天国への階段』リッチー・ヨーク著 奥田祐士訳 シンコー・ミュージック刊
[編集] 注
- ^ a b c BS-i「SONG TO SOUL #5」(2008年2月7日午後9時00分~54分放送)による。同番組では「天国への階段」についての解説や周辺情報、 うじきつよし及び大貫憲章のコメント、デイヴ・ペグ(イギリスのフォーク・グループ「フェアポート・コンヴェンション」のベーシスト。番組でのコメントによれば当時のレッド・ツェッペリンとはバンドどうしで親交があった。また、同バンドのシンガーであるサンディ・デニーは限りなき戦いに参加している)のコメント、 サーム・ウエスト・スタジオ(旧アイランド・スタジオ)の紹介および録音に立ち会ったレコーディング・エンジニアのリチャード・ディグビー・スミスによる当時の模様の証言、ヘッドリィ・グランジの紹介およびオーナーのダニエル氏による案内と証言などが放映された。
レッド・ツェッペリン |
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ジョン・ボーナム - ジョン・ポール・ジョーンズ - ジミー・ペイジ - ロバート・プラント |
オリジナルアルバム: レッド・ツェッペリン I - II - III - (IV) - 聖なる館 - フィジカル・グラフィティ - プレゼンス - 永遠の詩 (狂熱のライヴ) - イン・スルー・ジ・アウト・ドア - 最終楽章 (コーダ) |
その他のアルバム: ボックスセット - ボックスセット2 - リマスターズ - BBCライヴ - 伝説のライヴ |
映像: レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ - レッド・ツェッペリン DVD |
楽曲 |
関連事項: ピーター・グラント - スワンソング・レコード - ブロン・イ・アー - ヘッドリィ・グランジ |