五式中戦車
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五式中戦車 チリは、日本陸軍が開発していた試作中戦車である。四式中戦車の開発と同時期である。
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[編集] 概要
武装として、砲塔には五式七糎半戦車砲(初速850m/s)、車体前面左には一式37mm戦車砲と九七式7.7mm車載重機関銃を備えている。砲塔左側面にも7.7mm車載重機関銃を備える。
また、後に攻撃力強化のため九九式八糎高射砲(45口径88mm、初速820m/s。日中戦争で鹵獲した、クルップ社製海軍用高射砲8.8 cm SKC/30を原型とした陣地固定式であり、有名な88mmFlakシリーズとは全くの別物)を搭載する案があったという説もあるが、この説を裏付ける公式な開発計画や設計資料が存在せず、現在では否定されている。どうやら本車の巨大な砲塔を見た米軍技術将校の「88mm砲でも積めるだろう」という推測に過ぎないものが誤解されて流布したものらしい。また九九式八糎高射砲が戦車砲とするには重量過大であるということも否定される理由である。
主砲はこちらも中国軍が使用していた物を鹵獲した、スウェーデン製ボフォース高射砲を、日本でコピーした四式七糎半高射砲を基本に、戦車砲用に改良した物である。75mmという砲弾の重量増にたいして、半自動装填装置(装填補助装置)を備えていた。詳細は不明だがどうやら床上の砲弾を装填手の手元まで持ち上げる装置であるらしい。
ボフォースはドイツの88mm高射砲の原型となったものだが、後者のように大量生産に対応した設計ではなかったため、そのコピーである四式高射砲からして生産数が非常に少なく、戦車向けに多数を供給するのは極めて困難であった。現物がわずかしかないので、五式中戦車用の砲から半自動装填装置を外して、四式中戦車や三式中戦車に取り付けて使いまわしで射撃試験をしていたというエピソードがあるぐらいである。そのため終戦時の五式中戦車は主砲を装備していない状態だった。
半自動装填装置と多数の銃砲弾を搭載するために、砲塔がそれまでの日本戦車に比べ巨大化し、砲塔内での作業を円滑に行うため日本戦車としては初めてバスケット(砲塔基部からぶら下げられる籠のこと)が装備された。これにより、バスケット内に立つ装填手は砲塔の回転に合わせて自ら移動する必要が無くなり負担が減るはずだった。このように本車は日本戦車としては初の数々の新機軸を搭載した、実験的要素の強い戦車であった。
本車のユニークな特徴として、副砲として車体前面左側に固定式(限定可動式)に据え付けられた一式37mm戦車砲があげられる。 この装備の目的は、
- 1、主砲の75mm砲弾の節約の為。非装甲車輌、軽装甲車輌、対戦車砲や歩兵制圧目的なら37mmで充分。
- 2、主砲弾の装填中、砲撃の間隙を埋めるため。装填作業は37mmの砲が速い。
という理由である。また開戦前の一時期、世界的に流行した多砲塔戦車の発想が抜け切れなかったということもあるだろう。日本も開戦前に試製九一式重戦車、九五式重戦車などの多砲塔重戦車を試作している。また、戦中には試製100t戦車、試製120t超重戦車(オイ)という多砲塔超重戦車も試作している。五式中戦車という、戦前なら重戦車に分類される大型戦車の開発にあたっては、これらの試作重戦車の影響を受けたとみるべきだろう。五式中戦車はこれらの後継なのである。
車体形状は一式中戦車に似ており、全面的に溶接を採用している。砲塔形状は三式中戦車に似ている。四式中戦車の砲塔が鋳造部品を溶接した物なのに対し、五式中戦車は砲塔も鋼板溶接箱組みである。車体は日本戦車としては破格の大きさであり、ドイツのティーガーI並である。直線的な単純面構成の組み合わせであり、従来の日本戦車に比べ生産性も高かったと推察される。
ただ全体に避弾経始にも少しは配慮しているとはいえ、ドイツのV号戦車、ティーガーII、アメリカのシャーマン、ソ連のT-34などのように、車体前面が一枚板の傾斜装甲で構成されていないので、それらに比べ防御面でやや不利であった。なお試作車の装甲は、焼入れによる表面硬化処理鋼板(第三種防弾鋼板)が用いられていた可能性がある。
サスペンションは水平コイル・スプリングを使用した日本戦車伝統の平衡式連動懸架装置(もともとは輸入したイギリス製戦車からの模倣であるが、多用されたためか国際的にも『日本式』とも呼ばれる)を片側に2組設置していた。転輪は片側8個。2個づつ組みになっていた。技術的には古いが信頼性は高く、自重37t程度の車体を支えるには充分であった。ただしスプリングが破損すると、構造上1ブロック全てのサスペンションが死んでしまう弱点もあった。
またエンジンは大馬力空冷ディーゼルエンジンを開発出来なかったため、航空機用としては旧式化して余剰となっていた、ハ9-2乙 川崎九八式800馬力発動機(水冷V型12気筒)を550馬力にデチューンして流用している。本エンジンはドイツのBMW製航空ガソリンエンジンのライセンス生産品であり、ソ連のBT-7やT-28、T-35で使われた450馬力のM-17Tや500馬力のM-17Mと、同じ先祖を持つ親戚といえる。
昭和20年3月に完成予定だったが、車体と砲塔がほぼ完成した状態で終戦となった。軍需動員計画上に挙げられた整備数は、昭和19年度に5両、昭和20年度に0両と量産は断念した形になっている。
本車は本車に興味を示した米軍により未完成の車体は接収されたがその後は行方不明となっている。一説には、船で米国メリーランド州アバディーン性能試験場へ輸送中に台風に遭い、甲板から海に投棄されたとも、朝鮮戦争が勃発した際、鉄不足に陥ったためスクラップにされ利用されてしまったとも言われている。
[編集] 派生型
[編集] チリII
エンジンを過給器付き500馬力空冷ディーゼルエンジンに変更したもので、計画段階で終わっている。チリIで採用されていた副砲の37mm戦車砲が未搭載である可能性が国本康文氏によって指摘されている。
[編集] ホリ
五式中戦車の車体を流用し、ホリ砲こと試製十糎戦車砲を搭載、戦闘室前面装甲厚125mm、側面25mmの重装甲、全備重量40トンの固定戦闘室形式の車輌開発計画が存在したが、計画が遅れたためにモックアップに留まった。
本車計画案にはホリIとホリIIがある。ホリIはドイツのフェルディナント/エレファント重駆逐戦車に似た形状であり、ホリIIは同じくヤークトティーガー重駆逐戦車に似ている。
こちらも整備計画数は昭和19年度の5両のみで、母体の五式中戦車と同様に実戦部隊に配備される可能性は潰えていた。
[編集] 評価
総括として、日本戦車は四式中戦車と五式中戦車により第二次世界大戦主要参戦国の主力戦車の性能に迫りつつあったが、連合国軍のM4やT-34-85には質・量ともに劣り、大戦後半に実用化されたM26やIS-2などの40トン級戦車にはとても抗し得るものではなかったと考えられている[1]。もし仮に日本本土決戦で使用されても、制空権も無く、生産数も少ないだろうこともあって苦戦は免れなかったであろう。史実ではなんら戦局に寄与する事も無く終戦を迎えた。
- ^ 昭和二十年五月に日本陸軍の参謀本部と教育総監部が出した『戦車用法』という教令によれば、「注1 四式中戦車は一〇〇〇メートルにおいて、M4戦車の正面を貫通しうるも、命中角の関係上その公算は僅少にして、側面及び背面を攻撃するを要する事多し」や「M1戦車に対しては、四式中戦車は近距離において側面、背面に対し効力を期しう」と書かれており、正面を切っての戦車戦は非常に困難だった。
[編集] 参考文献
- 『日本の戦車と装甲車輌』(アルゴノート社『PANZER』2000年6月号臨時増刊 No.331) p149~p155
- ガリレオ出版『GROUND POWER』2005年5月号 No.132 特集・日本陸軍三式/四式/五式中戦車
- 高橋 昇「五式中戦車 その開発とメカニズム」
- アルゴノート社『PANZER』2006年1月号 No.405 p83~p96
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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