ペンション
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ペンション(英・仏:pension、独:Pension、伊:pensione)は、宿泊施設のこと。
目次 |
[編集] 概要
ドイツやオーストリア、イタリア、スペインなどのヨーロッパ大陸諸国では、比較的低価格で泊まれる小規模なホテルを指す。英語圏などのベッド・アンド・ブレックファスト(B&B)やフランスのシャンブル・ドットに相当する。
しかし日本で「ペンション」といえば、民宿のうち、建物が西洋風の瀟洒な外観・内装で、食事も主に西洋料理を提供する宿泊施設を指す。ヨーロッパのペンションとは異なるものである。
「Pension」は元来、フランス語・英語で年金の意味である。退職後に年金生活をする高齢者夫婦が自宅で空き部屋を利用して、賄い付き(食事付き)の学生等向けの下宿または旅行者を廉価で泊める宿泊施設を運営したことに基づく。それが転じて、のちには運営者が年金生活をする、しないに係わらず一般のホテルよりやや低価格で泊まれる小規模な宿泊施設を指すようになった。
なお、フランス語の発音にならいパンションとも呼ばれるが、日本の一部地域においては西洋風の民宿ではなく、学生寮や下宿をさす場合がある。
[編集] ヨーロッパ諸国のペンション
先述の通り一般のホテルに比べてやや低価格かつ、家族経営を基本とするので小規模である。日本のペンションとは異なり、観光地・リゾート地に限られるものではなく、市街地に立地するものが少なくない。また、ペンションが立地するのは小都市のみでなく、大都市の中心部で営業するペンションもある。観光利用主体でないペンションが少なくないのも、日本のペンションとは異なる。
ドイツ語圏ではウィーンなど大都市の中心部で、建物のテナントに入居しているなど、建物の1つの階のみまたは2つ以上の一部の階のみで営業するペンションがある。
ドイツ語圏で、同じく家族経営の小規模で比較的低料金の宿泊施設であるガストホフ(Gasthof、ガストハウス(en:Gasthaus)とも)との違いは、同一の建物で宿泊客以外も利用できる居酒屋などの飲食店を兼営していないことがいえる(ガストホフは1階で居酒屋などを経営)。
基本的に夕食は提供しないが、ダイニングルームで朝食は提供し、料金も朝食込みが基本である。
比較的低料金のため、ペンションの客室にはバス(またはシャワー)・トイレ付きでないものが多く、その場合、共同のシャワーやトイレを使用する。一方、シャワー・トイレ付きの客室を備えたペンションもあるとはいえ、シャワー・トイレ付きの部屋はシャワー等のない部屋に比べやや料金が高くなる。日本のペンションとは異なり、ベッドが2台据えられたツインルームのほか、シングルベッドが1台のみのシングルルームも少なくない。
治安の良好な小都市のペンションでは、チェックイン時に宿泊客に客室の鍵のほか玄関の鍵も渡すペンションがあり、その場合、玄関の鍵は外出して宿へ戻るのが深夜になって玄関の扉が施錠されている際に使用するものである。しかしそれを理解しない日本人宿泊客が、深夜に玄関の扉を大きな音でノックし、経営者やその家族に迷惑を及ぼした例もある。
[編集] 日本のペンション
ヨーロッパ大陸のペンションや日本の一般の民宿同様に、家族経営が基本なので小規模である。
ヨーロッパのペンションとは異なり、観光利用・レジャー利用を主に想定しており、観光地で営業する施設が多く、市街地から離れて立地する場合が普通である。しかし、行楽利用のみを想定しているのではない。
信州・山梨県など内陸部の高原リゾートや山岳リゾート、スキー場近辺に立地するペンションが多いが、海水浴場のある観光地、離島など沿岸部で営業するペンションもある。
高原リゾートやスキーリゾートなどでは、不動産業者がペンション経営者に土地を分譲して供給する関係で、複数のペンションが集合して営業していることが少なくない。ペンションが複数集合する場所が「ペンション村」と呼ばれることもある。経営者が地元出身者の場合もあるが、他の地方から転入して営業している宿も少なくない。
客室内・廊下ともに、床にフローリングを施しているペンションが多い。
客室は基本的にはベッドのあるフローリングの床などの洋室だが、夫婦や家族連れ、友人同士での利用を主に想定しているため、ツインなど複数のベッドがある部屋が主で、シングルは少ない。部屋がバス・トイレ付きの場合もあれば、客室にバス・トイレがなく館内の共同トイレや共同バスを利用する場合もある。
宿によっては素泊まりも可能だが、多くの旅館と同様、1泊2食(夕食・朝食)付きの宿泊・料金を基本とする。食事は施設内のダイニングルームで提供される。西洋料理を供する場合が多いが、和食を供する場合もあり、洋食を基本とする食事の中に和食の惣菜も供する場合も少なくない。民宿や旅館同様に、郷土料理や食材の地産地消による料理により、食事で特色を出しているペンションが多い。
施設内のダイニングルームを宿泊客以外にも開放する形で、レストランか喫茶店の兼営で営業するペンションもあり、ヨーロッパの宿泊施設ではペンションというより、ドイツ語圏のガストホフかイギリスのイン(en:Inn、1階でパブを兼営)に近い形態である。
比較的小規模であることから和風の民宿同様、家庭的な接客サービスがセールスポイントであるペンションが多い。
宿泊料金は一般的に、ホテル・旅館に比べれば低価格だが、和風の民宿に比べればやや高額である。