ピンク・パンサー3
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『ピンク・パンサー3』(The Pink Panther Strikes Again)は1976年製作のイギリスのコメディ映画。ピーター・セラーズがクルーゾー警部を演じるピンク・パンサーシリーズの第4作で、『ピンク・パンサー2』の続編。ドタバタとパロディに徹した娯楽大作で、ドレフュス元主任警部役のハーバート・ロムの大怪演編。監督ブレイク・エドワーズ。音楽ヘンリー・マンシーニ。
目次 |
[編集] ストーリー
クルーゾーの行動に悩まされ、精神を煩って入院しているドレフュス元主任警部だが、治療の甲斐あってほぼ全快し、退院許可を待つばかりであった。しかし、ドレフュスに代わり主任警部の任に着いているクルーゾーと面会した為に再び錯乱し、退院は絶望的となってしまった。
クルーゾー憎しが昂じて病院から脱走したドレフュスはクルーゾーの爆殺を企てるが失敗。まともではクルーゾーを殺せないと判断したドレフュスは、大物犯罪者を集めて悪の組織の編成に取り掛かり、遂に世界征服をも狙える大組織を築き上げる。更にイギリスのファスベンダー博士父娘を誘拐して物体消去機を完成させ、まずニューヨークの国連ビルを消滅させる。そしてアメリカを始め世界の首脳に対しクルーゾー抹殺を要求した。ドレフュスの狙いは自らの組織によりクルーゾーを殺すのではなく、世界の国々にクルーゾーを抹殺させる事にあったのだ。
ドレフュスの脅迫に屈した各国は、捜査の為にミュンヘンのビール祭りに向かったクルーゾーに向けてそれぞれ腕利きの殺し屋を送りクルーゾー暗殺を謀る。しかし彼らは強運なクルーゾーの前で同士討ちを繰り広げ26ヶ国が失敗、残るはソ連とエジプトの殺し屋のみとなった。そして、エジプトの刺客によりクルーゾーは暗殺されたかに思えたが、身代わりになったのはドレフィスの配下であった。クルーゾーはアルプス山麓のドレフィスのアジトである古城を突き止めて乗り込もうとするが、堀と塀を越えられず悪戦苦闘を繰り返す・・
[編集] 概要
『ピンクの豹』(1963年)、『暗闇でドッキリ』(1964年)、『ピンク・パンサー2』(1975年)に続くシリーズ第4作。11年振りの新作であった『ピンク・パンサー2』の好評を受けて翌年に早くも製作された新作で、内容的にも前作の続編。主題歌も前作同様『ピンク・パンサーのテーマ』で、オープニングアニメーションにも「アニメキャラクターのピンクパンサー」が登場するが、ストーリーにダイヤモンド「ピンク・パンサー」は登場しない。タイトルと内容がまったく関係のない作品となっている。
前々作、前作でクルーゾーの為に精神を病む役柄であったドレフュス元主任警部(ハーバート・ロム)が、病院から脱走してクルーゾー抹殺の為に悪の大組織を作り上げ、世界を恐怖に陥れるという奇想天外な物語。ロムの怪演が際立つドレフィスの活躍編である。ストーリーは007シリーズなど1960年代のスパイアクション映画のパロディを基調としている。
キャストは過去のシリーズと比べて特に豪華ともいえないが、フランス、イギリス、アメリカ、ドイツにまで広がったストーリー展開、世界最大規模の祭りであるミュンヘンのオクトーバーフェスト(ビール祭り)を再現した壮大なシーン、ドレフュスのアジトである古城の豪華なセット、大エキストラを動員した国連ビル周辺シーン、列車やヘリコプターを使ってのアクションなども盛り込まれた、スケールの大きいドタバタコメディとなっている。
上演時間の面でも、2時間を越える長尺を想定して撮影された。しかし公開に当たり編集され、特に前半部のフランスからイギリスを舞台とするシーンが多くカットされた。この未発表シーン中のセラーズ登場部分の多くが、セラーズの死後に追悼作として製作された『ピンク・パンサーX』に流用された。またこの大幅なカットにより、シリーズ中でもテンポの良い作品となった面もある。
様々なパロディが含まれているのも特徴。オープニング及びエンディングアニメではヒッチコック、バットマン、キングコング、ドラキュラや、『雨に唄えば』、『サウンド・オブ・ミュージック』(本作の監督ブレイク・エドワーズ夫人のジュリー・アンドリュース主演)、『ジョーズ』など有名作のパロディが満載されている。また本編中においてもクルーゾーがカジモド(『ノートルダムのせむし男』。話の舞台はパリ)に変装したり、使用人のケイトーとカンフー対決(『燃えよドラゴン』。その場面だけスロー映像になる)をしている。
評価が分かれる面もあるが、サイレント映画時代のコメディを再現したかのようなドタバタ活劇と、パロディに徹した娯楽大作として、シリーズ中でも人気の高い1本である。本作のヒットを受けて、シリーズはケイトーをフィーチャーした『ピンク・パンサー4』へと続く。
[編集] 備考
- 黒マントを纏ったドレフュスが唐突にパイプオルガンを掻き鳴らすシーンが何度かあるが、これはハーバート・ロム自身が怪人役で主演したクラシックホラーの名門ハマー・フィルム版『オペラの怪人 (The Phantom of the Opera)』(1962年)のセルフパロディである。この映画は日本では劇場公開されなかった(テレビでは放映)が、欧米での評価は高い。
- ロムの怪演と共にセラーズのドタバタアクションが全編で炸裂しているが、セラーズは当時50歳を過ぎており、更に心臓に持病があった為、過激なアクションシーンはスタントのジョー・ダンが代演している。
- 映画序盤の名物となったケイトーの奇襲によるクルーゾーとの格闘シーンだが、本作はクルーゾー宅を破壊し尽す程の猛烈な暴れっぷりに加え、階下の部屋に侵入してクルーゾーを狙うドレフュスが絡み、シリーズ屈指の抱腹絶倒の名シーンとなっている。
- ソ連の女殺し屋オルガを演じたレスリー・アン・ダウンはセクシーな強い印象を残しているが、出演シーンは僅か15分程と少なくヒロインとは形容し難い。本作は事実上ヒロイン不在の映画である。しかしダウンにとってはこの後『ベッツィー』『大列車強盗』『スフィンクス』など話題作への出演が続き、出世作となった。
- ロンドンでクルーゾーの捜査に同行するスコットランドヤードのドラモンド刑事役のコリン・ブレークリーは、ビリー・ワイルダー監督『シャーロック・ホームズの冒険』(1970年)でワトスン医師を演じているが、この役は当初セラーズが予定されていた。
- 毎回役柄を変えて出演するグレアム・スタークは、今回はミュンヘンとアルプス山麓のホテルのフロント係の二役で出演している。ミュンヘンでは背後しか映らず顔が確認出来ない。アルプスのホテルでは、クレジットを確認しなければまず識別不可能な程の、セラーズも顔負けの見事な老け役を演じている。
[編集] キャスト
- ジャック・クルーゾー主任警部:ピーター・セラーズ
- ドレフュス元主任警部:ハーバート・ロム
- オルガ:レスリー・アン・ダウン
- ケイトー:バート・クウォーク
- ドラモンド刑事(スコットランドヤード):コリン・ブレークリー
- クインラン警視(スコットランドヤード):レナード・ロシター
- フランソワ刑事:アンドレ・マランヌ
- ホテルフロント:グレアム・スターク
- エジプトの殺し屋:オマー・シャリフ(ノンクレジット)