ヒラタクワガタ
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?ヒラタクワガタ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Dorcus titanus | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ヒラタクワガタ |
ヒラタクワガタは昆虫綱コウチュウ目(甲虫目、鞘翅目)クワガタムシ科オオクワガタ属ヒラタクワガタ亜属に属する昆虫 D. titanus の日本産諸亜種をさす総称[要出典]であるが、市販の図鑑では本土に分布する亜種の亜種名としても記載される。体長はオスの場合、大アゴを含めて24から74ミリメートルに達するが、これは対馬、八重山諸島の亜種に限った場合である。黒から黒褐色の頑強で平たい身体を持ち、大顎も他のクワガタに比べると薄く平たい。この体型がヒラタクワガタの語源と思われる。オオクワガタに次いで[要出典]飼育が容易であり、日本だけも数多くの亜種が存在するため飼育でも標本でも愛好者が多い。
和名でヒラタクワガタと呼ばれる種群は、近年国立環境研究所の五箇浩一と現代のクワガタ飼育技術の草分けである昆虫研究家の小島啓史が共同で行った、ミトコンドリアDNAに基づく分子系統樹により、現在ホンドヒラタなどと仮称[要出典]されている原名亜種群と、九州地方北部と山口県西部の一部に産する本土型のツシマヒラタ(ツシマ系ホンドヒラタと仮称)の混生群を指している事がわかってきた。
[編集] 形態
ホンドヒラタのオスの大アゴは、湾曲が弱く、基部から2/3は直線的で、下方への湾曲も少ない。第一内歯は根元から1/3にあり、先端部分の小歯は弱く小さい。内歯から小歯の間に一連の鋸歯を備えるが小型個体では消失する。頭楯は幅が広く中央部が緩やかにくぼむ。ツシマ系ホンドヒラタのオスの大アゴは細長く、ほぼまっすぐで先端のみ湾入する。第一内歯は大アゴの基部1/4にあり、大アゴ先端の小歯は大型個体では良く発達する、第一内歯と小歯の間には、一連の鋸歯があるが小型個体では消失する。頭楯はホンドヒラタより狭く両端がやや突出し、中央部はやや強くくぼむ。
ホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタでは、内歯の位置は体長によって変化しない。近年70ミリメートルを大きく超え、第一内歯が中央部付近にあるオスが本州各地で発見されているが、五箇と小島がミトコンドリアDNAをもとに調べた範囲では、沖縄島嶼部に産するサキシマヒラタや外国産ヒラタクワガタの遺棄個体であることが確認された。従って従来の知見通り九州・本州・四国と周辺島嶼に元々産するホンドヒラタは、第一内歯の位置が体長によって上下しない点が特徴と思われる。
どちらのヒラタクワガタも全身黒褐色から黒色の個体が多い。小型個体や雌の鞘翅上面には不明瞭な点刻列がある。オスの小型個体とメスは背面に艶が目立ち、大型個体はつや消しに見えることが多い。
[編集] 分布と分類
ホンドヒラタは本州・四国。九州・種子島・屋久島・伊豆諸島に産するが、伊豆諸島の内八丈島産はハチジョウヒラタとして別亜種とされる。この亜種には、第一内歯が大アゴ先端に近づくオスが存在するため、ホンドヒラタとは別亜種とされるようになった。
また、遺伝的に識別できるツシマ系本土ヒラタの分布は、九州の北部と山口県の北西部のみから知られる。ただし、形態的には山口県南部から福岡県北部にかけて生息しているヒラタクワガタの一部がツシマヒラタの様に第一内歯が大アゴの根本付近に位置し、体全体が細め。甑島列島の個体にもこの特徴が現れている。
通常、同所的に二群の昆虫が存在するとき、その二群は別種とすることが多い。ホペイオオクワガタはかつてクルビデンスオオクワガタの亜種とされたが、同所的に産することが確認され、現在は別種扱いになっている。ホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタを東南アジア全域のヒラタクワガタ・オオヒラタクワガタ群の中に置いて、ミトコンドリアDNAを元に分子系統樹を描くと、どちらも中国本土のチュウゴクヒラタの子孫に当たることがわかっている。しかし分布経路は大きく異なり、ホンドヒラタが、タイワンヒラタ・サキシマヒラタ・ハチジョウヒラタの子孫系で、ツシマ系ホンドヒラタはチュウゴクヒラタと朝鮮半島産ヒラタクワガタ・ツシマヒラタの子孫にあたる。
チュウゴクヒラタからわかれた点ではどちらもオオヒラタ群ではなく、中型のヒラタクワガタ群と見なせるが、五箇と小島が行った東南アジア各地のオオヒラタ群との交雑試験では、ツシマヒラタおよびツシマ系ホンドヒラタのみにオオヒラタ群との継続妊性が確認された。つまり妊性だけから見ると、ツシマヒラタとツシマ系ホンドヒラタはオオヒラタ群と近縁と見なせる。
この様にホンドヒラタとツシマ系ホンドヒラタは、別種としてよいだけの分布経路・ミトコンドリアDNAの相違・妊性の違いなどがあるが、日本のヒラタクワガタのタイプ標本が紛失していることから、敢えてこの二群を別種として再記載する試みは、分類学者によってまだ行われていない。
こうしたヒラタクワガタ類の地域変異やその分布の成立要因に関して、小島啓史は野外での生態観察や、累代飼育によって得られた情報によって、次のような仮説を展開している。
日本周辺に存在するオオクワガタは一亜種だけだが、これはこの亜種が流木経由で分布を広げにくい「内陸型」のクワガタだからと考えられる。日本と朝鮮半島産オオクワガタは同じ亜種だが、日本産のヒラタクワガタは沖縄では島嶼ごとに分化が進み、島ごとに数万年から10数万年の開きがある。これに関して、ヒラタクワガタ群の幼虫が過湿状態に強い地下生活者であったため、流木経由で分布を拡大できる「低湿地型」のクワガタだったからと仮定している。
日本周辺のヒラタクワガタ群は、氷河期の終わりごとに赤道周辺から北上して、その時々に達した地域を足がかりに分布域を広げたが、熱帯地方出身のため幼虫が冬期、零度以下の温度に耐える耐寒越冬状態になれないため、分水嶺を超えて分布を広げた形跡はない。そのため氷河期がくると分布域を南下させる必要が生じ、日本周辺には、波状に侵入を繰り返した結果と思われる細分化した群が見られる。日本周辺のヒラタクワガタ群は、亜種間によっては10~100万年と言う分化が進んでおり、氷河期と間氷期を調べるのに最適な標本であると考えられている。
スマトラ産の亜種やパラワン産の亜種は特に大きくなり、クワガタの中でも最大級の大きさになる。
[編集] 種類
- ヒラタクワガタ
- インドネシアから日本に至る広大な生息域を誇る。世界最大級のクワガタの一つで亜種によっては100mmをこえる
- スマトラ産 - 最も太いアゴをもつ産地。幅や厚みもあり、人気も高い。100mmをこえる。
- セレベス産 - アゴが細くあまり人気はないが多く輸入されてくる。
- ミンダナオ産 - スマトラヒラタとパラワンヒラタの中間的特長をもつといわれる。
- パラワンヒラタクワガタ - 100mmを超える最大級のクワガタ。好戦的で、虫王決定戦では圧倒的な強さを見せ付けている。飼育下でも大型個体が得られやすいが、オスの幼虫では2Lの菌糸ビンを4~5本軽く消費することもある。
- アルキデスヒラタクワガタ
- 100mmをこえる大型種。姿形と類をみない凶暴な性格が特徴的。短歯型と呼ばれるアゴの太短い個体はかっこよく人気がある。
- ダイオウヒラタクワガタ
- ジャワ島特産の大型種。重厚で幅広い体と太短い特徴的なアゴをもつ。凶暴。
関連情報 「むし」ショップティタヌスなどヒラタクワガタ専門の店などがある。ヒラタ同盟などヒラタクワガタに興味を持っている人たちが集まる同盟もある。