チャイナエアライン120便炎上事故
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概要 | |
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日付 | 2007年8月20日 |
原因 | 出火炎上(未確定) |
場所 | 沖縄県・那覇空港41番スポット |
死者 | 0 |
負傷者 | 3(他、地上職員1名) |
航空機 | |
機体 | ボーイング737-800 |
航空会社 | チャイナエアライン(中華航空) |
機体記号 | B-18616 |
乗客数 | 157 |
乗員数 | 8 |
生存者 | 165(全員) |
チャイナエアライン(中華航空)120便炎上事故とは、2007年8月20日、中華民国(台湾)・台北発那覇行きのチャイナエアライン (CI) 120便(ボーイング737-800型機)が、目的地の那覇空港到着直後にエンジンから出火し爆発、炎上した航空事故である。
事故機には乗員・乗客165名が乗っていたが、火災が広がる前に全員脱出し、機体が全焼しながらも死者が出なかったことは奇跡的と評されている。
目次 |
[編集] 事故概要
(以下、時刻表記に関しては特記のない限り日本標準時である)
事故機のボーイング737-800型機(機体記号B-18616、2002年製造)はチャイナエアライン120便[1]として現地時間の午前8時14分(日本時間9時14分)に台北を離陸した。運航乗務員2名(48歳の機長と26歳の副操縦士)、客室乗務員6名(うち1名は日本人)、乗客155名、および座席の割り当てを受けず乗客名簿に記載されない乳幼児2名の合計165名が搭乗していた。乗客のうち110名は中華民国籍、23名が日本国籍、24名がその他の国籍であった。
国土交通省発表によれば、120便は午前10時27分に那覇空港に着陸後、41番スポットまでタクシングしたが、その途中で機体右側の第2エンジン[2]から煙が出ているのを管制官が目撃。また地上にいた整備士は第1エンジンから燃料が漏れている[3]のを確認し、機長に緊急脱出を要請した。午前10時32分に第2エンジンから出火した。機は午前10時34分に41番スポットに停止したが、乗客が緊急脱出中、第2エンジンが激しく炎上した。火は地上に流れ出た燃料に燃え広がった後、風下にあたる左側の第1エンジンに燃え移り、午前10時35分に機体が爆発・炎上した。空港内の消防隊のほか、管轄の那覇市消防本部、航空自衛隊那覇基地所属の消防隊、更に浦添市、糸満市、豊見城市、東部消防組合、島尻消防・清掃組合の各消防本部から消防隊が出動し、火はおよそ1時間半後に消し止められたが、機体はほぼ全焼した。
乗客は全員が機外へ脱出し死者は出なかった。脱出時間に要した時間についてチャイナエアラインは60秒としているが、微妙な食い違いがあり正確な時間は不明である。国際基準である「90秒ルール」(英語版参考記事)は守られたということにはなっている[4]。国土交通省の報告は、約2分としている[5]。爆発時まで機内に残った運航乗務員2名が操縦席から飛び降りる(機長は左の窓から脱出しようとしたが既に炎が強く右の窓から脱出しようとしたが、少しためらってしまったようで爆発し振り落とされた。幸いにも操縦席は爆風の直撃は免れ副機長は余裕がなかったのかすぐさま飛び降りた)という際どい場面もあった他、乗客の男性と女児が脱出後に気分が悪くなり病院に搬送された。この他、客室乗務員1名が爆風で転倒し、また事故発生時現場に居合わせた地上の整備員1名が負傷した。また、地上業務を中華航空から委託されていた日本トランスオーシャン航空やその系列会社の地上職員が脱出の手助けを行った。
なお、機長は避難誘導の機内アナウンスを行わずに、直接乗務員に避難を指示させた。これについて機長本人は適切な判断だったとしているが、日本のマスコミは誘導方法として問題があると評した。
この事故を受けて那覇空港は一時滑走路を閉鎖したが、午前11時頃までに規制は解除された。なお、事故発生の際、那覇空港事務所が那覇市消防本部への119番通報を失念、近くの瀬長島にいて事故を目撃した非番職員によって那覇市消防本部に連絡が入った。
当該機は9月19日未明に撤去された。
[編集] 報道体制
テレビ東京を除く各キー局とNHKの総合テレビでは、報道特別番組を編成して対応した。第89回全国高等学校野球選手権大会のテレビ中継を行っていたNHKと朝日放送では、NHKではもともと一部時間帯で放送されている教育テレビでの放送に一時振り替え、朝日放送では一時中断して関連ニュースを放送した。各局のニュースでは140便・676便・642便・611便など、チャイナエアラインの過去の事故と併せて報道した。
炎上事故が起こった場所が国内線ターミナルビルの北ウイングに面していて、同ウイング2階にある搭乗待合室や同ターミナルビル3階の見学者デッキからよく見える場所だったため、ビデオカメラや携帯電話で事故の様子を撮影していた利用客や送迎客がおり、これらの映像が提供され事故当日午後以降のニュースなどで放映された。
また、那覇空港近くの沖縄都市モノレール本社にウェザーニューズがお天気カメラとして設置している定点カメラ(那覇空港LIVEカメラ、1分毎の画像を同社グローバルセンターに電送している)に、爆発後の黒煙が鮮明に写っており、事故当日のテレビ朝日系列 スーパーJチャンネルで放送し、ウェザーニューズ公式サイトでも画像が公開された。
全国FM放送協議会(JFN)加盟FMラジオ局では事故当時にTOKYO FMより赤坂泰彦のディア・フレンズを放送しており、番組の途中でこの事件に関するニュースが流れ、番組終了後にJFNCのSwitch!や各局のローカル番組の冒頭で再度この事件に関する速報をパーソナリティが伝え、その後も各局のニュース枠で報道を続けた。
[編集] チャイナエアラインの対応
チャイナエアラインは、事故当日の夜に記者会見を行い、事故を起こした事について謝罪を表明した。翌21日に社長が来日し、乗客に見舞金として100$を渡した。また、23日に、荷物の補償金を支払うと表明した[6]。
また、捜査当局の許可を得て8月21日に事故機の会社標識(尾翼の花のマーク)や社名(CHINA AIRLINESのロゴ)を白く塗りつぶした。これは、座礁や事故を起こした民間船舶が煙突部分の標識(ファンネルマーク)を塗りつぶすのと同じく、航空機においても国際的な慣習となっている。日本の報道機関は「企業イメージの低下を避けようとしている」と報じた。
中華民国では迅速な対応を行い死者を出さなかった機長を英雄視している。2007年8月22日(中国標準時)には副総統の呂秀蓮が「(避難誘導で見せた)機知と態度をみんな学ぶべきだ。最高の敬意と感謝を伝えたい」[7]と賞賛し、中華民国総統府にて機長や客室乗務員に対し記念カップを贈った。
しかし、チャイナエアラインの対応について日本のメディアは批判的な立場をとる。特に「真相報道バンキシャ!」では事故後1週間にわたり乗客に取材して、2007年8月26日放送分で事故の様子を再現・検証し、「煙が上がり炎が出ているにもかかわらず、乗務員は席に戻って座るように指示した」「機内放送装置を使った中国語・英語・日本語による避難誘導アナウンスは聞こえなかった」「非常口を開けるように要請したが客室乗務員はすぐに対応しなかった」「脱出時に滑り降り方などの説明がなかった[8]」等の証言を紹介して、整備不良の問題のみならず、乗務員の安全に関する意識の欠如や訓練不足について指摘している。一方で「炎上している中で緊急脱出を最優先させるために、機内放送装置を使った複数言語による避難誘導アナウンスをすることや滑り降り方の説明は物理的に難しかったのではないか」という他社客室乗務員からの指摘もある。
[編集] 原因調査
炎上事故の原因は調査中であるが、最初に燃料漏れと発煙が確認された事が事故当初から報じられており、燃料漏れの原因に関心が寄せられた。
[編集] 当初指摘された説
各メディアや専門家は当初、様々な説を唱えており、フジテレビジョンは一時、ウイングレット搭載改造が火災の原因の疑いもあると伝えた。 しかし当該機種737-800のウイングレット搭載は製造者が提供する純正の改造であり、根拠の乏しい報道である。
また、原因をエンジン火災に求める観点から、乗務員がエンジンの発火を認識して停止操作や消火操作を行ったか、あるいは燃料を送り出すポンプの作動を止める操作を行ったかについて注目する指摘もあった。尚、事故後の事情聴取で運行乗務員らが火災の通報をうけてエンジン停止、消火処置を施したと証言し、8月24日に発表されたボイスレコーダーの解析結果で、この主張が裏付けられた [9]。
やがて、地上整備員による最初の目撃証言が広く伝えられ、発火・爆発の原因として機体からの燃料漏れに注目が集まった。右翼の燃料漏れと、右側主翼下第2エンジンの発火を2人の整備員が目撃しており、東京大学の加藤寛一郎名誉教授は「漏れた燃料が高温になり、それが空気と混合されたときに爆発したことも考えられる」と述べており、各メディアもこの説を広く報じた。燃料漏れが発生した右側主翼下第2エンジンは、激しく炎上した左側主翼下第1エンジンとは別である。
燃料漏れは、長時間の飛行によって生じる機体の腐食、亀裂などが原因となることが多い。しかし、最新鋭の機種であり、「まだそれほど長時間は飛行していないボーイング737-800に、そのような危険性はあり得ない」とする意見もあり、機体の燃料漏れについては、エアトランサット236便滑空事故のような、整備時の部品交換のミスによる可能性も指摘された。
また、最初に燃料漏れを目撃した整備員が、パイロンと翼の接合部分付近から燃料が滝の様に噴出していたと証言した事から、燃料パイプのうち太い個所が外れて、そこから大量の燃料が流れ出た可能性が指摘された。或いは、滑走路走行中やタキシング中に路面の異物をタイヤで巻き上げ、燃料タンクやパイプに当たって穴が空いた可能性も指摘された。出発時の搭載燃料と到着時の残量からみて飛行中に燃料が漏れていたとは考えにくく、着陸後に配管に何らかのトラブルが生じたとの見方もあった[10]。
[編集] 「ボルト脱落」
8月23日に行われた国土交通省航空・鉄道事故調査委員会の記者会見では、翼のスラットのアーム(駆動機構)の先端部分が破断して脱落したボルトが何らかの理由で燃料タンクを突き破り大量の航空燃料が漏れ、排油口を伝ってエンジン部分で噴霧状態になり、エンジンの余熱で発火・炎上したのが主な原因とした。「ボルト脱落」について、整備士や専門家からは通常ではありえない事故原因だという指摘も出た[11]。
同24日に、ボルトに付けるべきワッシャ・ダウンストップ・ストップロケーションが外れていた事 [12]、また、アームの穴よりもボルトの頭・ナットの大きさが小さく、ワッシャ等が無いとボルトが穴を通り抜けて脱落する可能性があることが報じられ、脱落したボルトがアームに押されて燃料タンクを突き破ったとする見方が強まった。
ボルトの脱落原因が設計に起因するものか製造時に起因するものか、あるいは整備不良なのかは引き続き調査されることになっているが、ボーイング737型機では設計上の要因が元になっていると思われる同様のボルト脱落が過去に2件起きており、これを受けて2005年に製造元のボーイング社が航空各社に注意喚起の文書を送付していたことも判明した。
また、今回の事故を受けて国土交通省は、ボーイング737の同系列機(737-700、同-800)を運航するエアーニッポン(全日空(ANA)便名でも運航)と日本航空(JAL)、スカイマークの国内各航空会社に対してボルトの取付け状態を確認する旨の耐空性改善通報を出したが、8月30日に国土交通省は、エアーニッポンのボーイング737−700型機においても、事故機で外れていたのが確認されたのと同じワッシャが欠落していたと発表した[13] 。問題になった箇所は当機が2007年1月に製造されてから点検されておらず、製造時から欠落していたのではないかと指摘されている。
[編集] 過去の類似事故
飛行中に燃料漏れで火災を起こし墜落した事例は過去にもあるが、この事故のように、着陸後に駐機場まで自力で移動してから燃料漏れで火災が発生し機体が大破した事例は極めて稀である。以下に、駐機中の火災もしくはボルトの脱落に起因する事故を例示する。
- 1957年3月14日に、アムステルダムからマンチェスターに向かっていた英国欧州航空411便(ビッカース バイカウント701ターボプロップ機)が、右翼フラップに装着されていたボルトの座金が工作不良のため疲労破損したため、フラップの誤作動を引き起こし着陸直前に墜落。乗員乗客20人全員と地上の2人が死亡した。
- 1999年2月24日に、中華人民共和国の国内線として運航されていた中国西南航空4509便(ツポレフTu-154)が浙江省瑞安でへ着陸進入中であった高度1000mでフラップを下げたところ、主翼のセルフロックナットが外れ、ボルトが抜け落ちた。そのためピッチ角の制御を喪失したため操縦不能に陥り墜落。乗員乗客61人全員が死亡。整備不良が原因とされた。
- 2001年5月3日に、タイ・バンコクのドンムアン国際空港に駐機していたタイ国際航空のボーイング737-400型機が出発前に突如炎上し、出発の準備をしていた客室乗務員ら8人が死傷した。当時のタクシン・チナワット首相がこの機に搭乗予定であったため、機材の故障とテロの両方の可能性が疑われたが、最終的に原因は特定されていない。
- 1990年12月に沖縄県の下地島空港で訓練飛行機材であった全日空のボーイング747が駐機中にエンジンから出火してエンジン1機が焼失する事故を起こしていたという。この事故は運輸省(当時)から航空事故の指定を受けていないため公的調査は行われなかったが、全日空の独自調査で部品の擦りあいによって燃料パイプに穴が開き、エンジンに燃料が降り注いだため火災が発生したことが判明している[14]。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 航空事故調査報告書要旨(2007/08/20 那覇空港駐機場(41番スポット)) - 航空・鉄道事故調査委員会
- ウェザーニューズ・事故前後の那覇空港LIVEカメラ映像(事故機炎上の様子が公開されている)
- 那覇空港におけるCI120便の事故について(第三報) - チャイナ エアライン
- 那覇市において発生した中華航空炎上事故(最終報) - 総務省消防庁
- 那覇空港で発生した中華航空事故機と同系列型エンジンを装備する我が国航空機に対する燃料系統の一斉点検について - 国土交通省
- Aviation Safety Network
[編集] 脚注
- ^ 中華民国の桃園国際空港を現地時間午前8時15分(日本時間9時15分)に出発し、那覇空港に午前10時45分に到着する定期旅客便である。
- ^ エンジンは両主翼下部に1機ずつ。尾翼上空側から見て左右の順に第1エンジン・第2エンジンと呼ぶ。
- ^ 燃料タンクは両主翼に1つずつ(左右の順に第1タンク・第2タンク)と、その間に1つ(機体腹部の中央タンク)の合計3つ。
- ^ 「全乗客、90秒で脱出・中華航空機炎上事故」(日経新聞)
- ^ 「会社側と乗客、避難状況に食い違い 中華航空機炎上」(朝日新聞8月22日付報道のキャッシュ)
- ^ 「荷物補償含め23万円、炎上事故で中華航空が乗客に見舞金」(読売新聞8月23日付報道のキャッシュ)- 補償金額(見舞金を全員に2万5千NT$、荷物補償でエコノミークラスの客には4万NT$、ビジネスクラスの客には5万5千NT$)、エコノミーの場合の計6万5千NT$は1NT$=3.5円換算で23万円弱
- ^ 野嶋剛「事故の機長ら台湾では歓待――那覇・中華機炎上」『朝日新聞』43592号、朝日新聞東京本社、2007年8月23日、6面。
- ^ 荷物は置いて脱出する。また、ハイヒールのヒールが脱出シュートに穴を開ける恐れがあるため、脱いで手に持って脱出する。脱出時に乗務員がその様に指示する。
- ^ 「中華航空機長、直前まで異常気づかず レコーダーを解析」(朝日新聞8月24日付報道のキャッシュ)
- ^ 「中華航空機炎上 計器表示異常なし 事故調、実況見分を開始」(産経新聞8月21日付報道)- 出発時と到着時の量について検討
- ^ 「ボルト脱落、想像できぬ 中華機炎上で整備士・専門家ら」(朝日新聞2007年8月24日付報道)
- ^ 「留め具つけ忘れボルト脱落、整備状況調査へ 中華機炎上」(朝日新聞8月25日付報道のキャッシュ)- 部品の構成について図がある
- ^ 中華航空事故に関連した我が国航空機に対するスラット機構部取付状態の一斉点検における不具合の発見について(別紙) - 別紙には正しい設置例と、ワッシャーを欠いた当該機の写真がある
- ^ エアライン2007年10月号の記事による。