エアトランサット236便滑空事故
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
概要 | |
---|---|
日付 | 2001年8月23日 |
原因 | 不適切な整備による燃料漏れ |
場所 | アゾレス諸島・ラジェス空軍基地 |
死者 | 0(緊急着陸に成功) |
負傷者 | 18(着陸後の脱出時に負傷) |
航空機 | |
機体 | エアバスA330-300 |
航空会社 | エアトランサット |
機体記号 | C-GITS |
乗客数 | 293 |
乗員数 | 13 |
生存者 | 306(全員) |
エアトランサット236便滑空事故(英語:Air Transat Flight 236)とは、2001年に発生した航空事故(燃料切れによる無動力緊急着陸)である。大西洋上の巡航高度から動力なしで滑空飛行し緊急着陸に成功した。
目次 |
[編集] 事故の概要
2001年8月23日。エアトランサット 236 便は、エアバスA330-300(1999年製造、機体記号:C-GITS、定員 362 席)で運航されており、カナダのトロントをアメリカ東部夏時間の午後8時52分(世界標準時8月24日午前0時52分)に離陸しポルトガルのリスボンに向かう大西洋横断便であった。同便には乗客 293 名と乗員 13 名の 306 名が搭乗していた。また同便には航空燃料 (JET A1) 47.9 トンが塔載されており、これは 5.5 トンの予備用燃料を含んだものだった。
事故後の調査で、離陸しておよそ 4 時間後の8月24日午前4時38分 (UTC) 頃、大西洋上を巡航中に燃料漏れが始まったと推定されているが、コックピット内のクルーはこれに気付く術がなかった。午前5時33分に、左右燃料タンク内の残燃料のアンバランスを示す警報が作動した。操縦乗員は当初、機械の誤作動を疑ったが、表示される残燃料がどんどん減少していくことから、リスボンまで行き着くのは不可能と判断しアゾレス諸島テルセイラ島のラジェス空軍基地にダイバートすることを決定した。
しかし、燃料の急速な減少は止まらず、午前6時13分に第 2(右)エンジンが燃料切れによりフレームアウト(停止)した。このとき高度は 39,000 フィート、ラジェス基地までの距離はおよそ 150 海里(およそ 270 キロメートル)だった。エンジン 1 基では高度を維持することが出来なくなり、次第に降下し、13 分後 (06:26, UTC) にはついに第 1(左)エンジンも停止し、滑空状態となった。このときラジェス基地からの距離はおよそ 65 海里、高度は 34,500 フィートであった。
航空機の電力はエンジンによる発電でまかなうため、同時に発電も不能となりほぼ全ての電気系統・油圧系統がダウンし、客室内も真っ暗になった。操縦士は非常用風力発電機(ラムエア・タービン)によるわずかな補助電力で無線交信および操縦系統に必要な作動油圧を確保した。降下率は毎分 2,000 フィート(600 メートル)であり、15 - 20 分のちには海上へ不時着水しなければならない計算であった。そのため、万が一たどり着けない場合は海上に不時着することを乗客に伝えた。
ラジェス基地に近づくにつれ、そのままでは高度が高すぎることが判り、滑走路手前およそ 10 海里の地点で 360 度の左旋回を行い高度を下げた。旋回中に高揚力装置である前縁スラットを展開し、また、全部の車輪を出すことに成功した。それでもまだ降下が足りず、何度かにわたり S 字旋回を繰り返した。午前6時45分 (UTC) に機体は滑走路端を通過し、時速 200 海里(およそ 370 キロメートル)で滑走路端から 1,030 フィートの地点に一旦接地したのち大きくバウンドし、2度目に接地したのは 2,800 フィート地点だった。エンジン停止のため逆噴射による制動はできず、アンチスキッド機能が失われた状態での急ブレーキ操作により、10,000 フィートの滑走路の 7,600 フィート地点でようやく機体が停止した。合計 10 本のタイヤのうち 8 本がバーストしていた。左主脚付近で小規模な火災が発生したが、待機していた消防隊によってすぐに消し止められた。機体停止位置でのシュートによる緊急脱出の際に 2 名が重傷、16 名が軽傷を負った。
[編集] 事故原因
[編集] エンジン整備
当該機のエンジン(ロールス・ロイス RB-211 トレント 772B)は事故前の2001年8月17日に定期的な交換作業が行われていた。このエンジンは製造年により仕様が異なり、油圧および燃料の配管レイアウトが若干異なっていた。事故直前の交換時(第2エンジン)は、ちょうどこれら異仕様エンジンの交換となったが、この場合には配管部品類も同時に交換する必要があった。ところが整備員にこのことが周知されておらず、エンジンと配管部品の組合せを誤った状態(これにより油圧および燃料配管がエンジン本体と接触した状態となった)で取り付けてしまった。このため飛行中の振動等により、燃料配管に長さ80mm、幅2.5mmのL字形の亀裂を生じ、この亀裂から大量の燃料がリークした。
[編集] パイロットの対応
コックピットではじめに表示された異常は左右の燃料タンク残量のアンバランス (FUEL IMBALANCE) を示すものだったが、機内のマニュアルを正しく辿っていけば燃料漏れ (FUEL LEAK) の可能性に気付くはずであった。そしてそれに気付いていればリスボンまでは到達できなかったにせよ、ラジェス基地まではエンジンが停止することはなかったと推定された。しかし、実際には前者 (FUEL IMBALANCE) の調査・対応に多くの時間を費やしてしまい、結果として最後の数十分間に必要だった燃料まで空中にばら撒いてしまった。
カナダ政府はトランサット航空に対して不正な機体整備をしたとして、250,000 カナダドルの制裁金を課した。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
[編集] 外部リンク
- Accident Investigation Final Report from the Portuguese Aviation Accidents Prevention and Investigation Department (PDF)
- Air Transat's report
- Accident description on the Aviation Safety Network
- News report on logistical issues after the incident
- CBC News article
- Captain Robert Piche's Official Website