ズメイ
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ズメイ(Zmey)は東欧を代表する空想上のドラゴンである。地域によって性格は全く異なる。また西洋のドラゴン=悪と言う図式が一般には流通している模様だが、ズメイには守護竜としての性格の強いドラゴンも多い。(詳細はドラゴンの「神話学におけるドラゴン」項目を参照)なお、ズメイとは「蛇」や「竜」という意味である。
[編集] 東欧・中欧のズメイ伝承
この竜は人間とよく似た性質を持っている。たとえば、ブルガリアなどの伝説では、ドラゴンには雌雄があり、人間同様の外見の差異が認められる。農耕神としては全く違う性質を持っている。
メスのドラゴンは、人類を憎んでおり、天候を荒らしたり作物を枯らしたりして、兄弟であるオスのドラゴンといつも喧嘩をしているとされる。それに対してオスのドラゴンは、人を愛し、作物を守るとされている。炎と水は、ブルガリアのドラゴンの神格を表すのによく使われ、メスのドラゴンは水の特質、オスのドラゴンは炎の特質とされることが多い。スラヴ神話の火神スヴァローグと戦う伝承も残されている。
リュブリャナには多数のズメイ像があり、橋によくズメイの彫刻がある。翡翠(エメラルド)色のドラゴンである。そのため「竜の橋」と言われ親しまれている。なお、ブルガリアのドラゴンは3つ首で表現されるズメイ伝承が多い。ブルガリア、スロベニアの竜(ズメイ)は守護の性格が強い。
マケドニア共和国、 クロアチア、 ブルガリア、ボスニア、セルビア、モンテネグロでは竜をズマイ(zmaj), ズメイ(zmej)と呼ぶ。ルーマニアではズメウ(zmeu)と呼ばれ3つ首以上の多頭竜で邪悪な竜で炎を吐く。セルビアではアジュダヤ(aždaja)、ボスニアではアジュダハ(aždaha)とも呼ばれる。
ジルニトラ(Zirnitra)は古くからの東欧伝承の神である。黒竜の姿である。すべての魔法の源であるという。
ポーランドでは竜はスモーク(smok)と呼ばれ、邪悪で残虐無比である。ズメイ伝承とは異なる。
[編集] ロシア・ベラルーシ・ウクライナのズメイ伝承
ロシアやベラルーシ、ウクライナでは、ズメイ(ドラゴン)は悪の存在である。通常3つ首以上で表現され、火と毒を噴く。右の絵のように退治されるべき存在である。首を切り倒しても復活するという伝承があり、ヒュドラ伝承と酷似する。モスクワ市は聖ゲオルギウスを守護聖人としている。またキエフ近く大蛇の壁(Serpent Wall)を乗り越えて侵略することからも遊牧民族のシンボルとして竜と結びつける事がある。
ただし、ヨーロッパ=ロシアのカザンではズメイではなく、ジランダ(Zilant)と呼ばれる。またチュヴァシ竜(Chuvash dragon)伝承もある。ロシアの竜伝承すべてが邪悪ではない。ただしズメイと呼ばれるものはスラブ系ロシア民族は一般的には邪悪とみなしている。そこが東欧とのズメイ伝承との大きな違いである。
シベリア=ロシア地域(ウラル山脈以東)でもズメイ(ドラゴン)はロシア人にとっては悪である。中にはチュヴァシ竜のような流星を龍にみたてる信仰もある。モンゴル系民族はシャーマニズム信仰も強く、チベット仏教(ラマ教)の影響も強い。このためこの地域は仏教からの龍信仰も強く一様ではない。ソビエト時代の宗教弾圧にも負けず生き延びている。ただし、シベリア=ロシア地域の西側のアルタイ人などは東方正教への改宗が進みかなりロシア化された。竜信仰も薄れたものと思われる。