シャーマニズム
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シャーマニズム(英:Shamanism, シャマニズムとも)は、シャーマン(巫師)の能力により成立している宗教。シャーマンはツングース語「šaman, シャマン」に由来し、トランス状態に入って霊(超自然的存在)と交信する現象を起こすとされる。この現象自体や現象に基づく思想をシャーマニズムと呼ぶこともある(ミルチャ・エリアーデなど)。広義には地域を問わず同様の宗教、現象、思想を総合してシャーマニズムと呼ぶ。アニミズムを伴うことが多く、実際の宗教形態においてはシャーマニズムのみが存在するということはほとんどない。
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[編集] 用語
日本語における「シャーマニズム」「シャマニズム」の区別は、研究者の学問分野と密接な関係がある。北海道・樺太・シベリア・満州・モンゴル・朝鮮半島を中心とした北方文化圏の研究者の多くは「シャマン」「シャマニズム」という表記を用いてきた。ツングース語の発音は「シャマン」に近いとされる。一方、沖縄(琉球)・台湾・中国南部・東南アジア・インドを中心とした南方文化圏の研究者の多くは「シャーマン」「シャーマニズム」の表記を用いてきた。また第3に、欧米の民族学・人類学・宗教学の研究を紹介する際の翻訳語としては、「シャーマニズム」「シャマニズム」が任意に用いられている。堀一郎の場合、「シャーマニズム」という表記にはこの対象を世界的視野で捉えようという意図が込められているという指摘がある。[1]。
[編集] シャーマニズムの定義
シャーマニズムの定義は学者によって様々である。 まず地域であるが、北アジアに限られるとする説と、世界中の他の地域で見られる諸現象を含める説がある。 また超自然的存在と交信する際、脱魂と憑依(憑霊)のどちらを基本と捉えるかについても意見が分かれている。エリアーデは脱魂(ecstasy)を本質的とするが、I. M. ルイスは憑依(possession)を重視する。
佐々木宏幹によると、シャーマニズムには、次のような3つの要素があるとされる[2]。
- トランスという特別の精神状態において脱魂(ecstasy)または憑依(憑霊)(possession)が行われる
- 神仏・精霊などの超自然的存在と直接接触・交流・交信
- 社会的に一定の役割を持つ信仰と行動の体系
トランスは、ある種の異常心理状態ではあるが、平常の社会人と半ば交流できる状態でもある。また演技的なものもあると考えられている。「脱魂」とは、ある人物の霊魂が身体を離脱することであり、「憑依(憑霊)」とは、神霊・精霊がある人物の身体に憑くことである。脱魂したシャーマンは、その間、超自然的存在と交流していて、その事情を報告する場合もあるが、憑依されたシャーマンは、その間のことを正気に返った時にまるで覚えていない場合が少なくない。また「憑霊(憑依)」はトランス状態になくても起こっていると考えられる場合がある[2][3]。 トランスパーソナル心理学と変性意識状態参照。
[編集] シャーマンの種類
ジェームズ・フレイザーでは霊媒(medium)、予言者(prophet)、見者(seer)、呪師(sorcerer)とされていた[要出典]がその多くはシャーマンに分類される。佐々木宏幹は少なくとも5つに分ける必要性を主張している[2]。
- 脱魂型 - シャーマンの霊魂が身体を離脱して霊界に赴き、諸精霊を使役してもろもろの役割を果たす。広義の精霊統御者型の一種。
- 精霊統御者型 - 補助霊を駆使してもろもろの役割を果たす。
- 霊媒型・憑霊型 - シャーマンが神霊・精霊を自らの身体に憑依させ、人格変換が行われ、シャーマンは神霊自身として一人称で語る。
- 予言者型・霊感型 - シャーマンは神霊・精霊と直接交信し、その意思を三人称で語る。シャーマン自身の個人的意志がある。
- 見者型 - 神霊の姿が見え、或いは声が聞こえる。神霊の意思を三人称で語る。
日本の場合、これらのうち複数の役割を1人で兼ねている場合が多いとされる。また若い頃は「霊媒」であったが、年を重ねるにつれて「予言者」→「見者」へと変わっていったと述懐する例が多い。
人がシャーマンと認められる過程にはいくつかの種類がある。社会によっても異なる。
- 召命型 - ある日突然心身の異状(巫病)として現れ、神霊によって選ばれたものと見なされる。選ばれようと願っていてもなれるものではないが、選ばれてしまったら本人の意志で拒絶することも困難。沖縄の「ウマレユタ」など。
- 世襲型 - 血統により選ばれる。霊的資質、人格が継承されると考えられる。沖縄のノロなど。
- 修行型 - 身体的理由(特に盲目)や経済的事情等からシャーマンになるための修行・学習を積む。沖縄の「ナライユタ」、日本の東北の「イタコ」など。
憑依する主体にもいくつかの種類があると考えられている。
- 死口(しにくち)
- 生口(いきくち)
- 神口(かみくち)
アブラハムの宗教における預言者も一種のシャーマン(予言者型)と見ることもできるが、強い倫理観に基づき、神の意思として当時の社会を批判している点で特異である。
[編集] 日本のシャーマン
『三国志 (歴史書)』中魏志倭人伝に記述されるいわゆる邪馬台国の女王の卑弥呼が用いたという「鬼道」もシャーマニズムと言われている。
下北半島の恐山におけるイタコ、沖縄のユタなど、20世紀においても各所にシャーマンに当てはまる事例が報告されている。なおユタ(シャーマン)とノロ(祭司)とは役割が異なる。
[編集] 例
[編集] 関連作品
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- ^ 楠正弘「シャマニズム論の展開」『堀一郎著作集第8巻 シャマニズム論その他』未来社、1982。
- ^ a b c 佐々木宏幹『シャーマニズムの人類学』弘文堂、1984年。
- ^ 小松和彦(『憑霊信仰論』、1982年)によると、日本で「つき(憑き)」と呼ばれるものは「憑霊」よりもかなり広い概念である。
- ミルチア・エリアーデ『シャーマニズム 上』堀 一郎訳、筑摩書房、2004年4月、ISBN 4480088377
- ミルチア・エリアーデ『シャーマニズム 下』堀 一郎訳、筑摩書房、2004年4月、ISBN 4480088385
- 佐々木宏幹『シャーマニズム:エクスタシーと憑霊の文化』中公新書、1980年。
- 佐々木宏幹「祭司の誕生-神道の成立をめぐって」 歴史読本臨時増刊『よみがえる神道の謎』 新人物往来社 1989年
- 佐々木宏幹『シャーマニズムの世界』講談社学術文庫、1992年。