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カール・グスタフ戦争 - Wikipedia

カール・グスタフ戦争

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

カール・グスタフ戦争とは、1657年1660年に及ぶ、デンマークスウェーデン間の戦争を指す。しばしこの戦争は、スウェーデンを中心とした「北方戦争」の一戦役に数えられる。当時のスウェーデン王カール10世グスタフによって起こされた為、デンマークから命名された。

デンマーク・スウェーデン間の戦争に至る経緯は、当時スウェーデンが王位継承問題を巡り、カール10世がポーランド王国ポーランド・スウェーデン戦争を仕掛けた事から始まっている。当時のポーランドは往時の勢力を失い、「大洪水時代」と呼ばれるロシア帝国を巻き込んだ内戦に陥っていた。この状勢を鑑みたスウェーデン王カール10世は、スウェーデン王位を確固とする為、ポーランドの内戦に介入したのである。カール10世の目論見は成功し、ポーランドは王位要求権を事実上放棄したものの、カール10世は、ポーランドで孤立するのである。北方戦争に対し中立的であったデンマークは、バルト海における覇権奪回と失地奪還の好機と捉え、オランダと結び、スウェーデンに宣戦布告するのである。

カール・グスタフ戦争はこうして開始された。しかし予想に反してスウェーデン軍は迅速であった。陸戦に関し、スウェーデンは優位の状態であった。ただし海軍は、デンマーク海軍の強固な護りに支えられ、首都への上陸は不可能であった。戦争初期、ドイツにおける反スウェーデンの立場を取った神聖ローマ帝国軍と、ブランデンブルク=プロイセン軍は静観の立場であった。またデンマークの属国であるシュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国も、カール10世と婚姻関係にある事から、デンマークへの侵入を黙認した。

一方この年、スウェーデンの海外の植民地は、大きな転機を迎える事となった。スウェーデンの唯一とも言える入植地、ニュースウェーデンは、敵対するオランダ軍の侵攻を受け陥落するのである。これによって、スウェーデンの植民地は、事実上、喪失したのである。この頃、ロシア帝国も属領フィンランドへ侵攻している。

しかしカール10世率いるスウェーデン軍は、対デンマーク戦でデンマーク領のユトランド半島を制圧した。開戦からわずか数ヶ月の事である。ところでデンマークの首都は、1654年以降ユトランド半島のオーデンセに置かれていたが、カール10世の侵攻を見たデンマーク王フレゼリク3世は、対岸のシェラン島にあるコペンハーゲンに戻した。防衛するには余りにも脆弱すぎたからである。しかしシェラン島であれば、スウェーデン軍の上陸は事実上不可能であると思われた。しかしデンマーク側に突如、青天の霹靂が訪れた。1657年から翌1658年にかけて大寒波がデンマークを襲ったのである。シェラン島とユトランド半島は凍結し、デンマーク艦隊も氷に閉ざされたのである。カール10世はこれを好機と捉え、侵攻を断行した。これは後年「氷上侵攻」と呼ばれる戦術であった。とは言え、これは大いなる賭けであった。しかしカール10世は躊躇わなかった。1658年1月30日、スウェーデン軍の第一陣が海峡を渡り切った。一部の人馬は割れた結氷に飲み込まれた。しかし作戦は成功を収め、2月5日に全軍が島々を経由してシェラン島上陸に成功した。そしてスウェーデン軍は、首都コペンハーゲンを包囲する。デンマーク軍は戦意を喪失し、フレゼリク3世は降伏した。

2月26日、デンマークとスウェーデンは、ロスキレ条約を結び和睦した。この条約でデンマークは、スウェーデンに屈服し、ボーンホルム島スコーネ地方、ノルウェートロンハイム地方を割譲した。今やスウェーデンが北欧超大国の座を占めたのである。しかし北欧以外に目を向けると、スウェーデンの状勢は好転したとは言えなかった。新大陸の植民地を失い、スウェーデンは植民地戦争には敗れた。ポーランドでは戦闘は収まったが予断は許さず、フィンランドでは、ロシア軍との交戦が継続していた。また、カール10世は、国内における治政はまま成らず、北方戦争終結には程遠い状況であった。

カール10世はスウェーデンに帰国したものの、デンマークから不穏な情報がもたらされた。曰く、デンマーク王フレゼリク3世は、オランダと密議を交わし、スウェーデンと対決するのである。デンマークの動きを不快視したカール10世は、この期に乗じてデンマーク征服を決意する。1658年暮れ、カール10世は、ロスキレ条約を一方的に破棄し、デンマークへと侵攻した。デンマーク側はこの事を全く予期していなかった。戦闘準備も為されていなかった。翌1659年には何の抵抗も為されないまま、コペンハーゲンは包囲された。

しかしデンマークは徹底抗戦を厳命した。国王フレゼリク3世の元、全コペンハーゲン市民が、スウェーデンに対し猛烈な抵抗を試みるのである。ここでカール10世は、一つの作戦ミスを犯した。戦闘準備が整っていないコペンハーゲンへの強襲作戦を退け、包囲網戦を仕掛けるのである。これは結果的に失敗を犯し、デンマーク側の戦闘態勢を整えさせてしまうのである。スウェーデン軍は長期に渡る包囲網戦に疲弊して行った。しかもスウェーデン、デンマークとも著しい死者を出し、コペンハーゲンは陰惨な地獄と化すのである。この間にデンマークは、オランダ、ハプスブルク家ブランデンブルク選帝侯との同盟を締結させていた。

デンマークはひたすら同盟国の援軍を待ちわびた。そしてオランダは海軍をバルト海へ派遣し、神聖ローマ帝国軍、ブランデンブルク軍はユトランド半島へ進駐した。1658年にスウェーデン領となったスコーネでも大反乱が勃発した。予期せぬ戦況にカール10世は驚愕し、スウェーデン軍の撤退を決意した。ポンメルン、そしてポーランドに進駐するスウェーデン軍も引き上げさせた。戦争はカール10世に思わぬ展開を招来させ、戦況は暗転するのである。

カール10世は、スコーネに撤退し、そこで戦陣を張った。戦争の継続を掲げたカール10世は、劣勢の打開を試み作戦を再考する為にであった。しかしカール10世は、戦陣で熱病に犯され、急死した。戦争の中心人物が突如消えた事で、和平の機運は高まった。こうしてカール10世の開始した北方戦争は、自身の死により完結した。それは、スウェーデンの軍事国家の終焉でもあった。

1660年イギリス、オランダ、フランスがスウェーデンに対し、和平を進め、スウェーデンもそれに同意した。

和議は、まずカール・グスタフ戦争の当事者となったデンマークから行われ、4月23日にコペンハーゲン条約が締結された。デンマークはスコーネ以外の失地を取り戻し、スウェーデンは、スコーネ地方、バルト海の支配権を確立した。

次いでポーランドとも5月27日にオリヴァー条約が結ばれ、ポーランドのスウェーデン王位要求権は、永久に放棄させられ、スウェーデンのプファルツ王家の王位継承が認められた。リヴォニアも正式にスウェーデン領となった。この条約では、スウェーデンの要求がほぼ容認される事となった。また、ハプスブルク家、ブランデンブルク=プロイセンともこの条約で和解した。

1661年6月21日には、カディス条約でロシア帝国がフィンランド、バルト地方から撤退した。カール・グスタフ戦争の終結は、即ち、北方戦争の終結であった。

こうしてカール10世の企図したスウェーデン絶対主義体制は、事実上の完成の芽を見た。しかしスウェーデンは、1660年を境に緩やかな退潮の時代へと転換して行くのである。


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