イトカワ (小惑星)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
イトカワ (糸川) 25143 Itokawa |
|||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
レーダー観測のデータを元に 作られたイトカワの3D画像 |
|||||||
仮符号・別名 | 1998 SF36 | ||||||
分類 | 地球近傍小惑星 | ||||||
軌道の種類 | アポロ群 (火星横断) |
||||||
発見 | |||||||
発見日 | 1998年9月26日 | ||||||
発見者 | LINEAR | ||||||
軌道要素と性質 元期:2007年4月10日 (JD 2,454,200.5) |
|||||||
軌道長半径 (a) | 1.324 AU | ||||||
近日点距離 (q) | 0.953 AU | ||||||
遠日点距離 (Q) | 1.695 AU | ||||||
離心率 (e) | 0.280 | ||||||
公転周期 (P) | 1.52 年 | ||||||
平均軌道速度 | 25.37 km/s | ||||||
軌道傾斜角 (i) | 1.622° | ||||||
近日点引数 (Ω) | 162.77° | ||||||
昇交点黄経 (ω) | 69.093° | ||||||
平均近点角 (M) | 322.71° | ||||||
物理的性質 | |||||||
三軸径 | 535 × 294 × 209 m | ||||||
直径 | 330 m | ||||||
質量 | (3.510 ±0.105) ×1010 kg |
||||||
平均密度 | 1.90 ±0.13 g/cm3 | ||||||
表面重力 | 0.07 - 0.1 mm/s2 | ||||||
脱出速度 | ~0.0002 km/s | ||||||
自転周期 | 12.132 時間 | ||||||
スペクトル分類 | S (IV) | ||||||
絶対等級 (H) | 19.2 | ||||||
アルベド(反射能) | 0.53 | ||||||
表面温度 |
|
||||||
■Project ■Template |
イトカワ(糸川、いとかわ、25143 Itokawa)は、太陽系の小惑星であり、地球近傍小惑星(地球に近接する軌道を持つ天体)のうちアポロ群に属する。1998年9月26日、アメリカ・ニューメキシコ州ソコロでマサチューセッツ工科大学リンカーン研究所の地球近傍小惑星探査チーム (LINEAR) により発見された。
日本の小惑星探査機(工学実験宇宙機)はやぶさ (MUSES-C) の探査対象となったことから、宇宙科学研究所(当時)が日本のロケット開発の父・糸川英夫の名前を付けてくれるようLINEARに依頼し、2003年8月6日に国際天文学連合により承認されて同協会の『小惑星会報』 (MPC) で発表された。
目次 |
[編集] 観測の歴史
イトカワはアメリカ・カリフォルニア州ゴールドストーンのゴールドストーン天文台によりレーダー観測されており、細長い楕円体に近い形状をしていると推測された(画像参照)。
2005年9月に、宇宙機はやぶさがイトカワ近傍に到着し、可視光での撮影、近赤外線スペクトルの測定、レーザー高度計による測地、および蛍光X線の観測を行った[1]。はやぶさから送られた写真により、イトカワはレーダー観測による予想よりも細長く曲がった形状(はやぶさ関係者はラッコと評している)であることが分かった。はやぶさはホッピングロボット「ミネルバ」による表面の観測(イトカワへの投下には失敗)と小惑星表面の物質のサンプルリターンを行った。2010年に地球へ帰還し、オーストラリア南部のウーメラにサンプルの入ったカプセルをパラシュートで降下させる予定である。
[編集] 物理的性質
イトカワはそれまで一般的に考えられていた小惑星の姿とは異なり、表面はレゴリス(砂礫)に覆われた部分と、岩石が露出した部分に分かれている。この違いは、表面重力の違いに応じている。また、特異な岩塊が存在し、最大のものは長さ50mに達する。これらの岩塊は、イトカワにクレーターを作るような天体の衝突では生成しない大きさである。表面にはクレーターも存在するが、このような岩塊のため、サイズや数を把握することが困難となっている。
近赤外線による観測では、イトカワは輝石やカンラン石に特徴的なスペクトルが得られている。一方、測定された密度は1.90 g/cm3程度であり、従来考えられていたS型小惑星や、地球上の岩石の密度より小さい値となっている。これは、イトカワが内部に多くの空隙を含むためと考えられている。ただし空隙というのが、岩石と岩石の隙間なのか、岩石自体が軽石のような構造になっているのかは不明である。イトカワの質量中心は幾何学的な重心とよく一致しており、自転のふらつきもほとんど無いため、質量は均一に分布していると考えられる。
イトカワはその特徴的な形状から、より大きな母天体が破砕されたときの破片ではないかと考えられている。一部の研究者は、“ラッコ”の頭と胴体にあたる部分が、それぞれ多数の小さな破片が緩やかに結びついた「ラブルパイル」として集積した後、合体して一つになったと考えている。なお、衝突によってイトカワ表面が融解したような形跡は観測されていない。
[編集] 軌道の特徴
イトカワの軌道は、典型的な地球近傍小惑星の軌道進化の途上にある物である可能性が高いと考えられている[2]。
イトカワは現在、地球と火星の軌道を横切るように公転している。そのためこれらの惑星の重力により、軌道はカオス的で不安定となっている。
過去には小惑星帯の内縁部に存在し、火星か木星の重力による影響を受けて現在の軌道に移ったものと考えられている。その後、少なくとも現在より5,000年前からは、現在と同じような軌道を取っていた可能性が高い。
また将来的には、1億年のうちに太陽か、水星、金星、地球、火星のうちいずれかに衝突して消滅するだろうと考えられている。
なお、2006年から2007年にかけて地上観測およびはやぶさの観測により得られた形状モデルによるライトカーブのモデル計算とを比較した結果、熱放射により自転周期が減少するYORP効果が確認された[3]。
[編集] 地名
JAXAではイトカワに確認された主要な地形や岩塊、クレーターなどに日本の宇宙開発と関連の深い名前を付けることを提案している[4]。このうち、2007年時点で国際天文学連合 (IAU) に承認された地名は「内之浦」(Uchinoura Regio)、「相模原」(Sagamihara Regio)、「ミューゼスの海」(MUSES-C Regio)の3つである。「ウーメラ砂漠」という地名も提案されていたが、ウーメラが別の天体の地名として既に使用されていたため認められなかった[5]。