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無段変速機 - Wikipedia

無段変速機

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

無段変速機(むだんへんそくき) と呼ばれる (変速比)連続可変トランスミッション (Continuously Variable Transmission: CVT) は、歯車を用いず、摩擦に依って変速比を連続的に変化させる動力伝達機構である。一般にはオートバイ自動車用の自動変速機の一種を指す。

摩擦力を介して動力が伝達されるため、一般に大きなトルクの伝達が難しいとされ、古くはオートバイ(なかでもスクーター)などの小排気量エンジンと組み合わされ普及した。自動車用では、許容トルクの問題から、小型車向けの方式と見られてきたが、金属ベルトの改良により、1990年代後半以降は、排気量2000cc超の中型・大型車にも採用されるようになってきた。

この項では主に、上記の摩擦式自動車用無段変速機を中心に、ハイブリッド車の一部に見られる電力式と、流体により駆動力を伝達する、静油圧式について述べる。

目次

[編集] 概要

21世紀初頭時点で、一般に実用化されているCVTには、ベルト式CVTとトロイダルCVTの2種類が存在する。前者は比較的低トルクエンジンで軽量な車種に、後者は高トルクエンジンの重量車に用いられる。

基本的にはこの構図に変わりはないものの、日産自動車は、大トルク、重量車に対応可能なベルト式の「エクストロニックCVT」の開発に成功しており、3.5L級エンジンまではベルト式の守備範囲となったため、トロイダル式はさらにそれ以上の排気量の乗用車や、大型バス、トラック用として開発が続けられることになった。

[編集] 長所と短所

[編集] 長所

理論上は効率の良い変速機と考えられている。

  • 同じトルク許容量の場合、トルクコンバーター遊星歯車変速機を組み合わせた在来型の自動変速機(以下「在来型AT」)よりも若干軽量となる。
  • 変速比の連続可変が可能であり、走行中のあらゆる状況において、エンジン効率の良い回転域のみを使う変速比が設定できるため、エミッション(排出ガス)、燃費のいずれも改善できる。
  • 変速中の衝撃(変速ショック)が無い。乗り心地の改善、エンジンや駆動系への負荷変動減少につながる。速度と負荷の関係で、短い間隔で変速をくり返し、エンジン回転数が急変する、俗に「ビジーな状態」と表現される状況は起こりにくい。
  • 多段式の在来型ATと比較して、ベルト式CVTは構造が簡易で、構成部品点数も少なく済み、同等の機能を得る場合もコストダウンが可能である。

[編集] 短所

熟成の進んだ在来型ATに対し、現状での優位性は顕著とは言えず、普及は進んでいるものの、以下のような特性から、市場の大勢がCVTとなるまでには至っていない。

  • 動力伝達効率
    • 歯車ではなく摩擦によって動力が伝達されるため、大トルクが発生する大排気量車や4WD車には今のところ採用されていない[1]。また、その摩擦力を発生させるための油圧装置による動力損失が大きい。しかしこの問題は徐々に改善されており、現在ではMT車と同等かそれ以上の燃費効率が達成されつつある。
  • 耐久・信頼性
    • 在来型の遊星歯車式ATに比べ歴史が浅く、ノウハウの蓄積が少ないことから、絶対的な耐久性・信頼性が確立されていない傾向がある。
  • 運転性
    • エンジン音、あるいはタコメーターの表示と、軸出力・軸回転数がシンクロしないため、MTや在来型ATに比べ、運転性(ドライバビリティー)がやや悪い。改良が進んではいるが、勾配などの負荷変動に対する速度維持が難しい点、アクセルオフ時の一瞬の空走(惰行)、低速時の「しゃくり」などの違和感を嫌うユーザーは依然として多い。
    • これも改善されつつあるが、特に小排気量車の場合、加速時やアクセルオフからの再加速の反応では、いまだ在来型AT車に劣る。また、過度に反応速度を早めると、速度維持が難しくなるジレンマもある。
    • 初期型のCVT車には、エンジン-CVT間の動力伝達に遠心クラッチや電磁クラッチが用いられており、クリープしなかったことから、微速走行時にはマニュアル車以上にアクセル操作が難しかった。現在は在来型AT同様にクリープ用トルクコンバータを備えた機種が増えており、摩擦クラッチを用いた一部機種でも電子制御多板クラッチを用いて疑似クリープが発生するように制御されている。
  • 静粛性
    • 金属ベルト式CVTの場合、走行時に金属的な音(セミが鳴いているようなと表現される場合もある)が生じる。静粛性の面で不利になる。
  • 価格
    • 在来型ATでも変速段数の少ない3段型・4段型は長期に渡って大量生産され、コスト低減が進んでいる。このためそれらと比較してCVTのコストが割高となる場合もある。

[編集] 各種のCVT

古典的な無段変速機としては2枚の円盤を直角に組み合わせ、その円盤の摩擦力により駆動を伝えるフリクションドライブが存在し、20世紀初頭から定置工作機械や、小型の自動車やガソリン機関車などに用いられた。構造は簡単であったが、容積が大きく、空転による動力損失が多いことから、第二次世界大戦以前に廃れた。

[編集] ベルト式CVT

[編集] ゴムベルト式CVT

ベルトと可変径プーリーを組み合わせ、ベルトの張力により駆動を伝える無段変速機は、20世紀初頭から存在していたが、当初は伝達できるトルクが小さく、ベルトの耐久性も不十分であったため、スクーターなどの低出力のエンジンを搭載した車両に用いられるのみであった。スクーターの駆動方式では、現代に至るまでこの手法が主流を占めている。

自動車でこの方式を本格的に採用した最初は、オランダのDAF(現在のDAFトラックス)で、自社で開発したゴムベルト式無段変速システム「ヴァリオマチック」を、遠心式クラッチと組み合わせ、1958年に発売した小型車「DAF 600」に搭載した。

[編集] スチールベルト式CVT

スチールベルト式CVT
スチールベルト式CVT

その後1970年代に、DAF社出身のオランダ人ファン・ドールネ(Van Doorne バン・ドーネとも)が耐久性の高いスチールベルト式CVTを開発した。最初に採用したのは、DAFを買収したボルボがオランダ(旧DAF)工場で生産した66である。

ファン・ドールネ式CVTは、1980年代以降、フィアット、ローバーをはじめとした欧州メーカーや、日本の富士重工業ECVTや日産のNCVTに採用されて小型車に普及し、CVTの代表的方式となった。

ファン・ドールネ式のCVTベルトは、強靱な特殊鋼数枚を重ね合わせて形成したスチールベルトに、やはり金属製の「コマ」をびっしりと填め込んだものである。プーリーからの駆動力は、隣り合ったコマからコマへの圧力として伝達され、スチールベルトは従属的なガイドとして動作する。ゴムベルト式CVTと決定的に違うのは、ベルトの張力ではなく、コマを押すことによる押力により駆動を伝えることである。

他メーカーも、ファン・ドールネのスチールベルトの製造特許に抵触しない技術で類似した方式を開発したことがあった。大手自動変速機メーカーのボルグ・ワーナーによるチェーン式があったが、こちらは一般化せずに終わっている。

スチールベルト式CVTの登場によって許容トルクは向上したものの、当初はその信頼性や操作性においてやや難があった。しかしファン・ドールネの特許期限が切れて以降は他メーカーの独自技術開発が一気に進み、更なる大排気量・大トルクに対応できるようになり、現在の主流となった。

[編集] クラッチ機構の改良

初期のベルト式CVTでは、発進・停止時の動力断続には遠心式や電磁式の自動クラッチが使われていた。これにより、従来のトルクコンバータ式自動変速機におけるクリープ現象を排除してイージードライブができるという特徴が生じた。

しかしクリープ現象排除の代償として、これらの自動クラッチには、マニュアルトランスミッション操作の際の必須テクニックである「半クラッチ」に当たる動作が必要となった。これは微細なアクセル操作を行えなければ、発進時にぎくしゃくとして円滑さに欠ける挙動を起こした。富士重工業では三菱電機との共同開発で、より滑らかな作動を求め、密閉容器内の鉄粉の流動性を磁力でコントロールする電子制御式電磁クラッチ方式を考案したが、それでもこの問題の解決には至らなかった。富士重工の初期の電磁クラッチ式CVT車では、過負荷状態で電磁クラッチを破損させる事態が頻出し、クレーム扱いの保証修理を多発させてもいる。

1990年代後半以降は、スチールベルト式CVTをロックアップクラッチ付のトルクコンバータと組み合わせる手法が、主流になりつつある。トルクコンバータを使うと、在来の遊星歯車式自動変速機同様、クリープ現象を得ることができ、在来型ATに慣れたユーザーにも扱いやすい。また変速機周囲の負荷をトルクコンバータのストールによって吸収できることから、CVTへのダメージを抑えられるメリットもある。

ホンダは例外的に変速機の出力側に湿式多板クラッチを配置し、これを電子制御することで疑似クリープ現象も得るというシステムを開発したが、独自技術で広く普及するまでには至っていない。

[編集] 日産・エクストロニックCVT

エクストロニックCVTとは、日産の中容量金属ベルト式CVTの商標である。プーリー比を変える油圧を車速や負荷に応じ微細に電子制御するもので、単純な油圧制御に比べ、CVTの欠点であるドライバビリティー(運転性)の悪さを払拭し、燃費性能にも優れる。

このCVTはクリープ専用トルクコンバーターが組み込まれており、坂道発進や車庫入れなどの微速走行が容易になっている。通常走行時、トルクコンバーターはロックアップされており、変速はCVTのみで行なわれる。日産はこのシステムでトルクコンバータ付CVTの普及に業界での先鞭をつけ、比較的大排気量のモデルにもCVTを採用する実績を挙げている。

[編集] 乾式複合ベルト式CVT

愛知機械工業株式会社が開発した乾式複合ベルトを使った無段変速機。ベルト素材はアラミド繊維の芯線を特殊耐熱エラストマーで挟み耐熱帆布でコーティングしたものである。

コマはアルミニウム合金をアラミド繊維と炭素繊維で補強した特殊耐熱樹脂で包んだもの。樹脂素材に自己潤滑性があるため金属ベルトCVTのようなフルードは不要となっている。動力の接続には電磁クラッチが採用され、低速域ではベルト式変速ではなくギア駆動となっているのが特徴。

現在はスズキとダイハツの軽自動車に採用されているA-CVTに組み込まれている。

[編集] トロイダルCVT

フリクションドライブを高度に発展させた形態で、入力側と出力側の2つのディスクの間に強い力で挟まれた複数のパワーローラー(コマのようなもの)の傾斜を変化させることによって可変変速比を得るものである。着想自体は古くから存在したが、極めて高い圧力の下で摩擦と潤滑を両立させての精密作動が要求されるため、実用化は極めて困難であった。

日産が日本精工 (NSK)出光興産と共に開発、1999年に発表した「ハーフトロイダル式」と、イギリスのトロトラック社が光洋精工と共に開発し、2003年に発表した「フルトロイダル式」とがある。両者の違いは、入・出力ディスクの形状とそれに挟まれたパワーローラーの接し方の違いであり、各ローラー間に強制スリップがほとんど発生しない、ほぼ「点」で接する球形パワーローラーのNSKのハーフトロイダル型が伝達効率が高く、理想に近いとされる。対する光洋精工・トロトラック側は、「線」で接する円盤形パワーローラーを用いており、円盤の両端で半径に差ができるため、強制スリップの発生は避けられない。円盤の厚みを抑えることでジレンマを軽減してはいるが、いまだ開発途上にあり、製品化はされていない。しかし、NSK・日産のハーフトロイダルCVTは、有望視されながら、コスト面から生産を終了している。

[編集] 日産・エクストロイドCVT

日本精工がローラーと軸受けの開発に成功し、高圧下でのせん断力と潤滑冷却力を兼ね備えた専用オイルを開発した出光興産の協力もあり、1999年に日産自動車が世界初のトロイダル式変速機を持つ市販車として、Y34型セドリックグロリアに搭載、その後V35型スカイラインGT-8にも搭載される。日産ではこのCVTをエクストロイドCVTと呼んでいる。しかし、日産以外のメーカーには供給されることは無く、当の日産においても、一般的なトルコンATを搭載する車種との価格差が約50万円高となったこともあり、2005年に生産が終了している。なお、エクストロイドCVTの生産が終了した日産は、メルセデス・ベンツに対し、エクストロイドCVTの技術を提供した。

[編集] その他

CVT車のうち、スポーツ志向のあるモデルの中には、電子制御プログラムにより変速比を数段に分けることで擬似的に6段から8段といった変速段数を設定し、セミオートマチックトランスミッションの様に変速比手動選択を可能とした例もあるが、CVT本来の効率性追求とは相反する機能であり、もっぱら趣味的・オプション的な傾向が強い。

1990年代初期にはF1マシンに無段変速機を搭載することが一部のチームで検討され、実際に試験走行が行われた(参考:実験時の映像 YouTubeより)。結果、通常のトランスミッションを持つマシンよりもサーキット1周回に付き数秒は速くなったという。その際のCVTは市販車用として開発中のものが使われた。耐久性に関してはF1用としても予選、本戦併せて数時間ならば大丈夫であると予想されていた。CVTの耐久性よりも、常にエンジンが最高出力付近で使われる(使える)ためにエンジンの方の耐久性の方が心配されたという。結局はレギュレーションで規制され、実戦には投入されなかった。

[編集] 摩擦式CVT以外の無段変速機

[編集] 電力式無段階変速機

電動機が停止状態から強力な駆動トルクを発生させることを利用し、発電機と電動機を併用することでトルク変換効果を得るシステム。流体式トルクコンバータが未熟だった時代に、ディーゼル機関車用の変速システムとして利用された。現在では、電力式無段階変速システムの伝達効率が流体式トルクコンバータよりも高く加速力に優れるため、一部ディーゼル機関車にこのシステムが採用されている。

トヨタプリウスなど、一部のハイブリッド車に搭載されている内燃機関・電動機ハイブリッドシステムも電力式無段階変速機構と考えることができる。1997年発売の初期型プリウスに搭載されたトヨタ・ハイブリッド・システム (THS) は、一般にE-CVTまたはECVT (Electronically-controlled CVT) と呼ばれ、トヨタの商標名はエレクトロマチックである。

このシステムはエンジンと車輪の間の駆動力増幅を、一般的な機械式減速機構ではなく、電気制御で連携させた発電機と電動機を用いて機械式の無段変速機と同様な動力伝達機能を得ている。このシステムではエンジン・発電機・電動機は直線配置され、遊星歯車により連結される。個々の回転数は一次関数で表される。エンジン始動時は発電機の回転数をゼロに固定し、電動機が逆回転して、エンジンを正回転させスタートする。この際、エンジンスタート時の振動を抑えるため、VVT-i(可変バルブタイミング)を協調制御する。ただし、このシステムでは通常走行時、常にエンジンは発電機を回している事となるため、巡航などの定速走行で燃費効率が悪化する弱点がある。バッテリーの充電には内燃機関の余剰出力や回生制動により発電した電力を用い、搭載されたハイブリッド用バッテリーを充電する。バッテリーを動力源とする電動機と燃料を動力源とするエンジンの協調動作により、必要に応じてエンジン単体では供給できないような大きな出力を発生させることが可能になっている。

[編集] 静油圧式無段変速機

HST:Hydraulic Static Transmission、または単に油圧式無段変速機とも呼ばれ、エンジンで油圧ポンプを駆動し、発生させた油圧を油圧モーターで回転力に変換する方式。

エンジン回転数の変化でポンプ回転数を変え、作動油の流量を変化させて速度の調節を行う。伝達効率が悪く、加減速が難しい欠点があるが、エンジンと駆動軸との間は、機械的にはつながっておらず、プロペラシャフト、デフ、ドライブシャフトなどが不要であり、エンジンと駆動軸の位置関係に制約少ないなど、設計自由度が大きく、スペース効率にも優れる。さらに、使用速度域が狭い場合は、副変速機も省略できるなど、利点も非常に多い。

自動車ではメルセデスベンツウニモグUX100に使われているほか、無限軌道式を含む建設機械ラフテレーンクレーントラクターコンバインハーベスター除雪車など、もともと作業用に油圧装置を備えている車両に採用例が多い。

走行用変速機ではないが、ディーゼル機関車気動車、あるいは、客室冷暖房、厨房調理器具用などのサービス電源用発電機内燃機関を備える客車鉄道車両では、ラジエターファンの駆動に静油圧式を用いているものが多い。

一方、油圧-機械式トランスミッション ( HMT:Hydraulic Mechanical Transmission ) と呼ばれるものでは、HSTとは異なり、油圧ポンプと油圧モーターが機械的に一体化しており、HSTでは油圧ポンプを回すためだけに使われるエンジンのトルクが、HMTでは油圧モーターの発生するトルクに、エンジンからのトルクが加算されるため、変換効率が高まる。

ホンダでは、1962年には機械式のHMTを採用した革新的なスクーター・ジュノオで量産化。 この原理を用い、二輪車用に小型・高圧化したものを開発、HFTと名づけ、自社のモトクロッサー・RC250MAに採用し、参戦2年目にあたる 1991年に、モトクロス全日本選手権でシリーズチャンピオンを獲得している。 2001年にはATVと呼ばれる4輪バギーで、honda maticという商標のこのCVT機構をアメリカで量産車に採用。 さらに2008年に世界初のロックアップ機構を備えて商標をHFT(Human-Friendly Transmission)としてDN-01に搭載し2008年3月7日に発売した。

[編集] 脚注

  1. ^ webCG「4WD車にはなぜCVTが設定されない?」


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