ゼウス
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ゼウス (Ζεύς Zeus)は、ギリシア神話の主神である。天候、特に雷を司る天空神。オリュンポス十二神をはじめとする神々の王である。
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[編集] 概説
ローマ神話ではユピテルにあたる。オリュンポスの神々の家族および人類の両方の守護神・支配神であり、神々と人間たちの父と考えられた。
ゼウスは天空神として、雲・雨・雪・雷などの気象を支配していた。鎧に山羊革の胸当てをつけ、聖獣は鷲、聖木はオーク。ゼウスはテッサリアのオリュンポス山の神々を支配していた。主要な神殿は、オークの木のささやきによって神託をくだしたエペイロスの聖地ドドナ、および4年ごとに彼の栄誉を祝福してオリンピック大祭が開かれたオリュンピアにあった。
[編集] 家系
ティーターン神族のクロノスとレアの末の子(長男という説もある)で、ハデスとポセイドンの弟。正妻は姉妹であるヘラであるが、レトや姉のデメテル等の神々をはじめ、多くの人間とも交わっている。
オリュンポス十二神の中では、アテナ、アポロン、アルテミス、アレス、ヘパイストスまたディオニュソスの父。
また、さまざまな女神や人間の女との間にヘラクレスなど多数の子供たちをもうけたことになっている。これらゼウスの子とされる英雄を半神(ヘロス)といい、ギリシアでは下級の神として広く祀られた。これらの伝説は、古代ギリシアの各王家が、自らの祖先をゼウスとするために作り出された系譜とも考えられる。ゼウスが交わったとされる人間の女の中には、もとは地元の地母神であったと考えられるものもいる。人間と交わるときのゼウスはしばしば白鳥などの獣の形や黄金の雨などに変身するとされる。
[編集] 生い立ち
ゼウスの生誕に関する古代伝説のひとつによれば、父クロノスはわが子に支配権をうばわれる不安にかられ、生まれた子供を次々にのみこんでしまった。そこでゼウスを生んだとき、母レアは産着でつつんだ石をかわりにクロノスにのませることでゼウスを救った。ゼウスは、クレタで雌山羊のアマルテイアの乳をのみ、ニンフに育てられた。 成人したゼウスは、クロノスに兄弟たちをはきださせ、父親に復讐をしたがっている彼らと協力してクロノスなどのティタン神族を倒した。その結果、ゼウスらが勝利をおさめ、ティーターン神族は冥界タルタロスに葬られた。そしてゼウスと兄ポセイドンとハデスの2人の兄たちは支配地をめぐってくじ引きをし、それぞれ天空と海と冥界の主となった。さらにゼウスは最高権力者と認められた。
[編集] 人物
ホメロスの記述にみるゼウスは、2つの異なる姿で描かれている。一面ではゼウスは弱者の守護神、正義と慈悲の神、悪者を罰する神としてあらわされる。しかし同時に、次々と女性に手をだしては子孫を増やし、不貞を妻に知られまいとあらゆる手段を講じる神としてもえがかれている。
元来はバルカン半島の北方から来てギリシア語をもたらしたインド・ヨーロッパ語族系征服者の信仰した天空神であったと考えられ、ヘラとの結婚や様々な地母神由来の女神や女性との交わりは、非インド・ヨーロッパ語族系先住民族との和合と融合を象徴するものと考えられる。また自分たちの系譜を神々の父までさかのぼりたいという、古代ギリシャ人の願望としても説明されることがある。
多くのインド・ヨーロッパ語族系言語を用いる民に共通して信仰された天空神に由来し、その祖形は、ローマ神話におけるユピテル(ジュピター)の原型であるデイオス・パテール、あるいは普通名詞「神」を表すデイオス、デウス、古層のインド神話の天空神ディヤウス、北欧神話のテュールらに垣間見ることができる。 好色なこの父神は、ギリシャにおける道徳意識の高まりとともに、しだいに好ましくない存在となった。このため後の伝説などでは、ゼウスを崇高な存在として表現するようになった。