M61 バルカン
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M61 はアメリカ合衆国のゼネラル・エレクトリック(GE)社が開発した20mmガトリング砲である。主に航空機用の機銃として用いられる。日本においては、開発時のコードネーム、及び製品名であるバルカン (Vulcan:ローマ神話に登場する火神。ギリシア神話の鍛冶神ヘーパイストスに相当) の名で知られる。なお、後述の誤用を防ぐ為、日本で本兵器の説明をする際には、戦闘機の F-14『トムキャット』の様に形式名+ニックネームで、M61『バルカン』等と呼称するのが適切と思われる。(詳しくは後述)
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[編集] 概説
M61 は、20 ミリメートルのガトリング砲で、 6 本並べた砲身を反時計周りに回転させて連射を行う。2008年現在、M61、M61A1、M61A2 の 3 モデルが存在し、信頼性が高い事などから1958年にロッキードF-104スターファイターに搭載されて以来、アメリカ軍の機関砲を搭載した戦闘機のほぼすべてに採用されている(F-35A/B/C ライトニングII等では搭載されない)。また CIWS(近接防御火器システム) の一つ、ファランクスなどにも使用されている。
開発は1946年から開始されている。これは、航空機の高速化を見込んで、航空機銃の発射速度増大が必要となり、その方法として多砲身機銃・ガトリング砲に注目したためである。発射速度が非常に高いところを目標としたために、砲身を動作させる外部動力にガス動作式は不安があり、電気動作式となっている。開発が完了したのは1956年のことである。
発射速度は戦闘機に搭載する場合、毎分 4,000 発と 6,000 発の切り替え式(最大で毎分 7,200 発)で、毎分 6,000 発の発射速度で射撃する場合、およそ 2 tの反動が生じる。ただし、ガトリング式機関砲全般に言える事であるが、発射開始から規定の回転数までのスピンアップに時間がかかる(風車発電式ガンポッドで数秒、電動式で 1 秒弱、油圧式で 0.3 秒程度)ため、その間はスペック通りの発射速度は発揮できず(射撃開始後1秒間の発射速度は毎秒 70 発程度、油圧式の場合)、また、銃身の回転が安定していないため集弾も回転方向にぶれる傾向がある。M61A1 では給弾機構に改良が加えられ、当初 F-22 用として開発された M61A2 では銃身の肉厚を削ることで耐久性を犠牲にしつつもスピンアップ時間の大幅な短縮に成功している。なお、射撃停止には 0.5 秒程度の時間を要する(この間、砲弾は発射されないが、供給される砲弾が未使用のまま弾倉へと収容される)他、砲身の加熱による影響から、1回の発射時間は 2 秒以内に制限されている。
システム全体の重量は 140 から 190 キログラムあり、軽量化した M61A2 でも 96 キログラムほどになる。なお、FOD(エンジンの異物吸入による損傷)防止のため、航空機搭載タイプでは薬莢は回収される。砲身長は標準で 1.52 メートル。信頼性に優れ、故障が発生する確率は 100,000 発に 1 回程度と言われている。また、砲身寿命はおよそ12,000 ~18,000 発、システム全体の寿命は150,000 発程度である。
使用弾種としては、重量 100 グラムの M50 シリーズが主に用いられており、M56 榴弾や M56A1 焼夷榴弾、M53 徹甲焼夷弾、M53A1 徹甲焼夷弾、M56A3 焼夷榴弾、さらには新型の PGU-28 半徹甲焼夷榴弾等が使用される。ただし、口径 20 ミリメートルでは、1 弾あたりの破壊力が小さいと懸念する向きもある。対艦ミサイル迎撃用であるバルカン・ファランクスでは装弾筒付き高速徹甲弾 (APDS) が使われ、これは米軍では劣化ウラン製であるが、核に対する拒否反応の強い国柄である日本やオーストラリアなどでは高価なタングステン合金製である。
M61バルカンは、CIWSとして海上保安庁の巡視船や、海上自衛隊の1号型ミサイル艇、掃海艇(機雷処分用)に搭載されており、発射速度を毎分450~500発に落とし(弾倉の装弾数は不明)、薬莢を回収する容器を取り付けられるように改良されている。また航空自衛隊、海上自衛隊の航空基地には地上設置型のCIWSとしてVADSが使われている。
攻撃ヘリコプターのAH-1 コブラシリーズに搭載されているM197は、M61を基に砲身を3本に減らして短くし、各部に改良を加えて軽量化したものである。
小型軽量版として、7.62 mm x 51 ライフル弾を使用する重機関銃M134ミニガンというバリエーションも存在する。
[編集] ガンポッド
- SUU-16
- ガンポッドとしてM61バルカンと1200 発の弾薬を搭載したもので風圧式タービンにて作動する。元々は地上掃射用に開発されたものだったために動力源が風力タービンとなっておりスピンアップが遅く、引き金を引いてから定常回転数(6000 発/分)に達するまで 1 秒もかかる欠点があった。ベトナム戦争では空戦用としてF-4Cに搭載された。
- SUU-23
- ガンポッドとしてM61A1バルカンをガス圧駆動に改造したGAU-4を搭載したもので、SUU-16と比べてスピンアップ時間は0.4秒に向上している。ベトナム戦争では空戦用としてF-4D等に搭載された。
[編集] 搭載兵器
- F-4 (戦闘機):E型(空軍向け)等でM61A1を搭載する。
- A-7 (攻撃機):D型等でM61A1を搭載する。
- F-14 (戦闘機)
- F-15 (戦闘機) F-15E (戦闘爆撃機)
- F-16 (戦闘機)
- F/A-18A/B/C/D
- F/A-18E/F:M61A1/A2を搭載する。
- F-22 (戦闘機):本機の機銃搭載位置に合わせ長銃身化・その他の改良を施したM61A2を搭載する。
- F-1 (支援戦闘機) F-2 (支援戦闘機):M61A1をライセンス生産したJM61A1を搭載する
- ファランクス (火器):M61A1を使用した艦載用の近接防御火器(CIWS)。
- VADS:M61シリーズを使用した地上対空火器。
- M163対空自走砲:VADSをM113装甲兵員輸送車に搭載した自走対空機関砲。
[編集] 「バルカン砲」に関する誤用
日本ではバルカン砲とガトリング砲が極めて混同されやすく、事実上同一のものとして扱われる事が非常に多く、更にはリヴォルヴァーカノンやチェーンガン等、ガトリング砲以外の機関砲あるいは機関銃全般をも含めて「バルカン砲」と呼称する事も少なくないが、これらは基本的に誤用である。
「ガトリング砲」とは「回転式多砲身機関銃(砲)」という銃器のカテゴリーの一つである。「バルカン」とはガトリング砲の中のM61ガトリング砲に付けられた製品名であり、決して銃器のカテゴリーでは無い。従って、「バルカン砲」と言えば基本的にこのM61シリーズのみを指す。それ以外のものはいずれも「バルカン砲」とは呼ばず、それぞれに応じた適切な名称を用いるのが正しい。
「バルカン砲=ガトリング砲(更には機銃全般)」という誤った概念が一般に広まったのには、アニメや特撮、漫画、小説といったサブカルチャー群で、ロボット等の架空兵器が装備する連射式の火器を、軒並みバルカン砲と呼称(古くは昭和40年代のタツノコプロ作品でも確認できる)していたり、1980年代のTVゲーム(シューティングゲーム)において、連射力のある武装オプションを「バルカン」と命名しているものが多数あったこと等が背景として挙げられ、それが「バルカン砲=発射速度の高い機関砲」との誤解を招いた大きな原因と思われる。
英語圏においても、ガトリング砲や、弾を撃つ際に火薬以外の駆動系を要する銃器をVulcan Cannonと呼ぶため、一般的な愛称として浸透している。(一時期、ポータブルカセットプレイヤーがメーカー問わず一般的にウォークマンと呼ばれたり、年配の人がどのメーカーのテレビゲーム機だろうとファミコンと呼ぶことなどに類似する)
同じように正式名称より愛称の方が有名になってしまった兵器として、バズーカ、AK47、スカッドミサイル、イージス艦などが上げられる。
[編集] サブカルチャーにおける「バルカン砲」
上記の通り、日本では「バルカン砲」に関する誤用が極めて多いものとなっているが、これはロボットアニメやシューティングゲーム等を筆頭としたサブカルチャー群にも当てはまる。サブカルチャーにおいて「バルカン砲」と言えば、専ら「戦闘機やロボットの固定武装、あるいは艦艇(宇宙戦艦含む)や宇宙船のCIWS等に用いられる、連射が可能な火器」を指す事が多い。
例えば、『機動戦士ガンダム』を始めとするガンダムシリーズには、バルカンと称する機銃が登場し、 主にモビルスーツや戦闘機等に搭載される固定武装として主に描かれる(なお、同様の機銃でも、戦艦等のCIWSや要塞の対空火器として用いられる場合は、単に「機関砲」「機関銃」と称する事が多い)。関連書籍『機動戦士ガンダム 公式百科事典』(講談社)では、ガンダム世界(複数の世界観が存在するが、この場合は宇宙世紀)において主流となっているバルカンの構造について、「単銃身で、複数ある薬室を回転させる事で薬室への弾頭の装填→薬室への液状炸薬の注入→発射のサイクルを繰り返す」という趣旨の解説を与えている。単銃身・複数薬室(が並んだシリンダーの)回転機構の採用という点から、これはリヴォルヴァーカノンと呼べるものであるが、一方でガンダムシリーズではガトリング方式を用いた機銃に対しても同様にバルカンの呼称が用いられる事も多い。
また、サブカルチャーにおける「バルカン砲」とは、必ずしも砲弾を発射するものとは限らず、例えば『ゾイド』シリーズや『機動戦士ガンダムF90』等の作品には、「ビームバルカン」と称するビーム兵器が登場する他、『機動戦士ガンダム00』においても「GNバルカン」の名で同様の兵器が登場する。また、『聖戦士ダンバイン』及びその派生作品に登場する兵器「オーラバルカン」は、その描写から非実体弾を発射する兵器ではないかと言われる事がある。
ただし、これらはいずれもM61では無い為、上記の通り本来は「バルカン砲」では無く、あくまでも誤用が定着したものである。
[編集] 諸元(M61A1)
- 種類:回転式多砲身機関砲
- 砲身数:6 砲身
- 口径:20 mm
- 機構:油圧駆動・電気雷管式撃発
- 全長:1.88 m
- 直径:0.34 m
- 砲身重量:114.5 kg
- 全備重量:298 kg
- 発射速度:毎分 4,000 発 または 6,000 発(最大:7,200 発)
- 規定発射速度到達時間:約 0.3 秒
- 最大連続射撃時間:2 秒
- 砲弾収束性:8 ミル
- 射撃時反動:約 2 t(射撃速度:毎分 6,000 発)
- 砲口初速:1,036 m/秒
- 有効射程距離:約 810 m(航空機による空対空射撃)/ 約 1,490 m(CIWS等による地対空射撃)
- 砲弾全長:168 mm
- 砲弾総重量:257 g
- 砲弾発射重量:約 100 g
- 信管重量:約 11 g
[編集] 関連項目
- 機関砲
- 航空機関砲
- ガトリング砲
- リヴォルヴァーカノン
- チェーンガン
- センチュリーシリーズ
- M134 (機関銃):M61を小型化した7.62mmガトリング銃。「ミニガン」の呼び名で知られる。