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鳥居耀蔵 - Wikipedia

鳥居耀蔵

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

鳥居耀蔵 凡例
時代 江戸時代後期から明治時代
生誕 寛政8年11月24日1796年12月22日
死没 明治6年(1873年10月3日
別名 忠耀(名)。胖庵(号)
官位 従五位下、甲斐
幕府 江戸幕府南町奉行
氏族 林氏鳥居氏
父母 父:林衡
養父:鳥居一学成純
兄弟 鳥居耀蔵林復斎
正室:鳥居成純の娘・登与


鳥居 耀蔵(とりい ようぞう)は、江戸時代の幕臣。後に(ただてる)と名乗る。

目次

[編集] 家系

実父は大学頭を務めた幕府儒者の林衡(はやし・たいら)(号・述斎(じゅっさい))で耀蔵は3男。旗本・鳥居一学成純の長女登与の婿として養嗣子となり、鳥居家を継ぐ。弟に、日米和親条約の交渉を行った林復斎がいる。

[編集] 生涯

[編集] 前半生

寛政8年(1796年)11月24日、林述斎(林衡)の3男(4男説もある)として生まれる。生母は側室。

25歳のとき、旗本の鳥居成純の養子となって家督を継ぎ、2500石を食む身分となる。そして将軍・徳川家斉の側近として仕えた。

[編集] 天保の改革

やがて家斉が隠居して徳川家慶が将軍となり、その老中である水野忠邦天保の改革のもと、目付南町奉行として市中の取締りを行う。渋川六蔵、後藤三右衛門と共に水野の三羽烏と呼ばれる。

天保9年(1838年)、江戸湾測量を巡って洋学者の江川英竜と対立する。このときの遺恨が従来の保守的な思考も加わり洋学者を嫌悪するようになり、翌年の蛮社の獄渡辺崋山高野長英ら洋学者を弾圧する遠因となる。天保12年(1841年)、南町奉行・矢部定謙を讒言により失脚させ、その後任として南町奉行となる。矢部は家が改易され桑名藩に幽閉、ほどなく絶食して憤死する。

天保の改革における鳥居の市中取締りは非常に厳しく、かつ、おとり捜査を常套手段とする等、権謀術数に長けていたため、当時の人々からは“蝮(マムシ)の耀蔵”、或いはその名をもじって“妖怪(耀-甲斐)”と渾名され、忌み嫌われた。また、この時期に北町奉行だった遠山景元(金四郎)が改革に批判的な態度をとり規制緩和を図ると、鳥居は水野と協力し、遠山を北町奉行から地位は高いが閑職の大目付に転任させた(遠山は鳥居失脚後に南町奉行として復帰した)。

改革末期に水野が上知令の発布を計画し、これが諸大名旗本の猛反発を買った際に、鳥居は反対派の老中・土井利位に寝返り、機密資料を残らず土井に横流しした。やがて改革は頓挫し水野は老中辞任に追い込まれてしまうが、鳥居は従来の地位を保った。

ところが、外交問題の紛糾から、半年後の弘化元年(1844年)水野が再び老中として幕政を将軍家慶から委ねられると状況は一変する。水野は自分を裏切り改革を挫折させた鳥居を許さず、仲間の渋川、後藤の裏切りもあって、同年9月に鳥居は職務怠慢、不正を理由に解任され、翌、弘化2年(1845年)2月22日に有罪とされ、10月3日には全財産没収の上で讃岐国丸亀藩に預けられる。これ以降、鳥居は明治維新の際に恩赦を受けるまでの間、20年以上お預けの身として軟禁状態に置かれた。

[編集] 哀れな晩年

丸亀での鳥居には昼夜兼行で監視者が付き、使用人と医師が置かれた。監視は厳しく、時には私物を持ち去られたり、一切無視されたりする事もあった。嘉永5年(1852年)の日記には1年中話をしなかったという記述がある。そんな無聊を慰めるため、また健康維持のため、若年からの漢方の心得を活かし幽閉屋敷で薬草の栽培を行った。また、自らの健康維持のみならず領民への治療を行い慕われた。林家の出身であったため学識が豊富で、丸亀藩士も教えを請いに訪問し、彼らから崇敬を受けていた。このように、軟禁されていた時代の鳥居は“妖怪”と渾名され嫌われた奉行時代とは逆に、丸亀藩周辺の人々からは尊敬され感謝されていたようである。

幕府滅亡前後はかなり監視も緩み、鳥居は病と戦いながら様々な変化を見聞している。明治政府による恩赦で、明治元年(1868年)10月幽閉を解かれた。しかし鳥居はここで改めてただ者ではないことを証明する。すなわち、「自分は将軍家によって配流されたのであるから上様からの赦免の文書が来なければ自分の幽閉は解かれない」と言って容易に動かず、新政府、丸亀藩を困らせた。東京と改名された江戸にしばらく居住していたが、明治3年(1870年)、郷里の駿府(現在の静岡市)に移住、明治5年(1872年)に東京に戻る。晩年は知人や旧友の家を尋ねて昔話をする平穏な生活に明け暮れ、明治6年(1873年)10月3日、多くの子や孫に看取られながら波瀾に満ちた生涯を全うした。享年78。

[編集] 人物・逸話

  • 遠山景元は当時の江戸庶民の同情を買い、遠山イコール正義、鳥居イコール悪役の図式ができ上がり、ここから、後に講談や小説、映画やテレビドラマで人気を博することになる『遠山の金さん』ものの素地、および必殺シリーズその他の時代劇における悪役としてのイメージができ上がったといわれる。
  • 栗本鋤雲の評=「刑場の犬は死体の肉を食らうとその味が忘れられなくなり、人を見れば噛みつくのでしまいに撲殺される。鳥居のような人物とは刑場の犬のようなものである」
  • 木村芥舟の評=「若いときから才能があったが、西洋の学問を嫌い、洋書を学ぶ者を反逆者として根絶やしにしようとした。天保の改革を推進するためには邪魔者を陰険な手段で追い払った。この点は鳥居にとって大いに惜しむ所である」
  • 勝海舟の評=「残忍軽薄甚しく、各官員の怨府となれりといへども、その豪邁果断信じて疑わず、身をなげうつてかへりみる事なく、後、罪せられて囹圄にある事ほとんど三十年、悔ゆる色なく、老いて益勇。八万子弟中多くかくのごとき人を見ず。亦一丈夫と謂うべき者か」
  • 残された日記や詩文から、鳥居は自分を退けて開国したことが幕府滅亡の原因であると考え、当時流行した洋風軍隊や民衆の軍事教練に批判的な目を向けているのがわかる。これらの事例から鳥居は頑なではあったが意思の強い人物であった事、高い教養を身につけた知識人であったことがわかる。蛮社の獄により、日本は多くの人材を失ったが、実行に際しては鳥居なりの信念を持っていたと考えられる。ただ、彼の評価を大きく下げているのは水野忠邦への裏切り行為や同僚・矢部定謙への讒言行為などである。
  • 江戸の市民からはかなり嫌われていたようであり、市民に人気のあった矢部の後任として南町奉行になる際、「町々で惜しがる奉行、やめ(矢部)にして、どこがとりえ(鳥居)でどこが良う(耀)蔵」という落首が詠まれたという。

[編集] 詩文

儒学者の家に生まれた耀蔵は詩をよくものした。特に幽閉時代は無聊を慰めるため詩作に励んだが、自身の悶々とした思いが込められている。

 「東京」(赦免されて23年振りに江戸=東京に帰ってきたときの述懐)

 交市通商競イテ狂ウガ如ク

 誰カ知ラン故虜ニ深望アルヲ

 後ノ五十年須ラク見ルヲ得ベケレバ 

 神州恐ラクハ是レ夷郷ト作ラン


訳:人々の行き交いも商業も狂ったように競っている。

  誰が知るだろう、過去の罪人(耀蔵)の考えを。

  五十年後の未来を予想できるならば

  日本はおそらく野蛮人の国となっているだろう。

[編集] 江戸幕府役職履歴

6月11日7月8日)、印旛沼古堀普請御用兼帯。
8月13日7月10日)、勘定奉行・勝手方を兼帯。
8月15日7月12日)、重ねて印旛沼古堀普請御用兼帯。
10月17日12月8日)、勘定奉行兼帯を解く。
10月3日11月2日)、讃岐国丸亀藩主京極長門守高朗のもとに永のお預け処分。

[編集] 関連書籍・作品

他、鳥居耀蔵を好意的に書いている小説として

  • 平岩弓枝『妖怪』 ISBN 4167168758
  • 宮城賢秀『妖怪犯科帳』シリーズ:鳥居耀蔵を主役とする異色の連作。

[編集] 鳥居耀蔵を演じた人物

[編集] 関連項目


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