解放されたエルサレム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
文学 |
---|
ポータル |
各国の文学 記事総覧 |
出版社・文芸雑誌 文学賞 |
作家 |
詩人・小説家 その他作家 |
クラシック音楽 |
---|
作曲家 |
ア-カ-サ-タ-ナ |
ハ-マ-ヤ-ラ-ワ |
音楽史 |
古代 - 中世 |
ルネサンス - バロック |
古典派 - ロマン派 |
近代 - 現代 |
楽器 |
鍵盤楽器 - 弦楽器 |
木管楽器 - 金管楽器 |
打楽器 - 声楽 |
一覧 |
作曲家 - 曲名 |
交響曲 - ピアノ協奏曲 |
ピアノソナタ |
ヴァイオリン協奏曲 |
ヴァイオリンソナタ |
弦楽四重奏曲 |
指揮者 - 演奏家 |
オーケストラ - 室内楽団 |
音楽理論/用語 |
音楽理論 - 演奏記号 |
演奏形態 |
器楽 - 声楽 |
宗教音楽 |
イベント |
音楽祭 |
メタ |
ポータル - プロジェクト |
カテゴリ |
『解放されたエルサレム』(かいほうされたエルサレム、原題 La Gerusalemme liberata、1575年)は、トルクァート・タッソによるバロックの 叙事詩である。 第1回十字軍に場面をおく(主に創作された)物語で、ゴドフロワ・ド・ブイヨン率いるキリスト教騎士たちが、1099年のエルサレム奪取のためにムスリムと闘う様子を描いている。詩の構成としては、各8行の連が、長短様々な20編(カント)にまとめられている。
目次 |
[編集] 解説
この作品は、ルネサンス的な騎士道物語とイタリア叙事詩の双方の分野に属する。物語の構想や登場人物の類型については、アリオストの『狂気のオルランド』から直接借用している部分が少なくない。また、(特に包囲攻撃や戦闘場面の描写においては)ホメロスやウェルギリウス の古典叙事詩に想を得た部分もある。
タッソは、空想を含みはするものの、キリスト教徒とムスリムの間に実際に行われた戦いという史実を題材としており、このことが他のルネッサンスの叙事詩にはない複雑な暗示を生み出す効果をもたらしている。但し、キリスト教徒とムスリムの争いというテーマ自体は、オスマン帝国がヨーロッパ東部に領土を拡張しようとしていた当時の読者に強く訴えるものとして、他の同時代作品にも見られるものである。
タッソの詩作における最も特徴的な表現方法の一つは、愛と義務の間で引き裂かれる登場人物たちが直面する感情的葛藤の描写であり、武勇や栄誉に反する愛こそが、読者に大きな叙情的興奮を与えるものである。
『解放されたエルサレム』ではキリスト教徒たちの間の不和、後退、そして最終的な勝利を描いている。もっとも著名な場面は下記の通りである。
- エルサレムのキリスト教徒の娘ソフロニア(Sofronia)は、ムスリムの王によるキリスト教徒皆殺しを防ごうと、無実ながら罪を自首する。恋人オリンド(Olinde)は彼女を助けようと自分こそが罪人であると訴え、人々を守ろうと二人ともが王に嘆願する。
- 女性戦士クロリンダ(Clorinda)はムスリム軍に加わるが、キリスト教騎士タンクレディ(Tancredi)と恋に落ちてしまう。夜襲の際、十字軍の塔に火を放った彼女は、誤って恋人に殺されてしまうが、息絶える直前にキリスト教に改宗する。クロリンダはウェルギリウスの描いたカミッラ(『アエネイス』)やアリオストの描いたブラダマンテ(『狂気のオルランド』)に想を得ている。また、アフリカ人夫婦に生まれるコーカソイドの女児という出生は、エメサのヘリオドロスによる古代ギリシャ文学の主人公(カリクレア:Chariclea)に祖型をみることができる。
- アンタキア(アンテオケ)の王女エルミニア(Erminia)もまたタンクレディと恋に落ち、彼を助けるために自分の民を裏切る。しかし、タンクレディがクロリンダを愛していることを知って嫉妬し、ムスリムのもとへ戻りクロリンダの武具を盗み、羊飼いたちに加わる。
- 魔女アルミーダ(en:Armida)は、助けを求めてキリスト教陣営に入り込む。彼女の誘惑が騎士たちを分裂させ、一部の騎士たちが彼女とともに陣営を離れるが、結局は彼女の魔法で動物に変えられてしまう。 アルミーダはホメロスの描いた キルケ (『オデュッセイア』)及び、アリオストの描いた魔女アルチナ (『狂気のオルランド』)がモデルとなっている。
- アルミーダは最強のキリスト教騎士リナルド(Rinaldo:アリオストの『狂気のオルランド』にも見える名)を殺害しようとする。リナルドはベルトルド(Bertoldo)の息子であり、エステ家の創始者であるとされる。しかし、アルミーダはリナルドと恋に落ちてしまい、彼を魔法の島へ連れ去り、愛撫で夢中にさせ骨抜きにしてしまう。二人のキリスト教騎士が、この秘密の砦を発見し、砦を守る障壁を乗り越え、リナルドにダイアモンドの鏡を与えて自身の女々しく愛に堕ちた状態を見せ、傷心のアルミーダを残して戦場へ連れ戻す。(類似の構想をアリオストの作品に見ることができる。この中でアルチナは騎士ルッジェーロを誘惑するが、彼女の魔法は良い魔女メリッサのもたらした魔法の指輪で解かれる。アルチナは恋人を失ったことを嘆き死を願うが、魔女ゆえに死ぬことができない。)
『解放されたエルサレム』はヨーロッパ全土に渡り多大な成功を収め、以後二世紀にわたって各エピソードが独立した物語としてオペラ、劇、バレエや仮装にしばしば翻案された。また様々な場面が(例えばフランスの フォンテーヌブロー派 によって)絵画に描かれた。
しかし、同時代の一部の批評家たちはこの作品をあまり歓迎せず、特にタッソがふんだんに魔術をもちこんだ点や、語り口の混乱に批判が集中した。死の直前にタッソは、『征服されたエルサレム』(La Gerusalemme Conquistata)という題名で作品を大幅に書き直したが、この改作は現代の批評家からは酷評されている。
[編集] 『解放されたエルサレム』に基づく主な作品
[編集] 楽曲及びオペラ
- マドリガーレ「解放されたエルサレム」(ジャケス・デ・ヴェルト、1595年ころ)
- タンクレディとクロリンダの闘い(クラウディオ・モンテヴェルディ、1624年)
- アルミード(ジャン・バティスト・リュリ、1686年)
- リナルド(ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル、1711年)
- 捨てられたアルミーダ( ニコロ・ヨンメッリ、1770年)
- アルミーダ(アントニオ・サリエリ、1771年)
- アルミード(クリストフ・ヴィリバルト・グルック、1777年)
- アルミーダ(フランツ・ヨーゼフ・ハイドン、1784年)
- アルミーダ(ジョアキーノ・ロッシーニ、1817年)
- カンタータ『リナルド』(ヨハネス・ブラームス、1858年)
- アルミーダ (アントニン・ドヴォルザーク、1904年)
- ソプラノ、テノール、バリトン、3つのヴィオラ、チェロ、ダブル・バス、ハープシコードの為の『タンクレディとクロリンダの闘い』( ルチアーノ・ベリオ 、1966年) (モンテヴェルディ作品の改作)
- エルミニア(ホアン・クリソストモ・アリアーガ)
[編集] 劇
[編集] 絵画
- タンクレード(ニコラ・プッサン、1630年頃)
- タンクレードとクロリンダ (テオドール・ヒルデブラント 、1830年頃)