オデュッセイア
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『オデュッセイア』(希:ΟΔΥΣΣΕΙΑ)は、『イリアス』と並び、伝説的な詩人ホメロスの作とされる古代ギリシアの叙事詩である。『イリアス』の後編にあたり、トロイア戦争の後、イタカ島の王である英雄オデュッセウスが各地を放浪して行った貴種流離譚の冒険、および、オデュッセウスの息子テレマコスが父を探す探索の旅を歌う。
紀元前8世紀頃に成立し、ホメロスと呼ばれる盲目の吟遊詩人が音楽と共に吟唱したが、紀元前6世紀頃から文字に書かれるようになり、現在の24巻からなる叙事詩に編集された。この文字化の事業は伝承ではアテナイのペリクレスに帰せられる。
古代ギリシアにおいては、『オデュッセイア』と『イリアス』は、教養ある市民が必ず知っているべき知識のひとつとされた。なお今日一部の研究者によって、『イリアス』より『オデュッセイア』は遅く成立し、かつそれぞれの編纂者が異なるとの想定がなされている(ホメロス問題)。
また、現代の欧米諸国においても教養層においては知悉しておくべき知識教養として重視されている。
目次 |
[編集] 構成
[編集] 第1歌
[編集] ムーサへの祈り
ホメロスの叙事詩は、朗誦の開始において、「ムーサ(詩神)への祈り(英語:Invocation to Muse)」の句が入っている。それは、話を始める契機としての重要な宣言と共に、自然な形で詩のなかに織り込まれている。『オデュッセイア』では、最初の行は次のようになっている:
- Andra moi ennepe Mousa polytropon hos mala polla
言葉の順番に意味を書くと、次のようになる:
- あの男のことを わたしに 語ってください ムーサよ 数多くの苦難を経験した(あの男)を……
「あの男」とは、オデュッセウスのことを指し、オデュッセウスが経験した数々の苦難の旅の物語を、わたしの舌を通じて、語ってください、と詩神(ムーサ)に祈るのである。このようにして、ムーサが朗詠者に宿り、叙事詩の物語を語るのは、実は、ムーサであるということになる。
オデュッセウスがカリュプソの島に囚われているところから叙事詩は始まる。
[編集] 第2歌
オデュッセウスが死んだと考えられているイタケでは、オデュッセウスの妻ペネロペに40人の求婚者が言い寄っていた。
2人の息子であるテレマコスは、母の苦境を救うべく、オデュッセウスを探す旅に出る。テレマコスには、オデュッセウスの友人であるメントールの姿を取ったアテネが同行し、テレマコスを導く。
[編集] 第3歌
テレマコスはピュロスに着き、ネストル王に会う。
王は、アガメムノンは殺されたことを話す。
[編集] 第4歌
メネラオスはオデュッセウスのエジプトでの難破について話す。
[編集] 第5歌
ポセイドンの怒りを買いイタケに還れずにいるオデュッセウスに対して、他の神々は同情的である。
ポセイドンがエチオピアの宴席に赴きオリュンポスに不在である隙を見て、アテナは大神ゼウスに嘆願し、オデュッセウスの帰国の許しを得る。
神の王ゼウスは伝令使ヘルメスをカリュプソの島に赴かせ、オデュッセウスを出立させる。
しかし、その帰国を快く思わないポセイドンがオデュッセウスのいかだを三叉矛で難破させる。
数日後オデュッセウスは海岸に流れ着き、オリーブの茂みで眠りにつく。
[編集] 第6歌
難破したオデュッセウスを海岸で助けたのは王女ナウシカアであった。
[編集] 第7歌
ナウシカア姫は父王の元に案内する。
[編集] 第8歌
翌日は祝日になり、アルシオコス王の宴でオデュッセウスはトロイ戦争の話をする。
王は、オデュッセウスの素性を尋ねる。
[編集] 第9歌
オデュッセウスは自分の素性を話し、今までの長旅について話し始める、イスマロスの町、ロートパゴイ族、キュクロプスの話をする。
[編集] 第10歌
アイオロスの風によって帰路につこうとするが、船員が誤って風の袋を開け、来た方角に押し戻される。
アイアイエ島の魔女キルケに船員は豚にされてしまう、オデュッセウスはヘルメスの、魔法を防ぐハーブにより助かる。
キルケはオデュッセウスがオケアノスを越えて、冥界に行かなければいけないことを話す。
[編集] 第11歌
第11歌は、「ネキュイア」(Nekyia)として知られる。
ヘラクレスの柱(今のジブラルタル海峡)を越えて冥界に行く、母の幽霊やトロイ戦争で死んだ兵士の幽霊に会う。
[編集] 第12歌
オデュッセウスの航海と冒険の話の続き。キルケーの館より出て、仲間達と船を進ませる。
途中、セイレーネス(セイレーンたち)という人の顔を持ち鳥の身体を持つ怪物がいる島の傍らを船は通過する。セイレーンたちの歌を聴いた者はすべての記憶を失い、怪物セイーレンに近づきその餌食とされる。しかし、オデュッセウスはその歌が聞きたく、仲間たちの耳は蜜蝋で塞ぎ、自分は帆柱に縛り付けもらい、身動きできないようにして、無事通過する。オデュッセウスは、セイレーンの島に進むのだと叫ぶが、仲間たちは歌もその言葉も聞こえないので、そのまま無視して進んだ。
次に、怪物スキュレーのいる岩の横を通過するが、スキュレーは、六本の頭で仲間たち六人をくわえて捉えむさぼり食うが、オデュッセウスを初め、他の仲間は何とか無事にスキュレーの岩の傍らを通過できた。
それから更に、アポローンの家畜がいる、トリーナキエー島に一行は上陸する。オデュッセウスはあらかじめに警告を受けていたので上陸を止めたが、仲間たちが上陸すると云って聞かず、やむをえず上陸する。やはり凶事は起こり、部下がアポローンの家畜をみだりに殺し食用にした為、アポローンは怒り、彼らの船は再びスキュレーのいる岩の近くに流され、今度は、大渦巻きですべてを飲み込むカリュブディスの岩の下の海に吹き寄せられたので、船は仲間を含めて渦巻きに飲み込まれる。
しかしゼウスが船に雷を落とし、オデュッセウスだけは助かり、カリプソの島に流れ着いた。
[編集] 第13歌
オデュッセウスの話は終わり、アルシオコス王は彼をイタケに帰るように話し、オデュッセウスはアルシオコスから魔法の船を借り、イタケへ船出する。
イタケに帰還、アテナは彼を老人に変装させる。
[編集] 第14歌
豚飼いのエウマイオスは素性を明かしていないオデュッセウスを歓待する。
[編集] 第15歌
アテナはテレマコスに故郷に帰るように言う。
[編集] 第16歌
テレマコスはイタケに帰り、アテナはオデュッセウスを元の姿に戻す。
オデュッセウスはテレマコスと再会する。
2人は計略を練り、オデュッセウスが死んだと偽る。
[編集] 第17歌
アテナはもういちどオデュッセウスを乞食の姿に戻し、彼は街へ帰る。
[編集] 第18歌
求婚者はオデュッセウスの鍛えられた筋肉に驚く。
[編集] 第19歌
彼はペネロペと長く話すが、素性は明かさない。
嘗ての乳母は膝の傷からオデュッセウスに気づく。
[編集] 第20歌
ゼウスは青空に雷を落とす。
[編集] 第21歌
ペネロペはオデュッセウスの弓を持ち、”この弓を扱える者と私は結婚する”と告げる。
求婚者は、次々と試すが失敗、その日がアポロの祭日であった為に、献酒する。
オデュッセウスは弓で、矢を12本の斧の穴に通す。
[編集] 第22歌
オデュッセウスは首謀者アンティノオスの喉を矢で射抜き、息子や家来と共に他の求婚者たちをすべて討ち果たす。次いで、オデュッセウスを裏切った侍女たちを絞首刑に処する。
[編集] 第23歌
オデュッセウスはペネロペに冒険談を話す。
[編集] 第24歌
オデュッセウスは、父と再会する。
求婚者の親族が復讐しようとするが、アテナが仲裁する。
[編集] 影響史
[編集] 主要写本
[編集] ホメロス問題
近代になると、研究者達は『イリアス』と『オデュッセイア』がそれぞれ別の人物によって作られたのではないかと主張し始めた。仮にホメロスが『イリアス』を作ったのなら、『オデュッセイア』は他の作者が存在したのだろうというのである。今日では、両方ともホメロスによって作られ、多くの伝承を含んだものとして見做されている。
[編集] その他
- 西欧語では原義から転じてしばしば「長い航海」の意味でも使われる(例:『2001年宇宙の旅』の原題 "2001: A Space Odyssey")。
- 本田技研工業(ホンダ)で生産されているミニバン、オデッセイ(ODYSSEY)の名もこれに由来し、同社で生産されているミニバン、エリシオン(ELYSION)は、この物語に登場する楽園の名である「エリュシオン」に由来している。
また、海外専売車のミニバン、フィアット・ウリッセ(ウリッセはオデッセイアのローマ読み)も同等の由来である。
- 日本に中世から伝わり、幸若舞などにもなっている説話に『百合若大臣』がある。これは、主人公の百合若が戦から帰る途中で家来に裏切られて島に置き去りにされ、そこから苦心して帰還するというストーリーである。百合若は帰宅後、自分の妻に言い寄る男たちを弓で射殺す。以上のようにまとめると、『百合若大臣』はオデュッセイアと酷似している(主人公もオデュッセウスのラテン語名「ウリッセス」に似ている)。そのため、『百合若大臣』は『オデュッセイア』が日本で翻案されたものであるという仮説も提唱された。代表的な提唱者は坪内逍遥や南方熊楠。
- 『宇宙伝説ユリシーズ31』(1981年制作の日仏合作テレビアニメ)はこの物語に材を取っている。主人公の名はユリシーズ、息子はテレマークという。
- 二分心 (Bicameral Mind) - オデュッセイアの時代の人間の心の考察