社会性昆虫
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社会性昆虫(しゃかいせいこんちゅう)とは、ハチやシロアリのように、集団を作り、その中に女王や働き蟻(蜂)のような階層があるような生活をしているなど、社会的構造を備える昆虫を指す。
かつては社会性昆虫であるかどうかの判断は、群れに階層があるかどうかであったが、現在では不妊の階層があるかどうかが重視される。
大きな群れを作らず、また、階層が分かれていないが、親子が一緒に生活するものを亜社会性ということもある。
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[編集] 社会性
ほとんどの昆虫は親が孵化した子の世話をすることがない。一部には子守りをする昆虫も知られるが、その多くは子供が大きくなる前に別れ別れになる。それに対して、ハチの一部と、アリ・シロアリは親が子の面倒を見るだけでなく、その子が大きくなっても共に生活し、大きな集団を形成するにいたる。このような昆虫が社会性昆虫である。
脊椎動物では多くの場合に一時的であれ、母子やつがいが家族を形成し、家族が個体群の中に含まれ互いに縄張りや群れを形成するなど、社会的な関係を持っている。複数の個体や家族を含む集団が単なる集まりではなくて、より複雑な構造と相互作用を持つ場合に「社会性」という言葉を与える。実際には厳密には定義しがたいが、一般にはヒトの社会を代表として、それに類するようなものを社会性と呼ぶ。
このような脊椎動物の社会と比べても、大集団を作るハチやアリ類はいかにも人間的な社会を持つように見える。例えば女王や働きバチなどの階級があり、それぞれに役割分担があるなど、人間社会を思わせるものである。そのため人間の社会と比較して論じられたりすることもあった。しかし、あらためて考えると、階級の違いによって、個体の大きさや構造に形態的な違いが見られること、繁殖をおこなう個体が女王に限られ、群れを構成する大部分の個体は互いに兄弟姉妹であることなど、脊椎動物の社会と大きく異なる点もある。
[編集] 様々な社会性昆虫
[編集] ハチの社会
ハチ目(ハチだけでなく、アリも含む)には、社会性のものから亜社会性のもの、単独生活のものまで、様々である。社会性昆虫と言われるのは、アリ類、アシナガバチ類、スズメバチ類、ミツバチ類などに見られる。社会性のハチとアリの社会は、雌のみで運営されている。この仲間は、受精卵からは雌、未受精卵からは雄が生まれる。女王は雄と交尾の後、単独で巣を作る。雄バチは女王と交尾した後に死亡し、巣作りには関わらない。産まれた卵からかえった幼虫を育てながら産卵を繰り返す。幼虫は成長して羽化すると働きバチとなり、巣に残って女王を助け、子守や餌運び、巣作りをし、自らは繁殖しない。一部のアリでは、大顎の発達した兵隊アリが分化する。ほとんどのハチでは、秋になると女王と雄バチが生まれ、それらは巣から飛び出して交尾ののち、女王は越冬するが、それ以外のハチは死滅する。従って、多くの蜂の巣は1年限りである(ミツバチとアリは複数年にわたって巣を作るものもある)。
[編集] シロアリの社会
シロアリはすべてが社会性である。シロアリは巣から羽アリが飛び出し、交尾すると、雄雌ペアになって巣を作る。雌雄は王、女王となり、交尾、産卵を繰り返す。生まれた子供は親と同じ姿で、ある程度成長すれば働き蟻として、王、女王を助け、巣を作るなどの作業を行う。子供は雌雄両方があり、それらは成長してゆくにつれ、一部のものが兵隊アリに分化する。兵隊アリは繁殖をしない。残りの働き蟻は、その一部が羽アリとなって巣外へ出て行く。シロアリの群れの多くは年を越して維持される。
[編集] 群れの運営
社会性昆虫の多くでは、生殖虫(ハチの女王、シロアリの王と女王)は繁殖のみを行い、それ以外のすべての作業はワーカー(働き蜂や働き蟻)が行う。ハチやアリでは食料はすべて巣外に取りに行く。シロアリでは、巣がそもそも餌である材木内に作られるものもあるが、熱帯地方では巣外に餌を求めるものも多い。そのような場合、多数の個体が同一の餌場に出かけ、巣に戻るのには目印として足跡フェロモンを使う例が多い。ミツバチでは、餌の位置を他個体に知らせるために8の字ダンスを踊ることが知られている。
ワーカーの役割としては餌運びの他に、巣の維持管理や幼虫や生殖虫の世話などがある。
生殖個体は巣に1個体(あるいは1ペア)が通例であるが、生殖虫が死亡した場合、巣内の幼虫から生殖虫の候補が出現する例があり、補充生殖虫などと呼ばれる。それらのうちの1個体が新たな生殖虫となると、他のものは殺される。これは、生殖虫がフェロモンを出し、自分以外の生殖虫の出現を抑制しているものである。これらの昆虫の多くでは、口移しに餌を与えあったりする行動が日常的に行われ、それによってフェロモンの伝搬も行われているらしい。
[編集] 社会性の進化
社会性昆虫の扱いについては、チャールズ・ダーウィン自身がその説明に困っていた。働きバチは子を産まず、子を産まなければその形質が子孫に伝わらないからである。
これを説明する方法として、まず考えられたのが、”女王による操作”説である。これは、女王がフェロモンで子供を働きバチにしている、その方が子育てがしやすく、多くの子を残せるからで、この、”自分の子を働きバチにする”という形質が女王を通じて選択されたのだ、とする考え方である。しかし、この説では、働きバチの方で反乱を起こす可能性が否定できない。つまり、働きバチの方に、女王の支配を受け付けないような突然変異が起きたとすれば、勝手に自分の子をもうけるのを止められないわけである。
この状況を打破したのが、ハミルトンによる血縁選択説である。この説は、まず、自然選択において、選択されるのが個体ではなく、個体の持つ表現形であるという発想から始まる。ある個体が生き延びたのは、ある性質を持っていたからで、その性質の元になる遺伝子が選ばれたのだと考えるのである。 そこで、個々の遺伝子の立場で、血縁度というものを見る。
ヒトの例で説明する。親と子がある場合、親の側から見ると、自分の子には自分の遺伝子の半分が入っている。一方兄弟姉妹の関係を考えると一方の遺伝子が他方に存在する確率も1/2であって、自分の子供の世話をする遺伝子も自分の兄弟姉妹の世話をする遺伝子も同様に成功する可能性があることがわかる。
さらに、アリやミツバチ(膜翅目)のように受精卵がメスになり、未受精卵がオスになるような昆虫では、同じ両親から生まれた姉妹間で一方の遺伝子が他方に存在する確率は3/4となり、自分の娘の世話をする遺伝子よりも自分の妹の世話をする遺伝子の方がコピーを後の世代に残しやすくなる。
このように考えれば、膜翅目であれ通常の性決定システムを持つ動物であれ、血縁関係の深い集団では、自分は子を持たず親を助けて兄弟を増やすやり方も、自分の遺伝子を残す目的に合致すると言える。もしも、自分の子供を作らずに、親を助けて子育てをする行動を取らせる遺伝子があれば、その行動によって、自分の子供を作る以上に遺伝子を残せる可能性があり、もしそれに成功すれば、その遺伝子は自然選択によって勝ち残るわけである。
このようにして、社会性昆虫における働きバチのようなあり方が、自然選択説で説明できることになった。そして、このことは、社会性昆虫の特徴が、不妊の階層の存在にある、という考えをもたらすことになった。
なお、血縁選択説は、社会生物学の発展の基盤をなすものともなった。
[編集] 新しい意味での社会性昆虫
このようにして、不妊の階層が存在することが社会性昆虫の大きな特徴であることが示された。これは、ほ乳類などに見られる社会と比べても特異的なものである。そこでこのような社会性を、真社会性と呼ぶようになった。それまで知られていた社会性昆虫の中で真社会性のものはハチの一部(とアリ)、シロアリに限られる。ハチとアリでの不妊カーストは働きバチ(アリ)であり、シロアリの場合は兵隊アリがそれに当たる。
真社会性を生む基盤が明らかになったことによって、他にも真社会性の昆虫がいるのではないかと考えられるようになった。血縁選択が働くためには、集団を作り、しかもその集団内部の血縁度が高ければいいのである。そして新たに不妊のカーストを持つ昆虫が発見された。アブラムシの仲間に、兵隊アブラムシを持つものが観察されたのである。アブラムシは、有翅の雌が飛んできて、植物上に定着すると、そこで単為生殖によって子供を産み、大きな集団を作る。アブラムシのある種は、生まれた子の一部が鋭いくちばしと鎌のような前足を持ち、天敵が近づくとそれにしがみついて防御をする。このような幼虫は、成長せず死ぬ。アブラムシの集団は同じ母親から単為生殖で生まれたクローンであるから、シロアリやハチ以上に血縁度は高く、真社会性が発達しやすいと考えられる。
その後、エビ類のテッポウエビの仲間と、ほ乳類のデバネズミなどにも真社会性が発見されている。これらは個体が分散せず、近親婚を行うことで個体間の血縁度が高く保たれているのではないかと推測されている。真社会性は昆虫だけのものではなくなっており、まとめて真社会性動物、真社会性生物とよぶ。ただし生物学では区別せずに「社会性」と言った場合は真社会性を持つものだけを指す場合もある。この文脈ではヒトは社会性動物ではない。ほ乳類で真社会性を持つのは現在のところハダカデバネズミのみである。
[編集] アリ・ハチ・シロアリの巣
これらは巨大な巣を作るものもあり、それが新たな環境を提供し、そこに生息する多くの生物群を生み出している。彼らが栽培する菌類や家畜的に飼育するササラダニやカイガラムシがいるのは特殊な例であるが、彼らの巣には、人間の場合のネズミやゴキブリのようなもの、あるいは居候や食客や居直り強盗などに類するような、さまざまな小動物が住み着いている。植物においても、巣の周辺では蓄積された食料や排泄物が土壌の窒素の含有率をたかめたり、周辺の昆虫類をアリが排除するため、巣の周辺に選択的に見られるものがある。
これらを表す言葉に好蟻性(こうぎせい)、あるいは好白蟻性(こうはくぎせい)という言葉がある。
[編集] 社会性の発達
- ハチ類には、単独生活から家族生活、真社会性のものまで、様々な段階の生活を持つものがある。それらの習性を比較することで、社会性がどのようにして発達したのかが推測されている。
- 社会性のハチには2つの系統がある。1つはアシナガバチ、スズメバチなど、肉食のもので、これの先祖はベッコウバチやドロバチ、ジガバチ等の狩りバチであったらしい。狩りバチは、成虫が幼虫の餌になる昆虫などを麻酔して巣穴に持ち込んでそこに卵を産み、生まれた幼虫はその餌を食べて成長する。卵を産むと巣を閉じてしまうものが多いが、途中で餌を追加するものもあり、そのようなものから子育てをする家族生活を経て、社会性に進化したと見られる。
- もう一つはミツバチなど、花の花粉と蜜を食べるもので、ハナバチの仲間にはハキリバチやヒメハナバチなど単独生活のものが多数あり、それらが先祖型と見られる。巣穴に花粉と蜜を蓄え、卵を産むと巣穴を閉じるものから、マルハナバチのような小規模の家族的集団生活を経て、ミツバチのような大規模な高度の社会性に進化したらしい。
- シロアリは、全種が社会性である。その起源については不明だが、シロアリは材木を食べるために共生する腸内微生物を持っている。生まれた子供はそれを親の口移しで手に入れる必要があり、そのような過程で家族生活が発達したものと思われる。