白熱電球
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白熱電球(はくねつでんきゅう)とはガラス球内のフィラメント(抵抗体)のジュール熱による輻射を利用した電球である。
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[編集] 歴史
ジュール熱を用いて導体を白熱させ照明に用いる試みは古くからあったが、一応の完成を見た真空白熱電球はイギリスのスワンが1878年に発明したものである。その報を知ったアメリカのエジソンが翌1879年に類似の電球を製造した。当時の欧米には東洋神秘ブームがあって、商才があったエジソンは「最初にフィラメントの原料として使われたのは、たまたま部屋にあった扇(おうぎ)の竹の骨であった」というエピソードで発表し注目を集めた。この竹を使ったフィラメントにより、電球の寿命はそれまでの10時間程度から1200時間以上にまで延びた。翌1880年、ゼネラル・エレクトリック(GE)社は直流配電による電灯事業を展開した。電球のネジ式口金が「エジソンベース」と呼ばれることからも、エジソンは「電球の発明者」ではなく「電灯の実用化に成功した人」と言うべきだろう。(配電方式の直流・交流の争いなど、事業家としての逸話は「トーマス・エジソン」の項を参照)。
電球は各種の材料で試みられたフィラメントに代わり1880年に京都の八幡男山(おとこやま)の竹を炭化したフィラメントによって一躍長寿命化し、原料となったその竹は1894年までGEのもととなったエジソンが電球製造販売のために設立したエジソン電灯会社(Edison Electric Light Company)に輸出された。その後炭化した合成繊維フィラメントに移り、やがてはオスミウムやタンタル、タングステンといった金属フィラメントとなる。
[編集] 蛍光灯への移行
2005年現在、一般の白熱電球用の器具には一部を除いて電球形蛍光灯を使用できる。このため、白熱電球より蛍光灯がふさわしい用途(連続点灯時間が比較的長い)の場合は白熱電球から電球形蛍光灯に交換して使用されることも多い。
なお、電球形蛍光灯を利用できない場合の例としては、
- 演色性を重視する環境の場合。特に特徴の項目で述べているとおり写真などを撮影することを意識する場合。
- 調光器(明るさを変化できる回路)に接続されている場合(一部対応している製品もある)。
- 直流で点灯されている場合(車両や船舶など、インバータを使って対応させている場合もある)。
- 物理的にカバーに入りきらない場合。
- 高温、多湿などの悪環境下(サウナ風呂の照明など)で使われる場合。
- 電気的なノイズが発生しては困る場合。
などが挙げられる。
白熱電球の明るさはかつては燭(カンデラ(cd)にほぼ等しい)を単位とする光度で表されていたが、現在はワット(W)を単位とする消費電力で表現されている。
[編集] 特徴
電力の多くが赤外線や熱として放出されるため発光効率が低い。日常用いられる100Wガス入り白熱電球では可視放射10%、赤外放射72%で、残りが熱伝導による消費となる。ガラス球部分に赤外線反射膜(通常、多重干渉膜によるダイクロイックミラー)を形成し、赤外放射の一部をフィラメントに戻すことで変換効率を上げたものもある。
発光の原理上放射光の分光分布が黒体放射に近く、一般の人工光源の中では演色性に特に優れている。このことから写真や映画、テレビの撮影光源として広く利用されるほか、人工光源の演色性の基準になる光源もそれ専用の白熱電球と特殊なフィルターの組み合わせで定義されている(CIE標準光源)。対してLEDや蛍光灯などはその発光の原理上、1つまたは複数の鋭いピークのあるスペクトルを持ち、演色性に劣る。人間の目では大きな問題を感じない時にも撮影光源として利用すると色カブりを生じがちである。
[編集] 寿命
現在、市販されている白熱電球の多くは1000~2000時間の寿命を持つ。ただ使用個所によっては電圧の高い(日本では許容最大値である110ボルトかかる)場合もあり、この場合は100ボルトの電球では寿命が短くなるために一部では110ボルトの電球が販売されている。110ボルト電球を100ボルト電源で使用すると5W程消費電力が下がり、効率の低い領域での使用になるため照度は消費電力以上に低下する。反面、寿命が100ボルト電球の2~3倍程度に伸びるメリットもある。
高温(2200℃~2700℃)となるフィラメントではその構成する素材(今日ではほとんどがタングステンとなっている)が蒸発し、折損(俗に言う「球切れ」)することで寿命となる。また昇華したタングステンがガラス球内に付着し、可視放射効率低下の原因ともなる。フィラメントを真空中に置いた真空電球ではこの昇華が大きい。
ガラス球内を不活性ガスで満たすことで昇華を抑えることが出来るが、ガス中への熱伝導による損失が大きくなる。今日用いられる白熱電球のほとんどがこのガス入り白熱電球と呼ばれるタイプのもので、封入する不活性ガスとしては通常、希ガスが用いられるがその分子量が大きいもの程熱伝導による損失が少くなるため、窒素やアルゴン以外に高価なクリプトンあるいはキセノンを用いたものもある。
封入ガスにハロゲン(沃素、臭素、塩素あるいはその化合物)を微量混合し、ガラス球部が高温になるように設計することで、昇華したタングステンをフィラメントへと還元するようにしたものもある(ハロゲンランプ)。
フィラメントの温度を高く設定すると放射光中の可視光成分が多くなり発光効率が上昇するが、その分フィラメントの蒸散も大きくなり、電球の寿命が短くなる。ハロゲンランプの場合、フィラメントの温度が同じならば通常のガス入り白熱電球の数倍の寿命となるが、その温度を高く設定し寿命は同じだが、効率が高い電球とすることも出来る。
またフィラメントの温度を低く設定し、長寿命化した製品も存在する。例えばキセノンランプの中には効率が低く光色も赤色味が強くなるが、10,000時間の寿命を持つものがあり電球交換の困難な場所で用いられている。電球のソケット部分にダイオードを組み込みフィラメントに流れる電流を半減させることでその寿命を延ばす部品も作られているが、これも同様の原理によるものである。なお、ソケット部分に電子回路を組み込み電球寿命を延ばすものも存在するが、これは電源投入時に流れるラッシュカレント(電源投入の瞬間からフィラメントの温度が安定するまでの間、規格の8倍程度の電流が流れてしまう現象。消灯時の冷えたフィラメントの抵抗値は点灯中の高温時に比べ低いために発生する)を軽減し、その時に発生するフィラメントにかかるストレスを減らすためのものである。
フィラメントは、通常単コイルまたは二重コイル(小径のコイルを巻き、そのコイル線で大径のコイルを巻く)となっている。これはフィラメントの封入ガスとの接触面積を減らすことで、熱伝導を抑え発光効率を改善するとともにその寿命を延長するのに有効である。
[編集] 使用中止に向けた法令等
地球温暖化防止・環境保護の観点から電力消費が多く短寿命である白熱電球は今後生産・販売を一切終了し、消費電力が少なく長寿命である電球形蛍光灯への切替を消費者やメーカーに促す動きが現在国際的に広がっている(特にオーストラリア、フランスやアメリカ(州による)などは白熱電球の生産・販売が今後法律で禁止される)。
[編集] 日本
日本では2007年11月、経済産業省及び環境省が「チーム・マイナス6%活動」の一環として「電力消費の多い白熱電球の生産・販売を今後行わない」よう電機メーカー各社に要請する事を決めた。また2008年4月には、2012年末までに生産と販売を自主的にやめるよう電機メーカなどに要請する方針を甘利明経済産業大臣が表明した[1]。これに応える形で東芝ライテックは同年4月14日に2010年度を目途に白熱電球の生産を原則中止すると発表した[2]。
しかし電球形蛍光灯は販売価格が従来の白熱電球より高価である他、ダウンライト等の密閉型器具・調光装置付き器具・自動点灯器具(人感センサーにより自動的に入・切する)・非常誘導灯器具(停電時にバッテリーを電源とする)には使えない場合がある為、上記の動きに対しては消費者側から反発も予想される。
[編集] 部品
- フィラメント
- 白熱電球の発光部分本体。
- 導入線
- アンカ(吊り子)
- フィラメントを支える補助線。モリブデン線が用いられる。
- 排気管
- フレヤー
- マズル
- マウント
- バルブ
- フィラメント部を封入したガラス球。通常軟質ソーダガラス、ときに硬質硼珪酸ガラス、ハロゲンランプでは石英ガラスが用いられる。
- サイレンサー
- ソケット
[編集] 白熱電球の例
[編集] 用途によるもの
- 一般形電球
- 耐震電球
[編集] 封入ガスによるもの
- ハロゲン電球
- クリプトン電球
[編集] ソケットの例
Eはネジ式の口金(エジソンベース、Edison screw)を指す。耐震性を要求される場所ではS、即ちスワンベース(引っ掛け式)を用いる。英国では普通の電球にもスワンベースの電球を用いる場合がある。
- E39 - 200W以上の大型の電球用である。
- E26 - 一般の電球ソケット、特殊用途以外は200Wまでである。(IEC 60061-1 (7004-21A-2))
- E17 - 小型の電球ソケット、クリプトンランプに多い。(IEC 60061-1 (7004-26))
- E12 - 常夜灯や表示灯などに使われるソケット。
- E9 - 懐中電灯や表示灯に用いられる