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ダイオード - Wikipedia

ダイオード

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ダイオード(英語:Diode)は整流作用(電流を一定方向にしか流さない作用)を持つ電子素子である。最初のダイオードは2極真空管で、後に半導体素子である半導体ダイオードが開発された。今日では単にダイオードと言えば、通常、半導体ダイオードを指す。 1919年イギリス物理学者 William Henry Eccles がギリシャ語di = '2'と ode = '道' を合わせて造語した。

画像:Logic Diode.png
ダイオードの電子回路図上表記
1:アノード 2:カソード
様々なダイオード
様々なダイオード

目次

[編集] ダイオードの整流作用

半導体ダイオードの電流-電圧特性の模式図。電圧が正の領域が順方向バイアス。
半導体ダイオードの電流-電圧特性の模式図。電圧が正の領域が順方向バイアス。

ダイオードは、アノード(陽極)およびカソード(陰極)の二つの端子を持ち(この用語は真空管から来ている)、電流を一方向にしか流さない。すなわち、アノードからカソードへは電流を流すが、カソードからアノードへはほとんど流さない。このような作用を整流作用という。真空管では、電極間に印加する電圧によって、カソードからの熱電子がアノードに到達するかが分かれることで整流作用が生じる。半導体ダイオードでは、p型とn型の半導体が接合されたPN接合や、半導体と金属が接合されたショットキー接合などが示す整流作用が用いられる。PN接合型ダイオードにおいては、p型側がアノード、n型側がカソードとなる。

[編集] ダイオードの基本動作

ここでは半導体ダイオードの動作について、基本的なPN接合ダイオードを例に取って簡単にその特性を述べる。2極真空管については、真空管の項を参照されたい。

[編集] 基本構造と熱平衡状態

半導体のpn接合とバンド構造の模式図
半導体のpn接合バンド構造の模式図

PN接合ダイオードは、n型半導体とp型半導体が滑らかに繋がった(接合された)構造をしている。PN接合部ではお互いの電子正孔が打ち消し合い、これら多数キャリアの不足した空乏層が形成される。この空乏層内は、n型側は正に帯電し、p型側は負に帯電している。このため内部に電界が発生し、空乏層の両端では電位差(拡散電位)が生じる。ただしそれと釣り合うように内部でキャリアが再結合しようとするので、この状態では両端の電圧は0である。

[編集] 整流動作

[編集] 順方向バイアス

順方向バイアス時のpn接合ダイオード
順方向バイアス時のpn接合ダイオード

ダイオードのアノード側に正電圧、カソード側に負電圧を印加することを順方向バイアスをかけると言う。これはn型半導体電子、p型半導体正孔を注入することになる。これら多数キャリアが過剰となるために空乏層は縮小・消滅し、キャリアは接合部付近で次々に結びついて消滅(再結合)する。全体でみると、これは電子がカソードからアノード側に流れる(=電流がアノードからカソード側に流れる)ことになる。この領域では、電流はバイアス電圧の増加に伴って急激に増加する。また電子正孔の再結合に伴い、これらの持っていたエネルギーが熱(や)として放出される。また、順方向に電流を流すのに必要な電圧を順方向電圧降下と呼ぶ。

[編集] 逆方向バイアス

逆方向バイアス時のpn接合ダイオード
逆方向バイアス時のpn接合ダイオード

アノード側に負電圧を印加することを逆方向バイアスをかけると言う。この場合、n型領域に正孔、p型領域に電子を注入することになるので、それぞれの領域において多数キャリアが不足する。すると接合部付近の空乏層がさらに大きくなり、内部の電界も強くなるため、拡散電位が大きくなる。この拡散電位が外部から印加された電圧を打ち消すように働くため、逆方向には電流が流れにくくなる。より詳しくは、PN接合の項を参照のこと。

実際の素子では、逆バイアス状態でもごくわずかに逆方向電流(漏れ電流、ドリフト電流)が流れる。さらに逆方向バイアスを増してゆくと、ツェナー降伏やなだれ降伏を起こして急激に電流が流れるようになる。この降伏現象が始まる電圧を(逆方向)降伏電圧または(逆方向)ブレークダウン電圧と言い、降伏によって急激に逆方向電流が増加している領域を降伏領域ブレークダウン領域)と言う。ブレークダウン領域では電流の変化に比して電圧の変化が小さくなる。この領域で積極的に動作させることで定電圧源として利用するのがツェナーダイオードである。

[編集] ダイオードの種類

PNダイオード (PN Diode)
半導体PN接合の整流性を利用する、基本的な半導体ダイオードである。詳しくはPN接合の項を参照のこと。
ショットキーバリアダイオード (Schottky Barrier Diode)
金属と半導体との接合面のショットキー効果の整流作用を利用している。順方向の電圧降下が低く、逆回復時間が短いため、高周波の整流に適する。一般的に漏れ電流が多く、サージ耐力が低い。これらの欠点を改善した品種も製作されている。
定電圧ダイオード (Reference Diode)(ツェナーダイオード (Zener Diode))
逆方向電圧をかけた場合、ある電圧でツェナー降伏またはなだれ降伏が起き、電流にかかわらず一定の電圧が得られる性質を利用するもの。電圧の基準として用いられる。添加する不純物の種類・濃度により降伏電圧(破壊電圧)が決まる。なお、順方向特性は通常のダイオードとほぼ同等。
定電流ダイオード(CRD, Current Regulative Diode)
順方向電圧をかけた場合、電圧にかかわらず、一定の電流が得られる様にしたもの。通常品は1mA~15mAの範囲の電流容量である。名称こそダイオードとなっているが、構造・動作原理ともむしろ接合型FETに似ている。
トンネルダイオード (tunnel diode)、江崎ダイオード (Esaki diode)
量子トンネル効果により、順方向電圧をかけるほどに流れる電流量が少なくなる「負性抵抗」が現れる電圧領域を利用するもの。1957年江崎玲於奈が発明した。不純物濃度を調整し、ツェナー破壊電圧を順方向バイアス電圧の領域にしたもの。
トリガ・ダイオード(ダイアック (DIAC))、サージ保護用ダイオード)
2極(Diode)の交流(AC)スイッチということから名づけられた名称。米国GE社で開発され、交流電源から直接トリガパルスを得る回路や電子回路のサージ保護用に使用される。規定の電圧(ブレーク・オーバー電圧:VBO)を超える電圧がかかった場合に導通状態になり端子間の電圧を低下させる双方向素子である。基本構造はPNP(またはNPN)三層の対称構造を持ち、PN結合のアバランシェ効果と、トランジスタの電流利得作用による負性抵抗特性をもつ。なお、名称こそダイオードとなっているが、実際の構造・動作原理はサイリスタに分類される複雑なものになっている。
可変容量ダイオードバリキャップ (variable capacitance diode)、バラクタ (varactor diode))
電圧を逆方向に掛けた場合にダイオードのPN接合の空乏層の厚みが変化することによる、静電容量(接合容量)の変化を利用した可変容量コンデンサ。機械的な部分がないため信頼性が高い。VCOや電圧可変フィルタに広く用いられており、テレビ受像器携帯電話には欠かせない部品である。なお、日本ではバリキャップと呼ばれることが多いが、海外ではバラクタと呼ばれることが多い。
PINダイオード (p-intrinsic-n Diode)
PN間に電気抵抗の大きな半導体層をはさみ少数キャリア蓄積効果を大きくし逆回復時間を長くしたものである。順方向バイアス時に高周波交流を通過させる性質があることを利用し、空中線のバンド切り替えなど高周波スイッチングに用いられる。
レーザーダイオード (laser diode)
レーザー光線を発生させるもの。半導体レーザーとも呼ばれる。
フォトダイオード (photo diode)
PN接合に光が入射すると、P領域に正孔・N領域に電子が集まり電圧が生じる(光起電力効果)。その電圧または電流を測定し光センサとして利用するもの。PN・PIN・ショットキー・アバランシェ(APD)の種類がある。太陽電池も同じ効果を利用しているが、フォトダイオードは逆方向バイアスを印加して光電流を取り出している。
バリスタ(非直線性抵抗素子)
一定の電圧を超えた場合、電気抵抗が低くなりサージ電圧から回路を保護する双方向素子である。酸化亜鉛焼結体の粒界が持つ、非直線抵抗性を利用している。
二極真空管
真空管の項参照。
ガス入り放電管整流器
針状電極と平板電極を向かい合わせた場合放電ギャップでは、針状電極を負極とした場合の方がより低い電圧で放電を開始する。と言う性質を利用した整流器。
点接触ダイオード
N型半導体の表面にタングステンなどの金属の針状電極を接触させたもの。その構造上、寄生容量が非常に小さいという特徴がある。ゲルマニウム・ダイオードやガン・ダイオードで用いられている。鉱石検波器も、点接触ダイオードの一種である。
発光ダイオード (Light Emitting Diode. LED)
エレクトロルミネセンス効果により発光する。詳しくは発光ダイオードの項を参照。
ガン・ダイオード
マイクロ波(小電力)の発振器に用いられる。
アヴァランシェ・ダイオード
アヴァランシェ・ブレークダウンを参照

[編集] 材質による分類(古い順)

  1. 二極真空管
  2. ゲルマニウム・ダイオード
  3. セレン・ダイオード
  4. シリコン・ダイオード
  5. ガリウム砒素・ダイオード

[編集] ダイオードのモデル

ダイオードの順方向を正とする電圧 v とアノードからカソードへ流れる電流 i との間の静特性を表すモデルとしては、ショックレーダイオード方程式 (diode equation) が有名である。 これは指数関数から定数を引いた簡単な式として、

i = I_S \cdot \left(e^{v/(n v_T)} - 1\right)

と表されている。 ただし、ISn は個々のダイオードの種類でおよそ決まる正の定数である。 モデル上 IS は逆方向バイアスをかけたとき逆方向電流の極限値に相当し、飽和電流 (saturation current) とよばれる。 シリコン・ダイオードではこれは nA のオーダー、ショットキー・バリア・ダイオードではその数桁上であることが多い。 n はキャリアの再結合電流に対する補正値で通常 1〜2 の範囲の値をもつ。 また、vT熱電圧 (thermal voltage) とよばれる絶対温度 T に比例する量で、電圧の次元を持ち常温 (300K) では 26 mV 程度である。 これは基礎物理定数を用いて、

v_T = \frac{k_B}{q_e} T

と簡明に表される。 ただし、kBボルツマン定数qe素電荷T は絶対温度である。 このモデルではなだれ降伏や内部直列抵抗、接合容量などが考慮されていないことに注意が必要である。 よって逆方向バイアスでのブレークダウンは表されておらず、また大きな順方向バイアスを与える場合や電圧が時間的に素早く変動する場合をうまく表すことはできない。 SPICE のような回路シミュレータではこれらも考慮したより詳細なモデルが使われている。

IS の値は通常非常に小さなものであるため、実用上問題にならない場合は式の − 1 の項を除いて電圧–電流関係を単に指数関数とみなすことも多い。 指数部分をスケールする熱電圧と n との積は数十 mV のオーダーであり、0.1 V の電位差であっても 2〜4 桁程度の大きな電流の違いに相当する。 よって、考えている電流の範囲においてダイオードが電流を流し出す電圧をおよそ定めることができ、これから、ある電圧を境に電流を流し出すとする区分線形的なモデルが用いられる場合もある。

[編集] 関連項目

ウィキメディア・コモンズ

[編集] 参考図書

  • 最新ダイオード規格表 各年度版 (CQ出版社)


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