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山本七平 - Wikipedia

山本七平

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

山本 七平やまもと しちへい1921年12月18日 - 1991年12月10日)は、山本書店店主。評論家

目次

[編集] 経歴

[編集] 年譜

1921年12月18日東京府荏原郡三軒茶屋(現在の東京都世田谷区三軒茶屋)で、クリスチャンの両親(山本文之助、八重)の間に長男として生まれる。名の「七平」は神の安息日(日曜)生まれから命名される。兄弟姉妹は姉2人と妹1人。父方のいとこおばの夫は玉置酉久(大石誠之助の次兄)。

1937年青山学院教会洗礼を受ける。

1942年9月、太平洋戦争中のため、青山学院専門部高等商業学部を21歳で繰り上げ卒業する。10月、第二乙種合格で徴兵され、陸軍近衛野砲連隊へ入隊。その後、愛知県豊橋市の豊橋陸軍第一予備士官学校に入学する。

1944年5月、第103師団砲兵隊本部付陸軍砲兵見習士官(のち少尉)として門司を出航、ルソン島における戦闘に参加。1945年8月15日、ルソン島北端のアパリで終戦を迎える。同年9月16日、マニラの捕虜収容所に移送される。 1947年、帰国。

1956年、世田谷区の自宅で聖書学を専門とする出版社、山本書店株式会社を創業する。のち山本書店は新宿区市ヶ谷に移転。

1970年イザヤ・ベンダサン著『日本人とユダヤ人』を山本書店より発売する。

1979年、大平内閣の諮問機関「文化の時代」研究グループの議長を務める 。

1984年、中曽根内閣の諮問機関「臨時教育審議会」の第一部会専門委員を務める 。

1991年膵臓癌により自宅で死去した。遺骨の一部はイスラエル散骨された。

[編集] 受賞歴

1973年、第35回文芸春秋読者賞受賞

1981年、第29回菊池寛賞受賞

1989年、和歌山県文化表彰にて文化賞受賞


[編集] イザヤ・ベンダサンとの関係

[編集] 山本による説明

当初『日本人とユダヤ人』の著者ではないかと言われることについて、山本は「私は著作権を持っていないので、著作権法に基づく著者の概念においては著者ではない」と述べる一方で、「私は『日本人とユダヤ人』において、エディターであることも、ある意味においてコンポーザーであることも否定したことはない。」とも述べている。(山本七平「ベンダサン氏と山本七平氏」『実業の日本』1977年10/1(1899号)49-50頁)

後に、1987年のPHP研究所主催の研究会では以下のように説明している。

山本書店を始めた頃に帝国ホテルのロビーを原稿の校正作業にしばしば使用していたら、フランク・ロイド・ライトのマニアということがきっかけでジョン・ジョセフ・ローラーとその友人ミンシャ・ホーレンスキーと親しくなった。
キリスト教が日本に普及しなのはなぜかという問題意識のもと3人でいろいろ資料を持ち寄って話し合っているうちにまとまった内容を本にしたのが『日本人とユダヤ人』である。
ベンダサン名での著作についてはローラーの離日後はホーレンスキーと山本の合作である。
ローラーは在日米軍の海外大学教育のため来日していたアメリカのメリーランド大学の教授で、1972年の大宅壮一ノンフィクション賞授賞式にはベンダサンの代理として出席した。
ホーレンスキーは特許関係の仕事をしているウィーン生まれのユダヤ人、妻は日本人。

(山本七平「一出版人の人生論」『Voice』PHP研究所、1992年3月、特別増刊山本七平追悼記念号、28-30頁)

[編集] 山本死後の扱い

稲垣武は、上記研究会での説明および夫人の山本れい子の証言をもとに『怒りを抑えし者』(PHP研究所、1997年)「第9章ベンダサンとその時代」において、『日本人とユダヤ人』は、2人のユダヤ人(ローラーとホーレンスキー)との対話を参考とはしているが構成も文章も山本のものと結論付けている。

同様に、『山本七平ライブラリー』編集部もライブラリー13および14(文芸春秋、1997年)の奥付の初出一覧の脇に、ベンダサン名の諸作品はほぼ山本の著作、もしくは山本を中心とする複数の外国人との共同作業と考えられるというコメントを付している。

2004年『日本人とユダヤ人』が角川oneテーマ21シリーズから(角川書店、2004年)が山本七平名で出版されたり、ベンダサン名で連載された「ベンダサン氏の日本歴史」(『諸君!』文芸春秋1973年1月以降22回掲載)が山本著『山本七平の日本の歴史』(ビジネス社、2005年)として単行本化されるなど、山本の死後10年以上経過してからはベンダサン名の著作が事実上山本のものとして扱われることが多い。

[編集] 思想

日本社会日本文化日本人の行動様式を「空気」「実体語・空体語」といった概念を用いて分析した。その独自の業績を総称して「山本学」と呼ばれる。

山本は、『現人神の創作者たち』のあとがきで、「もの心がついて以来、内心においても、また外面的にも、常に『現人神』を意識し、これと対決せざるを得なかった」と語っている。山本は、クリスチャンであるだけでなく、父親の親族に大逆事件で処刑された大石誠之助をもっていた。これらのことが、山本の日本社会・日本文化・日本人に対する思考の原点であるといえよう。

その山本が、最も力を入れて執筆した作品が、『現人神の創作者たち』と『洪思翊中将の処刑』である。前者は、「そんなに打ち込んでは命がもたないよ」と言われながら執筆されたものであり、後者は、「一番書きたいものを書いてくれ」と請われて執筆したものであった。

『現人神の創作者たち』は、題名の通り、いかにして尊皇思想が生まれたかを探求した作品である。山本は、日本に亡命してきたの儒学者朱舜水を起点とし、山崎闇斎浅見絅斎安積澹泊、栗山潜峰、三宅観瀾らの議論を追いながら、どのように尊皇思想が形成されていく様子を描いた。そして、その尊皇思想が、社会全体にどのような影響を与えたかを、元禄赤穂事件をめぐる当時の言論状況をたどることであきらかにしたのであった。山本は、尊皇思想の影響は今もなお残っているのだと語っている。

洪思翊中将の処刑』は、朝鮮人でありながら、帝国陸軍で中将まで昇進した洪中将を扱った作品である。洪は、中将に昇進したことからもわかるように、帝国陸軍の優秀な軍人である一方で、抗日運動家と秘密裡に関係を持ち、その家族を支援するなど(自身が抗日運動に参加することは拒んでいる)、きわめて複雑な生き方を強いられた人物であった。山本の洪に対する執着の理由のひとつは、そこにあったと思われる。洪は、太平洋戦争後、戦犯として処刑されるが、軍事法廷において一言も発することはなかった。山本は、この作品で、その沈黙の意味をあきらかにしようとしたのであった。

[編集] 評価

山本は、その評価をめぐっては賛否が激しく分かれており、きわめて毀誉褒貶の激しい人物といえよう。

死後10年以上経った現在でも、著作が復刻されたり、文庫・新書化されたりすることがあらわしているように、山本の著作は今なお読者を惹きつけている。惹きつけられた人々にとって、山本は日本社会・文化に対する深い洞察を示した人物ということになろう。

その一方で、山本の著作には記憶にたよった不正確な引用や、出所のあきらかでないエピソードの披露などが多く、評論家としては信用に値しないと考える人間もまた少なくない。その中には、山本は読者をあざむくために意図的・積極的に虚偽の事実を示しており、ほとんど詐欺師に近い人物であると考えるものもいる。

[編集] 具体的な批判

  • 『私の中の日本軍』において、自らの軍隊経験から、日本刀は2~3人切ると使い物にならなくなると主張した。しかし、これについては、日本軍の中でも特に質の悪かった一部の日本刀(軍刀)や、戦地という劣悪な状況下で日々酷使され、満足に手入れも出来ず自然とナマクラになってしまった刀に限った話[1]であり、本来の日本刀の性能について誤解を招くものだという批判がある[2]。さらに、同書における『戦ふ日本刀』からの引用は、自説に都合の良い部分のみを引用した不正確なものだという批判もある。また、本多勝一とのいわゆる百人斬り競争における論議で、彼はイザヤ・ベンダサンの名義のまま、山本七平の持論である「日本刀は2~3人斬ると使い物にならなくなる」という誤った論理を中心に本多を批判した。この論理はこの論争の後に一般に広がるものの、この理論がユダヤ人からわざわざ「ヒントをもらった」とは考えにくい。
  • 自分が外国人であると言い、発言に重みを増す行為はヤン・デンマンポール・ボネなども行っていたとされる。また、『醜い韓国人』の著者が韓国人ではなく日本人ではないかと言われた際にも、韓国側から当時公然の秘密であったイザヤ・ベンダサンの事例が提示され(雑誌SAPIO)日本の出版界の体質が批判された[3]
  • 浅見定雄は、『にせユダヤ人と日本人』において、『日本人とユダヤ人』における翻訳の誤りを指摘し(たとえば、聖書の「蒼ざめた馬」を山本は間違った訳であると言うが、これは正しい訳であるなど)、山本の語学力の低さを批判した。山本が訳者となった、浅見自身の師である聖書学者の著書を題材に、山本が高校生レベルの英文を理解できず、明らかな誤訳をしていることも具体的に示し、「ヘブル語アラム語はおろか、英語もろくに読めない」人物だと批判した。また浅見によると『日本人とユダヤ人』によって、一般の人に広く広がっていった「ユダヤ人は全員一致は無効」という話も、実は完全な嘘あるいは間違いであり、「こんな無知な人が何をどう言おうとも、現代イスラエル国の裁判所や国会で全員一致が無効とされるわけではなく、また世界各地のユダヤ人が、さまざまな集会から家族会議まで、あらゆる生活場面で全員一致をやっている事実が消えてなくなるわけでもない」と批判した。また「ニューヨークの老ユダヤ人夫婦の高級ホテル暮らし」というエピソードも、実際にはあり得ない話で、「この話は全部、一つ残らず、まったく、ウソ」であることも明らかにした。英語版(リチャード・ゲイジ訳)の『日本人とユダヤ人』からは完全にこのエピソードはカットされている。アメリカ人には全くあり得ない話と感じる内容だからカットされたわけで、このような状態で「ユダヤ人」からヒントを得たというのは、きわめて疑問であるとする人もいる。あるホステルの主人が、ユダヤ人を「においで嗅ぎ分けた」という話や、「関東大震災で朝鮮人が虐殺されたのは、体臭が違うからと語った老婦人」なども、山本がでっち上げた作り話だと断じた。この他にも、浅見により数多くの誤りが指摘されている。
  • 山本を絶賛する評伝を書いた稲垣武は、『怒りを抑えし者 評伝 山本七平』の中で以上の批判をまともに扱っていない。参考文献からは、山本を批判する文献はほぼ無視しており、批判したのが誰なのかも書いていない(例外として、本多と山本の共著の形になっている一冊のみ挙げている)。浅見についても、「落ちた偶像となった進歩的文化人らが、『日本人とユダヤ人』の著者と目された山本七平を、右翼・保守反動の権化と蛇蝎視し、特に同じキリスト教徒であるプロテスタント左派が、山本に悪意に満ちた攻撃を加え続けたのも当然であった」(前掲406ページ)と、名指しせずにプロテスタントである浅見を意識した非難をするに留まり、「悪意に満ちた攻撃」の内容については触れていない。

[編集] 主要著書

[編集] 日本人の行動原理について考察したもの

「空気」の研究 文芸春秋、1977年
日本資本主義の精神 光文社、1979年
勤勉の哲学 PHP研究所、1979年
現人神の創作者たち 文芸春秋、1983年
日本的革命の哲学 PHP研究所、1982年
日本人とは何か。 上、下 PHP研究所、1989年
山本七平の日本の歴史 上、下 ビジネス社、2005年
受容と排除の軌跡 主婦の友社、1978年
山本七平・小室直樹 日本教の社会学 講談社、1981年
山本七平・岸田秀 日本人と「日本病」について 文芸春秋、1980年

[編集] 自らの軍隊経験を中心に述べたもの

ある異常体験者の偏見 文芸春秋、1974年
私の中の日本軍 上、下 文芸春秋、1975年
一下級将校の見た帝国陸軍 朝日新聞社、1984年

[編集] 評伝

洪思翊中将の処刑 文芸春秋、1986年
昭和天皇の研究 祥伝社、1989年
徳川家康 プレジデント社、1992年
江戸時代の先覚者たち PHP研究所

[編集] 中国古典に関するもの

論語の読み方 祥伝社、1981年
参謀学-「孫子」の読み方 日本経済新聞社、1986年
帝王学-「貞観政要」の読み方 日本経済新聞社、1983年
指導力-「宋名臣言行録」の読み方 日本経済新聞社、1986年

[編集] コラム・時事評論

「あたりまえ」の研究 ダイヤモンド社、1981年
「常識」の研究 日本経済新聞社、1981年
「常識」の非常識 日本経済新聞社、1986年
「常識」の落とし穴 日本経済新聞社、1989年
時評「にっぽん人」 読売新聞社、1981年
無所属の時間 旺史社、1975年
日本人的発想と政治文化 日本書籍、1979年

[編集] 聖書・キリスト教関連

聖書の常識 講談社、1980年
山本七平の旧約聖書物語 三省堂、1984年
山本七平、山本れい子、山本良樹 山本家のイエス伝 山本書店、1996年

[編集] その他

人間集団における人望の研究 祥伝社、1983年
存亡の条件 ダイヤモンド社、1975年
静かなる細き声 PHP研究所、1992年
危機の日本人 角川書店、1986年
日本はなぜ敗れるのか-敗因21か条 角川書店、2004年
人生について PHP研究所、1994年
宗教について PHP研究所、1995年
比較文化論の試み 富山県教育委員会、1975年
日本人の人生観 講談社、1978年
現代の超克 ダイヤモンド社、1977年
日本型リーダーの条件 講談社、1987年
空想紀行 講談社、1981年
山本七平・山本良樹 父と息子の往復書簡 日本経済新聞社、1991年
山本七平・山本夏彦 意地悪は死なず 講談社、1984年
山本七平・山本夏彦 夏彦・七平の十八番づくし サンケイ出版、1983年

[編集] 全集

山本七平ライブラリー 1-16 文芸春秋、1997年
山本七平全対話 1-8 学習研究社、1984-1985年

[編集] イザヤ・ベンダサンの著作

  • 日本人とユダヤ人(山本書店、1970年)
  • 日本教について(文芸春秋、1972年)
  • にっぽんの商人(文芸春秋、1975年)
  • 日本教徒(角川書店、1976年)

[編集] 参考文献

  • 稲垣武 怒りを抑えし者 「評伝」山本七平(PHP、1997年) ISBN 4569553230
  • 浅見定雄 にせユダヤ人と日本人(朝日文庫、1986年) ISBN 4022604166
  • 会田雄次佐伯彰一山本七平と日本人 一神教文明のなかの日本文化をめぐって(廣済堂出版、1993年) ISBN 4331504182
  • 高澤秀次 戦後日本の論点 山本七平の見た日本(ちくま新書、2003年) ISBN 4480061193
  • 犬飼裕一 にせユダヤ人が語る「日本」の物語 : 山本七平と日本人論の知識社会学(北海学園大学論集)
  • 犬飼裕一 山本七平と"にせ外国人"の系譜学 : 「日本」を知識社会学で論じるには 2(北海学園大学論集)

[編集] 脚注

  1. ^ 旧日本軍の軍人が持っていた日本刀の一部は「本来の日本刀の性能」からすれば粗悪なものであったという事実はあるものの、当時の将校私物軍刀々身の大半は本鍛錬の日本刀であり、軍官給品初め現代科学の力を使った特殊軍刀々身はそこらの日本刀を凌駕する性能や耐久性を持っていた。また、両者とも関の孫六や「先祖伝来の宝刀」(波平)などの俗に言われる名刀を使用し、それを報道されているのでこの場合には全く当てはまらない。また「軍刀=全てが粗悪」といった誤り偏った風評や偏見が今もなお蔓延っている事実を考慮する必要がある。
  2. ^ 日本刀を用いた通り魔殺人事件が1985年9月19日下関で起きているが、山口大学医学部付属病院精神科に通院していた犯人(当事37歳)は、亡くなった父親が箪笥にしまっていた日本刀を持ち出し母親ら4人を殺害、さらに6人に重症を負わせている。
  3. ^ 『醜い韓国人』は韓国人協力者はいるものの、韓国人なら当然知っているような事柄にも誤りがあり、ほとんどの内容は加瀬英明が書いたものとされている。

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク


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