審判員 (野球)
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野球において審判員は、試合の進行と判定を行う者である。
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[編集] 球審
球審(きゅうしん、英:umpire-in-chief ; plate umpire)は、通常は捕手の後方に配置されるが、単独審判制で審判を行う場合には、状況に応じて、投手の後方に位置することもある。試合を司る重要な役割を担い、その任務は、投球の判定や打者に対する判定、競技の進行に関わる宣告など多岐に渡る。特に投球の判定は、1試合につき200球~400球ほどに及び、膨大な集中力と持久力が要求される。また、投球やファウルボールが球審の身体に当たることも珍しくなく、他の審判員と異なり、怪我防止のために防具を装備する必要がある。
球審には umpire-in-chief の語が当てられているが、主審(crew chief ; chief umpire)と混同してはならない点に注意が必要である。野球において主審とは、その試合における審判団の責任者であり、球審が主審であるとは限らない。しばしば日本では球審を指して主審と呼ぶこともあるが、厳密には誤りである。
スコアボードでは、「CH」、「PU」、「PL」、あるいは単に「球」と表記される。
[編集] 塁審
塁審(るいしん、英:base umpire(s) ; field umpire(s) )は複数審判制で審判を行う場合に、内野に配置される審判員のことをいう。日本のプロ野球でもっとも一般的である4人審判制では、塁審は通常、一塁・二塁・三塁の各塁付近に位置する。3人審判制・2人審判制では、塁審の数がそれぞれ2人・1人となり、球審とともに、走者や打球の状況によってそれぞれフォーメーションを対応させながら判定を行う。6人審判制では塁審に加えて外野にも審判員(外審)が配置されるが、そうでない場合は、外野に飛んだ打球についても判定の責任を持つ。
一塁や三塁に塁審が立つ場合は、原則としてファウルラインをまたがず、ファウルライン際のファウルグラウンドに立つ。これは万が一打球が塁審に当たった場合に、迷わずファウルボールと判定できるためである。塁審が内野内に位置する場合は、選手のプレイの妨げにならないよう注意しながら、低い姿勢で身構える。ひざをついた体勢で構えると、打球が飛んできた場合など、とっさの時に身動きが取れなくなってしまうので、ひざをつかない体勢で構える。
[編集] 外審
外審(がいしん)は、6人審判制のときに外野に配置される審判員のことをいう。外野審判(がいやしんぱん)とも呼ばれる。以前は線審、またはラインアンパイアーと呼ばれていたが、外野の広範囲における打球の判定を行うことから、現在ではこの名称で呼ばれている。ライト側とレフト側に各1名が配置される。英語での呼称はそれぞれ right field umpire, left field umpireである。
近年は外審を配置せず、4人審判制で行う試合が多く見られるようになった。4人審判制では外審の任務は一塁・三塁塁審が兼ねることとされているが、塁審の位置から外野フェンスまでは距離があり、ポール際に飛んだ打球が本塁打かファウルボールかでトラブルもしばしば起きるため、外審の復活を求める声もある。
[編集] 審判員の任務
野球の審判員は球審・塁審・外審の区別なく、タイム、ボーク、インフィールドフライ、反則投球などによるボールの汚損の宣告、その他、ルールの適切な適用を行う権限が同等に与えられており、これを遂行する任務がある。
さらに球審には以下のような任務がある。
- 試合の進行に関する全ての権限を持つ。
- 競技の開始または再開する際の「プレイ」の宣告(「プレイボール」ではなく、「プレイ」と宣告する。)
- 試合終了の際の「ゲーム」の宣告(「ゲームセット」ではなく「ゲーム」と宣言する。)
- 没収試合(フォーフィッテッドゲーム)の裁定。
- 選手の打順及び守備位置の発表。
- 選手交代の受付・発表。
- 投球の判定…ストライクまたはボールの宣告とそのカウント。
- 打者に関する全ての判定…死球や反則打球の判定など。
塁審は主に塁における判定や走者に関する判定を行うが、試合の状況によっては定位置にあたる塁以外でも判定を行う場合がある。また、一塁または三塁に位置する塁審にあっては、ハーフスイングのときに球審から要求があった場合の、スイングの判定も重要な役割となる。
飛球を捕球できたか否か(アウト、ノーキャッチ)や、打球のファウルボール、フェアボールの判定、スタンドに入ったボールが本塁打か否か(エンタイトルツーベースあるいはファウルボール)などの判定については、内野を越えるまでは原則として球審が、塁を超えていく打球については原則として塁審が判定を行う。さらに外審が配置されている場合は、塁審の頭上を越えて外野に飛んでいく打球について外審が判定を行う。
[編集] 控え審判員制度
公認野球規則4.19〔注〕の定めに基づき、日本のアマチュア野球では提訴試合が認められていない。そのため日本のアマチュア野球における公式試合では、試合担当審判員が規則適用を誤った場合、それによって起こる抗議や紛争を即時解決できるような規定を定め、これに基づいて控え審判員の制度を設けていることが多い。
控え審判員は、試合を担当する審判員が規則適用に関する明らかな間違いを犯している場合には、誤った規則を適用されたチームの抗議の有無に関係なく、その誤りを訂正させることができる。例えば、アウトカウントやボールカウントを常に確認し、カウントの間違いがあれば訂正させることができる。 また、試合を担当する審判員が裁定に苦しむ時は、控え審判員と協議する事ができる上に、試合担当審判員は控え審判員にその裁定を仰ぐ事もできる。
- 日本プロ野球にも控え審判員は置かれているが、プロの場合は試合担当審判員の急病や、事故などの時に緊急出場する為に置かれており、目的が異なる。
[編集] 審判員のフォーメーション
アメリカではメジャーリーグのみ4人制でオールスターとプレーオフ、ワールドシリーズでは6人制、マイナーリーグ3Aは3人制(まれに4人制有)、2A・1A及びアマチュアは2人制となっている。
日本では、プロ野球のセントラル・リーグは1989年まで、パシフィック・リーグは1995年まで、それぞれ公式戦全試合に外審を置いていた。日本ではプロ・アマとも4人制が基本であり、通常は外審を配置していない。オールスターゲーム、日本シリーズ、および各リーグのプレーオフ (2007年からはクライマックス・シリーズ) では外審を配置することとなっている。なお、オールスターゲーム、日本シリーズ、プレーオフのみに外審をおく理由として「重要試合で審判をすることは名誉なことだから、多くの審判員に経験させたいから」、あるいは「重要試合だから念には念を入れて配置するから」だと言われている。アマのナイトゲームでは6人制、プロ2軍は3人制(まれに4人制有)、アマの末端では3人制や2人制を敷いている所もある。
4人審判制を敷いていたが、途中から6人審判制に切り替える場合もある。これは、日没や濃霧などの理由で視界が悪くなってきた場合が主な例である。
- 1961年4月27日・大阪球場の南海 vs 近鉄戦では、外野のモヤが深いため7回から外審を増やし、7人制審判で行われた。
- アマチュア野球では日没のため照明を点灯することになったときに配置される。
- 神奈川県の高校野球予選は、照明点灯時はもちろん、外野席を開放した試合でも外野審判を配置する。
[編集] 単独審判制
単独審判制の場合、審判員は球審のみである。球審は判定を行うにあたって最も最適な位置を占める。基本的には無走者の場合は本塁後方、走者がある場合には投手の後方に立つ。
[編集] 2人審判制
本塁上に球審を配置する他、塁審を1名配置する。塁審は、無走者の場合は一塁におけるプレイを判定する。走者がある場合には投手の後方に立ち、球審とともに各塁の判定を行い、打球、送球の状況に応じてフォーメーションを対応させる。
[編集] 3人審判制
本塁上に球審を、一塁と三塁に塁審を配置する。フォーメーションは原則として以下の通りであるが、走者や、打球、送球の状況に応じて対応させる。
- 無走者の場合
- 一塁塁審は一塁の後方、三塁塁審は三塁の後方に立つ。
- 走者一塁、一・二塁、一・三塁、満塁の場合
- 一塁塁審は一塁から3m程度後方に、三塁塁審は二塁から約5m離れた内野内(投手の後方)に立つ。
- 走者三塁の場合
- 一塁塁審は一塁の後方、三塁塁審は三塁後方に立つ。
- 走者二塁、二・三塁の場合
- 一塁塁審は二塁から約5m離れた内野内(投手の後方)に立ち、一塁及び二塁の判定を受け持つ。三塁塁審は三塁から3m程度後方に立つ。
[編集] 4人審判制
本塁上に球審、一塁、二塁、三塁の各塁に塁審を配置する。塁審は、走者の位置、打球、送球の状況に応じてフォーメーションを対応させる。
二塁塁審は、一塁・二塁に走者がいない場合は一・二塁の延長線上(外野)に、一塁・二塁に走者がいる場合は二塁から約5m離れた内野内(投手の後方)に立つ。
[編集] 6人審判制
6人審判制の場合は塁審に加えて左翼・右翼のファウルライン際に外審を配置する。外審が立つ定位置は、1990年代まではレフト側・ライト側にそれぞれ設置されているポールの真下であった。これは、観客席から打球が跳ね返りやすい構造の球場が多いため、打球が跳ね返ったときに、フェアゾーンのスタンドか、ファウルゾーンのスタンドか、どこに当たって跳ね返ったのかを見極めるためとされてきた。2000年代からは観客席から打球の跳ね返りが少ない球場が増えてきたため、左翼側の場合、レフトポールと三塁との中間地点で、内側へ約1.5メートル入った地点、右翼側の場合、ライトポールと一塁との中間地点で、約1.5メートル内側へ入った地点とされている。1.5メートル内側へ入る理由は、外審の立つ位置から球審・捕手・打者・投手の動作を完全に見る為である。
[編集] 用具
野球の審判員を行う際には、審判服・審判帽を着用し、
などが必要である。球審ではこれに加え
- マスク(喉を保護するスロートガードつきが主流)
- 肩、鎖骨、胸、腹までをガードするプロテクター。アマチュア野球ではアウトサイドプロテクターが主だったが、フォーメーション変更に伴い1999年頃からインサイドプロテクターが主流となっている
- 急所を保護するカップ
- 膝下のレガース
- ボール袋
- 審判靴。球審が履く審判靴は、靴の先端が安全靴のように固い仕様になっているもの
- 審判帽。球審はマスクを付け、咄嗟の時には素早くこれを外さなければならないので、塁審に比べツバが短いものを着用する
などが必要となる。ただし野球のレベル、硬式・軟式の違いなどによって、この中から省くものもある。
[編集] 球審の服装
一般に、スポーツの審判員は同じ服装で試合に臨むのが原則である。しかし野球では、球審だけが違う審判服を着ていることもある。これは、球審がインサイドプロテクターを装着することにより、塁審と暑さ・寒さの感じ方が変わる上に、個人によって暑がり・寒がりもいるため、気候やその日の天候、個人のコンディション等を参酌し、球審は最も審判しやすい服装で臨んで良いという申し合わせがなされているからである。
例えば塁審はブルゾンであるのに対して球審は半袖シャツかブレザー、塁審は黒色シャツであるのに対して球審は水色シャツ、塁審は長袖シャツだが球審は半袖シャツなどの服装の違いが見られることもある。