宿替え
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「宿替え」(やどがえ)は、上方落語の演目の一つ。江戸落語では「粗忽の釘」の名で演じられる。 長屋の慌てものが引越しをする際のドタバタを描いた作品で、全て演じ通せば長時間のネタとなるが、途中を省略、もしくは打ち切って時間調整をすることが可能な演目である。初代桂春團治、2代目三遊亭百生、2代目桂枝雀、5代目桂文枝などが、東京では6代目春風亭柳橋、5代目柳家小さんが得意とした。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
[編集] あらすじ
今日はとある夫婦の引越しの日。慌てものの男は大きな風呂敷を広げて「オレは風呂敷さえあったらどんなものでも持って行く」と大言壮語。櫓炬燵や漬物石から死んだお婆さんのオマルまで風呂敷に包んで、いざ転居先へ出発と思ったが風呂敷はびくともしない。おかしいなと思ってよく見れば、移動の途中で中身がバラけないようにするために胴括りのつもりで掛けた帯が、家の敷居も一緒に括っていたのだ (大阪では賃貸住宅は借家人が畳や建具を持ち込む形式だったため、引越しの際は畳を揚げてしまって敷居が剥き出しになっている)。
元通りにして無事に出発した男。しっかり者の嫁はそのあと家を片付け、近所への挨拶も済ませて新しい家にやってきたが、先に行ったはずの亭主がいない。掃除も済ませたころにようやく滝のような汗をかいた男がやってきた。男は道中、チンドン屋や法華信者たちの提灯行列に付いて行ったり、対面から来た自転車に衝突した弾みからお婆さんが横手の溝にはまって病院へ連れて行ったり、ドタバタした挙句にやっと転居先にたどり着いたのであった。
あきれ返った嫁だが、気を取り直して亭主に「箒を掛けるための釘を1本打ってくれ」と頼む。「偉そうに言っても女じゃ釘の1本も打てやしない」と得意げな男。「お前らがバカにするのもオレが今達者だからこそ。死んでしまったら秋の夜長に目を覚まし『いい男だったわねえ』と位牌を取り出して乳の間に挟まれてももう気持ちいいことはない…」などとアホなことを言いながら金槌で叩いているうちに、釘を完全に打ち込んでしまったのだ。しかも打ったのは八寸の瓦釘、打ち込んだ場所は柱ではなく長屋の壁…。
隣宅に釘の先が出ているのは間違いない。嫁に怒られつつ慌てて家を飛び出した亭主。「釘が出てませんか?」と尋ねて入ったのは隣でなくお向かいの家。また慌てて飛び出し今度こそ隣の家へ。しかし隣からはどの辺に釘を打ったのかわからない。もう一度自宅に戻った男はもういちど金槌で叩いてみる。すると―。
隣宅の奥の間の仏壇、阿弥陀様が安置してあるすぐ横から釘の先が出ていたのだ。大慌てで男を呼び戻した隣人。
「おたくはあんなところに箒かけたはりますのか?」
「何でや、あれはあんたが向こうから打った釘やないか」
「困りましたねえ」
「何が困った?」
「毎日ここまで、箒を掛けに来んといかん」
ここでサゲとなる場合と、そのあと、呆れた隣人がほかに釘打つ男の人はいないのかとこぼすと、
「へえ。そういうたらお父っつあんいてました。」
「ええ?・・ちょっと待ちなはれ。お前はんとこ、嫁はんいてるし、子供し外で遊んでるし、年よりおらんがな。」
「あっ!しもた!家に忘れてきた!」
「そら、何するんじゃいな。ほんまにあんたあわて者やなあ。どこぞの世界に我が親忘れる者おますか。」
「親ぐらいどうともおまへん。酒飲んだら我忘れます。」
でサゲとなることもある。
以上で物語・作品に関する核心部分の記述は終わりです。