宗教多元主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
宗教多元主義(英:Religious pluralism)とはさまざまな宗教が同じ社会に存在することを認め、お互いの価値を認めながら共存していこうとする宗教的態度、思想である。またそれぞれの宗教の信者ががその信仰の枠組みの中において救済に預かっているのだという思想を含む。また、『○○教』という固定化された枠組みに当てはまらない多重層的なシンクレティシズムなども共存の対象である。
宗教多元主義はキリスト教、イスラーム、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教、神道、その他の諸宗教では一般的な思想ではなかった。これらの宗教では互いに自己を絶対化し、無価値なものと決め付ける(宗教的排他主義)か、あくまでも自己の宗教の枠内において他宗教の価値を認める(宗教的包括主義)のが通常だった。
しかし近現代に入り世界の一体化が進む中で、宗教間対話や他宗教に対する理解が進み、宗教の多元性を唱える動きがさまざまな宗教の内部で現れた。
宗教多元主義時代の宗教哲学では、たとえば神の唯一性(一神教が強調)、多元性(多神教が強調)、遍在性(汎神論、ほとんどの宗教に含まれるとされる)を調和させ、一神教/多神教という対立軸を止揚する試みなどが進んでいる。そのほかにも、キリスト教では三位一体論への批判などが展開されている。
今でもいわゆる排他主義的な思想を採用している宗教者の中には、宗教多元論を激しく攻撃する者もある。排他主義と多元主義の論争は、今日多くの宗教の中に見られる現象である。キリスト教やイスラム教における論争がよく知られているが、それは一神教に特有なものではなく、仏教やヒンドゥー教などの多神教においても見られる現象なのである。