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婚約解消計画 - Wikipedia

婚約解消計画

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

エレツ検問所
エレツ検問所

婚約解消計画תוכנית ההתנתקות、disengagement plan)とは、イスラエルによるガザ地区からの制空権及び制海権を維持した上での軍の全面撤退と、全ユダヤ人入植者約8500人の退去並びにヨルダン川西岸の小規模入植地の解体を目指した撤退計画をさす。アリエル・シャロン首相が2004年2月2日に計画を発表し、2005年8月から9月にかけて実行された。

目次

[編集] 経緯

[編集] 計画の波紋

2004年2月シャロン首相は地元紙ハアレツの取材に対し、突如としてガザの全21箇所・ヨルダン川西岸入植地の4箇所の解体を打ち出し、全世界を驚愕させた。なぜならシャロンは2001年に首相に就任して以来、パレスチナに対し一貫して強硬姿勢を崩していなかったからである。かねてよりパレスチナに融和的だった労働党は即座にこの計画を支持、パレスチナ人の執拗なインティファーダ自爆テロ攻撃によって厭戦気分が高まっていた国内世論も総じてシャロンの計画に好意的だった。また、シャロンとは首相就任以前から親密なアメリカジョージ・ブッシュ大統領も歓迎の意を示し、2004年4月14日に行われた首脳会談でもイスラエルへの全面的な支持が確認された。

国内外からの支持を得たシャロンだったが、自身が党首をつとめる右派政党リクードの反応はまるで違っていた。旧約聖書に基づく領土拡張が党是であるリクードにとって、シャロンの行動は裏切り以外の何物でもなかった。シャロンは、撤退計画を党員投票にかけ、党内の信任を得た上で国会での採決に持ち込む構えだったが、その目論見は見事に打ち砕かれた。シャロンの政敵であるネタニヤフ元首相は多数派工作を公然と拒否、最側近だったリブナット教育相もシャロンからの離反を始め、強硬派のウジ・ランダウに至っては入植者と一体になって反対運動を展開し公然と叛意を示す始末だった。5月2日に実施された党員投票日にガザのグッシュ・カティーフで入植者の母子5人がパレスチナ人の男に惨殺される事件が勃発する。これにより否決への流れは決定的になり、実に60パーセント以上が反対、シャロンはいわば面子を丸つぶれにされた格好になる。

[編集] 閣議決定・国会上程

党員からノーを突きつけられたシャロンだったが、高い世論の支持を背景に不退転の決意は揺るがなかった。6月6日、計画に反対する国家統一党の閣僚を解任し閣議決定に持ち込む。閣議決定後、同計画を非とする国家宗教党の閣僚2人が抗議の辞任に出る。党内の強硬派との溝がますます深まる中、10月には国会に上程、リクードからは17人の造反を出しながらも、労働党や左派政党からの支持を取り付け67対45で国会を通過させた。2005年2月16日には総額38シェケルに上る入植者補償法案が国会を通過。

2005年8月7日に撤退計画の最終閣議決定が行われた。閣議では17人の閣僚が賛成したが、5人が反対に回り、ベンヤミン・ネタニヤフ首相は閣議後財務相を辞任し倒閣に乗り出すことになる。ともかく閣議決定はなされ、これにより計画は実行に移されることになった。8月10日にはテル・アヴィヴで大規模な反対集会(主催者発表・30万人、警察発表・20万人が参加)が行われたものの、大勢に影響することはなかった。

デル・アヴィヴでの撤退反対活動
デル・アヴィヴでの撤退反対活動

[編集] 計画実行

8月15日イスラエル国防軍(IDF)によりガザは全面封鎖され、入植者に対し48時間の自主的退去が呼びかけられた。8月17日にはIDFは、最後まで籠城を続ける入植者と、それを強く支援するユダヤ教原理主義者やより過激なカハネ主義者の強制排除に乗り出す。強制排除は人口2500人を有するネヴェ・デカリームから開始され、ガディードやクファル・ダロムなどでは反対派がシナゴーグに篭城し、IDFに対し激しく抵抗したが、8月22日には最後に残されていたネッツァリームも制圧。わずか1週間で全入植者の退去を成し遂げた。

8月23日には西岸の小規模入植地4箇所の解体に乗り出した。ホメッシュやサヌール、とりわけサヌールでは入植者がオスマン・トルコ時代に建造された要塞篭城し激しい抵抗にあうものの、結局これも1日で500人の入植者を退去させ、9月12日までには入植地跡の整地にも成功。IDFも完全にガザ地区から撤収した。

[編集] 撤退の理由

[編集] 人口問題

シャロンが撤退を決断した理由としては、なによりもイスラエルが抱える人口問題が挙げられる。先進国は軒並みそうであるが、女性の社会進出が進み、それに付随し出生率が低下する。イスラエルもその例外ではない。イスラエル人女性が生涯に産む子供の数は平均2人強。それに対しアラブ人・パレスチナ人の出生率は6人~20人にも及ぶ。仮にイスラエルが占領していたガザヨルダン川西岸ゴラン高原をすべてイスラエル領と規定した場合、早晩アラブ人・パレスチナ人の人口比率がユダヤ人を凌駕してしまう。パレスチナ人が多数派になればそれはユダヤ人国家であるイスラエルの終焉を意味する。シャロンはそのことを最も恐れたのである。

[編集] 起訴逃れ

前述の人口問題、そして入植地を維持するための経済的な負担、これは表の理由である。シャロンが撤退を決断した裏には、もう一つ、シャロン政権の醜いスキャンダルも見え隠れする。2004年1月、イスラエル検察は、シャロンが外相をつとめていた1999年リクードの後援企業から、ギリシャでのリゾート開発に便宜を図る見返りとして、10万ドル相当の賄賂を受け取っていた事件の捜査に本格着手。シャロン政権の支持率も33%にまで低下、さらにこの事件には当時エルサレム市長だったエフード・オルメルトの関与も取りざたされており、シャロンにとってもオルメルトにとっても生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていたといってよい。この事件ではシャロンの次男でフィクサーのギラド・シャロンが窓口になっていて、シャロン自身は一切与り知らぬ立場をとっていたが、ギラドは検察の厳しい追及に精神的に追い詰められており、既に担当検事はシャロン父子の起訴状を作成させていた。2003年10月30日に1度、計画発表後の2月5日にも、シャロンは事情聴取を受けている。最高検は2004年6月15日、最終的にシャロンと次男・ギラドの立件を証拠不十分で断念する。

[編集] 西岸入植地の固定化

シャロンが撤退を決めたガザはわずか8500人、それに対し西岸の入植者は計画発表の時点で23万人、東エルサレムのユダヤ人を換算すると軽く40万人を凌駕する。宗教的背景も薄く、ハマスの拠点で100万人のパレスチナ人に囲まれているガザを捨て、その分の予算と兵力を、宗教的背景が色濃くかつ広大な西岸に投入する方がはるかに賢明といえる。

実際、2004年4月の米・イスラエル首脳会談では西岸にある6つの大規模入植地の維持が確認されており、ガザ撤退に着手した2005年8月15日にはシャロンの側近シャウル・モファズ国防相も6大入植地の維持を明言している。またシャロンは、西岸の既存の入植地拡大は「再開発」に過ぎないとして拡大ではないとの立場をとり続けている。西岸の主要入植地の首長には事前に根回しがなされており、訪米前にシャロンは側近のリモール・リブナット教育相と共にマアレ・アドゥミームを訪問し、住民を前に講演を行っている。また、撤退計画をいち早く支持したのはマアレ・アドゥミームのベニー・カシュリエル市長である。

[編集] 幻に終わった分党構想

これまでの立場を一夜にして豹変させたシャロンに対し、激しい怒りを抱いていたのが右派・宗教政党、とりわけリクード内の強硬派である。婚約解消計画を発表した時点で強硬派とシャロン派の対立は決定的なものとなっていたが、倒閣へのシナリオは幾つかあった。

まず第一に、シャロンの政敵であるベンヤミン・ネタニヤフ元首相を擁立して党首選を前倒しする。だが、このシナリオはネタニヤフが閣内にいたために実現には至らなかった。ネタニヤフが倒閣に動いたのは婚約解消計画の寸前になってからである。もう一つは、集団離党し右派新党を結成、他の右派・宗教政党と連携し倒閣に乗り出すというもの。首班にはリクードきっての実力者ルーベン・リブリン国会議長を擁立を考えていた。だが、このシナリオも党内融和を優先したリブリンの固辞で失敗に終わる。

[編集] 関連項目


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