地球シミュレータ
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地球シミュレータ(ちきゅうシミュレータ、英: Earth Simulator)は、NEC製のSX-5をベースマシンとしたスーパーコンピュータ。
SX-5のCPUモジュールを1チップ化することで消費電力削減と高密度化を行い、これを8個でメモリを共有する計算ノードとしている。さらにこれを640台(5120CPU)単段クロスバーネットワークで結合した構成となっている。 日本の神奈川県横浜市金沢区の海洋研究開発機構横浜研究所 地球シミュレータセンターに設置されている。
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[編集] 目的・経緯
地球規模の環境変動の解明・予測を目的として、さらにバブル崩壊により著しく落ち込んでいた日本のHPCリテラシー維持という側面も含め、科学技術庁(1998年度当時)が600億円を投じて開発を開始し、2002年3月15日に運用を開始した。計算科学の有効性を世界に示すとともに、地球温暖化や地殻変動など、文字通り地球規模でのシミュレーションに利用され、気候変動に関する政府間パネルの2007年ノーベル平和賞受賞にも大きく貢献した。公募により、地球科学、計算機科学、先進・創出分野での共同利用が行われている他、2007年からは産業界による成果専有型の有償利用も可能となっている。
[編集] 構成
1ノードは8GFLOPSの性能を持つCPU8個で16GBのメモリを共有するベクトル計算機ノード(地球シミュレータではPNと呼ばれる)により構成され、640ノードを単段クロスバースイッチで接続し、最大理論性能40.96TFLOPSの倍精度浮動小数点演算を実現している。地球シミュレータのCPUチップはスカラープロセッサとベクトルプロセッサで数十チップからなるSX-5を1チップLSI化したものであり(APと呼ぶ)、SX-6は地球シミュレータをベースに開発された。
[編集] ソフトウェア環境
OSはNECのSUPER-UXを独自拡張したものであり、高級言語としてはFORTRAN90・C/C++が利用できる(いずれも地球シミュレータ用のコンパイラが用意されている)。並列化にあたっては、「ハイブリッド並列化」と「フラット並列化」の二つのプログラミングモデルがある。前者はノード間並列化をHPF(High Performance Fortran)/MPI、ノード内並列をマイクロタスクまたはOpenMPで記述する一方、後者はノード間・ノード内の両方の並列化をいずれもHPF/MPIで書く。一般的には前者はパフォーマンス重視、後者はプログラミング効率重視のモデルとされている。ユーザはこれらの並列化に対応したプログラムを基本的にはバッチジョブとして投入する。名前が与えるイメージとは裏腹に、GRAPEのような問題特化型ではなくあくまで汎用計算機であるので、地球科学とは直接にかかわりのない分子動力学計算などにも利用されている[1]。
[編集] 性能
LINPACKベンチマークで実効性能35.86TFLOPSを記録し、スパコンの計算性能の世界ランキングとして定評のあるTOP500で2002年6月に第2位のIBM ASCI Whiteに5倍の差をつけてトップを獲得して[2]以来、2004年11月にIBM Blue Geneに首位を明け渡す[3]まで、5期連続でトップを維持した。これは640ノードの内638ノード(5,104プロセッサ)を用いて得られたもので、ピーク性能に対する実測性能比は87.2%となり、ASCI Whiteが7.226TFLOPS(ピーク性能12.288TFLOPS:ピーク性能比58.8%)であったのと比較して、理論ピーク性能に対する実効性能の比が非常に高い。これはベクトル計算機特有の高速高バンド幅のメモリシステムおよび単段クロスバーネットワーク接続[4]によるものと分析されている。ただし、この性能を確保するための高速メモリとネットワークには多大な電力が必要であり、地球シミュレータの消費電力は約6MW、年間電気代は約5億円となっている(ガス・水道代1億5千万円、保守費用45億円と合わせて、維持費用年間約50億円。これに対して、例えば4年後の2006年から運用されている米AMD社製Opteronプロセッサを用いた東京工業大学のPCクラスタTSUBAMEでは、単純にLINPACK性能のみで比較すると導入費用20分の1、電気代5分の1、計算速度1.6倍となる[5])。
[編集] 2007年下期の現状
現在、地球シミュレータの単体能力を改善し、多目的に活用を図ることを目的として、スカラプロセッサからなるサーバを併用している。また、日本の学術研究のインフラストラクチャであるSuper SINETに接続し、遠隔利用を可能にしている。AVS, Mathematica, Maple等の商用ソフトウェアやオープンソースソフトウェアも利用可能である。
[編集] 次期地球シミュレータ
コストを抑え、さらに性能向上を図るため、2008年度に維持費とは別に5億円を計上し、640台の演算ノードのうち半数を廃棄、半数を6年間185億7600万円のリースにより新機種のSX-9に更新し、ピーク計算能力を130TFLOPS、実効計算能力を現システムの2倍に上げることが決まった。これにより、電気代は現在の7割程度になる予定である[6][7][8]。また、性能世界一の奪還を目指して、新たな国産スーパーコンピュータ(汎用京速計算機)の開発も進められている。
[編集] 脚注
- ^ 斎藤 稔: 地球シミュレータによるタンパク質の分子動力学シミュレーションの高速化, 生物物理, No. 5 pp.283 (2006)
- ^ TOP500 List, June 2002
- ^ TOP500 List, Nov.2004
- ^ 多数のマシン(あるいは、PU:ProcessUnit)同士を結合するネットワーク結合部にスイッチを配する。その結合方法が、マシン(PU)単位で観ると1対1結合であり転送速度は高速である(ワンステップで転送出来る)。その特徴より、理論ピーク性能に対する実効性能の比が他のネットワーク結合方式に比べて非常に高い。その反面、スイッチの数がマシン(PU)の数の2乗に比例するため、マシン(PU)の数が増える分スイッチを増やすには予算的に難しくなる。また、多数のスイッチの同調を取りづらくなる特徴を持つ。
- ^ 「地球シミュレータ」 なぜ運用停止へ?、ニュースウオッチ9、NHK、2007年11月13日
- ^ 「地球シミュレータ」 部品交換で能力2倍に 海洋機構、朝日新聞、2007年11月14日
- ^ 海洋研究開発機構:スパコン「地球シミュレータ」を更新、毎日新聞、2008年5月13日
- ^ NECが次期地球シミュレータを190億円で落札、世界1位は狙えず、日経コンピュータオンライン、2008年5月12日