和歌山電鐵貴志川線
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2270系2271F いちご電車 2006年8月6日伊太祈曽駅にて撮影
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貴志川線(きしがわせん)は、和歌山県和歌山市の和歌山駅から和歌山県紀の川市の貴志駅までを結ぶ和歌山電鐵の鉄道路線である。通称は「わかやま電鉄貴志川線」。
和歌山市の東郊に延びる鉄道路線で、2006年4月1日に和歌山電鐵が南海電気鉄道から継承した(経緯は後述)。
目次 |
[編集] 路線データ
- 路線距離(営業キロ):14.3km
- 軌間:1067mm
- 駅数:14駅(起終点駅含む。有人駅は和歌山駅・伊太祈曽駅)
- 複線区間:なし(全線単線)
- 電化区間:全線電化(直流600V)
- 閉塞方式:自動閉塞式
- 交換可能駅:3か所(日前宮駅、岡崎前駅、伊太祈曽駅)
- 最高速度:60km/h
[編集] 線路設備
- レール種別 50N:81.7%、50PS:18.3%
- マクラギ種別 木:99.6%、PC:0.4%
- 橋梁 30、踏切道 52
- 分岐器 14、発条転轍機 6
- 軌道モーターカー 1
- 電線路設備
- 電車線(シンプルカテナリ) 16,192m
- 饋電線 30,029m、送配電線 51,361m
- 支持物 鉄柱 19、CP 490、木柱 260
- 変電所 3 (日前宮、伊太祈曽、甘露寺)
- 変電所遠隔制御監視装置(伊太祈曽)新設
- 信号、踏切、通信保安設備
- CTC装置(親; 伊太祈曽1、子4)
- 継電連動装置(第3種5)、回路制御器(12)
- ATS装置(照査数74)
- 踏切道(保安設備)52(第一種甲51:うち障検設備8、第3種1)
- 列車無線(親局・伊太祈曽1、車載局6)
- 指令電話(運転6、電力5)、沿線電話29
- 自動電話交換機新設(伊太祈曽)(電話機28)
- 防災設備(落石、水位、雨量、地震)
- 車庫
- 検査線2、検修線1、洗浄線1
[編集] 運行形態
全て普通列車で全線直通は終日毎時1~2本。これに朝ラッシュ時と12時台、および15時台以降に伊太祈曽駅折り返しの列車が加わり、和歌山~伊太祈曽間はこれらの時間帯では3~4本になる。全列車でワンマン運転を行っている。
南海電気鉄道から引き継いで使用されている2270系電車のリニューアルデザインが、和歌山電鐵の親会社である岡山電気軌道の9200形電車 (MOMO) などをデザインした水戸岡鋭治によって行われており、2006年8月6日からは「いちご電車」が、2007年7月29日からは「おもちゃ電車」が運行されている。
[編集] 利用状況
[編集] 輸送実績
貴志川線の近年の輸送実績を下表に記す。輸送量は1996年(平成8年)以降減少している。 表中、輸送人員の単位は万人。輸送人員は年度での値。表中、最高値を赤色で、最高値を記録した年度以降の最低値を青色で、最高値を記録した年度以前の最低値を緑色で表記している。
年 度 | 輸送実績(乗車人員):万人/年度 | 輸送密度 人/km・1日 |
特 記 事 項 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
通勤定期 | 通学定期 | 定 期 外 | 合 計 | |||
1974年(昭和49年) | 361.4 | 旅客輸送実績最高値を記録 | ||||
1988年(昭和63年) | 95.8 | 52.8 | 100.1 | 248.7 | 3,935 | |
1989年(平成元年) | 94.3 | 53.6 | 101.2 | 249.1 | 3,892 | |
1990年(平成2年) | 97.0 | 58.4 | 101.2 | 256.6 | 4,006 | |
1991年(平成3年) | 99.3 | 63.3 | 103.3 | 265.9 | 4,081 | |
1992年(平成4年) | 97.6 | 62.6 | 96.5 | 256.7 | 4,021 | |
1993年(平成5年) | 92.2 | 67.5 | 95.1 | 254.8 | 3,993 | |
1994年(平成6年) | 88.6 | 71.7 | 91.6 | 251.9 | 3,990 | 冷房電車への置き換え開始 |
1995年(平成7年) | 91.1 | 79.8 | 101.7 | 272.6 | 4,200 | 冷房電車への置き換え終了 |
1996年(平成8年) | 92.6 | 81.1 | 100.2 | 273.9 | 4,207 | |
1997年(平成9年) | 93.8 | 69.1 | 95.9 | 258.8 | 4,035 | |
1998年(平成10年) | 80.1 | 64.0 | 89.7 | 233.8 | 3,673 | |
1999年(平成11年) | 83.3 | 68.6 | 85.2 | 237.1 | 3,657 | 交通センター前駅開業 |
2000年(平成12年) | 83.7 | 72.2 | 80.3 | 236.2 | 3,575 | |
2001年(平成13年) | 80.5 | 69.8 | 77.1 | 227.4 | 3,451 | |
2002年(平成14年) | 69.3 | 56.7 | 73.2 | 199.2 | 3,098 | |
2003年(平成15年) | 67.4 | 61.8 | 69.3 | 198.5 | 3,104 | |
2004年(平成16年) | 64.2 | 62.2 | 66.2 | 192.6 | 2,988 | |
2005年(平成17年) | 63.1 | 65.5 | 63.6 | 192.2 | 2,971 | |
2006年(平成18年) | 210 | 和歌山電鐵による運営開始 | ||||
2007年(平成19年) |
[編集] 収入実績
貴志川線の近年の収入実績を下表に記す。旅客運賃収入は1996年(平成8年)以降減少している。運輸雑収については年度による変動が大きい。 表中、収入の単位は千円。数値は年度での値。表中、最高値を赤色で、最高値を記録した年度以降の最低値を青色で、最高値を記録した年度以前の最低値を緑色で表記している。
年 度 | 旅客運賃収入:千円/年度 | 運輸雑収 千円/年度 |
総合計 千円/年度 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
通勤定期 | 通学定期 | 定 期 外 | 手小荷物 | 合 計 | |||
1988年(昭和63年) | 96,674 | 32,093 | 199,692 | 0 | 328,459 | 54,033 | 382,492 |
1989年(平成元年) | 94,574 | 32,028 | 197,871 | 0 | 324,473 | 5,183 | 329,656 |
1990年(平成2年) | 97,930 | 34,545 | 198,549 | 0 | 331,024 | 6,158 | 337,182 |
1991年(平成3年) | 103,356 | 37,686 | 207,542 | 0 | 348,584 | 6,378 | 354,962 |
1992年(平成4年) | 115,510 | 41,952 | 215,449 | 0 | 372,911 | 41,297 | 414,208 |
1993年(平成5年) | 108,638 | 44,383 | 212,219 | 0 | 367,240 | 7,644 | 374,884 |
1994年(平成6年) | 105,300 | 49,327 | 208,296 | 0 | 362,923 | 6,695 | 369,618 |
1995年(平成7年) | 112,317 | 56,047 | 230,321 | 0 | 398,685 | 6,063 | 404,748 |
1996年(平成8年) | 120,969 | 60,942 | 233,874 | 0 | 415,785 | 7,751 | 423,536 |
1997年(平成9年) | 119,547 | 54,416 | 214,606 | 0 | 388,569 | 9,006 | 397,575 |
1998年(平成10年) | 103,623 | 51,507 | 209,087 | 0 | 364,217 | 7,123 | 371,340 |
1999年(平成11年) | 107,800 | 55,160 | 205,739 | 0 | 368,699 | 148,304 | 517,003 |
2000年(平成12年) | 108,009 | 55,810 | 193,833 | 0 | 357,652 | 8,186 | 365,838 |
2001年(平成13年) | 104,013 | 54,542 | 185,233 | 0 | 343,788 | 97,487 | 441,275 |
2002年(平成14年) | 90,032 | 46,525 | 176,836 | 0 | 313,393 | 9,961 | 323,354 |
2003年(平成15年) | 87,914 | 50,875 | 167,552 | 0 | 306,341 | 5,593 | 311,934 |
2004年(平成16年) | 82,093 | 51,114 | 160,264 | 0 | 293,471 | 10,065 | 303,536 |
2005年(平成17年) | 80,385 | 53,765 | 153,513 | 0 | 287,663 | 3,786 | 291,449 |
2006年(平成18年) | |||||||
2007年(平成19年) |
[編集] 歴史
沿線にある日前宮、竈山神社、伊太祁曽神社などへの参詣(いわゆる三社参り)のための鉄道として、1916年に山東軽便鉄道により開業した。開業当初は当時の和歌山市街地に近い大橋駅(現在の和歌山駅の南西)が起点であったが、翌年に国鉄和歌山駅(現在の紀和駅)近くの中ノ島駅まで延伸。後に紀勢本線の建設に伴い、東和歌山駅(現在の和歌山駅)に起点を変更している。その後、和歌山電気軌道を経て1961年に南海電気鉄道の貴志川線となった。
南海電気鉄道の鉄道線としては孤立した存在で、1971年に和歌山軌道線が廃止されると、他の南海の路線とは離れた路線となり、1973年に他の南海の路線では架線電圧が1500Vに昇圧されたが、貴志川線は600Vのままだった。
1990年代になってCTC化や車両の置き換え、一部駅の無人化、ワンマン運転の実施などの近代化、合理化が行われた。しかし、1999年に南海電気鉄道も参加したスルッとKANSAI対応カードは当時も貴志川線では使えなかった。
沿線は宅地開発が進んだが、自家用車利用が多く利用者は伸び悩んでいた。2003年11月に南海電気鉄道が貴志川線の廃止を検討していることを表明したことにより存続問題が浮上した。2004年8月には、南海電気鉄道が2005年9月末を以って同線から撤退することを発表し、2004年9月に国土交通省近畿運輸局に鉄道事業廃止届出書を提出した。これに対し2005年2月和歌山県、和歌山市と貴志川町(当時)は貴志川線存続で合意、事業の引き継ぎ先を公募した。同時に、県・市町は貴志川線を下記の内容で支援することを公表した。なお、この支援形態は貴志川線の運営移管の3年前に近畿日本鉄道より運営移管した三岐鉄道北勢線の事例に酷似しているが、支援総額は貴志川線のほうが北勢線より少ない。
- 貴志川線の鉄道用地は、南海電気鉄道から和歌山市と貴志川町(当時)が約2億円で取得し、これを和歌山県が全額補助する。
- 今後想定される貴志川線の施設整備(変電所の大規模改修等)に対して、和歌山県は2.4億円を上限にその経費を負担する。
- 南海電気鉄道から運営移管後10年間の運営費補助(欠損補助)は、和歌山市65%・貴志川町(当時)35%の割合で8.2億円を上限に実施する。
2005年4月には、9つの企業・個人の中から両備グループの岡山電気軌道が選ばれた。そして2005年(平成17年)4月28日、岡山電気軌道が事業を引き継ぐことを発表した。
岡山電気軌道が和歌山市に設立する新会社のもとでの運行開始予定を2006年(平成18年)4月1日とし、事業許可譲渡のため、和歌山市などが南海電気鉄道に撤退期限の延長を求めていたが、南海電気鉄道がこれに応じたため、2005年(平成17年)6月に運営会社として和歌山電鐵が設立され(岡山電気軌道株式会社100%出資)、2006年(平成18年)1月に国土交通大臣に鉄道事業譲渡譲受認可申請書が提出され、2006年(平成18年)4月1日から同社のもとで運行されることになった。
[編集] 年表
- 1916年(大正5年)2月15日 山東軽便鉄道により大橋~山東(現在の伊太祈曽)間が開業。
- 1917年(大正6年)3月16日 中ノ島~大橋間開業。中ノ島駅は国鉄和歌山(現在の紀和)駅近く。
- 1924年(大正13年)2月28日 紀勢西線(現在の紀勢本線)東和歌山(現在の和歌山)駅開業に伴い、中ノ島~秋月(現在の日前宮)間を廃止し、東和歌山駅に起点変更。
- 1924年(大正13年)6月15日 田中口駅開業。
- 1931年(昭和6年)4月23日 和歌山鉄道に社名変更。
- 1933年(昭和8年) 秋月駅を日前宮駅に改称。
- 1933年(昭和8年)8月18日 伊太祁曽~貴志間が開業。山東駅を伊太祁曽駅に改称。
- 1941年(昭和16年)12月 東和歌山~伊太祁曽間電化。
- 1942年(昭和17年)12月 伊太祁曽~大池間電化。
- 1943年(昭和18年)12月 大池~貴志間電化。全線の電化が完成。
- 1945年(昭和20年) 伊太祁曽~山東永山間の東山東駅を廃止。山東永山駅を山東駅に改称。
- 1957年(昭和32年)11月1日 和歌山電気軌道が和歌山鉄道を合併、同社の鉄道線となる。
- 1961年(昭和36年)11月1日 南海電気鉄道が和歌山電気軌道を合併。鉄道線は貴志川線となる。
- 1968年(昭和43年)3月1日 東和歌山駅を和歌山駅に改称。
- 1993年(平成5年)4月1日 CTC化。
- 1995年(平成7年)2月6日 2270系電車運転開始。
- 1995年(平成7年)4月1日 ワンマン運転開始。
- 1999年(平成11年)5月7日 交通センター前駅開業。
- 2003年(平成15年)11月 南海電気鉄道が貴志川線の廃止を検討していることを表明したことにより存続問題が浮上する。
- 2004年(平成16年)8月10日 南海電気鉄道が2005年9月末を以って同線から撤退することを発表。
- 2004年(平成16年)9月30日 南海電気鉄道が国土交通省近畿運輸局に鉄道事業廃止届出書を提出。
- 2005年(平成17年)2月4日 和歌山県、和歌山市と旧貴志川町が貴志川線存続で合意、事業の引き継ぎ先を公募。
- 2005年(平成17年)4月28日 岡山電気軌道が事業引継ぎを発表。
- 2005年(平成17年)6月27日 貴志川線の運営会社として和歌山電鐵が設立される。
- 2006年(平成18年)1月20日 国土交通大臣に鉄道事業譲渡譲受認可申請書が提出される。
- 2006年(平成18年)4月1日 和歌山電鐵による貴志川線運行開始。伊太祁曽駅を伊太祈曽駅に改称。
- 2006年(平成18年)8月6日 水戸岡鋭治がデザインした「いちご電車」の運行を開始。
- 2006年(平成18年)10月16日 第5回日本鉄道賞表彰選考委員会特別賞を受賞(受賞盾は「いちご電車」車内にあり)。
- 2006年(平成18年)10月21日 ダイヤ改正を実施(平日10本・土日祝12本の増便)。和歌山~伊太祈曽間:平日53往復・土休日43往復、伊太祈曽~貴志間:平日34往復・土休日34往復となる。
- 2007年(平成19年)1月1日 「貴志川線1日乗車券」発売開始。
- 2007年(平成19年)1月5日 三毛猫の「たま」が貴志駅の駅長に就任。同時に、同居する猫「ミーコ」(たまの母親)と「ちび」が同駅助役に就任。
- 2007年(平成19年)7月29日 「おもちゃ電車」運行開始。
- 2007年(平成19年)11月23日 一部列車を減便する(ダイヤ上は運休扱い)。和歌山~伊太祈曽間:平日49往復・土休日42往復、伊太祈曽~貴志間:平日33往復・土休日34往復となる。
- 2008年(平成20年)4月6日 一部列車を増便する(前回ダイヤ改正で運休扱いとしたものの一部復活)。和歌山~伊太祈曽間:平日49往復・土休日43往復、伊太祈曽~貴志間:平日34往復・土休日34往復となる。
[編集] 駅一覧
駅名 | 駅間キロ | 営業キロ | 接続路線 | 所在地 | |
---|---|---|---|---|---|
和歌山駅 | - | 0.0 | 西日本旅客鉄道:阪和線・紀勢本線(きのくに線)・和歌山線 | 和歌山県 | 和歌山市 |
田中口駅 | 0.6 | 0.6 | |||
日前宮駅 | 0.8 | 1.4 | |||
神前駅 | 1.5 | 2.9 | |||
竈山駅 | 0.8 | 3.7 | |||
交通センター前駅 | 1.1 | 4.8 | |||
岡崎前駅 | 0.6 | 5.4 | |||
吉礼駅 | 1.0 | 6.4 | |||
伊太祈曽駅 | 1.6 | 8.0 | |||
山東駅 | 1.1 | 9.1 | |||
大池遊園駅 | 2.2 | 11.3 | 紀の川市 | ||
西山口駅 | 0.8 | 12.1 | |||
甘露寺前駅 | 1.0 | 13.1 | |||
貴志駅 | 1.2 | 14.3 |
[編集] 過去の接続路線
- 和歌山駅:南海和歌山軌道線 - 1971年3月31日まで
[編集] その他
- 南海からの継承後、以下の3駅に車内チャイムが導入された。各曲をアレンジした短いもので、到着直前・発車直後の案内前に鳴らされる。
駅名 | 曲名 | 由来 |
---|---|---|
和歌山駅 | 紀州ぶんだら節 | 和歌山市に因む |
伊太祈曽駅 | 鞠と殿様 | 和歌山市に因む |
貴志駅 | ストロベリー・フィールズ・フォーエバー | 駅周辺の名産物、イチゴに因む |
- 2016年完成を目指して、LRT化が行われる予定である。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 和歌山電鐵ホームページ わかやま電鉄貴志川線
- 貴志川線の未来を“つくる”会
- 貴志川線を探検しよう!
- 南海貴志川線むかしむかし(和歌山社会経済研究所) - 日前宮駅から現在の紀和駅近くまでの路線についてのレポート
- 南海電気鉄道 2004年8月10日のニュースリリース 貴志川線鉄道事業からの撤退について(PDF)
- 難問解決!ご近所の底力*これまでの放送とその後の動き(妙案)*
- 和歌山市民アクティブネットワーク(WCAN) - 貴志川線存続の費用対効果分析、貴志川線再生までの年表、岡山電気軌道に対する事業継承要請活動、和歌山21世紀型交通まちづくり
- 貴志川線の魅力探険