南の島に雪が降る
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『南の島に雪が降る』(みなみのしまにゆきがふる)は、俳優加東大介の戦争体験を元にした自伝小説。1961年に文芸春秋新社から刊行された。
第二次戦争末期、飢えとマラリアに苦しむニューギニアの首都マノクワリで、兵士の慰安と士気高揚のため作られた劇団の物語。加東大介(軍曹)が座長を務め、小林よしのりの祖父も「快僧軍曹」として登場する。
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[編集] あらすじ
加東大介。沢村貞子の弟で、長門裕之と津川雅彦を甥に持つ俳優一門の家庭で育った男。根っからの役者である彼は、昭和18年(1943年)召集を受けてニューギニアに向かった。しかしそこは日本軍からも見放され、救援物資も届かない最果ての地。戦友たちは飢えとマラリアでバタバタと死んでゆく。いつ戦争が終わるかもわからない。希望が全くない。そんな過酷な状況の中で加東大介は、なんと演芸分隊を立ち上げ、熱帯の奥地に日本の舞台を作り出した。三味線弾き、ムーラン・ルージュの脚本家、スペイン舞踊の教師など、実に個性的なメンバーをそろえて、彼らは公演を始める。ありあわせの布に絵を描いて衣装を作り、ロープをカツラにし、亜鉛華軟膏を塗りたくり白粉にする。いまその舞台を見たら、なんと粗末な舞台だと思うだろう。しかしいつ帰れるかもわからない日本兵にとって、それは夢だった。希望そのものだった。女形の内股の白さに女房を思い、小道具の長火鉢に日本を思う。その舞台を見るまでは死ねない。時には重病人を回復させるまでもの希望が、その舞台にはあった。そして「瞼の母」の芝居の中で、紙を使って雪を降らせたところ、客席から毎回、どよめきと歓喜の声があがった。加東らは雪景色を充分堪能させてから登場するようにしていたが、ある日の公演で、いくら待ってもしんとしている。不審に思って舞台の袖からのぞいてみると、数百名いた兵隊が皆、涙を流していた。聞いてみると彼らは東北の部隊だった。
[編集] 出版
- 1961年 文芸春秋新社 単行本
- 1983年 旺文社 旺文社文庫
- 1995年 筑摩書房 ちくま文庫
- 2004年 光文社 知恵の森文庫 ISBN 9784334783051
[編集] 映像化作品
[編集] 映画
- 『南の島に雪が降る』(1961年 監督:久松静児、出演/加東軍曹:加東大介、鳶山一等兵:伴淳三郎、篠崎曹長:有島一郎、前田一等兵:西村晃、叶上等兵:近江俊輔、北川上等兵:佐原健二、青田上等兵:渥美清、小野上等兵:上田忠好、大沼一等兵:桂小金治、村田大尉:織田政雄、浅川中将:志村喬、小林少佐:三橋達也、杉山大尉:細川俊夫、森大尉:森繁久彌、小林伍長:小林桂樹、二木上等兵:三木のり平、坂田伍長:フランキー堺、他)
- 加東大介の原作に沿って映像化されており、加東自身が自らの役を演じた。戦線背後での密林中での演芸会が中心で戦後のエピソード等もない。
- 『南の島に雪が降る』(1995年 監督:水島総、出演/戦時中の須藤:高橋和也、村井中尉:根津甚八、95年の須藤:菅原文太、95年の叶谷:久保恵三郎、白根伍長:西村和彦、叶谷知美:烏丸せつこ、その他:趙方豪、菅原加織、風間杜夫、佐野史郎、甲本雅裕、徳井優、佐藤淳、神戸浩、他)
- 原作の演芸会を中核にして日本人の戦争への態度を問う意欲的な作品。戦後未帰還の日本兵を捜しに来るエピソードが前後に付け加えられ、演芸会は慰安ではなく確実な死を覚悟に前線に転じる兵士を送る儀式と描かれている。
[編集] テレビドラマ
- NHK・倉本聡脚本のテレビドラマ『六羽のかもめ』の中でも、加東氏がマノクワリで芝居をしたと言うエピソードが紹介される。