信用乗車方式
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信用乗車方式(しんようじょうしゃほうしき)とは、公共交通機関において、駅員や乗務員による運賃の収受や乗車券の改札を省略する方式。信用乗車制、チケットキャンセラー方式とも呼ばれる。
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[編集] 概説
信用乗車方式が採用されている交通機関では、駅や停留所には改札口が設置されず、誰もが自由に出入りできる。バスやトラムは乗り降りに用いる扉が指定されず、乗客は全ての扉から自由に乗り降りできるのが一般的である。乗客は乗車中、常に有効な乗車券を所持していることが義務付けられ、乗車中および降車後に運賃を支払うことは認められない。
一般的な鉄道であれば、乗客は駅窓口や自動券売機で事前に乗車券を購入する。
バスやトラムであれば、乗車券を持っていない場合は乗務員の近くの扉から乗車し、自己申告で運賃を支払う。停留所に自動券売機が設置されていたり、停留所近辺の商店で乗車券が委託販売されていることもある。
乗客は事前に乗車券の有効化 (validation) を求められる場合がある。駅や車両の乗降口に設置された刻印機(チケットキャンセラーとも)に乗車券を挿入し、券面に乗車駅と時刻を打刻する方式が一般的である。これにより、乗車券の使いまわしを防止している。すなわち打刻せずに乗車すると、乗車券の使いまわしをする意志があるとみなされる。打刻から極端に時間が経過していると、一度使用された乗車券を再度使用しているとみなされ、ともに不正乗車として扱われる。また一定時間有効な乗車券や、一日乗車券などは、打刻された日時が有効期間の基準となる。
他の有効化の方式として、乗客が記入する方式(回数券に多い。青春18きっぷに近い方式)、駅窓口で行う方式(ユーレイルパスなどの記名式レールパスなど)がある。
無賃乗車対策としては、乗車中や降車時に抜き打ち的に検札員による検査を行い、有効な乗車券を所持していない場合には、理由の如何を問わず高額のペナルティを課される。欧米の長距離列車では、ほぼ確実に検札が行われるので、不正乗車は実質不可能である。
欧米の多くの鉄道やトラムでは、ごく一般的な方式である。ただし、地下鉄では混雑する車内での検札が難しいことなどから、駅に改札があることも多い。中心部では改札があるが、郊外では信用乗車方式となる例もある。ユーロスターやスペインのAVEなど、改札が行われる列車もあるが、目的は不正乗車対策よりもセキュリティ対策である。しかし、同じ高速列車でもTGVやタリス、ICE等は信用乗車方式である。
[編集] 日本国内の状況
日本では不正乗車の温床になるとの懸念から信用乗車方式は採用されていないが、識者にはLRTなど新システムの導入に合わせて導入すべきとの意見もある。なお、日本人が欧州で事情を理解しないまま乗車し、多額の罰金を払わされる例もある。
西日本旅客鉄道(JR西日本)で自動改札機を設置していない駅には入場印字機と称するチケットキャンセラーと同じ機能を有する機械が設置されているが、通さなくても別に咎められることは無い。
かつての東京急行電鉄世田谷線においては、進入してくる列車に対して定期券を高く掲げて見せることで正規の乗客であることを主張し、降車口からも乗車する「定期かざし」と呼ばれる風習があった。東急では、なし崩し的な信用乗車方式ともいえるこの行為を以前から正式に認めていなかったが、同線の近代化工事(新車導入、ホーム嵩上げなど)と同時期に禁止を徹底したため、現在では行われていない。
また、東日本旅客鉄道(JR東日本)のSuicaや西日本旅客鉄道のICOCA利用可能エリア内では、簡易改札機が設置されている駅がある。これは入場・出場時にそれぞれ専用の端末にICカード乗車券を触れて乗車するものだが、簡易改札機には突破を防止するゲートがなく、また設置対象の駅も主に無人駅(構造上、改札口以外からも出入りが可能な駅も多い)なので、簡易改札機設置駅相互間の乗車の場合は確実に運賃を収受したかどうか保証ができないことから、一種の信用乗車方式と見做すことができる。
2006年7月31日より、富山ライトレールにおいて、定期券及びプリペイドカードに使用されているICカード「パスカ(passca)」用のセンサーがポートラム2両目の入口ドア付近に設置、パスカ定期券とパスカ所持者限定であるが、ラッシュ時間帯のみの信用乗車方式が導入された。罰金制度などは未整備であるが、新しい試みとして注目されている。
広島電鉄では、2011年度にも、ICカードシステムの整備完了に合わせて、路面電車の車掌の廃止と停留所への自動券売機設置を行い、完全な信用乗車方式を開始することにしている。検札や罰金制度など具体的事項に関してはまだ検討段階だが、開始されればこれが日本初の完全な信用乗車方式導入例となる。
[編集] 利点
- 乗客は全てのドアから乗降できるため、乗降時間の短縮が図られる。この結果、表定速度の向上が図られる。
- 乗降に用いる扉の位置の制約が無いため長い列車編成が可能となり、輸送力向上、輸送効率の向上が図られる。
- 乗車券確認が省略できるため、人件費や設備費の削減が可能。
- 改札口を設置する必要が無く、駅構内の自由度が向上する。例えば、プラットホームの反対側をバス停にするなど容易である。
[編集] 欠点
- 実際には発覚しなければ大丈夫との考えのもと、無賃乗車を行う乗客が多い。
- 検札員が無賃乗車を行った乗客から暴行を受ける恐れがある。
- 駅構内に自由に出入りできるため、治安の悪化の恐れがある。
- 特に高額の罰金制度は、普及していない国では国民から理解や同意が得られにくい。
- 日本のように非常に混雑する都市交通では、検札は事実上不可能である(同時に、改札機導入投資が回収できるケースと考えられる)。