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仕事中毒 - Wikipedia

仕事中毒

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

仕事中毒(しごとちゅうどく)とは、生活の糧である筈の職業に、私生活の多くを犠牲にして打ち込んでいる状態を指す言葉である。英語ではワーカホリックWorkaholic)とも呼ばれる。

目次

[編集] 概要

社会的動物である社会において、労働し、生活に必要なその対価を得る。

この労働は

  1. 単純に労役を提供するもの
  2. 自身の能力を提供するもの
  3. 学習などの結果から培われた経験を提供するもの
  4. その人の持つ身体能力や容姿を提供することによるもの

など、様々な形態が存在する。

現代のいわゆる「仕事」の中には、当人が自尊心を維持する上で、きわめて重要な位置付けを成されているものも多く、当人が当人としての存在意義にもなっている場合も見られる。

当人を当人たらしめる個性は、その人に属するものであるが、これを発揮させることは当人の精神衛生上、良好な影響を与えうる。すなわち、人は自身の個性を発揮できることに喜びを見出す訳であるが、これが趣味その他の上ではなく、仕事の上で個性を発揮する場合もある。

つまり、仕事が当人にとって個性を主張する場であり、仕事こそが当人に喜びを与える場であり、仕事によって当人は当人であることを認識し、仕事があるからこそ当人は当人であり続けられる(ゆえに、万が一にも失職すると、人生そのものに絶望するケースも見られる)。

この意欲を掻きたてられることにより当人は良く働くのだが、これによって本来、当人が属するであろう仕事以外の共同体(たとえば家庭家族など)への参加意欲が損なわれる場合もある。こうなってくると、それは病的であるとして、また仕事に依存しているとして、中毒と形容される。

いわゆる仕事中毒と形容される状態では、家庭を顧みず、自身の健康も省みず、挙句、過労死で死に至ることすら厭わないという事態にもなり、結果的に当人が受け持っていた仕事の遂行も侭成らなくなる一方で、当人の得ていた労働対価に依存して生活していた家族が貧窮したりすることもある。

[編集] 地域的な捉え方の違い

仕事と人との関係は、地域によってやや異なるため、仕事に「中毒(依存)」しやすいかどうかの事情も、やや異なる傾向が見られる。

[編集] 日本

日本では、特に男性においては「滅私奉公」等の言葉に代表されるように、己の身を顧みず職業に邁進することこそが良いとする規範も存在し、己よりも職を優先することが、社会的に求められた。この中では、有給休暇を取ることすら罪悪のようにみなされた。

高度経済成長期からの日本では、第二次世界大戦に敗れた後の戦後の貧しい時代の経験から、国の復興と経済発展に邁進することこそが社会から個人に求められ、先の滅私奉公の精神とあいまって、仕事に邁進する人が多く見られた。この当時、まだ日本では女性の社会進出が進んでいなかったこともあり、女性会社員が家庭を顧みずに働くことはまれで、家庭で男性を支えることが求められた。男性会社員が家庭を顧みずに仕事を優先させることは、当たり前であるとする風潮も見られ、地域社会の希薄化もあって、育児はもっぱら母親の責任とされた。特にエリート職であるビジネスマンを始めとして、サラリーマンでも家庭を顧みない人は多く見られ、職場を「戦地」に例え、そこに赴く「企業戦士」という言葉も生まれた。

しかしこの日本でも、高度経済成長期から一時の不況を経てバブル期に差し掛かると、職業に没頭した挙句に健康を害したり、または過労により死亡する人が目立つようになり、社会問題として仕事に没入することの危険性が指摘され始めた。また労働災害職業病に見られる安全や健康を損なってまで就労することの是非も問われる。なおこの時期には、女性の社会進出も進み、過労で体調を崩すキャリアウーマンも少なからず発生した。

また、その高度経済成長期に家庭を顧みず会社のために毎日遅くまで仕事に没頭し、休日ですら会社幹部や取引先との「接待ゴルフ」で家族サービスすらもしなかった男性サラリーマンが定年退職する際に、家庭で家政婦同然に扱われた妻から突然離婚を切り出される「熟年離婚」の問題(実際には年金分割制度の実施も影響している)も浮上している。

この方向性は、米国などから「エコノミックアニマル」(1969年には流行語にもなった)とまで批判(あるいは驚嘆)され、1990年代よりは米国との経済摩擦や社会的風潮にも絡み、やや公的な休日が増えるなどの傾向や、経済成長の鈍化を受けての労働時間短縮もおこっている(→サラリーマンの項を参照されたし)。

働きすぎの日本人と言うイメージは、イメージ自体が先行しているという批判もある。先進諸国では米国では平均労働時間は日本人よりも長く、また日本人より低賃金・長時間労働で日本を追い上げている(韓国、中国などの)中進諸国の実態が存在する。ただし、日本の場合は統計に現れない無償労働(→サービス残業)が多いので、単純には比較できない。

[編集] 欧米

欧米では、古くから「人はまず家庭にあり、その対価を得るために仕事がある」という個人主義の、あるいは日曜日を安息日とする宗教的な背景もあって、日本人のような仕事に埋没する姿勢を「ワーカーホリック(仕事依存、"work"(仕事)と"alcoholic"(アルコール依存症の)との合成語)」と表現して忌避した。また、日本に比べ失業率の高かった欧米では、仕事中毒者が失業者の仕事を奪ってしまうということからも、過度の過密長時間労働は社会的に問題があるとみなされた。

この風潮は19801990年代に至るまで続いたが、近年ではやや一部職種に限り異なる傾向が見られる。また、ヨーロッパイギリスアメリカ合衆国では労働環境が大きく異なっており、アメリカ合衆国やイギリスにおいては一部職種に限り、日本人と同じかそれ以上の分量の労働を行う場合もある。

なお、これらはせいぜい通常の管理職(日本で言えば部長)レベルまでの話であり、会社のオーナーやエグゼクティブ(役員以上)などは、その高い報酬の代償として生活を顧みないかのような過密スケジュールで労働していることが多い。

[編集] アメリカ

米国訴訟社会とも言われる程、刑事・民事の訴訟が多い国であるが、この裁判の場において、弁護士の良し悪しが裁判の行く末を左右し、原告被告双方に雇われた弁護士が熱弁を振るうことも多い。このため弁護士らは持てる全てを出して裁判に臨むが、この場においては当人のパーソナリティ(個性)ですら強力な武器となるケースも見られ、こういった個人資質にも関連する技能職的な分野でのワーカーホリックに関しては、しばしば社会問題としても取り上げられる。

同種の傾向は、メディア関係者や研究職、近年では情報処理技術に関連する技術者にもみられ、過剰な労働による健康被害に警鐘が鳴らされると共に、サプリメント等に代表される健康ブームの市場も盛況である。

[編集] ヨーロッパ

ヨーロッパ(イギリスをのぞくEU諸国)においては労働者の権利保護の考えが根強く、「ワーカホリック」は殊更侮蔑的表現として用いられることが多い。

ただし、こうした労働者保護の姿勢が、企業にとって容易に労働者を解雇できない状況を作り出し、ドイツやフランスでは労働市場の硬直化と若年失業者の増加、経済的効率性の低下などを招いていることもまた事実である。また店舗の営業時間を法で規制している事が多い上に一般労働者は労働時間外に働くことを極端に嫌うため、同地域ではコンビニエンスストアなどの業態が発展しにくいといった傾向が見られる。一般の商店(サービス業)でも、祝祭日には早々と店を閉める・そもそも祝祭日には店を開かない、もしくは法によって開けないという傾向も見られる。

特にイギリスフランスなどでは正規労働者と非正規労働者の間の労働環境の格差が大きく、移民問題や人種差別とあいまって深刻な社会問題となっている(→外国人労働者)。

北欧諸国では政府の労働市場への関与が強く、「同一労働同一賃金」原則の徹底により、労働市場の流動化と労働者保護の両立をはかっており、国際競争力の維持強化にも寄与しているとされる(→福祉国家論)。

[編集] 社会的影響

弊害ばかりが目立つ仕事中毒だが、その一方で以下のような統計もある。

日本では年々悪化の一途を辿る少子高齢化であるが、女性の就職率や労働時間が長い県では、他県よりも女性が生涯の内に子供をもうける数が多いというのである。2005年厚生労働省が発表した白書であるが、これによれば30代前後の女性がよく働いている県では、他県よりも明らかに子供を持つ率が高い。反面、男性の就労時間が長い地域では子供は少ない傾向も見られ、一概に「仕事中毒 = 少子化解消」という訳でもないが、特に女性の就労と少子化解消は、一定の関連性が見られる。

現代日本において子育てに掛かるコストは第一子で約1300万円(育児期間は22年と計算)との試算がある(国民生活白書2005年版に基く)が、女性がよく働ける環境が整っている地域では、経済的に余裕があることから子をもうける心理的な負荷が軽いと厚生労働省白書では見ている。これらでは、子供を預けて働きに出やすい非核家族の多い地域や、または保育園などの社会的な育児施設が充実している地域に重なっている。

しかしながら、就労が出産を促進しているわけではなく、子供を多く産んだために育児費用がかさみ、子供の成長に手がかからなくなった後に、育児・教育の費用を稼ぐ目的で再就職をするためだともみなすことも可能である。各々の家庭には様々な事情が含まれることだろう。

なお国民生活白書では、同じ22年間の間に掛かる育児コストに関して、第二子は2割減の1000万円・第三子は4割減の800万円と試算している。多く子を儲ける程に、その一人当たりの養育費はいわゆるお下がりや慣れに伴って下がる傾向が見られ、また他方では子を儲ける毎に補助金を出す自治体もあり、これを加味すれば更に育児コストは下がると考えられる。

結婚した女性が家庭を気にせずに働くのは、それをサポートできる体制が整っているという副次的な結果であるが、逆を言えば家庭に煩わされることなく働ける人では、経済的余裕もあって子を設けやすい(結果的に少子化解消)傾向も見られる。

この社会的な育児へのサポート体制に関しては、スウェーデン王国では特に育児福祉の拡充が少子化傾向の歯止めとなっている様子が見られるが、オーストラリア連邦や日本では福祉を年々充実させても、反比例的に出生率は下落しており、効果は不明確である。なお日本では待機児童などの形で保育施設への入園待ちも見られ、必ずしも育児関係のサポートは十分では無いという指摘もある。

[編集] 関連項目


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