万物の理論
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万物の理論(ばんぶつのりろん、TOE;Theory of Everything)とは、自然界に存在する4つの力、すなわち電磁気力(電磁力とも言う)・弱い力・強い力・重力を統一的に記述する理論(統一場理論)の試みである。
このうち、電磁気力と弱い力はワインバーグ・サラム理論(電弱理論)によって電弱力という形に統一されている。電弱力と強い力を統一的に記述する理論は大統一理論(GUT:Great Unification Therory)と呼ばれ、現在研究が進められている。最終的には重力も含めた全ての力を統一的に記述する理論が考えられ、これを万物の理論または超大統一理論(SUT; Super Unification Therory)という。
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[編集] 万物の理論の候補:超弦理論
現在、全ての力を統一した理論、すなわち「万物の理論」となりうる可能性を秘めているのは、超弦理論のみであると考えられている。具体的な超弦理論として、5種類のモデルが数学的に可能であることが知られている。そして5つのモデルを11次元時空の理論である「M理論」なるもので統一しようという試みが、プリンストン高等研究所で研究中のエドワード・ウィッテンを初めとする、世界中の理論物理学者たちでなされている。M理論の場合、素粒子はひもではなく二次元の膜として扱われる。
この理論が完成すれば、素粒子のあらゆる性質が説明できるばかりか、宇宙(=時間と空間)が誕生し、消滅する様子さえも理解できる、究極の物理理論になると期待されている。
もっとも、微小な素粒子の理論を巨大な時空スケールでのみ確立されている一般相対論、特に検証困難な(初期)宇宙論にそのまま外挿して適用することの論理的是非はあまり真剣に議論されていないようである。実験的には、結合定数が一つになる必然性はない。素粒子の標準模型が非常に高い精度で確立されていて、この有効理論はニュートリノ振動以外ほぼ全ての(加速器)実験の結果を説明できる。
[編集] 万物の理論への批判
哲学の一分科である心の哲学の世界の研究者たちは、万物の理論(Theory of Everything)が完成したとしても、その理論はこの宇宙で起きている全てのこと(Everything)を説明する理論には成らないだろう、と考えている。 彼らが説明から抜け落ちることになるだろう、と考えているのは、意識の主観的な側面(専門的には現象的意識、クオリアなどと呼ばれる。)である。現在の物理学のモデルには、現象的意識やクオリアの状態に関する言及は理論中に全く現われない。そのため、そうした「抜け」のある理論を統一したとしても、理論中に現象的意識に関する言及が現れないという状況には、何の変化も見られないだろう、と考えられている。
心の哲学の世界ではこうした「抜け」を持った現在の物理モデルのことを、ゾンビワールドについての理論だ、と批判的に表現することが多々ある。 ゾンビワールドとは、現象的意識やクオリアを欠いた人間の物理的なコピーである哲学的ゾンビのみが住む仮想の世界(専門的には可能世界という)のことである。 こうした「現在の物理モデルからは現象的意識やクオリアの問題が抜け落ちている」という問題は、心の哲学の世界では意識のハードプロブレムと呼ばれており、多くの議論における重心的な位置づけを持つ重要テーマとなっている。
[編集] 関連項目
- グレッグ・イーガン - 1995年にTOEを扱ったSF小説『万物理論』(原題:Distress)を発表
[編集] 参考文献
- 二間瀬敏史『図解雑学 素粒子』、ナツメ社
- 戸塚洋二『素粒子物理』、岩波書店
- 九後汰一郎『ゲージ場の量子論1、2』、培風館
- 藤川和男『ゲージ場の理論』、岩波書店
- S. Weinberg著、青山秀明、 有末宏明共訳『場の量子論1-4』、吉岡書店
- デイヴィッド・チャーマーズ『意識する心』166頁、白揚社 ISBN 4-8269-0106-2