七度狐
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七度狐(しちどぎつね)は上方落語の演目の一つ。原話は、寛政10年(1798年)に出版された笑話本・「無事志有意」の一遍である『野狐』。
主な演者として、5代目笑福亭松鶴、2代目桂小文治、3代目桂米朝や2代目桂枝雀、3代目笑福亭仁鶴などがいる。
注意:以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。
目次 |
[編集] あらすじ
[編集] 発端
喜六と清八のコンビが、伊勢参りの途中でとある煮売屋(昔の簡易食堂)に立ち寄った。
「あのなぁ、酒はあるか? 何々、『村さめ』と『庭さめ』と『じきさめ』?」
『村さめ』は【村を出た辺りですぐ醒める】、『庭さめ』は【店を出た途端にすぐ醒める】、『じきさめ』は【飲んだ傍からすぐ醒める】…。
「呑まん方がましや、そんな酒。ぎょ~さん酒ん中へ水回すんやろ?」
「そんなことはしませんで、水ん中へ酒回します」
変な酒を飲まされ、頭にきた二人は手近にあった《イカの木の芽和え》を失敬すると、スタコラと茶店を逃げ出した。
「ハァ…ハァ…、もういいやろう。はやいとこと食べよ」
「空になったら如何するん?」
「足が付いたらいかんさかいなぁ。せや、見えんとこ放ってしまえ」
という訳で、喜六がすり鉢を向こうの草むらへひぃふの三、ポ~ン! そこで寝ていた狐の頭にガン!!
「おのれぇ~、憎いは二人の旅人。よくも稲荷のお遣いに…。今に見よッ!」
この狐、二つ名を『七度狐』といい、一度ひどい目に合わされたら、その相手を七度続けて化かすという執念深い狐だった…。
[編集] 仕返し
「清ぇやん、何を思案してんねん?」
「うーん…。道を間違ごぉたかいなぁ思て」
「頼りないなぁ。どないするん?」
考え込んでいる清八の前には、大きな川が流れている。確か、前に通ったときは川なんかなかったはずだ。
「ちょっと、そこの石放り込んでみ」
「え?」
「洪水か何かで急にできた川かも知れん。深さを調べる」
「ちょっと待ってや。そぉ~れ!」
バサバサッ…。
「解った、こらやっぱり急にできた川や。下一面の麦畑や、今ちょ~ど実が実ったとこやないか、そこに水が張ってんねや」
それならわたる事は簡単だ。二人は着物を脱ぐと、全部まとめてくるんで頭に縛り、落ちていた竹を手に川へバチャバチャ…。
「見てみぃ。お前とこの麦畑、旅人が二ぁり裸んなって踏み荒しとぉるぞ!」
「おぉかた狐にでも騙されてんのじゃろ、これ! 旅の衆ッ!」
村人に呼びかけられ、ハッとわれに返ると川が消えている。代わりに広がるは麦畑…。
「この辺にはなぁ、いっぺん仇されたら七へん騙して返す、【七度狐】といぅ悪い狐が居るんじゃ」
「へぇ、おおきにえらい済んまへん。早よ行こ早よ行こ」
[編集] その夜
何時しか日はとっぷりとくれ、しかも道幅がどんどん狭くなってきた。
「こらぁ野宿やな」
「野宿? 参ったなぁ。こんなとこ歩いてて何も出て来ぇへんやろか?」
「うーん…『カメ』が出る」
「カメ?」
「あぁ。頭に『お』の字を付けて、『お』を長ごぉ引っ張って『かめ』と言ぅねん」
「お~かめ…、狼やないか!?」
「そうなるな」
「『ソウナルナ』やないで、ホンマ!」
喜六がパニックになっているのを尻目に、清八がふと上を見ると…明かりがチラチラと見えた!
「ちょっとお頼の申します」
そこは山寺だった。中に入ると尼さんがいて、話をすると快く泊めてくれた。
「何もありませんが、『ベチョタレ雑炊』でもあがりませんか。」
「へえ。腹空いてますねん。ありがとうさんで。・・・」
食べて見るとどうも変な味である。きけば、赤土の出汁に藁が入っているという奇妙な物。
「もう、よろしい。これで、左官入ったら腹ン中壁出来るわ。」と早々に切り上げる。
しばらくして…。
「泊った早々、こんなことお願いして何でございまんねやが、実はちょっとお二人に留守番がお願いしたいんで」
何でも、下の村で高利貸しのおさよ後家という婆さんが亡くなって、死後もお金に執念があるのか化けて出るので成仏させに行くというのだ。
「寺も宵の口は寂しゅございますが、夜が更けると幽霊で賑やかになります」
「何の賑やかや!?」
阿弥陀様の前の、お灯明さえ消えなければ幽霊は出ない。そういって尼さんは出かけてしまった。
「おい、もぉ油何ぼも入ってないで」
「そらいかん、継ぎ足しぃな!」
喜六が油と間違えて醤油を注いでしまったせいで、とうとう灯は消えてしまった…。
[編集] 庵寺つぶし
二人がぶるぶる震えていると、棺おけを担いだ集団がなだれ込んできた。
何でも、例の『金貸しの婆さん』があまりにも恐ろしいので、早く成仏させてもらおうとお寺に運んできたのだという。
遠回りをしてきたので、尼さんとすれ違いになってしまったのだ。
「尼はんじきにこっち戻ってもらいまっさかい、これ預かっといて」
集団は、棺おけを下ろすとさっさと帰ってしまった。それからしばらく経って…。
「金返せぇ~」
棺おけのふたがポ~ンと飛ぶと、中から老いさらばえた老婆が白髪振り乱して、それへズ~ッ!
「出た、出た出た…、わたしらあんにお金お借りしたもんと違います。伊勢参りの旅のもん、旅のもん!」
「旅のもん?伊勢参りか、だったら伊勢音頭を唄え」
とんでもない事になったが、もはや歌わないわけにはいかないだろう。
「伊勢わぁ~津でもぉ~つ 津わぁ~伊勢でぇもぉつぅ~♪」
「よ~い、よ~い!」
「あんたは黙ってなはれ」
[編集] 終幕
「ちょっと見てみぃ。最前の旅人が、今度は石の地蔵さんの前で伊勢音頭唄とぉてるぞ」
さっきの村人が、また騙されている喜六と清八を見つけた。
「しばらく大人しゅ~してると思たら、またやり出しやがった。いっぺん懲らしめてやろぉか」
お百姓二人に追い詰められ、狐は逃げ場がなくなった。
「さぁ~っ、掴んだ! 放すなよ」
「放すもんかい」
お百姓が思いっきり引っ張ると、狐の尻尾が…抜けた!!
「と見たら、畑の大根を抜いとぉりました」
[編集] 狐は怖いぞ
落語に出てくる狐は、王子の狐などの例外を除き、どれも人を騙す恐ろしい狐ばかりだ。小噺にもこんな物がある。
[編集] これでも古いか
堺の魚屋が、広田の森で「家出してきた」と言うお嬢さんとであった。
そいつを狐だと見破った魚屋が「その手は古いぞ!」と怒鳴りつけると、娘の姿は消えた。
その後も、狐は老人…老婆…江戸っ子と次々に化けて出てくるも、魚屋は全て見切って去ってしまう。
しばらく経ち、魚屋が住吉の浜まで来ると、波打ち際に大きな鯛が打ち上げられていた。
「こいつはツイとるわい」
魚屋が手を伸ばすと、鯛がいきなり目をむいて「これでも古いか?」
[編集] 東の旅
この『七度狐』は、もともと「東の旅」という大きなシリーズ物の一つ。この他にも、以下のような物語がある。
タイトル | 簡単なあらすじ |
---|---|
東の旅発端 | 喜六と清八が伊勢参りに向かう。張扇と小拍子を使いながら延々と喋る。口慣らしとして上方では最初に教わる前座噺。 |
七 度 狐 | 本編を参照(なお、前半部は「煮売屋」の題で口演されることが多い。 |
軽業 | 村祭りに遭遇。インチキ興行でひどい目にあった後、軽業の舞台を見学する。 |
軽業講釈 | 軽業の隣は講釈場。講釈師が一席語り始めるが、隣の騒音で聞こえなくなってしまい、軽業師と喧嘩になる。 |
三人旅浮之尼買 | 源兵衛を加え、三人でとある宿に宿泊。女郎を買う事になるが喜六ひとりが尼さんに当たってしまい…。江戸落語に移入されている。 |
軽石屁 | 清八に家来扱いされた挙句、籠賃を騙し取られた喜六が珍妙な方法で意趣返しをする。 |
矢橋船 | 旅の途中で乗った船の中で、平家の秘宝である名刀『小烏丸』を探す侍二人と遭遇。 |
宿屋町 | 大津に宿泊。「どこに泊まろうか?」「泊まったら何をしようか?」など、次々と疑問を出す喜六の言動が笑える。 |
こぶ弁慶 | ひょんな事から壁土を食べた男が、壁の中に塗りこめられていた『武蔵坊弁慶の絵』の魂に憑依される。 |
三十石 | 京都から大阪に戻る船の中で、泥棒騒ぎに巻き込まれる。 |