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丁汝昌 - Wikipedia

丁汝昌

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

丁汝昌(ていじょしょう、1836年道光16年)11月18日 - 1895年光緒21年)2月12日)、原名は先達)は清朝末期の軍人である。禹廷、号は次章。初めは太平天国の乱に反乱側として参加したが、清朝に帰順してからは李鴻章の下で働き、後に北洋艦隊提督になった。日清戦争中に艦隊戦敗北の責任をとって自決。

目次

[編集] 生涯

[編集] 太平天国期

丁汝昌は安徽省の廬江(現巣湖市廬江県)で生まれた。家が裕福ではなかったため、3年ほど私塾に通っただけで10才の頃には学問の機会を失ってしまった。1854年太平天国軍が廬江を占領すると、丁汝昌も太平天国軍に参加した。だが1861年に清朝の曽国藩湘軍安慶が包囲されると丁汝昌は投降し、逆に安慶攻略で功をあげて千総[1]として召抱えられた。1862年李鴻章淮軍に編入されるとそこで太平天国軍と戦い、その勇敢さから劉銘伝の部隊に引き抜かれた。

1864年に太平天国が滅亡すると、今度は劉銘伝に従って北上し、捻軍と戦う。1868年に東捻軍を撃退すると、丁汝昌は提督総兵官[2]の官位と「協勇巴図魯」[3]の勇者称号を授かった。1874年に清朝が軍縮を決定すると、丁汝昌は自分の部隊を縮小する事の非について劉銘伝に手紙で猛烈に抗議している。これに怒った劉銘伝は丁汝昌を殺してしまおうとするが、暗殺計画を聞きつけた丁汝昌はさっさと職を辞して帰郷して難を逃れた。

[編集] 北洋艦隊期

1875年北洋大臣になっていた李鴻章が洋式海軍を組織すると聞き、丁汝昌は李鴻章を頼っていく。李鴻章は丁汝昌と劉銘伝が揉めている事を考慮して、丁汝昌を湘軍に戻さずに新海軍創設の参与に据える。1880年、丁汝昌は新海軍最初の巡洋艦としてイギリスのアームストロング社に発注していた「超勇」「揚威」を引き取りに、林泰曽・鄧世昌ら乗組員を引き連れてイギリスに行った。

1882年朝鮮壬午事変が勃発すると丁汝昌は北洋艦隊を率いて朝鮮に赴き、大院君を捕らえて帰国してきた。これによって朝鮮には親清政権が復帰し、旧来の宗主国としての存在感のアピールと、朝鮮への日本の進出を阻止する事ができた。1888年、北洋艦隊が正式に発足、丁汝昌が提督[4]に任命された。

1891年以降、清朝の海軍予算が大幅に削減される。これは頤和園の改修等に予算を振り分けるためだったと言われるが、いずれにせよ丁汝昌は苦しい財政状況[5]の中で艦隊を運営しなければならなくなった。

[編集] 日清戦争

1894年日清戦争が勃発する。当初北洋大臣の李鴻章は艦隊を温存しつつ[6]、陸上戦を中心に日本を撃破する事を考えていた。だが日本が連合艦隊を組織して陸上部隊の輸送支援などに参加すると、清側に「北洋艦隊は何故出ないのか」という世論が高まる。8月10日に日本の連合艦隊が黄海に侵入すると光緒帝までもが李鴻章に向かって「丁汝昌は日本海軍を怖がっているのか」と叱責する。ここに至ってやむなく李鴻章は北洋艦隊に出動命令を出す。9月17日、鴨緑江河口沖で日本の連合艦隊と遭遇し、黄海海戦が行われる。丁汝昌は艦隊司令官として旗艦「定遠」の艦橋で指揮を執っていたが、被弾した際に負傷してしまう。ここで北洋艦隊に問題が生じる。旗艦が指揮不能状態に陥った際の権限委譲の手順を決めていなかったため[7]、北洋艦隊の各艦が個別に戦闘を始めたのだ。結局約5時間にも及ぶこの戦闘の結果、北洋艦隊は主力12隻のうちの5隻を失った。

この後、丁汝昌は李鴻章の命令で残った北洋艦隊を本拠地の威海衛に移し、座乗艦を「鎮遠」に換えてひたすら防備を固める。丁汝昌としては威海衛を防衛する陸上部隊の戦力に不安を感じたのだが、陸上の砲台は北洋艦隊の管轄ではないため結局この不安は改善されなかった。

1895年1月20日、日本軍は山東半島の栄成[8]に上陸し、日本の連合艦隊司令長官伊東祐亨は丁汝昌に降伏をすすめるが丁汝昌はこれを拒否する。その後、日本軍は陸路から威海の陸上砲台を攻略し、海と陸から北洋艦隊を包囲した。数日の戦闘の後の2月12日、丁汝昌は要員の助命を条件に降伏に応じ、自身は「鎮遠」の艦内でそのまま服毒自殺を遂げる。享年59。

彼の死の後、北洋艦隊は正式に降伏する。兵員達は許され、残った艦艇は日本軍に捕獲された。「北洋艦隊消滅」の知らせを聞いた光緒帝は丁汝昌の『財産没収』を言い渡し、葬儀を出す事も許さなかった。名誉回復がなされたのは1910年宣統2年)、当時の海軍大臣の愛新覚羅載洵(光緒帝の実弟)や南北洋水師兼広東水師提督の薩鎮冰らが嘆願して回った結果である。

[編集] 注釈

  1. ^ 千総:緑営の下士官で正六品官
  2. ^ 提督総兵官:その省の緑営軍官を束ねる長官で従一品官。清代の「提督」は特に海軍に限定したものではない。
  3. ^ 「協勇巴図魯(協勇バトゥル)」:バトゥルとは満州語で「勇者」の意。その人にちなんだ称号(この場合は「協勇」)を添えて満州族では特に武功があった者に対して勇者称号として与えた。
  4. ^ 提督:正式名称は「水師提督」。前述の提督と同位官で、この場合の提督は「艦隊司令長官」の意味である。
  5. ^ これ以降北洋艦隊は軍艦の追加購入を行っていない。
  6. ^ 艦隊温存策:予算不足の北洋艦隊は既に広東艦隊から巡洋艦を借り受けて編入しており、北洋艦隊が万一壊滅した場合には清の制海権を守る艦が残っていなかったために温存したといわれる。
  7. ^ これについては司馬遼太郎は『坂の上の雲』で「北洋艦隊の信号及び号令の言葉は全て英語であり外国語で将士を動かすのは特に戦闘中は意思疎通が困難で、丁汝昌の命令一下機敏に行動する事は訓練の精度から見ても期待できなかったため、やむなく丁汝昌が開戦前に『信号は使わない』『戦闘中は旗艦の運動をよく見よ』『同型艦(北洋海軍には同型艦が2隻ずつ配備されていた)は互いに協同せよ』『常に艦首を敵に向けよ』とだけ命じた」としている(本文から筆者抽出)。これについては充分有り得る事ではあるが、論拠が不明だったため採用しなかった。いずれにせよ指示伝達系統に問題があった事だけは間違いないだろう。
  8. ^ 栄成:現山東省威海地級市栄成市。山東半島の先端。

[編集] 参考文献

  • 清史稿 巻四百六十二・列伝二百四十九


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